41.ゴミ先進国ニッポン
42.伝統構造の木材Ⅰ
43.伝統構造の木材Ⅱ
44.スマートハウスはヘビーハウス
45.資源大国ニッポンは豊富な資源を活用せよ
46.灼熱セミナーレポート
47.伝統構法に厳しい改正省エネ法の判断基準案が発表された
48.我が輩はシロアリである
49.改正省エネ法のパブリックコメントについて
50.省エネ住宅「施工技術者講習会」のテキストの内容について
51.省エネ住宅「施工技術者講習会」が及ぼす副作用Ⅱ
52.省エネ住宅「施工技術者講習会」が及ぼす副作用Ⅲ
53.伝統構法の基礎を過剰設計するべからずⅠ
54.伝統構法の基礎を過剰設計するべからずⅡ
55.誰のための木材利用ポイント410億円
56.民家再生は伝統構法を学習してから
67.住む立場からの伝統構法住宅
68.省エネ法義務化は真の省エネになるのか。VOL.1そもそも省エネ法とは。
69.省エネ法義務化は真の省エネになるのか。Vol.2:1次エネルギー消費量。
70.省エネ法義務化は真の省エネになるのか。 VOL3富裕層に優しいエネルギー消費量基準。

41.ゴミ先進国ニッポン

 水俣病はチッソが水銀を海に垂れ流して起こった公害でした。1956年に最初の被害者が出て、熊本大学医学部が、原因はチッソの排水と発表しても、国とチッソは、水俣湾に棄てられた戦時中の爆弾かもしれないという虚言をし、究明を遅らせ、その間も廃液は垂れ流され、被害は拡大しました。隠したり、後回しにすることが反って被害を拡大させ、その代償は大きくなることを国は学習したはずでした。

 水俣病事件と建築も無縁ではありません。建築材料でもある塩化ビニールの原料を作るときに出る廃液なのです。
福島原発事故の事故というより事件に近い様相は水俣病と似ています。全電源停止はメルトダウンにつながるとスリーマイル事故で認識していることであり、SPEEDIで放射能の風向きを予測し、即刻避難指示を出しておけば人体への被害は免れたでしょう。隠すことと後回しにすることが事態を悪化させました。

 エネルギーを電気に一元化させようとする国と電力会社に、建築関係者はオール電化推進で加担しました。施主は望んでいないのに、厨房の垂れ壁を付けたくないという理由だけでオール電化を薦めた建築家も少なくありませんでした。エネルギーを一元化することも、人体への影響が懸念される電磁調理器を使うことも、数多くの専門家が警鐘を鳴らしたにもかかわらず、脇目もふらずに住宅の電化を推し進めた結果、原発促進の一翼を担ったことは事実です。

 原発事故の少し前に、NHKの“BS世界のドキュメンタリー”で「フィンランドのオンカロ」のことを特集していました。オンカロ(フィンランド語で「隠し場所」)と呼ばれる処分場は太古の岩盤層の深さ500mまで掘り下げられた先に作られ、国内で排出される核廃棄物で満杯になる100年後に完全封鎖されます。しかし、核廃棄物が出す放射線は生物にとって安全なレベルに分解されるまでには10万年もかかります。日本では10万年も分解しない廃棄物を最終処分場がないまま六カ所村の1次預かり所に置いているだけです。残り僅かで満杯になると分かっていても、問題を先送りにし、後回しを繰り返し、土俵際に来ています。どうするのでしょうか、日本での核廃棄物を。

 ブータンの首相が昨年来日し、UIA大会で「建築家よ便利さの追求より自然と共生し自然に生きよ」と訴えました。聴衆した建築家たちは映画を見るごとく感動し、その時間だけうなずき、会場を出るとさっぱり忘れてしまっているのではないでしょうか。

これからの問題「CCA材」
 1980年から住宅金融公庫(現住宅金融支援機構)の「建設基準」の中で防腐土台の使用が指定され、1996年までの16年間に建設された住宅の土台や根太にはほとんどCCA処理木材が使われました。このCCA材にはクロム、銅、ヒ素化合物が含まれていて、焼却処分すれば六価クロムやヒ素が空中に散布されます。日本の住宅の寿命は平均26年なので、現在解体されている木造住宅の土台や根太はCCA材でしょう。新築当時は薄緑色をしていたのですが20年も経過していれば区別はつきません。おそらく一般木材と同様に焼却処分されている事実を関係者は知っていますが黙っているのです。いまのところ被害は出ていないからでしょう。問題となるのはこれからですが、それを複雑にするのは自然界にも存在するものとの区別がつかず、六価クロムやヒ素がCCA材が原因であるという特定が難しいからです。役所は人事異動が早く、前任者の悪行は掘り起こさないルールで、問題解決を遅らせてしまいます。

次世代の問題「不燃建材」石膏ボード
 最近の建築材料で、石膏ボードの使用量の多さに驚きます。石膏ボードは単純に埋め立てゴミにできません。管理型処分場での処分が必要です。現在の処分は100万トンですが、生産は500万トンです。管理型処分場が5倍必要になることは掛け算ができる人にはすぐわかりますが、建築関係者は目をつむっています。石膏ボードは安い。1枚250円です。処分は500円です。それなら今750円で販売し、処分費用までを考えるべきです。地下水になってから対策を取れば処理費用は1枚10000円になるかもしれません。

リサイクルがデキナイLow-Eガラス
 省エネ基準でも僅かな断熱性能のために、エコポントという税金を投入してまでLow-Eガラスを奨めています。ガラスはリサイクルが常識ですが、Low-Eガラスはリサイクルが効きません。処分時コストがかかる物は処理費用を販売時に上乗せすべきです。税金を投入してまで奨めているLow-Eガラスは、数年後の処分には何倍ものお金がかかります。不法に処分すればCCA材と同じく空中に重金属をまき散らすことになるのです。どうして次世代のことを考えないのでしょうか。次世代を見ない基準が次世代省エネ基準とは笑ってすまされません。

アスベスト問題はホンの一部
 アスベストについては公共建築や病院に限定して追跡調査をし、新築当時の10倍くらいの費用をかけて処理しています。対処しているように思えるのは公共建築や病院だけで、一般建築は野放し状態です。鉄骨造の不燃建築物はアスベスト吹き付けが常識でした。関係者は沈黙を保っています。

 お金をだせば、貧乏な自治体がゴミを引き受けると思うなら大間違いです。

 ゴミは自己責任で処理すべきです。オール電化の家は福島原発の廃材を小分けして自分の庭に埋めてください。ビニールクロスが好きな方は水銀ヘドロを我が庭に埋めてください。
1,000兆円の借金の一部に水俣事件、福島原発事故、核廃棄物、アスベストの対策費用も含まれています。1の利益を得るために100の税金を投入しているのです。これからも増え続きます。CCA材、石膏ボード、サイディング、ZEHなどの建築廃材です。先送りにすればするほど0が1ケずつ追加されます。後の処理のことは全く考えていない省エネ対策は、逆に次世代への負の贈物になっています。
 世界先進国の中で、生産時、使用時、処分時を考えれば、最高の省エネルギー建築である伝統構法を建たなくする「改正省エネ法」をどう思いますか。

建築ジャーナル 2012 5月号掲載

42.伝統構造の木材Ⅰ

2010年に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行された。2×4の基準や、仕様規定から性能規定への拡大はアメリカの発言により法案化されたように、今までは、外圧による輸入材の販路拡大のために決められてきた中で、今回の「木材利用促進法」は日本発の自主的な法律である。地上3階建以下かつ延べ面積が300㎡以下の公共建築物は努めて木造化し、森林木材を活性化しようという内容。「日本は資源の無い国」といえるのは、資材として鉄や石油製品を使うためで、資材に木材を使うなら日本は資源大国といえる。木を扱う人たちにとって喜ばしいことだが、公共建築物に使う木材はJAS材が条件と思っている人は少なくないのではないか。木材利用促進法の改革が少し行われているだ、同法律の仕様書である「木造計画・設計基準」を見てほしい。

「木造計画・設計基準」

第3章建築構造の設計3.2製材の品質の項目に、JAS工場が少ない地域のことを考えて、条件があえばJAS材でなくてもいいとある。

  1. 製材のJAS規格に規定するヤング係数の確認と同等の確認ができること。曲げヤング係数の目安を示す。ただし基準強度は無等級材の基準強度を上限とする。
  2. 原則として、製材のJAS規格第5条に規定する含水率の確認ができ、その平均値が20%以下であることが確認できること。(略)古材を再利用する場合については、含水率の制限がない計算方法を選択した上で、将来において、部材の収縮、変形によって支障が生じない工夫をする場合に限っては、含水率20%以上の木材を用いることも許容するものとする。
  3. 製材のJAS規格6条に規定する節、集中節、丸見、貫通割れ、目周り、腐朽、曲がり、狂い及びその他の欠点について、品質の基準を満たすことが確認できること。

  素案では「木材の含水率については搬入時に計測」という条件がついていたが、なくなっている。単に決められているから守りなさいではなく、チャックを半分緩めてあり、開けるかどうかはあなた次第。細かい部分は担当者間で決めてくださいといった内容。非常に実務にあった内容である。古材の扱い方については画期的。土場に半年置いたから古材ですという屁理屈は普通は通らないが、無理を通せば道理は引っ込むかもしれない。
 木材は人間に使われるために生まれたわけではない。台風に耐え、貧栄養に耐え、白蟻に対抗しつつ、生命を維持してきた。伝統構法は木材の利点と欠点と同調しながら発展してきた。故に、木材を単なる建築素材と見るなら欠点だけが目につく。まず、木の性質をしることから始めたい。

木材の比重について
 木材をうまく使うには木材のことをよく知らねばいけない。杉の比重はいくつかと問えば、ほとんどの人は0.38と答える。建築学会図書では0.44。現場からランダムに15ケの木材を選別(参考1)。比重を測ると0.343から0.557までで、平均は0.404(参考2)。杉の比重を0.38といえば、大体該当するのは9ヶ、0.44と言えば2ヶしかない。人間の中学生の体重に例えれば34kg~55kgで、平均が40kgということになる。自然のものはこれくらいバラツキがあって当たり前である。
 人間も杉の木も神様が作ったものだから、これくらいのバラツキがあって当然。鉄も比重0.78と均一だが、鉄鉱石のときはバラツキは相当ある。

目細と強度
 木材の強度は年輪の数が細かく詰まっている目細材の方が強いと思っている人は、意外と多い。杉の場合、強度は比重に比例するので、(参考2)を見ると、年輪の数と強度は比例しない。青森県産業技術センターが強度実験したデータでも同じ結果となっている(参考3)。ではどんな杉が強度があるのだろうか。秋材の部分が太い方が強度があるというのが正解。

含水率の計測
 含水率は含水率計で測る。機器には比重レンジがついていて比重が分からないと正しい含水率は計測できない。乾燥具合を調べる目的だが、一部分の乾燥重量を知らないと含水率が測定出来ない。普通は、杉の比重0.38や0.44と仮定して機器のレンジを合わせて計測する。(参考1,2)の15ヶのうち、0.38とすれば(カンマトル、)9ヶしかなく、0.44とすれば2ヶしか存在しない。
 含水率の正確な測定法は、小口から30㎝離れた場所の2㎝の試験片を切り取り、完全乾燥させて重量を測り、比重を決定し、含水率計の比重レンジを合わせてから含水率測定を行う。しかし現実は、これから使うであろう全材料の端から30㎝の部分を切り取ったりはしない。杉の比重は0.38や0.44と決め打ちして、計測結果を報告している。
参考1の場合、比重レンジを0.38に合わせて試験体1(比重0.343)を測り、例えば真実が20%とした場合、計測器には18%と表示される。次に、試験体15(比重0.561)を測ると、計測器には29%と表示される。18%と29%と11%もの差がある。つまり、比重が確定していない場合、目の前の木材の含水率が真実では20%でも、計測では18%か29%と幅があるというのが真実だ。故に、計測器のわずかな差に目くじらたてるものではない。また、生乾き状態の木材を、寝かせておいたら上部と下部では数値はもっと違う。雑巾を絞って置いていたら上は乾いていても下は湿っているのと同じ。以上のことを良く理解して「木造計画・設計基準」を見直すと、「平均20%」は、手刻み加工の実情を見こした基準といえる。仕様書の深読みと検査官との対話をうまくやってほしい。

参考1  木片15ヶ
参考2  表(15ヶの比重と25㍉幅の目数)
参考3  :青森県産業技術センター林業研究所

建築ジャーナル 2012 6月号掲載

43.伝統構造の木材Ⅱ

生乾き材の問題点
 未乾燥材使用の問題は強度不足と乾燥収縮だ。未乾燥材と乾燥材の強度差は30%である(参考1)。しかし強度がいつ必要かといえば、地震時、台風時、積載物載荷時だ。工事中は建物自重に耐えられればよい。乾燥しにくい杉の木を使う場合は、納品時に強度の100%を期待しなくてもいいのではないだろいうか。ただし、短工期の建築の場合は建物使用時期が早いため納品時に完全乾燥が必要だ。伝統構法の場合は、工期が長いので工事中に乾燥する時間があり、仕口の都合で材が大き目となり強度やタワミに余裕があるから少々生乾きでもよい。乾燥収縮については、将来支障が生じない工夫として、継ぎ手や仕口に仕掛けがある。例えば、凹材を凸材より1.5mm大きくつくりカケヤで叩き込む。込み栓仕口の 場合は、3mmの誤差を最初からつけ、込み栓にバネのような役割をさせ、乾燥収縮を吸収する。(参考2)
 プレカットの場合は金物接合である。収縮すると金物がゆるんでしまい、完成後に締め直すことは難しいゆえに含水率は20%以下にしなければならない。伝統構法とプレカット仕様を同じ土俵では語れない。建物の工期と工法の違いを区別すべきだ。

ヤング率について
 製材の強度を示すのに目視等級区分と機械等級区分がある。目視等級区分は、目で節や割れや年輪幅などを確認する区分である。米松が杉より強いと思っている人は多いので数値(参考3)をよく見て欲しい。1級は確かに米松が強いが2級、3級では杉が強いのだ。その理由は、松の枝が対称に生えるのに対し、杉の枝はループ状に生え、同じ位置に枝がこないので節による強度低下にならないからだ(参考4)。米松も杉も構造材として無節の1級を使うことは少ないので、杉より米松が強いと目視だけで判断するのは間違いである。
 次に機械等級区分についてのべる。目視より信頼度は高い。木材の強度はヤング係数に比例するが、樹種によって強度は違う。杉のヤング率70の曲げ強度は29.4㎏/㎡だが、米松のヤング率70では12.0㎏/㎡だ。よく建築雑誌に掲載されているが、カナダ栂のヤング率110といかにも強いという広告している。勘違いしないようにしたいのが、杉はヤング率70で29.4㎏/㎡だが、栂はヤング率110で30.6㎏/㎡だ。杉の70と栂の110は、ほぼ同じ曲げ強度なのだ。ただし、たわみはヤング率に比例するので注意が必要である。

ヤング率区分
 ヤング率(以下、E)は、E50は40~59㎏/㎡、E70は60~79㎏/㎡、E90は80~100㎏/㎡に区分される。杉は60㎏/㎡あたりに一番集中している。59.9㎏/㎡の材はE50になり、60㎏/㎡だとE70になる。わずかな差だが、表示では4割もの開きが出てしまう。この違いに翻弄されるより、木材はそういうものだと思ったほうがよい。安全限界ぎりぎりに設計するのが優秀な構造計算という鉄やコンクリート業界と伝統構法木造の世界は違うのだ。伝統構法は強度に対してアバウトだ。

未乾燥状態はコストパフォーマンス大
 部材の大きさが倍になれば強度は何倍になるだろうか。120×120材の成を2倍にすれば120×240となり強度は8倍になる。120×120材を幅、成を同じ比率で体積を2倍にすれば170×170材となり強度は4倍になる。つまり、木材費用を2倍にすれば強度は3.8倍となるのである。材積1割増しが強度2割増しになると思えば良い。その逆のこともいえる。     
 材料のコストでウエイトが高いのが乾燥費用だ。実際の乾燥費用は杉の場合10,000円/m3かかっているが、補助金と機器融資で原価は正確には分からない。確かに含水率が高いと強度は低くなる。乾燥状態含水率15%での曲げ強度600㎏/㎡の材が未乾燥状態だと400㎏/㎡だ。乾燥材が強いと早合点せず、材を一回り大きく使うのが賢い方法だ。例えば、120×240材の乾燥材と120×270の未乾燥材の強度は同じだ。価格は120×240乾燥材が8,500円、120×270未乾燥材が7,900円だ。未乾燥材は、そのうち乾いて強度は5割増しになる。あなたは120×240材の乾燥材(8500円)と120×270の未乾燥材(7900円)のどちらを選びますか。

適材年数材を使い
 「1000年の木材は1000年もつ」という西岡棟梁の言葉に大径木から製材すると良いと思っている人がいるが、適切な判断ではない。神社・城郭建築物は計算以上の大径木を使うという意味で、外材みたいに大径木から小木を採るという意味ではない。樹木は周囲に引張力があるので、梁に使う場合は、下弦材と上弦材に引張力がくるように製材するのがよい。H鋼を見ればわかる。大径木の芯去り材で下弦部に材芯がくるような使い方はもちろんよくない。(参考5)

丸太と製材
 太鼓梁の強度は製材より1割アップ、丸太梁は2割アップだ。円錐状の丸太材を角材に切断するのでは木の繊維を切断していまい、引張り強度は弱くなる。繊維方向にはできるだけ切断しない方がよい。しかし、丸太材は腐食に弱い白太部分を含んでいるので、家の下部には使わず、上部の小屋組みだけに使う伝統構法は理屈に合っている。材料でJASは品質管理が行きとどいた製品と思われがちだが、丸太梁や太鼓梁にJAS材はない。JASはあくまでも製材法の品質なのだ。
  山は合理化が進んで3~4mに製材する。トラックのクレーンもない頃6m材は普通だったのが、機械化が進んだ近代では3~4mが基準とはおかしな話だ。7mとなるととんでもない金額になり、4mより少しでも長ければ6m材と同じ金額だ。曲がった丸太や太鼓はほとんどストック材はない。曲がりは樹木の根元部分で節が少なく1級材が多いのに、山で根元から2mは不良品として外され、チップ工場行きとは悲しい現実だ。

近代工法と伝統構法
 建築工法のプレカット化がすすんでいる。プレカットは精度の高い寸法や均一性能を要求し、杉には適していない。山の谷に育ち斜面に植えられたために曲がった木を、不良品と人間が勝手に決めつけてよいのだろうか。CO2と水から神様が作った木材は自然の恵みと受け入れるべきではないだろうか。自然の物を粗末にしたら罰が当たる。伝統構法のように、一回り大きく使えば、わずかな含水率の違いやヤング率の計測に振りまわされず、曲がり材も有効に使えるのだ。

参考1:乾燥と強度 :木材活用事典(産業調査会)より

参考2: 痩せを考慮した工法

米松
1級27.0㎏/㎡34.2㎏/㎡
2級25.8㎏/㎡22.8㎏/㎡
3級22.2㎏/㎡17.4㎏/㎡
参考3:曲げ強度
参考4:枝の出方
参考5:H鋼と丸太

建築ジャーナル 2012 7月号掲載

44.スマートハウスはヘビーハウス

 昨今は飽食の時代で、肥満が社会問題となり、スマートな体になるためにダイエットがブームである。BSテレビの番組の半分が健康食品か健康機器販売である。そんな機器を買わなくても食べなきゃよいではないかないかと思うのだが。

建築業界に、これとよく似たスマートハウスなるものが出現した。

HEMS(家庭用エネルギー管理システム)

 HEMSは家庭内の電化商品を外部からコントロールでき、各機器の使用電力量を目視できるものである。監視できるので省エネ・節電という位置づけだが本当に省エネになるのだろうか。
よく似た装置が30年前にあった。家の中の家電機器を「ハウスコントローラー」という機器で操作する電脳住宅だった。エアコンを外部から操作し、家に帰ればぬくぬくとした部屋がお出迎えをし、外部操作で洗濯をし、家に帰っても、雨戸の開け閉めは電気が行うというものだった。HEMSと全く同じシステムである。30年間家電メーカーが温めておいた技術が今生かせる。ことごとく外国に惨敗している家電メーカーへの応援策に思える。この商品に1/3もの補助金を国はくれる。当時は、快適さ追求の電気消費の「電脳住宅」だった。広告の文句をかえて今度は「エコ住宅」だ。子供の電気の付け忘れを外部から消して省エネ。エアコンを外部からスイッチオフして省エネと。人がいない家の家電が自分勝手に動く様子は異常だ。昔浪費で今省エネ。「見える化」は流行で、消費量が見えると意識的にエネルギーを少なく使う方向にいくらしい。メーターとにらめっこの電気オタクはそうかもしれないが、ふつうの主婦は1ヶ月分の電気の請求書や領収書を見てウナル。瞬時にHEMSに表示された電気料金が多いか少ないか分からない。「燃料費調整金」や「太陽光発電促進付加金」は月毎の請求書にしか書いてないから、そちらに目がいかなくなる作戦なのだろうか。「燃料費調整金」や「太陽光発電促進付加金」がHEMSに表示されればおもしろいが。

創エネ
 太陽光発電を否定はしないが、投資して金持ちが更に儲けるような金額設定は疑問である。発案者(商社)が資金(株主)を集め、土地を借り(地主)施工を外注する。4者が共に莫大に儲かるのだ。税金は投入されないので、誰かが損をする。損するのは国民だ。損金は100円/月だからお願いというが、嘘に近い。100円相当は1.5%である。電気買い取りは30%を目指しているのでそのうち2000円になる。今月、来月の付加金が100円というのは正しい。短命な政権だから存命期間中は100円ですといえる。ドイツやスペインでは問題となり、現在ドイツは中止している。いずれ行き詰まるネズミ講にみたいなものだ。
 昨年8月に菅総理は自分の首と引き換えに電気買い取り法案を成立させた。当時、孫氏は買い取り価格30円は原価なので駄目だと言っていた。それがいきなり42円になった。42円にすれば4割も儲かる。いまどき4割も儲かる産業はない。創電装置は、電気をよく使うパチンコやコンビニや自販機がつければよいのだが、産業用電気を11円で買うほうが安いから付けない。
 またまた、太陽光発電は儲かると言うハウスメーカーが出現した。普通の家は屋根に3~5KWのパネルを載せるが、27kWを載せるという。平屋なら可能である。3000万円の建築工事費のうち売電で2200万円儲かるので、実質800万円で家が建つという試算である。詐欺か盗人みたいな仕組みだ。早く防除しないと、国民はさらに不公平になる。

蓄電
 つくった電気を貯めるのが蓄電器の役目である。車のバッテリーの耐久性は、T社の車のバッテリーの寿命は10年という。蓄電池は確かに停電の時に役にたつ。電気が通じているときにスイッチオンしていなければ蓄電器に電気はない。いつでもお湯を使いたいなら電気ポットは常に通電しておかねばならない。はたして蓄電器は省エネ機器だろうか。蓄電池は200万円もする。今7割が石油・ガスから電気をつくっている。電気を蓄電するより、石油から直接電気を作るほうが安い。直接電気をつくる発電機は6万円ぐらいである。国はこれにも70万円の補助金を出す。非常用電源は蓄電器より発電機がよい。使わないと燃費は減らない。音がうるさい?非常時に音なんて気にするものではない。
 どうも、今の国のやり方は、電気万能の家の方が幸せだと決めつけているに思えてならない。

スマートハウス
 創エネ装置と蓄電池をつけ、HEMSで管理をする装置は500万円~700万円かかる。自動車2~3台分を一度に購入してくれるので日本の電機産業経済は潤う。金持ちが好きで付けるのは一向に構わないが、補助金を350万円くれるとのこと。とんでもないことではないだろうか。国税が不足し、乾いた雑巾を絞るようなものなので消費税を上げたいといっているのに、片方で経済産業省の政策はすき焼きを食べているのと同じ構図だ。
 スマートハウスの原価償却はどれくらいだろうか。九州で暖房費は2.7万円給湯費6万円を全部創エネしたとして年間10万円である。原価償却には70年かかる。機器類が70年はもたない。つまり、スマートハウスは道楽である。道楽は自由であり税金を補助するものではない。道楽は自費で行えば美学だが。日本は狂っている。2030年には日本の住宅の半分をスマートハウスにするというから外国から見たら狂乱にしか見えない。

オール電化
社会が豊かになり電気需要が増え、電力不足で「原発」が乱立した。「原発」は止められないので「電気」が余り、今度は電力需要拡大で「オール電化」にシフトした。また電気不足となり、「原発」増設。需要と供給はシーソーゲームのように連鎖拡大していった。その中で3.11原発事故が起こった。「オール電化」は影を潜めたかのように思えたが様子が違う。ますます「オール電化」に傾いている。太陽光発電を付け、HEMSを付け、蓄電地を付けて、高効率空調機で全館冷暖房を行う。電気中心の住まいに変わりなく、「原発」から「光発」に変わったものの「オール電化」住宅である。
 省エネ運動は知らず知らずに創エネ・畜エネに代わり、エコはエコノミーへと転嫁している。電気依存の生活を改めることなく、ハイテクが重視され、ローテクは軽視されるのはエコヒイキの度が過ぎる。
 我慢しての省エネはよくないと環境専門家は一同に発言する。スマートハウス構想は、いっぱい食べても、健康食品を食べればダイエットになるということに似ている。ヘビーハウスにならなければよいが。

東京大学の研究住宅「コマハウス」の実験設備のイメージ図です。スマートハウスとは関係ございません。

建築ジャーナル 2012 8月号掲載

45.資源大国ニッポンは豊富な資源を活用せよ

 7月28日民主党政権は、再生成長戦略なるものを閣議決定し、発表した。2020年までに経済成長を3%にするための壮大な政策である。100兆円の新設産業と450万人の新規雇用を生むという。成長戦略の目玉がグリーン戦略で、新築住宅の省エネ基準を100%達成させ、ゼロエネルギーハウスを標準化させるという。環境問題も、雇用問題も、経済優先の政策にしてしまうみたいで、自民党時代となんら変わらない。人が大事、緑優先の思想はどこに行ってしまったのだろうか。ゼロエネルギーハウスとは太陽光発電を付け、蓄電地を付け、環境問題に関心のある消費者に、エコ商品と命名した機器類をたくさん買わせて消費を拡大させるのである。
そもそも経済効果という数字はごまかしが多い。住宅業界は合理化・工業化が進み、手作業が減り、雇用は1/5まで下がった。プラスだけを計算して、地場産の木製建具や湿式左官工事のマイナスは計上しない不思議な計算だ。これから、円高で外国企業買収がすすみ、生産拠点は国外に流出し、企業売り上げは増加するが、国内生産量は減る。電化製品のほとんどは国外生産である。すでにマンション建築の建材は、日本製はセメントと水だけで、あとは全部外国製と聞いたことがある。

 成長戦略のゼロエネルギーハウスにするには500万円のコストアップとなる。総予算は限られているので、蓄電池や太陽光発電の機器類が増加する分建築コストを削減しなければならない。坪単価に影響がない軒や庇は短くなり、省エネ効果を上げるために窓は小さくなる。住宅産業は潤うが建築従事者の雇用が減ることは明らかである。
日本の住宅の建築材料は木と竹と土と藁と紙である。当たり前だがすべて国内調達品だ。別の見方をすれば日本は建築用材の資源大国である。木や竹はあまるほどある。土は日本国土がある限り存在する。今回は土の特性についてのべよう。

土壁の断熱性能と蓄熱性能
 土壁には断熱性能がないと悪口をいう人は多い。土壁の家は壁がスカスカの状態で、冬は氷の家にすんでいるようなものと決めつける。断熱性能は熱伝導率で表すが、土壁の熱伝導率は0.69w/m・Kで、断熱材の代表であるグラスウールの熱伝導率0.0.05 w/m・Kの1/14しかない。つまり,グラスウール50㍉相当を確保するのに土壁だと760㍉の厚さが必要となる。しかし断熱性能はないが蓄熱性能がある。断熱性能は材料の比重に反比例するが、蓄熱性能は重さに比例するとおおむね思ってよい。断熱性能と蓄熱性能の双方を持ち合わせている建材を望むが、軽くて重い材料となり、引力が存在する地球上にはない。

 断熱性能とは温まった空気の熱を逃がさないことで、気密とセットで考えなければならない。毛皮のコートが断熱性能でコートのボタンがしっかり締まっていることが気密性能だ。コートの下に温かい石焼芋用の石をかかえこんでいれば、石が蓄熱し、直接受ける熱が輻射熱である。蓄熱も断熱があれば保温効果は持続するし、気密性はスカスカでないくらいのほどほどで良い。人が住む住宅は換気が必要だ。それなら、高気密にして換気するより、蓄熱性能を利用してほどほどの気密にする方がよいだろう。

 蓄熱性能についてもう少し詳しく述べる。
 蓄熱式暖房の代表は薪ストーブだ。薪を燃やして、安定するまで1.5時間かかるが、火を消して温度が元に戻るまでも1.5時間かかる。その仕組みを利用しようというのである。冷める時間が延びるのでフル運転しなくても、薪が消えかかってから燃やすので、燃料は半分ですむという理屈である。蓄熱暖房の薪ストーブと蓄熱性能が高い土壁は相性が良いとなる。
日本人は、輻射熱には関心がなく、室温の高さ低さで、喜んだり、悲しんだりする。空気暖房をして暖まった空気を少しでも逃さまいと気密する。気密化すると、空気中のCO2濃度が高くなり、24時間換気扇を設置する。蓄熱を利用した輻射暖房の場合、温暖地方では気密性能を必要としない。24時間換気扇は気密性と暖房方法により必要性を決めてもよいのではないだろうか。輻射暖房の場合の人の体感温度は、室温と発熱体・床・壁・天井の平均表面温度を足して2で割った温度である。それで、室温が17度でも薪ストーブと等周辺の床・壁・天井表面温度が23度であれば平均20度なり暖かく感じ、室温が低いので隙間風をそう感じないのである。

夏の土壁
朝方は気温が低い。朝方の8時ぐらいが放射冷却で最低気温である。(ここでコーヒーブレイク*)。この下がった温度を保持することを蓄冷という。土間ともなれば、土間は地球とつながっていて、そう簡単には暖まらない。室温が33度となっても土間は30度と2~3度低い。逆に、蓄熱体である土間に直射日光を当てるような設計をすると最悪になる。40~50度に上がってしまう。パッシブソーラーといって縁側の床を蓄熱体(トロンボウォール)したら大変なことが起こる。九州ではスダレ程度では防除できない。スダレの隙間から直射日光が当たり蓄熱体は40度を越えてしまう。特に西日の斜め照射にも気を付けなければならない。西日の当たらない密集地ではよいかもしれないが。
日が当たらない土間の部屋が昔あった。味噌部屋である。今でいうパントリーだ。ひんやりしていて他の部屋より2~3度室温は低い。家の中全てを均一にしようと思わず、午前中は居間で、日中は味噌部屋に引っ込み、夕方は縁側へと、猫みたいに、時間ごとに居場所を変えるのも、エネルギーをあまり使わない生活方法だ。
もっと土を利用しよう。土は日本国土があるかぎり存在する。枯渇しない。なんといっても処分時がよい。土壁の場合は再利用して又壁に使うのが良いが、処分する場合は、我が家の庭に廃棄すればよい。ゴミ処分がこれからの社会問題になる。生産、雇用、マいレージ、蓄熱、処分、資源のことを考えると土壁は一番の優等生である。

(コーヒーブレイク)
1日で一番暑い時間は2時~3時というが、熊本は3時~4時だ。逆に一番気温が下がる時間は、東京では7時だが熊本では8時。経度差15度で1時間違うので当たり前のこと。あまりに東京中心の情報が多すぎて、2時が一番暑いと思っている人が多いのにびっくりする。

土壁下地の竹小舞
土壁塗り

建築ジャーナル 2012 9月号掲載

46.灼熱セミナーレポート

 1年の中で、一番暑い日の暑い時間に水俣エコハウスにて灼熱セミナーを開催した。
気温の高い低いだけで、喜んだり悲しんだりしているが、家のつくりようでかなりの差がある。気温・湿度・気流・輻射についてその仕組みを理解してもらい、エアコンに頼らない納涼方法を実体験してもらうことがセミナーの目的だ。
セミナーの前に水俣エコハウスの管理人特製のそうめん(ピリ辛韓国風)とエコハウスの庭で採れた野菜を使った一品料理の品々を出してくれた。

 セミナー開始時には、受講者14名と関係者8名を含めた総勢22名が一堂に居間・和室に集まった。人間一人当たり白熱灯100w程度の熱を発散しているので22名もいると2200KWのヒーターを置いているのと同じ状態となり、それだけで暑いはずである。
かつてはエアコンがなくても生活ができた。しかし、現在これだけエアコンが普及したのは、家が密集したからだけではない。建築のつくり手が、風通しのことを考えなくなったからある。では、エアコンがなくても暮らせる家のつくりとは、

① 軒を深くして日射を遮る
直射日光のあたるところ(日向)では縁側の表面温度が41℃以上となり、その輻射熱が室内にはいる。室内気温が31℃でも、体感温度は31℃以上になる。

② 温度差をつくることで風が流れる
 北側には日差しがないため、同じ室内でも北と南では温度差が生じ、南北に風が抜ける。また、上下の温度差を利用して、低いところから風を入れて高窓から風が抜けるようにする。エコハウスは1階の吹き抜けと2階がゆるやかにつながった大屋根の家である。1階の南から入った風は2階の子供室の北側の窓から抜ける。吹き抜けと子供部屋の間の2階の廊下にいると風がぬけて気持ちがいい。加えて、床下を開放している伝統構法なので、その床下の冷気を取り込む。

③ 家の内装は床・壁・天井すべて吸湿材
床は杉板と藁床の畳、壁は土壁の漆喰塗、天井は杉板と全てが吸湿材である。どれほど吸湿しているか分からないが、湿度が10%下がると体感温度が1℃下がるのは事実だ。
家の中すべてが涼しいわけではなく、玄関土間や2階の廊下など風が抜ける場所以外でも涼しいところはある。吸湿効果なのか、蓄冷なのか、地中温なのか分からない。涼しい場所を探して、そこに移動して生活するという発想が必要である。全館冷暖房の考えで、条件が悪い部屋の改善を図ろうとするとエネルギーコストがかかる。

アンケートと各部屋の実際の気温・湿度の計測を行った

*2階座敷の気温33.74℃、湿度43.90%
 2階の西に座敷がある。注目すべきは、アンケートの回答者数14名のなか、やや不快と答えた人が2名しかいないことだ。ほかの部屋ではやや不快・不快という回答はなく、座敷の評価が一番悪かった。2階で西に面している部屋なので、他の部屋よりも実際に室温も高く評価が悪いのもうなずける。しかし、それでもやや快適・快適と答えた人も回答者数の半分を占めた。これは、部屋のもたらす清浄な雰囲気、木と漆喰壁、畳が見た目にも清涼感を与えたのではないかと考える。例えば、この部屋と同じ温熱環境で、無機質なものばかりでつくられた部屋ならばこの回答結果が得られるとは考えにくい。温熱環境とは本当に相互に複雑に絡み合うものなのだ。これに加えて、風鈴や虫の音などが聞こえればまた違ってくるのである。

*居間の気温33.08℃、湿度44.80%
14名中11名が快適・やや快適と回答した。2階の座敷と気温湿度はそう変わらないが、評価がよいのは、南の大開口から見える庭、通り抜ける風による効果が大きいのではと考える。床・壁・天井の表面温度も32~33℃で、風もあったので、体感温度を考ると、もっといい評価をもらえても良かったかもしれない。しかし、セミナー中は20人以上もの人がおり、それだけでも暑いはずなので評価も妥当と言える。

*玄関土間の気温31.70℃、湿度54.05%

玄関土間が一番温度が低い。少しでも風があれば快適なはずである。土間床の表面温度は27℃とさらに低く、体感温度はそれだけで29度に下がる。アンケートでも快適、・やや快適と全員が評価しており、予想通りの結果が得られた。

*外部の表面温度。 外部の気温は34.22℃、湿度35.87%
・庭を見てみる。全面道路のアスファルトの表面温度は60℃、敷地内の砂利の表面温度は53.0℃、草は38.2℃であった。
草むしりがいやだといって、コンクリート打ちにしたり、砂利敷きにしたりする人がいるが、そうすれば表面温度は一気に14.8~21.8℃も上がる。庭にヒーターを置くようなものだ。エアコン設置が必須となる。
打ち水も効果があるが、焼石に水というごとく、炎天下では10分ぐらいしか効果がない。草を生やすことは連続打ち水と同じ効果だ。庭に草を生やすことをズボラだと思う人は、部分的に庭石を置けば、りっぱな数寄屋の庭に早変わり。
外壁は土壁の漆喰仕上げで、四方壁全ての表面温度は33~35℃であった。漆喰壁は夏対策に非常に良い。最近、遮熱塗料が良いとNHKで放映された。本当かと思い遮熱塗料を手に入れて、ホームセンターの500円の白ペンキと比べてみた。どちらも同じ効果だった。遮熱は白色だけの効果なのか。銀色はもっと良いが近所迷惑になるのでやめたが良い。Low-Eガラスもその一つだ。

結論
室温を下げるにはエアコンしかない。しかし、お金がかかる。それならば体感温度を下げればよい。風速2m/Sで体感温度は1℃下がる。湿度―10%でも1℃下がる。室温が34℃の場合、湿度60%なら体感温度は30.5℃だが、家の周囲の表面温度はそのままで風速が2m/S、湿度50%にすれば体感温度は28.5℃となり快適となる。

「感想」
セミナーの最後にスイカを供していただいた。これもエアコンの効いた部屋で食べるより、窓を開けて少し暑さを感じながら食べる方が美味しいし、清涼感を味わえるのではないだろうか。
外気温が35℃近くまで上がる中、エコハウスには縦横無尽に風が通り抜け、気持ちが良いと感じる時間(分間)がたびたびあった。セミナー時には20人以上もの人が集まり、熱気も漂い、汗をかきながらのセミナーだったが、アンケート結果からも分かるように「もう我慢できない」という評価はなく、一番暑い昼間でも何とかエアコンがなくても過ごせるのではと感じてもらえたセミナーではなかったかと思っている。

建築ジャーナル 2012 10月号掲載

47.伝統構法に厳しい改正省エネ法の判断基準案が発表された

現在公示されているパブリックコメントと比較して読んでください
(パブリックコメント155120719で検索)

炭酸ガス排出量削減を目的として省エネ法が改正される。省エネ法は単一法ではなく、建築基準法と同じく複雑多肢にわたる。建築物と深くかかわっているので、国土交通省が行政指導を行うが、主管が経済産業省なので、建築物は経済活性化の要素として利用され、省エネ機器販売が目的のように思えてならない。
新省エネ基準や次世代省エネ基準は、フラット35Sやブランド化住宅を採用する場合には守らなければならないので、ほとんどの建築関係者は知っている。全員が遵守しなければならない法ではなく、飴玉が欲しいひとが守る誘導法である。飴玉が欲しくなければ、基準は知らなくてもよい。しかし、その誘導法が2020年には全員が守らなければならない規制法に変わるような内容が今年の6月に閣議決定された。全員が守らなければならないことが問題である。現在、基準の見直しがなされていて、11月7日締切のパブリックコメントがもとめられている。2本あるので注意してほしい。「建築主等及び特定建築物の所有者の判断の基準」と「低炭素建築物の認定に関する基準」である。後者は選択性なので選ばなければ良いが、前者は2020年に規制法になる。
【平成24年6月に省エネ法全体の工程表は発表された】
告示の基本となる「住まいと住まい方委員会」が今年4月までに4回開催された。委員の方で建築の実務が分かる建築士は一人である。省エネは緑が大事と発言しても、省エネ機器をたくさんつけるべきという意見に消されてしまった。5月に行われたパブリックコメントで、実務者の意見が多く寄せられた結果、「伝統的な木造住宅に関し、省エネルギー基準への適合義務化によりこれらが建てられなくなるなどの意見や、日本の気候風土に合った住まいづくりにおける工夫も適切に評価すべきとの意見などがあることから、引き続き、関係する有識者等の参加を得て検討を進める。」が工程表に追加され、一定の成果はあった。

【建築主及び特定建築物の所有者の判断の基準案】告示案

■1-1:外壁・窓等を通しての窓の損失の防止に関する基準
現行次世代省エネ基準は新省エネ基準と比較して坪3~4万円のコストアップになると国は発表した。(環境省の資料:(5)断熱構造化対応のための費用負担2010年5月18日:17ページ)更に、「国民の納得が不可欠となる」と付け加えたのに、今回のパブコメでは意識的に費用のことは書いてない。120㎡の建物で100~140万円のコストアップになる。九州の暖房費は年間2万円。1割減らして2千円/年。省エネが目的の法とは思えない。5GJ(ギガジュール)のために100~140万円のコストアップを強いることになるが、「国民の納得が不可欠」というと(とる)言葉からほど遠いように思う。費用のことを言わずに法を通す計画は卑怯ではないだろうか。

■1-2:除外規定
前記工程表の追加内容が、「地域の気候及び風土に応じた住まいづくりの観点からエネルギーの使用の合理化に関する法律第74条に規定する所管行政庁が認めた場合」となっていて少しニュアンスが違う。74条とは地域のキャスビーに移行と読み取れるので注視しなければならない。最初の趣旨に準じて、「伝統的な木造住宅や、日本の気候風土に合った住まいづくりにおける工夫も適切に評価するために、所管行政庁が認めた場合は除外すべきだが、その基準は、関係する有識者等の参加を得て検討を進める。」にするのが妥当ではないだろうか。

■1-3:地域の区分に応じた熱貫流率(UA値)等の基準
地域区分が6つから8つに増えた。しかし、新5地域は新潟で、新7地域は奄美大島である。ほとんど8割の国民がこの5~7地域に住んでいる。8つに分けたのに5~7の遵守基準が同じなのだ。熱の逃げ具合をUA値で示すが、5~7地域共に0.87なのだ。
・新5地域の暖房度日は2500度日(年間暖房温度を上げる日数)である。新7地域の暖房度日は500度日である。2000度日も差があるのに、同じUA値0.87ではおかしい。
・UA値とは暖房時の熱の逃げ方である。北海道と鹿児島では、年間暖房費20万円と1万円で20倍の差があるが、新1地域がUA値0.46で、新7地域がUA値0.87とわずか2倍の差であるはずがない。明らかな計算ミスである。あるいは意図的に操作された数字である。素人でもわかる数値操作はやめてほしい。新1地域がUA値0.46なら新7地域はUA値2.0ぐらいが妥当である。

■地域区分に応じた冷房期の平均日射取得率の基準
・全壁に対し窓の割合を開口率という。北方の家の開口率は2割、南方では3割ぐらいだろう。計算値を否定はしないが、最近、窓の開口率が1割程度のローコスト住宅が九州にもたくさん建つようになった。フランチャイズの家ほど小さい。窓が小さいと高性能になる日射熱取得率?値は改善を求む。本来の日本の住宅から軒が短い豆腐みたいな家づくりを国が指導していると言っても過言ではない。

■1次エネルギー消費量に関する基準

・「暖房設備が設置されていない場合は、ロに定める方法によるものとする」について。
薪ストーブの場合は暖房設備ではない扱いなので暖房設備であるエアコンをつけたことになる。同様に、こたつも暖房設備とみなされず、暖房設備であるエアコンをつけたことになる。
新築時に所定の機器を付けていない場合は、エアコンをつけたことになるのは、盗んでないのにドロボーにされる冤罪に似ている。もっと詳細に基準を決め、国民をドロボー扱いにするのはやめてほしい。

・「暖房方法の区分について」
主たる居室及びその他の居室の暖房方法が連続運転である場合、つまり全館暖冷房の家はエネルギー消費が1.9倍ほど多くてもよいとある。金持ち優遇の暖房基準をどう思う。

・「冷房設備が設置されていない場合は、ロに定める方法によるものとする」について。
扇風機の場合は冷房設備ではない扱いなので、冷房設備であるエアコンをつけたことになる。
扇風機は省エネの王様である。なのに扇風機を認めないのは経済産業省は安い扇風機より高いエアコンを買わせたいからだろう。健康にとっては、エアコンより扇風機が良いという人は多い。
この項目は全く理解できない。

・「その他の1次エネルギー消費量(EM)」について
そもそも、参考2で住宅部門が1.35倍になったのは、家電の消費エネルギーが倍になったからである。暖房エネルギー消費はここ20年増えていない。一番多いのは家電製品の消費エネルギーである。消費量は21.1GJもあるのに手をつけさせないことになっている。暖房よりこちらが先である。経済産業省の家電製品をたくさん買わせたい魂胆が見え見えである。

「パブリックコメント参考資料2」より
日本は欧米諸国より暖房エネルギー消費量は極端に少ないのに、 欧米なみの基準をつくるとは。
「パブリックコメント参考資料2」より
住宅。建築部門が1.35倍に増えたというが、暖房費費ではない。家電である。なのに、「家電等は、省エネ手法を考慮しない」とは中国式勝手思考法である。

建築ジャーナル 2012 11月号掲載

48.我が輩はシロアリである

シロアリを地球上の極悪生物と思っている人は多い。シロアリは他の虫と違い、デンプン質以外のセルロースまできれいに食してくれる。山の木を伐採し、切り株や根はそのまま山においてきても、シロアリがきれいに食べてくれる。木の根は枝と同じくらい張っているが、シロアリがいなかったら、切り株や根の処分も人力が必要で、伐採費用は単純に倍になる。山にとっても、人間にとっても、なくてはならない存在なのである。シロアリをこの世から一掃退治できたらと願うが、シロアリは居てもらわねば困る。シロアリの生態を知りシロアリと共存することが望ましいのではないだろうか。最近被害が増えているのは、地球温暖化で、シロアリの生育区域が北上していることもあるが、最近の家のつくりようが白蟻生育器みたいになっているからだ。
家を丸ごと断熱材で包む外断熱工法の基礎の外部の断熱材は効率は良いが、わざわざ蟻道を造らずとも侵入できるシロアリご招待通路に思える。基礎断熱材に防蟻剤を注入して防蟻策というが、防蟻剤の効能は5年で、5年が過ぎたら、メンテは難しい。新築したときの業者は面倒を見ず、施主はシロアリ訪問販売者の餌食になってしまう。シロアリは目がなく皮膚もぶよぶよとしていて、地表にはそのままでは出てこれない。ゆえに、発見しにくいが、やむをえず地表に出てくる場合は、風に触れまいと蟻道をつくりその中を往来する。例えばゴキブリは現行犯として発見しないと存在は確認できないが、シロアリの存在は蟻道という証拠を残してくれる。しかし、蟻道もシロアリ自身も見たことがない人が多いのは、モグラとおなじ地中生物で陽の当たる表に出てこないからだ。裏街道生物なので、人間は想像でシロアリを断定的に判断することが多い。乾燥木にはつかない、ホウ酸団子はシロアリ対策に良い、赤味は食べない、新月伐採の木は付かない、コンクリートも食べる、とか。伝言ゲームと同じで「付くにくい」と聞いた人が次の人に「付かない」と伝言するから話が複雑になる。子供の弁当に、卵焼きとご飯があった場合、卵焼きを先に食べ、ご飯を後に食べる。子供がご飯を嫌いなわけではない。
事例からの検証と実験から白蟻の生態を知る。

例1乾燥木にはつかないというのは間違い。
シロアリは湿気が多い浴室や便所から侵入するもので南からは侵入しないと聞いていた。しかし、S邸では南のデッキの束から侵入した。デッキに雨が当たる。樹液が地中に浸透する、それをシロアリがキャッチして目が見えないのに樹液を目がけて蟻道を作り、デッキの束、デッキの大引き、窓下の土台をつたって家の中に侵入してきた。家の根太に最初に食いついたので、根太の強度が弱くなり、床がぶかぶかするということで、床下に潜って確認したら蟻道があった。早期発見となった。進行部分だけを薬剤駆除し、床下全体に薬剤散布はしなかった。定期的にデッキ下に蟻道がないか確認することが大事だという教訓になった。全面散布すれば5年は大丈夫だが、また5年後に薬剤散布をしなければならない。デッキ下を確認して、付いた時にその部分だけを駆除すればよい。写真1

例2:クロアリがいるとシロアリをたべるので大丈夫
「クロアリがシロアリを食べる」は正解であるが、大丈夫というのは嘘。クロアリは確かに地中に巣をつくるが、餌場は主に地表である。シロアリは完全地中生活である。地表近くのシロアリがクロアリにやられるだけのことである。繁殖の速度と軍団の大きさは数十倍の差があるし、更に雨の日はクロアリは休みだが、シロアリには休みがない。労働時間が全く違う。10万匹のシロアリを1/1000減らすだけのことで大丈夫なわけがない。
クロアリとシロアリの違いについて質問がよく来るので写真を見てほしい。シロアリに羽が生え羽蟻になると色が黒くなる。それでシロアリとクロアリの区別がしにくくなる。写真2

例3兵蟻だけが表にどんどん出てくる不思議な現象。
まず、軒下の薪置き場にシロアリがついた。本巣は隣家近くの木の根元にあった。薪置き場に分巣として広がった。その分巣から家の中の土間に侵入してきた。そして、玄関の木枠から、柱、梁と伝い、二階の松材まで一直線にすすんでいた、まず一直線に遠方まで行き、それから拡大する予定だった。施主が薪置き場の分巣に気が付き、市販の防蟻剤を撒いた。分巣の働きアリが死滅した。兵アリは働きアリから栄養をもらい自分では直接木を食べない。働きアリがいなくなると、食材が目の前にあっても自分では食せないので餓死する。兵アリが飢餓状態で表にぼろぼろ出てきたのだった。分巣を見つけて、薬剤で処理しても他に分巣や本巣があるので、根治にはならない。増殖してまた分巣をつくる。シロアリはエサを口移しで巣にいる仲間や子供に分け与えるので、伝搬力は早い。そこにベイト剤をしかける。その薬剤効果は一家集団に広がり、1匹残らず殲滅させることができる。写真3、写真4

例4基礎パッキンはシロアリ対策になるか
基礎パッキンを否定するものではない。布基礎との設置面を少なくしコンクリートの湿気を土台に伝えず耐久性が上がることは評価する。しかし、そのことでシロアリがつかないことにはならない。コンクリートから土台に向かう途中にパッキンがあったら乗り越えるだけだ。写真5

例5:シロアリはコンクリートを食べる
コンクリートを食べるわけがない。もし食べるのであれば、福島原子力発電所のコンクリートの残骸をシロアリに食べさせれば良い。シロアリが進行するとき顎の力か蟻酸の力かは知らないがコンクリートでも穴を開けてしまうということだ。10センチの厚さがあるとシロアリ被害は大丈夫といわれている。もし食べるのであれば何センチあっても食べるはず。べた基礎でも被害があるのは、給排水の埋め込み部や立ち上がりの打継部である。 写真6

例6:ホウ酸団子は自然にやさしい防蟻剤
DDT、クロルデン、クロルホスピス、等防蟻剤は人体に悪影響があるので、ホウ酸は人体への影響がないと注目を浴びている。九州ではシロアリはどこにでも居る。我が庭に杉の木を置いていたらヤマトシロアリが付いた。新月に切った木と満月に切った木共に付いた。そのあと、ホウ酸団子をそこにおいた。シロアリは死んではいない。ホウ酸団子を避けて逃げた。写真7
シロアリとは共存する他仕方がない。そのかわり、家のつくりをシロアリが発見しやすいようにつくることが大事である。

写真1:南からも侵入
写真2: 地中のシロアリは色白
写真3:羽を落としたシロアリは色黒
写真4:薪置場の分巣
写真5:餓死状態のイエ兵アリ
写真6:基礎パッキンも飛び越える
写真6:コンクリートの継ぎ目から侵入
写真7:ホウ酸団子は忌避するだけ

建築ジャーナル 2012 12月号掲載

49.改正省エネ法のパブリックコメントについて

 改正省エネ法へのパブリックコメントは750件の意見が出された。経済産業省と国土交通省はこれに対しての考え方を、専門委員に伝え1時間の審議がなされ、告示案は原案通り来年の4月から施行されることになった。750件の意見は、71件にまとめられた。そのうち5件が伝統構法関係だったので紹介しよう。
:「地域の気候風土に応じた住まいづくりや伝統工法も考慮した基準とすべきではないか」
:「基準において、蓄熱性を持つ土壁や、高い床下、深い庇、風の通り抜けやすい大きな開口部、縁側、玄関などの緩衝空間も評価すべきではないか」
:「土壁住宅などの伝統的木造住宅においては、断熱材を入れることが難しいため、外皮基準を除外する項目を明示すべきではないか。」
:「伝統木造住宅などで設備に頼らない住まい方をしている人が不利にならないようなしくみとすべき」
:「伝統的木造住宅の省エネ基準の義務化のあり方については実務者の意見を聞いて検討を進めるべき」
これらのコメントに対しての回答は、「地域の気候風土に応じた住まいづくりの観点から所管行政庁が認めた場合には外皮基準を適用除外とできる規定を設けております。所管行政庁に対しては実務者の方々の意見も伺いながら技術的助言等において、明示していく予定です」とあり、とりあえず延長戦となった。

 伝統的構法以外の意見も数多くあるのでいくつか紹介する。新省エネ法と次世代省エネ法との費用差は坪あたり3~4万円のコストアップという見解もあったが、最近費用についての言及はない。やはり、省エネ法が施行された場合の関心はかかる費用である。費用対効果があるか等の質問に対しては、71件に含まれていない。都合がわるいもの、答えられないものは最初から除外してある。公表された意見(Q)に対して、経済産業省および国土交通省の考え方が(A)である。考え方にたいしてさらに私がコメント(Aにコメント)する。

Q:新5~7地域の外皮平均熱貫流率が同じなのはおかしいのではないか。
A:現行の熱性能に関する基準は、現行の省エネ基準達成状況も踏まえ、現行の省エネ基準相当の水準を求めることとしております。
Aにコメント:質問に対する答えになっていない。温熱地域が現行6区分から8区分に精密に分け直したのに、5~7地域が同じ数値ではおかしいという意見なのに、現行基準の水準を守るというおかしな回答である。ヒイキ目に見て基準が甘いから5~7地域は同じでも良いという見方も考えられる。「現行の省エネ基準達成状況も踏まえ」という言葉の裏に達成率50~60%というデータが存在するが、本当に実態を調べたデータだろうかと疑う。別事業の「ブランド化住宅」に長期優良住宅の実施状況の記載項目があるので調べてみた。ブランド化住宅鹿児島4グループの総計667件の内、長期優良住宅仕様は60件である。つまり、省エネ基準の達成状況は7地域の鹿児島では9%だということになる。北海道では50~60%かもしれないが。都合の良いデータを引用し達成率50%という数字を使うのは卑怯である。

Q:暖房設備による1次エネルギー消費量の算出において、こたつや解放型石油ストーブの利用を考慮すべき。
A:ご指摘のような建築設備ではない器具については、設計時点では把握できないため、対象外としています
Aにコメント:暖房の手段にこたつ、石油ストーブ、エアコンがある。こたつや石油ストーブは建築設備ではないと温熱専門家が自分たちだけで勝手に決めてよいのだろうか。こたつも石油ストーブもエアコンも同じ家電販売店に売ってあるし、耐用年数も同じくらいだ。把握できないからという理由はあまりに手前勝手である。こたつ、石油ストーブを対象外にすれば、性能の悪いエアコンを設置したことと同じとなり建築確認はおりない。言葉を換えれば法律で、高性能エアコンを付けないと建築確認をおろさないよという経済産業省の陰謀である。

Q:冷房設備を設置しない場合は、設計1次エネルギー消費量の冷房用エネルギー消費量は無いとする評価にすべきではないか。
A:一般的に、竣工後にエアコン等を設置するような場合も考えられることから、当初設置しない場合であっても設備の設置を評価する方法としております。
Aにコメント:エアコンは800W、扇風機は40Wで別の団体は省エネのために、エアコンより扇風機の使用を勧めている。扇風機の人はエアコンを使ったことと同じにするのはおかしいという意見に、「竣工後に設置するかもしれない」と消費者を犯罪者扱いにする行政指導はひど過ぎる。日本の司法は想定無罪だが、行政は想定有罪の考えである。

Q:新築時に照明器具を設置しない場合、白熱灯を含んだものとして、設計値を算出する過剰な評価は見直すべき
A:設計段階で特定できない場合は、白熱灯も設置される可能性があるため、白熱灯も含んだものとして算定することが妥当であると考えております。
Aにコメント:白熱灯が1ヶでもあれば全て白熱灯をつけたものとみなすのが妥当であろうか。10分以下の点灯は白熱灯が省エネという意見もある。ベトナム戦争でソンミ村事件があった。ベトコンが一人いるかもしれないという理由で村人全員を虐殺した事件を思い出す。

Q:外皮基準に関する簡易計算ツールを整備すべき
A:ご指摘を踏まえ、外皮性能の計算ツールを整備することとしております。
Aにコメント:
渡りに船の意見である。すでに、中小工務店・大工の省エネ設計・施工技術の向上支援が始まっている。基準に簡易さを求めると、必要でない家も必要な家も必要な基準となる。24時間換気扇やホールダウン金物がそうだった。必要な家は2~3割なのに、簡易さを求めるから全ての家に設置せよとなる。外皮性能を上げると内部結露が発生しやすくなるから先回りして、住宅省エネルギーの「施工技術者講習会」は始まっている。必要な家と必要でない家の区別は次号で説明する。

これから先どうなるのだろうか
とりあえず来年の4月からは誘導法で施行される。皆が知りたいのは、2020年に全ての住宅が義務化になるかということだ。それに対し国は今のところ「義務化になるかは決まっていない」という回答である。告示は2013年から施行としか書いてないので2020年に義務化へ移行するかは未定との回答は当然であるが、2012年6月に発行された工程表を見ると次世代省エネ基準を2020年に100%実施と書いてある。そして現在行われている「施工技術者講習会」の趣意書には「新築住宅の省エネ適合率を2020年までに100%とすることを目標とし、地域の木造住宅生産を担う大工技能者等断熱施工にかかわる者を対象におこなう。」とある。
この「施工技術者講習会」を広めるために各地に地域協議会が組織化された。その協議会に熊本ではなんと熊本県建設労働組合が加わっている。この団体は、高気密・高断熱化は住宅メーカーの陰謀だと言っていたのではなかったのか。いつのまにか高気密・高断熱を推進する建設団体に変貌している。講習会の受講者の目標は5年間のうち全国で20万人である。今年度はとりあえず11000人の受講者数だった。残り4年で残り18万9000人となると、1年で47200人となり、今年度の4.3倍の動員となる計算だ。本当に可能なのだろうか。各地の地域協議会がネットワークを使って動員をかけることになるが、半強制的な要請になると予想する。建築士会や建設業協会に要請がかかる。熊本県での割り当ては3000人となるが、いままで基準法改正や融資の説明会で自主的に講習会に参加した人は500人ぐらいしかいない。地域協議会へ行政から要請がかかれば組織は動く、仕方なく組織の動員で講習会をうけることになる。後半の受講者は興味がない人が多く半分は居眠り受講となるだろう。建設労働組合あたりは「講習会を受けた人は仕事につながる」と言っているがありえない話だ。2000万円の新築住宅で消費税アップが100万円加算される時期に、改正省エネ法で更に100~120万円加算されることで、仕事が増えるとか、仕事につながると考えるのは浅はかだ。
国交省は、経済産業省の言いなりにならず、国民と建設関係者のために頑張ってほしい。

建築ジャーナル 2013 1月号掲載

50.省エネ住宅「施工技術者講習会」のテキストの内容について

2020年に次世代省エネ基準が100%義務化になる公算が強い。今のうちから学習しようと省エネ住宅「施工技術者講習会」がはじまった。断熱施工は北海道では30年前から普及し、工事のノウハウは蓄積されている。寒い地域では断熱・気密は必須であり、かかる費用や工事内容については施主の理解は得られている。しかし、九州においては寒さ対策は少し我慢すればよいことで次世代省エネ基準レベルの断熱・気密は普及しなかった。長期優良住宅という100~120万円の補助金があったときは数件採用されたが、仕様内容に理解を得られたからではなかった。融資がなくなると仕様は激減したことからもそれは分かる。温暖な九州に次世代省エネ基準ほどの高性能に最低基準をあげなければならないのだろうかと疑問を持つ人は多い。断熱工事は断熱材を入れればよいではすまされない。副作用が発生するのだ。そこで全国一斉に次世代省エネ基準「施工技術者講習会」がはじまったのだ。
まず講習会の内容で断熱工事の必要性が挙げられている。主な3つを紹介しよう。

■「断熱材を入れないと年間14000人が死ぬ」という嘘に近い記述
1年間にヒートショックが原因で亡くなる人は推定14000人で、交通事故の死者よりも多いといわれています。(交通事故の2.4倍という挿絵付)
家の中での事故死が14000人であることは事実である。しかし、その数字のうち浴室・洗面での事故が原因の死亡者数は3691人と厚生労働省大臣官房統計情報部「人口動態統計」では公表しているが、ヒートショック死とは言っていない。片方、国土交通省のバリアフリーの担当者は、浴室で滑って転んだ死亡者が3162人と類似の数字を発表している。滑って転んで亡くなったのか、ヒートショックによるものなのかは不明であるのに、14000人すべてをヒートショックで死んだというデータ操作は甚だ頂けない。(参考資料1)

2■住宅のエネルギー消費量の表示
家庭用エネルギー消費を用途別にみると、シェアーの大きいのは①動力・照明他②給湯③暖房④厨房です。また1973年度と比較して、2009年度で動力・照明用のシェアーが増加しているのは、家電機器の普及や大型化・多様化や生活様式の変化等によるものと見られています。
本来ならばエネルギー消費量が多い分野から対策をたてるのが普通であるが、エネルギー消費量が多い家電には手をつけず、3番目の暖房エネルギー消費量対策に力を入れる。建物の断熱仕様と暖房エネルギー消費量とダブルで規制するのだ。しかし、これは費用対効果が一番低い。例えば、建物の断熱性能U値を0.87にあげると5GJの削減になるが、かかる費用は100万円を超える。一方、給湯で太陽熱温水器をつけると10GJ削減になり費用は30万円ですむ。暖房のために100万円をかけて外皮性能をあげる工事は必須で、30万円ですむ給湯の省エネ対策工事は選択となるのはおかしい。

3■エネルギー消費量の多い全館暖冷房をすすめる
省エネ法の目的はエネルギーを少なくするための法律である。九州で全館暖房すれば37.2GJ必要だが。間欠暖房だと15.6GJでよい。しかし、間欠暖房はリビングとトイレの温度差が6度以上になり、いかにも前出しのヒートショックで死亡すると言わんばかりである。全館暖房なら暖房時間が100分かかるところを25分ですむとか、部分暖房になると、非暖房室の湿度が50%から80%に上昇し結露が発生しやすくなるとか、与条件が違うものを比べて全館暖房の優位性を述べる手法は三流の健康器具販売業者のレベルの説明である。部分暖房のエネルギー消費量15.6GJを全館暖房にすれば、37.2GJと2.5倍に増えるのに全館暖房を推奨するのは、そもそも省エネが目的ではないからだ。いうならば費用対効果の少ない高断熱・高気密仕様を強制するのは、経済成長のためにエコ建材、エコ設備を買ってほしいただそれだけである。

施工マニュアル
新5~7地域では、壁・床に100㍉のグラスウールを、天井には200㍉をいれることになる。断熱性能がよくなると当然内部結露が起こる。それを防止するためには室内側に水も漏らさない防湿層の施工が必要となる。その施工が大変なのだ。断熱・気密と結露の関係は複雑すぎるので、素人は住宅をマニュアル通りに施工しなさいということだ。


断熱には外張り断熱と充填断熱の施工方法がある。どちらの断熱方法がよいかはお互い相手の悪口合戦があるので、双方から意見を聞くとお互いの特徴がよくわかる。外張り断熱工事の決めてはガムテープの力、充填断熱は0.1㍉のビニールの貼り方の施工力ということだろう。マニュアルでは言葉で「隙間なく充填しなさい」「室内側に空気だまりをつくったら駄目ですよ」ですむが現場は簡単ではない。壁の柱・間柱に断熱材を密着させる工事は大変なのだ。910モジュールの場合はうまくいくが955モジュールや985モジュールの場合は横寸法が不足する(参考資料2)。特殊サッシュの場合は標準より狭いので隙間が発生する。手に刺さるグラスウールをちぎって挿入する人がどれほどいるだろうか(参考写真3)。それにジョイントは3㎝重ねという指導があるが、断熱材の袋は透明ではないので間柱間の3㎝程度の隙間は良くわからない(参考写真4)。壁の面材が基本となっている。ビニール袋に入っている断熱材はビニールが防湿層を兼ねていると理解している人が多いが、胴縁で空気層ができる場合は室内側にもう1枚ビニールを張らなければならない(参考写真5)。真壁の場合は絶句する神の手が必要な施工になる。こうなると日本から真壁がなくなる。


床部の施工でも3㎝の余裕を持たせ床板で押さえるとある。床は合板下地の2重貼りが条件となっていて、床にビニールを貼るなんて考えられないと思う人は多い。1重貼りの施工方法の記載はない。施工が難しいから無いのだ。

天井
天井の場合は、天井材と野縁と吊り木があるため隙間ができる。かならずビニール張りとなる。(参考写真6)竿ぶち天井を考えてみよう。竿縁天井は竿に尺幅の軽い天井材を乗せていく。天井材の重ねはイナゴというクリップで留めていくが重ね代は僅かながら空気が通る。天井材の上に断熱材を乗せることは可能だが、防湿層付断熱材を入れた場合、野縁やイナゴで空気層ができる(参考資料7)。物理的に施工は出来ない。できる方法があれば教えてほしいものだ。次世代省エネ基準が必須となれば日本から竿縁天井が消えることになる。

防湿シートは厚さ0.1㍉のビニールである。それを隙間なく固定するのはガムテープみたいなものだ。耐久性は何年だろうか。石油製品は硬化し、弾力性が失われることは誰でも知っている。コーキング等は10年という耐久性しかなく、10年すぎたらメンテナンス工事が必要となる。瑕疵担保履行法の保証期間10年とも一致する。コーキングは再施工はできるが、壁の中に埋もれたビニールは検査も施工もできない。どうするのだろうか。
つづく。

参考資料1 説明資料
参考資料2 横幅の種類の多さに対応可能だろうか。
参考写真3 この隙間をどうやって充填するのだろうか。
参考写真4 断熱材の袋で隙間はわからない。
参考写真5 内側に密着させなさいと書くのは良いが施工不可能。
参考写真6 野縁でかならず隙間ができる。
参考資料7

建築ジャーナル 2013年 2月号掲載

51.省エネ住宅「施工技術者講習会」が及ぼす副作用Ⅱ

講習会を受けた人の意見を聞いた。勉強になったという人より、施工方法にびっくりしたという人が多かった。断熱性能をあげると結露が発生する。その結露防止のためのビニールでの目張り方法が「施工技術者講習会」の目的で、マニュアルどおりに施工しないと手抜き工事といわんばかりの様相である。断熱化しても吸湿できれば結露は防げるが、そのことには言及していない。気密化と吸湿はある程度まで共存できるが、1線を越えると敵味方になる。つまり、高気密化による「結露」を呼ぶ。マニュアルはその結露防止のための施工方法に多くページが割いてある。の仕様に疑問を抱くのだ。医学の世界でも副作用が大きければ治療を断念するように、結露が怖いから高断熱をあきらめ、ほどほどの断熱気密で良いではないかという考えがあっても良いはずだ。誰が決めたかは知らないが、室温20℃を確保せよと高気密・高断熱を押し付けるのはいかがなものか。結露が発生するので、尋常ではない副作用対策に疑問をもつ。を取らせる。その対策は
最後の章に副作用対策が列記してある。「省エネ住宅の住まい方」である。健全な生活を営む行為とは思えない。「より快適で、より健康で、より地球にやさしい暮らしのために」との小見出しで対策は次の通りである。(参考1)

  1. 24時間換気扇は止めるな。
  2. 加湿器は使うな。
  3. 厨房機器を使うときは窓を開けよ。
  4. 来客があるときは窓を開けよ。(詳しくは次号で説明)

潜水艦みたいなビニール包みの住宅の中で快適に住めるのだろうか。壁の中にいれたビニール製品は何年もつのかと言われても、それは将来のこと。年金問題と同じで現政権には関係がない。CO2削減のための国策の一翼で、省エネ法という法律がつくられ、2020年に完全施行にするための準備講習会だ。断熱性能をあげると結露が発生する仕組みを原理から考え、ビニールを使わない方法がないかを検討しよう。結露が発生しても吸湿させればよいではないか。冬は乾燥するので加湿装置をつけ普通に暮らせないかを考えよう。そんな住宅工法はないだろうか。「ある」。「土壁の家」だ。吸湿性の高い土壁はたとえ結露が発生しても土が吸湿してしまうのでビニール等の防湿材は不要となる。実は「施工技術者講習会」はビニールが要らない土壁仕様を広めるための裏戦略かもしれない。

結露の仕組みを知ろう
まず結露の仕組みを知ろう。原理はここで説明するのは字数が限られているので中学校の理科の教科書を紐解いてもらうとして、現象を見てみる。外気温と内気温の差が原因で結露が起きる。断熱性能が大きければ大きいほど結露が起きる。昔、安藤忠雄氏が言っていた。「自分の設計する家は絶対結露しない。冬寒くて夏暑いからだ」と。もちろん正しい。結露の仕組みは飽和水蒸気量の計算もあるが、ここでは建築材料の透湿抵抗比を知り、結露が起こりやすいかについて検証する。

*透湿抵抗比
断熱層の外気表面より室内側に施工される材料の透湿抵抗の合計値を、断熱層の外気側表面より外気側に施工される材料の透湿抵抗の合計値で除した値で、室内側と外気側の湿気の通し難さの比率を表す数値である。断熱材の境界線を中心とした透湿抵抗比の値が大きいほど、室内側は湿気を壁に通しにくく、外気側は湿気を放湿しやすいことになり、壁体内での内部結露が生じ難い。
旧Ⅳ地域の場合、透湿抵抗比が天井では3以上、壁では2以上あれば結露しない。

*透湿抵抗
透湿抵抗は材料の種類と厚みによる異なる。
材料厚み㍉透湿抵抗㎡hmmHg/g
通気層18ミリ以上1.8
通気層9ミリ程度3.6
アスファルトフェルト5
アスファルトフェルト300
透湿防水シート0.4
ポリスチレンフォーム2511.3
グラスウール1001.2
セルロースファイバー1001.3
高性能フェノール2535
土壁808.1
コンクリート10070
モルタル2028
合板12.523.4
MDF126.3
軟質繊維版121.3
石膏ボード12.50.7
杉板2028
防湿フィルム(A種)170
防湿フィルム(B種)300
スチロールスポンジ2511.3
窯業サイデング1212
・透湿抵抗値は材料の継ぎ目で大きく値は違う。アスファルトフェルトを見てみよう、床に敷いただけでは5㎡hmmHg/gなのに、継ぎ目なく施工すれば300㎡ hmmHg/gとなる。60倍も違う。その程度は、抵透湿抗値が1桁の場合は材料を重ねただけの施工でよいし、2桁の場合はテープ止め。3桁となると完全密閉となるだろう。
・木材の透湿抵抗値は28㎡mmHg/gであるが、本実や合い欠き接合部は梅雨時は膨らみ、冬は縮む。冬を主眼においたら縮むので無垢の床材の透湿抵抗値はゼロと見るほうが妥当だろう。

結露がおきる場所
屋根

外気側:S-1:瓦、僅かな空気層、アスファルトフェルト、野地板
:S-2:瓦、僅かな空気層、アスファルトフェルト、合板
:S-3:瓦、僅かな空気層、アスファルトフェルト、野地板、良い通気層
:S-4:瓦、僅かな空気層、透湿シート、野地板
室内側:U-1:グラスウール、ビニールシート、杉板
:U-2:グラスウール、杉板
:U-3:グラスウール、石膏ボード12.5㍉、クロス
:U-4:グラスウール、ビニールシート、石膏ボード12.5㍉、クロス
:U-5:羊毛ウール、杉板
  • この数字は筆者が勝手に当てはめた数字で一般に公表できるものではない。信用度はかなり低い。
  • 透湿抵抗比が3以下では結露がおきる。太字が結露しやすい組み合わせ。(太字にしてください)
  • 小屋裏換気が無い場合は屋根には使用できないことになっているが参考までに算出してみた。
  • 空気層があればそれより外気側の材料はカウントしない。ことになっている。
  • クロスなどの内装仕上げ材は算入できない。
  • 通気層があっても、アスファルトフェルト敷きは室内側にビニールを入れないと結露を起こす。
  • 屋根下地のアスファルトフェルトは熱で溶けて、密着度は高まり透湿抵抗値は上昇するので、さらに結露は発生しやすくなる。
  • 温暖地では、夏結露は起きないという人もいるが、屋根には起きる。特に梅雨時は、内外の気温差は少ないが湿度が高いのでわずかな温度差でも結露が起きる。結露対策も冬結露と夏結露では露点位置が逆転するので、夏の結露対策はこの表では参考にならない。意味をなさない。冬の結露対策が逆に悪さをする。断熱材の外と内に防湿層をつくるのは理論的に難しい。そのことを知っている地元の建設会社はどんなにコストダウンを要求されても、屋根野地板には合板を使わない。無垢材だと結露水を吸収することで問題が起きないことを知っているからだ。全国展開のFC住宅は工期短縮と屋根剛性や精度を売りに屋根下地に平気で合板を使う。瑕疵担保履行法があるから10年は大丈夫という考えだろうか。(つづく)

「住宅省エネルギー技術・施工技術者講習」の挿絵から

(1)解放型ストーブはしようしないようにしましょう!
(2)換気装置はとめないこと!
(3)ガスレンジ使用時には強制換気をすること!
(4)人が大勢集まった時には窓を開ける!

建築ジャーナル 2013年3月号 掲載

52.省エネ住宅「施工技術者講習会」が及ぼす副作用Ⅲ

結露が起きる場所


 :外気側S-1:窯業サイディング、透湿防水シート、構造用合板
 :外気側S-2:窯業サイディング、空気層18ミリ、透湿防水シート、構造用合板
 :外気側S-3:窯業サイディング、空気層18ミリ、透湿防水シート、ダイライト
 :外気側S-4:漆喰、モルタル、透湿防水シート、下地板
 :外気側S-5:杉板:
 :外気側S-6:漆喰、モルタル、アスファルトフェルト、下地板

 :室内側U-1:グラスウール100㍉、石膏ボード12ミリ、クロス
 :室内側U-2:ポリスチレンフォーム25㍉、構造用合板、空気層、石膏ボード12ミリ、クロス
 :室内側U-3:ウール断熱材、ラスボード、プラスター、漆喰、
 :室内側U-4:フォレストボード25、土壁、漆喰
 :室安側U-5:グラスウール100㍉、石膏ボード12ミリ、防湿シート、クロス

透湿抵抗比外気側S-1S-2S-3S-4S-5S-6
室内側透湿抵抗の合計35.825.63.528.40.133
U-11.90.050.070.50.06190.05
U-234.70.91.39.91.23471.05
U-34.10.10.11.10.1410.12
U-49.40.20.32.60.2940.28
U-5171.94.86.649.16.017195.2

透湿係数比が2以下では結露がおきる(太字

  • 表を見るとU-4仕様の土壁は結露が発生することになるが、朝方の結露水を土壁が吸湿し、午後の気温上昇で蒸発してしまう。しかし、防湿シートがあると結露水の乾燥を邪魔してしまう。U-5仕様はどんな組み合わせでも結露は発生しにくい。だからこの仕様を国は勧める。
  • 吸水はするが吸湿はしない代表的な材料が、グラスウールやロックウールだ。構成材の繊維自体に水を貯め込むだけで、吸湿する作用ではない。ほどほどの断熱だったら、断熱材付属の防湿シート程度の結露対策でよいが、高断熱にすれば副作用対策の工事が必要となる。U-1仕様とU-5仕様の違いを見て分かるように、防湿シートを隙間なく敷き込むと完璧な結露対策となる。「隙間なく敷き込む」という施工が難しい。床や天井との見切り部の防湿シートは3㎝以上の重なりとか、筋違部の防湿シートを残して断熱材を切断せよとか、神の手程の技術が要求される。最近の断熱材には、現場吹き付けだからジョイントがなく、防湿シートは不要と説明する製品があるが、床や壁や天井の見切り部では密着した防湿シートの施工は必要だ。利点は声高に言うが欠点は黙る日本の企業精神が断熱業界にもある。
  • 外壁下地に透湿防水シートが普及してきたが、瑕疵担保履行法の設計・施工基準では透湿防水シートは雨漏れがしやすいと禁止している。アスファルトフェルト防水紙での施工をしないと補償金はおりない。瑕疵担保履行法では結露被害は保障の対象外で雨漏れ被害が保障対象だからだ。雨漏れ防止が大事か、結露対策が大事か大工さんは困ってしまう。


外気側:S-1:合板
   :S-2:下地板
   :S-3:基礎断熱等密閉仕様
室内側:U-1:ポリスチレンフォーム50㍉、フローリング
   :U-2:ポリスチレンフォーム50㍉、合板、杉板
   :U-3:ポリスチレンフォーム50㍉、防湿シート、フローリング
   :U-4:ポリスチレンフォーム50㍉、杉板
   :U-5:フォレストボード50、杉板
   :U-6:スタイロ畳

透湿抵抗比外気側S-1S-2S-3
室内側透湿抵抗の合計23.40.11.8
U-134.71.434719.2
U-234.71.434719.2
U-3181.37.71813100
U-411.30.41136.2
U-52.60.1261.4
U-611.30.41136.2
透湿係数比が2以下では結露がおきる(太字
  • 床下に結露水が溜まるという事故が頻繁に起きている。床下は湿気が多く湿度が高いのでわずかな温度差で結露は起きるのだ。透湿抵抗比2以下でも起きるのかもしれない。
  • 床材に厚い無垢板や藁床畳を使うと露点を越えても、床材が吸湿するので結露水が表に出にくい。無垢材でも塗装品は吸湿しないし、スタイロ畳も吸湿しないので防湿シートが必要となる。
  • 井戸水の場合、夏でも水温は16℃である。給水管は断熱してあるので問題はないが、排水管はむき出しなので排水管に結露が発生する。排水ヘッダー方式の場合は特に注意が必要だ。

講習会テキストの4つの注意事項

・加湿器は使うな。石油ストーブの上にヤカンを乗せるな。
省エネの生活スタイルが広まっている。加湿器のリコールが問題になっているが、最近の商品は安全だと売れ行きは好調だ。湿度が高いと、同じ気温でも体感温度が高くなり、省エネになると生活専門家は加湿器を勧める。医者も湿度50%以上の場合、インフルエンザ菌が死滅すると説明するので、家電販売店の売り場は加湿器で埋め尽くされている。温熱専門家は加湿器を酷評し、ハウスメーカーの営業マンは加湿器を使わないように説明するが、家より命の方が大事と医者の進言を優先する。国は本気で2020年に省エネ法を義務化するのであれば加湿器販売を禁止すべきではないだろうか。国は怖いおばさん相手に喧嘩は売れないので、行政に弱い建築業界を指導をするのだ。脱法ドラッグ規制のように、売ってはよいが使用してはならないという論理にどこか似ている。

・24時間換気扇は止めるな。
福島原発事故の時、放射能が家の中に入ってこないようにと24時間換気扇は止めるように指示が出た。過去、24時間換気扇設置義務化の講習会の時は、「絶対止めるな!命に関わる」と当時の説明会ではあった。テキストのような施工をし、換気扇を廻さないと酸欠を起こすことになりはしないか。換気扇を止めて窒息死するか放射能を取り込んで被爆死かの選択を迫られる。大変な家の仕様だ。九州においてPM2.5粒子が中国から飛来している。呼吸器が弱い人は外出をひかえよというが、24時間換気扇を止めよとの指令は出ていない。最初から止まっている家が多いからだ。

・料理する場合は窓を開けよ。
密閉住宅では台所の換気扇を廻すと吸気量が不足する。24時間換気扇は人間の呼吸のために必要な空気量で料理用燃焼機器の空気量は計算外である。24時間換気扇と台所の換気扇を同時に回すと、室内の空気が無くなってしまうので別の吸気孔を設置せよとのことである。茶室では茶釜に炭を使う人もいる。鍋料理にカセットボンベを使うこともある。一酸化中毒の危険性があるので、更に換気が必要である。2020年からの義務化と同時に茶室での炭使用やカセットボンベの使用は禁止と住みにくい世の中になりそうだ。

・来客が多い場合は窓を開けなさい。
人は臭いと感じると忌避行為で避難する。その原理を利用して都市ガスやプロパンはわざと臭いをつけてある。住人が多くなるとCO2濃度が高くなり酸欠を起こすので「来客が多い場合は窓を開けよ」との注意があるが、CO2は無臭なので濃度が高くなっても危険を感じることはなく普通の人は対策を取らない。低酸素の状態に長くさらされると健康障害が起こるが、医者はまさか低酸素状態とは思わないし、病院に運ばれても簡単には診断できない。低炭素住宅が低酸素住宅になるとは笑いにもならない。そもそも、住宅に酸欠を起こすほどの密閉度が要るのだろうか。20~30m程度の洞窟だったら吸排気装置は設置してない。洞窟以上の性能を要求し、冬は室温を20℃キープ、夏はエアコンで27℃に下げることがそんなに大事だろうかと疑問に思う。冬は17℃、夏は31℃程度でどうしていけないのだろうか。これくらいだったら、省エネと耐久性と健康問題が両立できるのにと思うのだが。

・講習会を受けた人の感想を地域毎にまとめたらどうだろうか。1~4地域での施工指導は賛成である。5~7地域では害になることが多い。暖房エネルギー使用量の少ない5~7地域の人に、「冬の暖房は20℃、夏は27℃にする家」を基準に結露防止対策工事を全住宅に指導するのは止めて頂きたい。結露する家、結露しない家、20℃の家、17℃の家と多種の家があるのに結露するからと全部の家に規制をかけないでほしい。「銃を持った悪人がいるから銃がいる」というアメリカ的発想は良くない。みんなが銃を持たない平和な日本は住みやすいのだ。自己防衛と裁判が好きなアメリカを模倣するのはやめませんか。2×4化した日本の住宅。街並みも、店舗も、家の作り様も、国の守り方も個人の守りかたもアメリカに近づいている気がする。

ハイテク材が目指すものはローテク材だった。
S55年に、住宅の価格を550万円にする国家プロジェクト「ハウス55」が企画された。その中の一つであるMホームが開発した「セラミックウォール」は注目を浴びた。外装材でもあり、内装材でもあり、構造体でもある多機能建材という振れこみだった。別会社までつくる力のいれようだったが、コンセントやスイッチが付かないとかの接合部の難しさから数年で製造中止になった。
よく考えてみるとそのセラミックウォールが目指した夢の建材は既に日本にあったのだ。土壁だ。外装材であり、内装材であり、構造体でもあり、コンセントやスイッチは仕上げ前であれば簡単に設置可能である。土壁は「セラミックウォール」の上をいく建材であり、前号に書いたビニールなどの防湿材を使用しなくてよいのだ。結露防止のために何年もつか分からない石油製品を使うより土壁を採用しよう。次世代省エネ基準と「施工技術者講習会」は土壁施工の裏の応援団なのだ。

副作用シリーズは伝統的構法の建築に限った注意であり、一般の住宅に対しての注意喚起ではない。

建築ジャーナル 2013年4月号掲載

53.伝統構法の基礎を過剰設計するべからずⅠ

建物の構造の部位で、基礎が一番大事だと思っている人は多い。家の重さの6割が基礎だとすると少し重すぎはしないだろうか。基礎が大事といって、過剰設計になっていないかを検証する。古くからある伝統構法の建物の基礎を見てみよう。東大寺や西本願寺は、重量もあり大きな建物だが、ただ石の上に乗っているだけである。それなのに100年も1000年ももつのはなぜだろうかと疑問がわく。
 昔の人は、基礎の石よりも基礎の下の地盤が大事であると頑丈な基壇をつくった。基壇の場合は土なのでどんなに固く強く作っても基壇の重量は変わらない。しかし、コンクリート基礎の場合は土の2倍の比重なので下の地盤が弱いと建物が沈下しやすくなる。そのためにいろんな手法が取られる。
現在の基礎工事の方法は、杭を別にすれば、ベタ基礎、布基礎、独立基礎と3種類である。ベタ基礎が一番コンクリート使用量が多く、軟弱地盤にはベタ基礎がよいと思っている人が多い。

頑丈そうなベタ基礎が原因で建物が沈下する。
ベタ基礎の計算をしてみよう。建物の大きさを10×10=100㎡とし、上部の建物の重さを30tとする。ベタ基礎の大きさは、10×10=100㎡となり、基礎の重さは大体50tとなる。上部30tと50tの基礎の合計は80tとなる。30tだったら沈まないのに、重い基礎をつくり80tとなったために建物が沈下することになりはしないだろうか。海中で人間が裸だったら浮いているのに、鉄の鎧を着たために沈むようなものだ。(図1)
さらに計算をしてみよう。地盤の地耐力が5t/㎡の場合、建物が100tだったら地盤面は20㎡の広さで十分である。100㎡も要らず1/5で充分ということになる。(図2)
合理的な設計を行うハウスメーカーはほとんどベタ基礎を採用していない。基礎幅が広いベタ基礎は、地下に影響線が広がり、深い層の軟弱の影響や地下の障害物の影響を受けやすく、ベタ基礎が不利になる場合もある。(図3)

基礎は過去の事故例がトラウマ
30年前は地盤調査はほとんど実施されていなかった。構造計算書には「地耐力は長期で5t/㎡と仮定する」という内容で建築確認をとっていた。そのため沈下の事故が多かった。地耐力が5t/㎡以上あるのは過去の調査例からみると2割しかない。昔、地盤調査をしないで建てていた建築物は8割が適切な対応をしていなかったとなる。そのために地盤沈下の事故が起こった。事故がおこると基準は厳しくなる。それが現在に至っているのではないか。計算をしなくてもよい楽な仕様規定の基礎設計基準を採用すれば過剰な設計の基礎となる。

地盤の強さ
地盤が弱い場合の指針に国土交通省と住宅保証機構の指針は表現が微妙に違う。
国土交通省告示1113号第2号をみると、
「地震時に液状化するおそれのある地盤の場合又は三項に掲げる式を用いる場合において、基礎の底部から下方2m以内の距離にある地盤にスウェーデン式サウンディング(以下SWS)の荷重が1kN以下で自沈する層が存在する場合若しくは基礎の底部から下方2mを越え5m以内の距離にある地盤にSWSの荷重が500N以下で自沈する層が存在する場合にあっては、建築物の自重による沈下その他の地盤の変形等を考慮して建築物又は建築物の部分に有害な損傷、変形及び沈下が生じないことを確かめなければならない。」
さらに、住宅保証機構の指針をみると、
「地表から深さ2m以内にSWSの荷重が500N以下で自沈する層が合計して0.5m以上存在する場合、又は、地表から深さ2m以上、10m以下の間にSWSの荷重が500N以下で自沈する層が合計して2m以上、連続で1m以上存在する場合、(ただし深さ2m以上、5m以下に自沈層が無い場合を除く)地盤改良や杭基礎が必要である。」
国土交通省の告示をみて、2m以下に1kN以下の自沈が1か所でもあれば地盤改良と判断する人が多すぎる。「建物の沈下が生じないことを確かめなければならない」とあるだけで、地盤改良等を即求めるものではない。確かめる方法として住宅保証機構の指針や、地耐力強度バランス、履歴、埋蔵物など多次元に考察しなければならない。
いくつかのテストをしてみよう

A・2~5mに1か所に500N次陳壮が0.25mあった場合。
B・2~5mに1か所に750N自沈層が0.50mあった場合。
C・2~5mに自沈層がなく6~7mに500N自沈層が1mあった場合。
D・2~5mに自沈層がなく1か所に750N自沈層が0.50mあった場合。
E・2~5mの全てが750N自沈層な場合。
F・2~5mにおいて1ヵ所に1kN自沈層があり、地耐力に2.5t/㎡、5t/㎡とバランスが悪い場合。

総合的判断で明らかに対処工事が必要なのはFだけである。A~Eは地盤強度が均等であれば、地盤補強の必要はないと見るのが一応妥当。A~Fの地盤強度は計算すると2~3t/㎡程度だろう。2階建の建物重量は1t/㎡なので、不等沈下のことを考えると地耐力の強度より基礎に接する地盤の強度差が2倍をこえる土地は要注意である。(図4)
国土交通省告示1113号の「確かめなければならない」を盾に取り、A~F全てを地盤改良や杭打ちと判断する調査会社が多い。基礎補強工事と地盤調査が同じ会社なら、地盤調査をサービスで行い、軟弱地盤だったら弊社に補強工事をさせて下さいという誘導商法にひっかかり、多大な費用を施主負担にさせているのである。地盤調査を撒き餌とし、補強工事で儲かる仕組みである。
長年地盤の研究をしてきた建築研究所の田村昌仁さんは、「自沈層がなければ問題ないとする場合もあるようですが、新規の盛土ではSWSの結果のみに依存する設計では極めて不十分です」と警告し、「自沈層がほんのわずか存在するだけで即、改良といった安易な設計」については過剰反応と言っている。
また、地盤ネット株式会社も「現在実施されている地盤改良工事判定物件の7割が、改良工事不要なのではないだろうか」と、SWS調査だけに頼る安直な判断に警告している。
つづく

図1
図2
図3
図44

建築ジャーナル 2013年5月号掲載

54.伝統構法の基礎を過剰設計するべからずⅡ

地盤補強が必要かどうかをスウェーデン式サウンディング(以下SWS)調査だけで判断するのは非常に難しい。確実に補強不要であるという地盤は2割、沈下するから地盤補強が必要であるという地盤は2割、残りの6割はグレーゾーンである。グレーゾーンの地盤に地盤補強会社が補強工事を安易に勧めることには疑問であると前号で書いた。地盤補強工事費用は100万円近くかかり、必要性の是非を容易に判断する責任は重い。

構造計算の落とし穴
基礎の検討は2種類の計算をしなければならない。まず一つは、建物の重さを基礎の面積で割り、地盤の強さがそれ以上あればよいという計算。先月記載の計算を例にとれば、建物と基礎が80トン。地盤の地耐力が0.8トン/㎡であれば、基礎の低面積は100㎡必要である。地耐力が4トン/㎡であれば、基礎の低面積は20㎡とかなり少なくてすむ。地盤の強度により基礎の大きさが違うのは当たり前である。もう一つは地盤の反力による配筋の計算である。建物の重さで基礎のコンクリートが壊れるので、相当の鉄筋をいれよという検討である。仕様規定の配筋表をみてみよう。(参考1)スラブスパンの長さによって鉄筋の量が違う。地盤の強さは関係ないのである。地耐力が0.8トン/㎡でも,4トン/㎡でも同じ基礎でなければならないのはおかしい。理由は地盤の反力の計算が難しいので、安全側に合わせているのである。スラブスパンが長ければ鉄筋量が多くなる計算は過剰計算と思う。独立基礎であれば必要な底面積の分しか配筋は必要がない。ベタ基礎は白蟻対策や防湿対策に利点はあるが、コンクリートや鉄筋量が多すぎる。ベタ基礎を選択する場合は、計算の上では独立基礎としておこない、施工をベタ基礎のようにする方法がある。図の白い部分はおまけで荷重は負担していないので基礎ではないという考えである。(参考2)白い部分には鉄筋も要らないし、かぶり厚も要らなければコンクリートの厚さは薄くてよい。
ひび割れ防止のためなら鉄筋の替わりに竹をいれてもよいだろう。(参考写真3)熊本には戦時中の竹筋コンクリートの橋が今でも健全である。

液状化から学ぶ伝統構法の基礎
3.11の浦安地区の液状化から学習しよう。ベタ基礎の家が沈下した。土台から上の建物構造は壊れていないのに、建物を嵩上げし、水平にするのに500万円以上の費用がかかる。基礎と土台がアンカーボルトで緊結されていて、それを見つけるのに壁を剥がし、作業をするのにスペースの確保も必要だからである。また柱を上げるのに手掛かりがないので嵩上げ装置をつくらねばならない。基礎と建物の接合部が見えないから修復工事に500万円以上かかるのである。
 伝統構法の場合、基礎の上に乗っかっているだけで目視できる。基礎が沈下した場合、建物を上げるのに、足固めをジャッキで上げれば柱は追随して上がる。上げた分にスペーサーを入れる作業は簡単である。嵩上げ工事も田の字の交点の通し柱だけ上げればよいので、9本もしくは12本をあげればよい。工事費用も30万円程度だろう。(参考写真4)民家再生の現場では嵩上げ工事は日常行われている。100年以上経過した建物は殆ど不等沈下していると言ってよい。伝統構法の足固め構法は地盤沈下が起きることを想定した構法なのだ。
ベタ基礎、布基礎、独立基礎のうち、コンクリート量が少なくてすむのは独立基礎である。地耐力がある程度あれば、構造計算をして独立基礎とするのが経済的だ。グレーゾーンの地盤に100万円のお金を掛けたくない。とはいえ、なんとなく不安である。それならば沈下した場合の補修工事を想定した伝統構法の家づくりがよい。

実例独立基礎
ベタ基礎信仰者は意外と多い。ベタ基礎の工事費用が120万円とすれば、独立基礎は80万円ぐらいである。独立基礎の地盤沈下の可能性が大と仮定しよう。起きるかもしれないし、起きないかもしれない。もし地盤が沈下したときの建物の嵩上げ費用が30万円だったらどうだろうか。30万円を補修費用を供託金として10年定期にしておく。沈下したら30万円を使い、しなかったら30万円の儲けとなる。地盤補強工事に100万円かけるより伝統構法を採用して、地盤沈下対応仕様にしておくのが良い。伝統構法の利点がここにもあった。
地盤沈下の検証はSWS調査以外に、1、建物の重さ対地盤の強度。2、地盤強度のバランス。3、水深の変化。4、新しい盛土ではないか。4、切土、盛土が混同していないか。5、過去、貯水池や河川ではなかったか、または川岸ではなかったか。6、ガラや木の皮などの埋めものがないか。これらを全て良しと判断するには莫大な調査費用がかかる。

間接経費
基礎を頑丈に作っても地盤が弱ければ建物は沈下する。瑕疵担保履行法は工事に対する瑕疵の保険であり、地盤が原因による建物沈下では保険金はおりない。地盤は沈下せず、建物だけが6/1000㍉沈下したら保険の支払があるという素人には理解しがたい保険制度である。瑕疵担保保険会社の保険金の還元率はわずか0.4%と東京新聞2月11日号は伝えた。パチンコ業界の還元率80%、やくざの賭博の還元率の70%と比べて還元率はきわめて低い。これで保険といえるのだろうか。施行時、交通事故の自賠責と同じとの説明で強制加入させられ、当時は批判もあった。喉もと過ぎれば反対意見は沈静化してしまう。24時間換気扇、火災警報器、確認の厳格化、品確法、瑕疵担保履行法といつのまにか、間接経費がどんどん増えてきた。今後予想されるのが消費税で平均100万円アップ、防火戸認定で100万円アップ、改正省エネ法で100万円アップとつづく。これらの間接経費だけでも、本来掛けるべき建築費用はなくなってしまう。シロアリが群がる住宅建設業界である。

参考資料1
参考資料2
参考資料3
参考資料4

建築ジャーナル 2013年6月号掲載

55.誰のための木材利用ポイント410億円

車のエコポイント、家電のエコポイント、住宅版エコポイントはエコノミーとエコが両立したと自画自賛の評価だった。住宅版エコポイントは、ペアガラスを採用したら最高30万ポイント(30万円相当)の商品券をくれた。ポイントをもらう条件が、アルミサッシュ等の採用で、申し込み、設置、支給まで短期間で、書類の手続きは簡単だった。業界の認知度は高く、使用証明の発行もスムースで、価格も相場があり不正受給はなかった(だろう)。商品券の使用もウォーシュレット等の建築設備等であり、欲しいものと簡単に交換できた。原資枠はあったが、締切1ヶ月前に、枠が満杯で利用できないかもしれないという情報が流れていたので、ダメ元申請の人も滑り込みアウトになっていたとしても、不満の声は聞こえてこなかった。木材利用ポイントはどうだろうか。

木材利用ポイントのもらい方

  1. 主要構造材の半分以上に対象地域材を使う工事に、登録業者が施工した場合、最大30万ポイント。
  2. 内装の床・壁や外装壁に対象地域材の登録建築材料又は天然木の板類を使うものに最大30万ポイント。
  3. ペレットストーブ、薪ストーブ、木質製品を購入する場合に最大10万ポイント(7月に決定)。

総予算は410億円である。①と②は重複申請が可能なので1軒当たり60万円を申し込むと、対象者は6万戸分である。1年間の戸建ての新築数は平均40万戸なので、新築換算で15%分しか枠がないのである。増築も含まれるので新築の融資枠はもっと少なくなる。
よく考えてみよう。4月からスタートしたものの①と②の説明会がやっと5月にあった。登録業者の発表は6月末だ。③の薪ストーブ等や木材製品についての要綱説明はなんと7月とのことだ。神業的スケジュールだ。次に申し込みに必要な申請書類を見てみよう。
・登録工事業者等の発行する工事証明書
・建築工事届の写し
・供給業者の発行する納品証明書
・工事請負契約書の写し又は売買契約書の写し
・確認済証の写し
・検査済証の写し
・主要構造材等で使用する対象地域材の産地・樹種に関する表示の写真
・竣工写真
・領収書の写し

施工は登録業者との契約が条件で、材料は「合法性が証明された木材」等の証明書をもらい、工事中は「その木、どこの木、○○産のスギの木を柱、梁に使用しています」という工事看板やのぼりを自費で立て、工事完了後に検査済証をもらってからの申請だ。その時、予算枠410億円が満杯とこの制度は受けられない。予算枠が今年の12月に満杯になるのか、来年の3月になるのか全くわからない。工事看板やのぼり旗だって3万円ぐらいはかかる。準備してポイントがもらえなかった場合、その3万円の経費支払は無駄になり腹が立つ。やり場がないので、木材利用ポイント制度を勧めた設計士か工務店に怒りの矛先が向く。
普通なら融資は、申込申請をし、実施し、検査合格が出て、融資をもらえる。木材利用ポイントの申請はどうして全てが後日申請なのだろうか。融資締切に間に合うか分からないのに手続きをしなければならない。「いやなら止めれば」という具合でおごり申請のように思えてならない。

目的は国産材需要拡大なのか
外材で建てようとした人が、木材利用ポイント政策のことを知り、国産材に切り替えるなら国産材需要拡大の意味がある。消費者は5月に説明会でしり、6月末に登録業者に相談し、国産材への切り替えは7月、木材を乾燥する間もなく、8月に着工し、現場に3万円の看板を立て、6ヶ月工期で26年年1月に完成し、確認機関から検査を受け、検査済証をもらい②月にやっと申請だ。普通の最短コースでこれだ。最短で国産材への切り替えを決断しても、木材乾燥に3ヶ月かければ締切の26年3月をオーバーしてしまう。締切に間に合うか、間に合わないかわからないことを5~6月に決断しなければならない。(もう過ぎている)
では、実際には誰が使うかといえば、初めから国産材と決めたていた人が利用するだけで国産材の需要拡大になるとは思えない、
もう一つ落とし穴が開いている。①の規定では構造材の半分以上使用というが、判断が難しいので、規定では100㎡の建物で構造材6?としている。普通の木造住宅で100㎡なら、構造材は20?なので半分では10?となる。規定が6?とは極端に少ない量である。構造材と言えば柱・梁・母屋・土台・筋違である。間柱まで含んでよいとある。外壁下地板は構造に含まないが、○○ホームの家は、外壁下地材を構造計算の一部にしているので、屁理屈をいえば構造材の一部と言える。構造材6?は非常にハードルが低い。全体の7割に外材を使い、外壁下地に国産材をつかえは基準の6?使用は簡単にクリアできる。言うなれば、国産材使用を5割に増やさなくても申請ができるのだ。工事契約2月、着工が4月1日、6ヶ月の工期で9月に申請が可能となる。木材利用ポイントは○○ホームのお客様プレゼントのための制度のように思えてならない。

ポイントの利用方法
ポイントをもらって活用する方法は
① 地域の農林水産品と交換
② 農山林地域における体験型旅行
③ 全国商品券(食品・
④ 森林づくり・木づかい活動への寄付
⑤ 被災地への寄付

30万ポイントをもらい、被災地に寄付したり、森林づくり・木づかい活動に寄付するのはよいことだが、よく考えてほしい。原資は国税である。書類をつくり、各方面から印鑑をもらい、ポイント券をもらって被災地や山に寄付するなら、直接国税を寄付した方がよい。住宅版エコポイントの10倍くらい複雑な申請手続き経費は、政府関係の外郭団体に消えていく。不正が無いようにという大義名分があり、複雑に申請すればするほど中間経費は必要だ。410億円のうち、実質のポイント費用はいくらになのだろうか。

地域材の需要拡大の喚起になるのか

林野庁が地域材の需要の拡大を喚起する施策として410億円の予算で実施する。が、利用する人は最初から地域材を使うと決めた人か、100㎡程度の住宅で6?の地域材(全体の3割程度)をつかう○○ホームか、短工期のビルダーである。地域材の需要が伸びたかどうか、国民はしっかり見届けなければならない(国民の代理人は国会議員であるが、書類をみるのは苦手のようだ)。全国1家族当たり2000円相当の税金だ。山が大事だったら、林業人口は5万人なので、410億円を直接林業者にくれてやったら一人あたり80万円となる。夫婦だと160万円である。直接支給した方が効果的と思うのだが。
決まってしまった制度は仕方がないので、伝統構法の人よ、○○ホームが使うまえに利用し、被災地や山に寄付しよう。

建築ジャーナル 2013年7月号掲載

56.民家再生は伝統構法を学習してから

民家再生という単語は広辞苑に記載がない。建築事典にもない。降幡廣信氏が作った造語だからである。降幡氏は40数年前から民家再生に取り組んでいた。「建築工事は新築が主流であるが、古くなり機能がそぐわなくなると古いものは取り壊され、新しく造り変えられる。復元という工事もあるが古い姿を残すことが目的で、時代に合わないことも多い。民家再生とは、新築工事と復元工事に加えて新しい第3の工事という位置付けであり、一時しのぎの修繕工事ではなく、民家の欠点である暗い・寒い等を解消し、構造や耐久性は新築工事に劣るものではなく、現代の生活に合わせて生まれ変わることである」と定義した。

日本民家再生協会という組織と類似品
テレビ番組の「劇的ビフォーアフター」は人気があるのは誰もが知るところである。構造は大丈夫かと批判的に見る建築専門家もいるが、ひとつのドラマとしてみると結構おもしろい。著名な先生が「匠」と呼ばれ、ノコをぎこちなく操作する姿は笑ってしまう。しかし、この番組が、工事内容を「民家再生」と言わないところがよい。幅広く視聴者に、古い家でも賢く手を加えれば新築と同等もしくはそれ以上になると訴える力は大きい。「民家再生」の認知度があがったのも、この番組のせいだろう。
民家というものを見直すのはまだまだ珍しかった1990年代に、「日本民家再生協会」が結成された。幾世代にもわたり風雪に耐えてきた日本の民家が失われるのを守るため、「日本の民家を次代へ引き継ぐ」を理念として掲げ、降幡氏を顧問とし、民家に関心を持つ人々(民家所有者、民家利活用者、建築家、工務店、職人、研究者、文化人、マスコミなど)が集まった組織である。
ところが昨今、民家再生という言葉が浸透してきたので、民家再生を表現する団体が別に現れた。「古民家再生協会」という団体だ。名前からして非常に紛らわしい。韓国裁判所が「ダサソー」を「ダイソー」の商標権侵害とし、商標使用の差し止めをしたのは記憶に新しいが、「民家再生」と「古民家再生」の違いはなんだろうか。内容をよく見ると、なんと「古民家再生協会」は資格のオンパレードであるようだ。古材鑑定士、古建築資材施工士、古民家鑑定士、循環型民家解体士、古材活用士、その他住育検定、住育コンシェルジュ、木のソムリエ等盛りだくさんである。資格マニアには絶好の団体だ。1日の講習会を受け、会費を払えば資格を貰える。資格ビジネスという新しい成長戦略で、アベノミクスの一環だろうか。

民家再生の意義
法隆寺が1300年もったというのは不具合な箇所を発見したらその都度修繕できたからだ。民家の構造である木造の伝統構法は鉄筋コンクリート造や鉄骨造と違い、部分補修が可能である。構造が意匠となり表面に出ているので、不具合箇所を早期に発見でき、メンテナンスがしやすい。なおかつ、木・土・紙・石などその土地にある材料でつくられ、役目を終えてもすべて土に還るので不都合なゴミとならない。

民家再生に建築確認は必要か
建築基準法に民家再生の定義はない。近いのは「過半の大規模の修繕」「過半の大規模の模様替」である。まず「修繕」と「模様替」の違いについて説明する。建物は、月日の経過とともに少しずつ傷んでいき、建築物としての構造上の性能や品質が失われていく。代表的な事例としては、屋根の雨漏り、外壁のひび割れ、柱の腐食、床のたわみ等が挙げられる。性能や品質が劣化した部分を既存のものとおおむね同じ位置に、おおむね同じ形状及び寸法で、おおむね同じ材料を用いて造り替え、性能や品質を回復する工事を「修繕」といい、同じ位置でも異なる材料や仕様を用いて造り替え、性能や品質を回復する工事を「模様替」という。
次に「過半」とは「全体の過半」か「部位の過半」かという問題がある。建築基準法の「過半」の定義を見ると「各主要構造部ごとに行い、柱や梁にあっては、それぞれの総本数に占める割合、壁にあっては、その総延長に占める割合、床や屋根にあっては、それぞれの総水平投影面積に占める割合、階段については、その総数に占める割合が、過半か過半でないかを判断する。」とある。そうすると、階段の付け替えや屋根替えも「過半の大規模の修繕」となる。しかし、階段の付け替えや屋根替え程度で建築確認を出す人はない。
 建築基準法6条1項4剛をよく見てほしい。4号建築物には建築(新築、増築、改築、移転)しかなく、「大規模の修繕」・「大規模の模様替」は存在しないので、建築確認はださなくてよい。それでは「改築」には該当しないかとの疑問がわく。建築基準法での「改築」は、「建物の全部または一部を取り壊した後に、引き続き、これと位置・用途・構造・階数・規模が著しく異ならない建物を建てること。使用材料の新旧は問われない」とある。取り壊さない限り「改築」ではないので、建立したままの大幅な修繕や模様替えは「改築」にも当たらない。
ただし、曳家をして建物を移動させるのは「移転」にあたり、建築確認は必要となる。
また、カフェや飲食店への改装は、用途変更となり建築確認は必要となるので注意しなければならないが、民家が昔から店だったり作業場だったら救われる場合もある。

民家再生の価格
建築は基礎、屋根、軸組、外壁、内壁、建具、設備で構成している。再利用できる部分は軸組と建具だけのことが多い。金額に置き換えると軸組と建具が占める割合は15%だ。軸組と建具が仮にタダだとしても85%はお金がかかる。痛んでしまった構造や建具にも手を加えれば工事費用は新築とあまり変わらなくなる。
一昔前は、「民家再生は軸組にお金がかからないので500万円ぐらいでできるはずだ。」とか、「民家再生の高い金額は詐欺だ」との声があった。「劇的ビフォーアフター」の工事費も当初は事実より低価格の表示だったが、近頃は実情金額に近い表現になったようだ。
最近は「民家再生と新築と同じ金額だったら民家再生をしたい」という意見が多くなった。

民家再生
にわか学習で「民家再生」事業を始める人は多い。構造、耐久性、温熱環境等、新築工事を熟知してやっと民家再生工事は許されるべきだ。再生は新築より難しい。人間も「生む」ことは全員可能だが、「修繕」は医者しかできない。安易に考えると大きな失敗をする可能性がある。まず伝統構法を学習しなければならない。



現地再生

基本的な構造は変えない。柱があっても間取り変更や窓移設や耐震壁移動は大幅に変えることは可能である。基礎を全部やり替えることもある。




移築再生

現地再生と同じ行為だが建物を移動すると「移築」に該当し、建築確認が必要となる。



古材利用

建築用材として古材を使いので新築工事である。4号建築は梁の強度を証明する必要はないので、あえて古材使用と表明することはない。

建築ジャーナル 2013年8月号掲載

67.住む立場からの伝統構法住宅

池田理知子さんから伝統構法の家の設計依頼を受け、建てた。彼女はどういう思いで伝統構法を選んだのか。私たちは、どうも「伝統オタク」になってしまい、外部からの声に耳を閉ざしていないだろうか。彼女は『シロアリと生きる』という本を出した。実際に伝統構法の家を選んだ人の胸の内を見てみよう。
●3.11と移住
 2011年3月11日の震災後に起きた原発事故は、これまでの暮らし方への再考を私たちに促した。あの事故の直後に以前から縁のあった水俣に生活の拠点を移したのも、ひとつには考える暇さえ与えてくれない都会での暮らしに疑問を覚えたからである。エネルギーをなるべく使わない生活とは、消費することを強要するような社会から一歩踏み出すにはといった、考えるべき課題は山積みなのに、忙しい日々は私たちを思考停止へと導く。
水俣に越してしばらくは、アパート暮らしを余儀なくされた。しかし、住戸が隣接する集合住宅での生活は、シックハウス症候群の私にとっては耐えがたいものだった。2013年3月に今の家が完成し、ようやく窓を開けて思いっきり深呼吸できる生活となったが、こうした当たり前のことすらできなかった以前の暮らしとはいったい何だったのだろうか。伝統構法の家に住むということは、3.11以前と以降で何が変わったのか、いや変わらなければならないのかを考えるということなのかもしれない。

●「オール3」の思想
 古川氏と出会ったのは、彼が設計を手がけた「水俣エコハウス」である。環境省が補助金を出し、水俣市が運営するこのモデルハウスは、「足るを知る」という暮らしを提唱している。それは、何事も「ほどほどがいい」という思想であって、家の有り様は「オール3」を旨とする古川氏の考え方に通じる。様々な災害に見舞われる日本という風土に合う住まいとは、ほどよく快適に暮らせる住まいとは、と考えたときに彼が出した結論は、伝統構法の家だった。
 「オール3」の思想と伝統構法の家という選択は、3.11後を生きる私たちにとっては特に重要な意味をもつ。そこには、エネルギーの消費を抑えるための知恵が詰まっているからだ。構造材に使われる木や、漆喰と土の壁は家の中の湿度を調節してくれ、長く伸びた軒は夏の日差しを遮ってくれる。昔ながらのやり方を取り入れるだけで、エアコンなどに頼らなくてもすむのだ。それは、夏であれば室温28度、冬は16度というほどほどの暑さ寒さのなかでの生活ということである。過剰な快適さを求めた結果があの原発事故だったのだとすると、「オール3」の意味をもう一度考えてみる必要があるのではないだろうか。

●シロアリとの共生
南九州の地にあってはどうしても避けられない課題が、シロアリ対策である。伝統構法の家は、このシロアリに対しても、常時薬剤を使用することなく有効な手立てを与えてくれる。それは、床を高くして床下の風通しを良くすることである。つまり、退治するという発想を転換して、シロアリが来ないような家を建てればいいと考えるのだ。それが昔からの知恵だったはずで、シロアリとの棲み分けという共生の在り方に気づかされた私は、このことがきっかけで冒頭の古川氏の紹介にもあったように『シロアリと生きる』という本を書くに至ったのだった。
シロアリは山で枯れ木をせっせと分解すればいいし、私たちはエネルギー消費を抑えた生活を送ればいい。仲良く手を取りあって生きることだけが共生の姿ではないのだ。与えられた役割をそれぞれが自分の持ち場で果たせばいいのである。こうした当たり前のことを伝統構法の家は教えてくれる。

●地元の木を使うことの意味
 我が家の構造材に使われている杉の大半は、水俣の山間部で林業を営む吉井さんのところから来たものだ。地元で育てられた木がそこで使われるという当たり前が、ここでもなされている。ところが、こうした昔ながらの慣習がいまや崩れつつある。海外から輸入される安い木材が、地産地消という本来ならばエネルギーやコストのかからない物の循環の仕組みをひっくり返す。少しでも安い木材を求めて商社は世界中を駆け回り、乱伐を繰り返し、それによって現地と日本の山が荒廃してしまうのだ。
 地元の木で建てられた家に住むということは、それだけで地球規模での環境破壊を食い止めることにつながる。そして、我が家であれば吉井さんの木に囲まれて生活を送ること、つまり関係性のなかで生かされていることを感じながら生活するということになる。

●消費社会の矛盾
 我が家の台所には、メーカー製のシステムキッチンではなく、木とステンレスでできた、地元の大工さんの手によるものが据えられている。木と陶器からなる洗面化粧台もそうである。したがって、メーカーの都合で廃盤になり、部品が調達できずにまるごと買い替えなければならないといったことにはならない。そして、もし不具合や使い勝手の悪いところがでてきたら、すぐに大工さんが来て修理してくれるはずだ。
 メーカーが売り出す物の多くは、買い替えを前提として作られる。部品の保存期間はだいたい5年から8年だし、毎年のように行われるモデルチェンジが私たちの購買意欲を刺激する。買う必要のないものまで買わされてしまうのである。
3.11後の世界を生きざるをえない私たちに、そんな無駄なことはできないはずだ。既製品ではないこの家のものたちが、そのことを教えてくれる。

●家とともに「老いる」暮らし
我が家が完成してからもうすぐ一年半、床の色も人の脂でだいぶ深みを増してきた。十数年前に古川氏の手によってリフォームされた家に住む友人宅の床は、すでに黒光りしており、我が家と同じ職人さんの手による手漉きの和紙が貼られたふすまは、落ち着いた味わい深い色へと変化している。うちもああいうふうになっていくのだと思うと、今から楽しみである。
大手住宅メーカーが手掛ける家では、こうした楽しみは生まれない。床は合板で作られ、ふすまがあったとしても薬品処理された紙が貼られているだけだ。したがって、新築時が美しさのピークで、時が経つにつれて傷が付いたりすすけたりと劣化していくものと捉えられる。そして数十年経つと、取り壊されるかリフォームされて売りに出されるのだろう。
木をふんだんに使った伝統構法の家はその逆で、年数を経るほどに味わいが出てくる。しかも、もともと節のある木が使われているので、多少の傷やシミは気にならない。むしろ気を使わずに暮らせるから楽である。どんなにあがこうとも、家も人もいずれ老いていく。その老いを楽しむというあり方を、この家は教えてくれている。

●伝統構法の家に住む
遠い昔から受け継がれ、これからも伝承されるであろう伝統構法という技が私たちにその姿を見せてくれるのは、ほんの一瞬のことである。しかもそれは、家という形を通してその一端を垣間見せるに過ぎない。それでも家は残り、私たちは去る。だとすれば、せめて何がしかの「指紋」をそこに残してみたいと思う。

以上は予告編である。詳しく中身を知りたい人は購入して読んでみよう。
池田理知子:『シロアリと生きる――よそものが出会った水俣』(ナカニシヤ出版)税別2000円
1958年鹿児島生まれ。1995年、オクラホマ大学コミュニケーション学部卒業。現在、国際基督教大学教授。

建築ジャーナル 2014年7月号掲

 

68.省エネ法義務化は真の省エネになるのか。VOL.1そもそも省エネ法とは。

2012年2~4月号に省エネ法について書いた。当時、関心度は非常に低かった。最近、2020年に省エネ法義務化が話題になり関心は高まったものの、国が理不尽はことをするはずがないとか、国民から選ばれた国会議員が600人もいるので阻止するだろうと思っている人が結構いるようだ。
法律は普通、国民のためになるように施行されるものだが、近年は社会問題解決一時しのぎのために法律ができる。これまでのシックハウス法、瑕疵担保履行法、構造基準の厳格化が制定された経緯をかえりみると、制定時は建築関係者は騒ぐが1年過ぎると沈静化する。省エネ法はどうなるだろうか。2020年に義務化される話をどれくらい理解しているだろうか。省エネ法も伝統構法の観点から問題点を5回シリーズで書いてみる。

質問
まず、みなさんにいくつかの質問をしてみる。
Q1:鹿児島の南の奄美大島の住宅に天井200㍉、壁と床100㍉の断熱材をいれることになる。本当だと思うか。
Q2:寺の本堂にも省エネ法の規制がかかる。本当だと思うか。
Q3:アイススケートリンクも省エネ法の規制がかかる。本当だと思うか。
Q4:こたつでの採暖や扇風機での採涼は認定しない。囲炉裏の生活は法律で禁止する。本当だと思うか。
Q5:無双窓は沖縄以外では使えなくなる。本当だと思うか。
5つの答えはすべて本当だ。嘘だと思う人は5回シリーズで書くので読んで学習して欲しい。

省エネ基準義務化の流れ
省エネ基準の義務化は、2009年に鳩山元首相が「2020年までにCO2を1990年比25%削減」と国際公約したことからスタートする。1999年(平成11年)に次世代省エネ基準が設けられ、住宅の断熱・気密化がすすめられてきた。2011年までには長期優良住宅等の補助金やエコポイント政策により次世代省エネ基準の適合割合が新築住宅の5~6割と伸び、昨年10月に平成25年省エネ基準が施行され、2020年までに全住宅に対しこれが義務化されようとしている。施行スケジュールは(【低炭素社会に向けた住まいと住まい方の推進に関する工程表】で検索)のとおりである。長期優良住宅仕様のブランド化住宅は100万円の補助金があるから採用されているのであり、補助金がなくなれば採用率は落ちる。20年前のバリアフリー融資を思い出してほしい。20~30万円の融資がもらえるからと新婚夫婦も採用し5割に達した。現在は必要な人だけの1~2割だろう。補助金が無くなれば長期優良住宅仕様も1~2割に落ちるだろう。
平成25年省エネ基準の主な変更点は、①地域区分の細分化、②外皮の省エネ性能(以下、外皮性能)の見直し、③一次エネルギーの消費量である。
②外皮性能の見直しについては1999年の次世代省エネ基準とほぼ同じであり、あらたに③一次エネルギー消費量規制が加わっている。
外被性能の問題点:温暖地には厳しい外被性能の基準
 外皮性能とは家全体の外皮(床・壁・窓・天井など)の熱貫流率のことで、UA値(外皮平均熱貫流率)で示される。UA値は外皮それぞれのU値(熱貫流率)の総和平均値である。土壁はU値4、土壁の板張りはU値2、断熱材を入れたらU値1、ガラスはU値6.4、無双窓はU値6である。表1に示したとおり、平成25年省エネ基準は家全体の外皮性能のUA値を0.87以下(新潟以南鹿児島まで)としているが、この基準は温暖地においてはかなり厳しい数値ではないだろうか。また、縁側などのバッファゾーンは考慮されていないことも問題である。
地域区分は8つに増えたが
1999年の次世代省エネ基準では地域区分は6つであったが、平成25年省エネ基準では8つに増えた(参考1)。にもかかわらず、要求されるUA値は東北から鹿児島までほぼ同じである(参考2)。日本は欧州を包括するほど縦に長い国であり、6つでは充足できないから8つに分けたのに、基準はそのままとははなはだ理解に苦しむ。つまり、5地域の新潟と7地域の奄美大島(鹿児島)が同じ外皮性能UA値0.87を要求されるのである。(Q1の理由がここにある)
地域区分1:北海道
地域区分2:北海道
地域区分3:青森、岩手、秋田
地域区分4::宮城、山形、福島、栃木、新潟の北、長野
地域区分5.6:その他全部
地域区分7:宮崎、鹿児島、熊本の南
地域区分8:沖縄
【参考1】

地域区分12345678
基準値[W/(m2・K)]0.460.460.560.750.870.870.87
【参考2】地域区分に応じた外皮平均熱貫流率(UA値)は基準値以下であることが求められる
暖房度日(暖房する日×℃)*で見てみよう(参考3)。4地域の長野と7地域の鹿児島では気候がまったく違うので、暖房度日は当然3倍もの差である。暖房費用も3倍違うだろう。だったら断熱の仕様も3倍ぐらいと思ったら大間違いで、僅か1.2倍の差しかない。理由を聞いたら、旧基準との差異がないようにしたためと言う返事だった。建築基準法だって時代と共に変化するから基準は変わるのに、「旧基準との差異がないように」は先輩先生方へのオモンバカリだろう。
地域区分主な都市UA値暖房度日暖房費用
4長野0.752805℃日約8万円
5新潟0.872016℃日約5万円
6東京0.871750℃日約3.5万円
7鹿児島0.87979℃日約2.5万円
【参考3】断熱工事費の費用対効果が疑問
消費者にとって建築費増は大問題である。環境省試算で「新省エネ基準(1992年)から次世代省エネ基準(1999年)への断熱化には新築で坪3~4万円の費用がかかり、国民の納得が不可欠となる」とある。35坪の家で120万円のコストアップとなるが、費用対効果はあるのだろうか。
資料は少し違うが使用実積値で比較してみよう。家庭用エネルギー用途別消費原単位の比較である。(【中央環境審議会(第81回)地球環境部会 民生部門のエネルギー消費動向と温暖化対策】で検索)の暖房消費エネルギーだけを見て欲しい。北海道では暖房費用に年間20万円(33GJ)、東北では16万円(24GJ)、北陸では8万円(18GJ)、九州では2.5万円(7GJ)を使っているとみてよい。九州と東北では6倍のエネルギー消費量の差があり、九州と北陸では3倍の差なのに、外皮性能の基準はUA値で0.75対0.87と僅差である。
エネルギー消費量削減のために、初期費用120万円UPの建築コストは、北海道や東北のような暖房費が高い地域は別として、熊本南、鹿児島のような2.5万円の地域では費用対効果が少なく、消費者の理解は得られにくい。省エネ法の目的は「省エネルギー」のためではなく、成長戦略の一環で、無駄金を使わせ誰かが得をする政策なのだ。
*暖房度日:
D18-18日平均気温が18℃を下回る日を暖房日とし、1日の平均気温と18℃の差を毎日足していった値。大体のエネルギー消費の目安となる。

建築ジャーナル 2014年8月号掲

69.省エネ法義務化は真の省エネになるのか。Vol.2:1次エネルギー消費量。

縁側は、外部側のガラス戸と居室の障子との二重構造で、夏の暑さと冬の寒さに対抗できるというのが昔からの考えである。省エネ法の外壁性能は家の一番外側だけしか計算に入れないので、縁側は正しく評価されない。縁側は普通単板ガラスを採用するので開口部のU値(熱貫流率)は6.5と目指す0.87には遥かに及ばない。単板ガラスの縁側にまでペアガラスを入れさせようとする建材メーカーの魂胆かもしれない。また、ガラス戸と障子の縁側空間は無駄だという温熱専門家がいるが、そういう専門家に限って、冬のことしか考えなくてよいドイツの家づくりを崇めまくる。内でもない外でもない日本独特の緩衝空間である縁側は温熱性能のためだけに存在するのではない。夕涼み、日向ぼっこ、地域とのコミュニケ―ション、一夜干し等の日本の生活に追随した装置である。
日本の住まいの玄関は引き戸である。引き戸は圧倒的に人気がある。引き戸のレール部はどうしても隙間ができる。ガラスの玄関戸のU値も6.5と甚だ性能は悪い。隙間にパッキンを入れても良いが土足部の耐久性は5~6年だ。そもそも家の性能は居室で評価すべきだが、玄関や縁側まで基準にいれることがおかしいのだ。改善点は後号に譲るとして、外皮性能の基準と別に1次エネルギー消費量の基準がある。建売業者を対象に存在した事業主判断基準をバージョンアップして登場した基準が1次エネルギー消費量である。

一次エネルギー消費量とは

平成25年省エネ基準では、外皮の断熱性能だけでなく、暖冷房や給湯などの設備機器も含めた建物全体の省エネルギー性能を評価する基準として「一次エネルギー消費量」が追加された。一次エネルギー消費量とは、暖房+冷房+換気+給湯+照明+家電のエネルギー消費量の総和である。(資料1)一次エネルギー消費量の基準は、家の広さで決められる。主な居室×A+主でない居室×B+その他の部屋×C=「基準一次エネルギー消費量」を決める。120㎡ぐらいの家で大体80GJぐらいが基準一次エネルギー消費量である。すなわち、これが目標値である。次に机上で、設計図や設備図を見て暖房、冷房、換気、給湯、照明、家電の1次エネルギー消費量を算定するのが「設計1次エネルギー消費量」である。
実際の「一次エネルギー消費量」は、支払ったガス代、電気代、灯油代で計算すれば正確に算定できるが、設計時点ではわからないので、設計時に想定するのである。「設計一次エネルギー消費量」と実際の使用した一次エネルギー消費量」が近似値であれば問題ないが、そこには経産省の魂胆が仕込まれている。

暖冷房1次エネルギー消費量

  • 25年度省エネ基準では、冬は室温20℃以上になるように暖房機器を使った場合に消費するエネルギー量である。しかし、体感温度には室温だけでなく湿度と風速も影響する(資料2)。同じ体感温度でエアコンなどの空気暖房と輻射暖房を比較すると、輻射暖房の方は風が起きないので低温でも体感温度はエアコンと同じとなる。更に、湿度が高いと体感温度は高くなるので、暖房するより加湿する方が省エネだという人もいる。伝統的構法の家なら木や土壁などの放湿作用により室内湿度が高くなるので有利である。データは少ないが伝統構法の家で冬快適な室温は何度かというアンケートを取ったら16~18℃だった。室温20℃以上というのはどう考えてもエアコン暖房での基準である。基準にするなら最低に近くの16℃~18℃にすべきだろう。世界は貧困に苦しんでいるのに、私たち日本人がぬくぬくと快適温度20℃を基準としてよいのだろうか。
  • 新築時に採用した機器により、その家が使うとされるエネルギー使用量がきまる。もし、新築時暖房機器を入れない場合はどうなるかといえば、性能の悪い暖房エアコンを設置した数値を採用することになる。
  • 暖房の省エネの王様は局所暖房である「こたつ」だろう。こたつでは室温は上がらないので、評価対象外となり、性能の悪いエアコンを入れたことになる。概ね18GJぐらいを使ったことにされる。
  • 床暖房は部屋全体を暖めるのではなく、接触面に肌が触れれば暖かく感じるので、頭寒足熱を期待し全館暖房を目的としていない。測定基準が、高さ1.2mで室温20℃なので、床暖房で室温20℃にするにはかなりのエネルギー消費量となる。UA値1の家で床暖房を採用すると50GJも使ったことにされてしまう。
  • 熱容量が大きいと蓄熱効果がある。蓄熱は計算が難しいので計算にはいれない。また蓄熱のためには初期のエネルギーを使うので利点ではないとのことで、蓄熱効果は除外される。
  • 日射取得は暖房エネルギー消費量にプラスに働く。日射取得は軒の出が短いと有利な計算式である。「省エネ住宅は軒の出を短くせよ」と言うことになる。
  • 軒が長いと直射日光が家の中に入りにくいので、夏の日射遮蔽効果で冷房エネルギー消費量には有利だが、暖房エネルギーに比べて冷房エネルギーは極小であり評価は低い。
  • 冷房エネルギー消費量は、夏季室温を28℃以下にするためのエアコンによるエネルギー消費量である。冷房機器はエアコン以外にないので、風通しや扇風機や緑化などの納涼対策はカウントされない。冷房機器なしの場合は性能の悪いエアコンを設置した場合のエネルギー使用量をカウントされる。大体5GJである。
    冷房の省エネの王様はなんといっても扇風機である。消費電力は40Wと世間ではエアコンの1/20と推奨するが、温熱学の世界では無視する。扇風機は室の空気をかき混ぜるだけで室温が下がらないからだそうだ。「窓を開けること」は計算できないので想定外だ。
    扇風機設置は性能のわるいエアコンを設置したことにされる。冤罪に近い。

給湯1次エネルギー消費量

  • 給湯配管が13mmと小さいと評価は高い。
  • エコジョーズは1割省エネだが評価はもっと高い。
  • シャワーのクリックタイプに評価点があるが、必ずしも省エネとは思えない。最近のカランは手元の操作がしやすのでクリックの恩恵はあまり感じない。
  • 浴槽とシャワー一体カランが断然省エネと思うが、メーカーのユニットバスでは主流ではないから評価はない。
  • なんといっても浴槽の容量が小さい方が省エネに決まっている。L-1400よりL-1200が湯量は少ないし、L-1200でも足が伸ばせ、広さは充分である。しかし、世の中のユニットバスはL-1400が主流なので、これまたl-1200にしてもカウントはない。

電気1次エネルギー消費量

  • 「主たる居室」「その他の居室」「非居室」に1灯でも白熱灯があれば全部を白熱灯使用とみなされ、5GJも使ったことにされてしまう。
  • 東北大学大学院環境科学研究科が発行した「先取りしたい2030年のくらし」では「10分以内の点灯に蛍光灯は不向き」と警告している。居室でない部屋つまり納戸やトイレは、点灯時間は10分以内が多いので蛍光灯にしないが良い。居室以外で蛍光灯を薦めるのは適切ではない。(資料3)
室温湿度風速体感温度
20℃60%0.5m/sエアコンの風17.4℃
17℃60%0m/s17.8℃
16℃70%0m/s17.4℃
資料1「ケイサン」ソフトより
資料3
東北大学大学院環境科学研究科が発行した「先取りしたい2030年のくらし」

建築ジャーナル 2014年9月号掲

70.省エネ法義務化は真の省エネになるのか。 VOL3富裕層に優しいエネルギー消費量基準。

家電1次エネルギー消費量
住宅のエネルギー消費量は暖房、冷房、給湯、厨房、照明・家電グループに分類できる。資料1をみると住宅のエネルギー消費量は年を増すごとに「エコ」の掛け声に反比例して増え続けている。内訳をみると暖房は増えておらず、冷房や厨房は少々、照明・家電グループが急激に増えている。照明は増えていると思えないので家電が一番だろう。本気で省エネを目指すのであれば、増えた家電エネルギー消費量を削減するのが効果的である。しかし、省エネ法では、家電の1次エネルギー消費量は21GJと一定化し、計算しなくてよいことになっている。計測しにく自立循環型いからというのが理由であるようだが真意ではない。事実、自立循環型住宅の計算式やエコ診断には家電の消費量は入っている。省エネ法の元締めは経産省である。真の省エネはエネルギーを使わないことである。ゆえに家電に規制をかけると家電が売れなくなるからだ。「エコロジー」と「エコノミー」を両立しようとする経産省の思惑は、暖冷房、給湯、照明に規制をかければエコ商品は売れるが、家電への規制は売れなくなるという算段である。1.5倍に増え続ける家電の1次エネルギー消費量は、ノ-カウントの21GJと固定され、規制をかけれない仕組みである。
増え続けた家電の理由は次のようなものが考えられる。

<オート洗浄・オート開閉蓋ウォシュレット>

裕福な日本の裕福機器の代表がウォシュレットである。新築個人住宅での普及率は90%を超える。その贅沢性を否定しないまでもセンサー付きのオート洗浄やオート開閉蓋は過剰すぎる。

<食洗機、食器乾燥機>

食器を洗うのにエネルギーはたくさんいらないが、電気で乾燥させるには相当なエネルギーが必要だ。放っておけば乾くものをヒーターを使って食器を乾かすのである。ヒーターの熱量で部屋は暖かくなるので、さらにエアコンが稼働する。

<50インチ以上の大型テレビ>

エコのためではなく家電メーカー救済のための家電エコポイント制度が平成21年に実施され、税金のばら撒きが行われた。50インチだと2万円、32インチだと8千円のエコポイントプレゼントだった。それが契機となって家電量販店には50インチのテレビが主流となった。当然、電気の消費量は増えて当たり前。

<大型冷蔵庫>

冷蔵庫も同様だ。それまで300~400Lが主流だったが、いつのまにか500Lが主流となった。700Lまである。ほとんどの家庭は15分以内にスーパーがあり、2~3日に1度は買い物に行ける。300Lの冷蔵庫で充分なのだが、安い時に買いだめするアメリカ型を真似る。冷蔵庫が大きいから、スイカを丸ごと冷やすし、特売のレタスを5玉も野菜室に入れる。スーパーでは採りたてがよいと朝採りを選んで購入し、わが家で5~6日も冷蔵庫で保存するのだ。震災を経験し、1週間分の備蓄を考えてのことだろうか。電気が止まれば、冷蔵庫も止まるのに。あるいは冷蔵庫のカタログも原因かもしれない。カタログの写真では食材が揃い、いかにも料理の腕が上がりそうな気分になる。また、性能が上がり300Lも500Lもエネルギー消費量はあまり変わらないと表示してあるが、これは間違いだ。大型冷蔵庫の計測で、冷やす中身の量が同じ場合にエネルギー消費量が同じで、詰め込むものが多ければ当然、エネルギー消費量は多くなる。

<温水式洗濯機、冷暖房エアコン付洗濯乾燥機>

温水式にすれば洗濯時間が短くなり効率があがる利点はあるかもしれないが、洗濯機にエアコンが付いているとはあきれてしまう製品だ。
家電量販店にいけば「エコ」「エコ」の垂れ幕が下がっている。ほとんどがエコ商品だ。省エネ家電製品の多量設置は、ダイエット食品も腹いっぱい食べれば肥満になるのと同じだ。

富裕層優遇の基準値

超高気密・高断熱の家はエアコン1台で暖冷房が可能というので、全館暖冷房の方が省エネと錯覚してしまう。自立循環型住宅の計算法を見てみよう(資料2)。全館連続暖冷房の場合、性能があがるとエネルギー消費量は少なくなる。部分間欠暖冷房の場合もそうである。しかし、良く見よう。レベル4(次世代省エネ基準)の全館連続暖冷房とレベルゼロ(断熱材なし)の部分間欠暖冷房と比較してみると、断熱材なしの家がエネルギー消費量は少ないのである。断熱材をいれよというキャンペーンは正論なのかと疑いたくなる。全館連続暖冷房と部分間欠暖冷房は、新基準の「基準1次エネルギー消費量」ではどのくらいの違いかをシュミレーションしてみよう。「基準エネルギー消費量」は「主な居室」「その他の居室」の面積で決まるので、一般的な120㎡の家では80GJ程度となる。ところが、全館連続暖冷房では1.5倍の122GJに基準が上がるのである。不公平ではないだろうか。これは一覧表には明示されておらず、プログラムに入力してみないと表に出てこないため普通の人の目には触れない。都合が悪いものは分かりにくくしているのかと疑ってしまう。この優遇措置は、ベンツなら最高速度150Kmで走行してよいという基準にしているようなものだ。
全館暖冷房の家はエアコン1台ですむのなら、基準を上げる必要もなく「基準1次エネルギー消費量」は80GJでよいではないだろうか。もう一つ別の説明をしよう。昔の「事業主判断基準」(資料3)を見よう。1a地域は全館連続暖冷房と部分間欠暖冷房の家の「基準エネルギー消費」は125.2GJ(家電を除く。3種換気)とほぼ同じで、公平である。しかし、Ⅳb(新6)地域をみると、全館連続暖冷房の場合は90.2GJで、部分間欠暖冷房の場合は54.2Gl(共に家電を除く)である。どうしてこのようなことが起こるのかというと、寒い地域には縁側はなく、緩衝空間としての玄関もない(風除室はある)「非居室」が少ないからだ。家の造り様が違うのに、一つの基準で全部を規制しようとするからこのような不公平がおきるのだ。

経産省・国土交通省VS環境省

扇風機やこたつの生活の人には厳しく、全館暖冷房の生活の人には優しい「省エネ法」は、経産省・国土交通省がつくり、「エコ診断」事業は26年度から環境省が担当する。「冬の暖房は20℃以上、夏の冷房は28℃以下に」と省庁間の摺合せはなされているように思えるが、環境省は「エアコンより扇風機を」と常識的判断をしている。経産省は「扇風機の家は性能の悪いエアコンを付けたのと同じ」と非常識な判断をする。
省庁が別々だと、国民指導も別々に行われることになる。指導する方は違いを力説すると思うが、指導される方は目的が同じなら、指導も同じにすべきと言いたい。「エコ診断」と「省エネ法」はこ れから矛盾が露呈するだろう。家電量販店に、これから「国土交通省推薦エアコン」と「環境省推薦扇風機」と二つの垂れ幕が下がるだろう。『窓を閉めてのエアコン』、『窓を開けての扇風機』のどちらをあなたは選びますか。

資料1:住環境計画研究所「家庭用エネルギー統計年報」
資料2:「自立循環型住宅への設計ガイドライン」より
資料3:事業主判断基準の基準エネルギー消費量より

建築ジャーナル 2014年10月号掲