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【土壁試験体】 12月6日
土壁は荒塗り、 中塗り、 漆喰塗で構成されている。表面仕上げが板張りの場合は中塗りや漆喰塗などの仕上げはしない。 荒壁のままだと、柱と壁の間にすき間が空くので砂漆喰を詰める。 その状態での実験を行う。実際の仕上げが板張りの場合は、真壁、大壁、板の厚さの状況により、この目詰め土壁と合算して、運用すればよい。

【川尻四つ角】 12月9日
川尻四つ角の深川金物店の建築足場が解けた。地震被害と店舗縮小の結果、規模を半分にしての再出発だ。納期を1年延ばしてもらったので、まち並に合わせることを考える時間があった。 熊本県内の再建に「早く急げ」はわかるが、質を問わないために陳腐なまちになろうとしている。川尻地区では100軒以上が解体され、 再建の家で、 瓦仕様の家は本田大工と私たちがかかわった建物だけだ。 わずかな工期とわずかな費用をケチって、歴史を失ってしまうまちが多すぎる。

【土蔵の土塗】 12月11日
吉田工芸社の左官軍団は全員20~30代である。野田邸の土蔵大壁の土塗に5人の職人が来た。 働く姿が絵になる。 土に張り付いた職人の姿を見た通り行く人は唖然としていた。私たち建築士は、 彼らの仕事が一生続くような設計をしなければならない。地震の直後は、 左官職人が不足と言いつつ、ピークが過ぎれば、 サイディング採用の建築士は卑怯者である。

【上げ前】 12月13日
140坪の住宅である。 150年前に建てられていて、 130年前の熊本地震も経験している。 改装が2回ほど繰り返されて、今回の熊本地震では、液状化も伴い、X、Y、Zと立体的にひずんでいる。 川尻の隣の天明町に鍬農組という曳家専門の業者がいる。構造を裸にしての矯正治療で、木の癖による曲がり以外は完全に治った。曳家工事は県外からたくさんの業者が来ている。「大丈夫」と言って、構造を見ず、沈んだ部分だけを上げたら、片方が沈み、 直らず裁判まで起きている例がある。「大丈夫」の連発は「大丈夫でない人」がよく使う言葉である。

【古材の耐久性】12月15日
古材を何年持ちますかとよく聞かれる。 1300年? 800年? 100年?60年? 「腐れない限り、白蟻にやられない限り、ヒノキ材は1300年、ケヤキ材は800年」というのが、 小原二郎説だった。ガラスを「割れない限りもちます」と答えるのと同じような気がする。 逆に言えば100年経過の木材に、 あと何年持ちますかという質問に、「腐朽対策と白蟻対策を行えば、 1200年、700年」と答えるのも愚答のような気もするが。

【市庁舎建て替え】 12月21日
市庁舎建て替え問題がやっと新聞紙上を賑やかすようになった。税収1,000憶円の熊本市が400億円の建築金支出には慎重になるべきだ。外壁部だけでなく構造体にも被害を受けた県庁舎は修繕しているというのに、無被害の市庁舎は建て替えるという。 地中に存在する60cmの厚さの連続壁を計算に入れずに、 160本の杭全部に被害が出るという。地中連続壁があるから杭には被害が出ないという専門家の意見を無視する。どう考えても、 構造計算書作成者の、建て替えを希望する首長への忖度に思える。施工当時のコンクリートの品質が証明できないから計算に入れないという市の執行部の見解はおかしい。品質とは38年前、熊本市の建築職人が命がけでつくったコンクリートのことである。 建築職員冒涜も甚だしい。

【土壁外壁 】 12月27日
吉田工芸社の左官職人6人が土壁荒壁施工に入った。20~ 30代の左官を6人も抱えている軍団は九州にはほかにないだろう。作業もてきぱきとこなす。これから中塗りと漆喰仕上げへと続く。昔TQCというのがあった。精度をどんどん上げていくシステムである。出江寛は言った。「左官仕上げはきれいに平滑にすることではない。きれいにしたらクロスと同じだ。きれいにし過ぎたら工業製品になってしまう。コテムラを少し残さなければならない。 それが美である。きれいと美は違う」と。


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【土壁大壁】 1月9日
土壁大壁は乾燥が遅い。 吉田左官は土壁荒壁にV溝を入れた。 これで乾燥が早くなるという。 中塗り土の付着は良くなるのは確かだ。 土壁施工には定量化したマニュアルはない。風が吹けば、 直射日光が当たれば、乾燥すれば、夏であれば、とか条件は多種に渡る。 そこが土壁施工の面白いところだろう。

【富士川氏川尻に来る】1月11日
古町・新町で、復興応援をしている富士川氏が川尻に来た。地震後に、歴史的建造物に対し、復興基金を県知事や熊本市長の行脚訪問を何回も繰り返した。 文化財でない建物にも、文化財相当に補助金が出るようになったのは彼の功績は大きい。このことを、自分から自慢しない男だ。 だから私が言っておく。熊本市内の古町・新町と川尻において、 多くの古い家並が喪失した。しかし、このことをバネにして、がんばっている人も多い。この姿をもっとみんなに知らしめたいという話になった。

【松合】 1月15日
宇城市松合に行ってきた。 火災が多発し、土蔵白壁が多くなったまちだ。土蔵と言えば1階はナマコ壁だが松合の土蔵は板壁で1間ごとにクリップで留めてある。 私の記憶では、「ナマコ壁は高いので板壁にした。 しかし、火災が起きると板が燃えるので、隣が火災になったらすぐ板を外せるようになっている」と聞いた記憶があった。 おそらく、 森下君、富士川君、 宮野君だったかなと記憶を確かめるべく電話をしたらみんな違った。 夢の中の作り話だったのかな。 ほかの地方で、土蔵白壁取り外し仕様の板壁の例があれば理由を教えて欲しい。

【消防検査】 1月17日
消防の検査を受けた。 消防法はとにかく書類が多い。この建物は住宅・店舗の複合建築なので、毎年の書類提出義務がある。対象は消火器と誘導灯である。 消火器の有効期限は10年であるのに、毎年点検だ。 消火器は1本4,000円であるのに、書類提出費用は2万円かかる。 提出する書類は毎年同じ内容で、 検査官は現地に来る必要はないので、5年分まとめて、提出したいと申し出たが、駄目だった。 お互い迷惑な消防法である。

【大牟田市役所】1月21日
大牟田市役所の建て替え問題のシンポジウムに参加してきた。 築後80年近く経過しているものの、 寿命が来たとは思えない。 バリアフリーなどの問題はあるがほかの棟もあり、市民が利用する課を入れなければよい。 市の試算では、解体して新築する方が安くつくという。新品に買い替えた方が安くつくという理論が成立するのは、冷蔵庫だけで、ほとんどものは長く使いつづけた方が総合経費は安価になるのは当たり前。報告書を見てみた。試算には幅がある。 修繕を高く見積もり、新築を安く見積もるいつものパターンだ。

【市庁舎建て替え】1月23日
当初は防災拠点として耐震性が不足すると言っていた。 ごくわずかの数値だ。それくらいだったら補強すればよいと誰でもが思う。今は被害がないのに「現行の建築基準法の耐震基準を満たさない」ので建て替えると言っている。 納得いく説明がないので、市民が立ち上がって公開質問状を出した。

【土蔵大壁】 1月25日
土壁の厚さは10cmを超える。 表面が乾いたように見えても中はわからない。 ハンバーグの中が生煮えみたいな状態かもしれない。 長ビスを差し込んで生土が付着した状態を見て観察することにした。まだ乾いていない。 中塗りの前に、荒壁は完全に乾かした方が結果として乾燥は早い。

【熊本市庁舎建て替えを考える会】2月2日
第2回目は70名の参加だった。 防災拠点だったら解体・新築も仕方がないと思っていた人がいた。 県庁が熊本地震の時、防災拠点が高層にあったためエレベーターが止まり、機能しなかった。 それで3階建てを別棟で検討中だ。防災拠点は別に配置したがよい。 中核都市になるとき、周辺町を合併した。 そのときの合併特例債がある。 その特例債を使って建て替えるという。これからもしつこく考えていく。

【 古材利用】 2月9日
民家再生の現場も追い込みとなった。ここまできたら古材の良さがみんなにわかるようになる。 木材の寿命は長い。 法隆寺の1300年は言い過ぎだが、腐れと白蟻被害がなければ600年は持つ。 100年経過しても劣化は表面の1mm以下だ。100年経過材を古材とは言い過ぎだ。 前も書いたような気がするが、人間の寿命を60歳として、 10歳の若者に「老人」と言うのと同じではないか。

【なまこ壁】 2月11日
某酒造店の150年前の土蔵蔵である。 腰壁はナマコ壁だったので、再現している。 ナマコ壁のデザインに地域性はないと思う。施工した左官屋さんの意気込みにより決まっているような気がする。 ナマコとは瓦の目地を盛り付ける姿がナマコに似ているからである。ここの場合は元のデザインで復元する。

【アートの居場所 in 川尻1】2月13日
今月22日~ 23日に瑞鷹マスダイ蔵において、熊本のアーティスト15名によるアート展が開かける。どのような内容なのかはよくわからない。会場となる現場の状況は、まだ漆喰塗の作業中だ。開催は10日後であるが、工事中に変わりはない。耐震工事現場とのコラボだろうか。

【全壊】 2月15日
「全壊」 という言葉が誤解を招く。50%以上壊れているのを被害認定調査では「全壊」という。50%未満は「半壊」だ。 援助金支給の観点からは被害を大きく評価ししてくれること今月22日~23日に瑞鷹マスダイ蔵において、 熊本のアーティスト 15名によるアート展が開かける。 どのような内容なのかはよくわからない。 会場となる現場の状況は、 まだ漆喰塗の作業中だ。開催は10日後であるが、工事中に変わりはない。 耐震工事現はうれしいが、50%未満が健全な場合でも、全壊となる。生きているではないか。この蔵は、 75% 壊れているが、 25%は健全だ。 解体・新築より安くつく。

【雨の中の熊本城マラソン】 2月16日
本日は熊本城マラソンだ。 雨の中を走る。川尻はちょうど中間点にあたる。走る人にとって川尻のまち並は記憶に残る場面だそうだ。 瑞鷹酒造マスダイ蔵は、まだ震災工事の足場が掛っている。来年はこの足場はないでしょう。

【霞が関ビル】 2月20日
数年前まで日本一高いビルだった。 36階建ての35階において建防協の表彰式があったので、参加した。36階より高いビルが目の前にたくさんある。構造の専門家集団の集まりで、このとんでもない高い建物の構造計算するのがこの人たちかと思いを馳せたが、見ると普通の人だ。酒が入ると高名な方たちと普通に話せる。 もちろん構造の話はしない。 底の浅さがバレルからだ。熊本市庁舎はこの後から建った。 確認は38条申請だから霞ヶ関ビルも当然既存不適格建築物だ。

【アートの居場所】2月22日
瑞鷹酒造の蔵の中で「アートの居場所」展が22、23日開催される。熊本の芸術家たちの表現の場が少ないからと立案されたものだ。こんな世界もあるのかと感性を刺激される。アート作品は小売りもするらしい。 11時の開店だったが来客は多い。 めずらしい物も多いので、暇なひとは見学に来て欲しい。

【バットレス】2月26日
家が傾いて、曳家で立ちを直す。柱を真っすぐの状態にして壁を入れる。が、壁がない場合は非常に困る。 戻り防止のために家の外部にバットレスを入れることにした。外部なので鉄骨に亜鉛メッキのバットレスだ。強すぎるのではないかと懸念しいるがほかに方法を見つけ得ない。 新しい方法が見つかればすぐ外せるようなディテールだ。 見てくれも良くないのでツタでも絡ませたらと思う。


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【古建具のもらい受け】3月1日
震災時頑張った西原村の元副村長が古建具を持ってきてくれた。 従弟の家を解体した時の建具が、 もったいないから使ってくれという。古建具は修理費がかかるが、数年後には希少価値になる。 安易な処分が多すぎる。

【建築詐欺】 3月5日
専門用語で「既存不適格」といえば、 建築基準法の耐震基準が変わったために、改正前は基準内だったが、 改正後は基準に満たないが違法ではない、と認識している人が多い。 熊本市庁舎は60mを超える超高層建築物で「既存不適格建造物」というのは事実である。 理由は、当時建築確認を38条申請で許可を取っていたが、 38条申請の法がなくなったため、 現行法と合わなくなり 「既存不適格」となったのだ (38条申請は復活したが既存不適格はそのまま)。 現行の構造基準に不適格ではない。 それを熊本市は「既存不適格で、 現行の建築基 去の耐震 基準を満たしていない」という理由で建て替えるという。熊本市庁舎建て替え問題はもう事件である。

【新酒】 3月8日
川尻において、1年の中で一番にぎわうのが「新酒まつり」の日である。 地震後は蔵の中の飲酒は中止であったが、 3年間はそれでも、道路や川べりは酔っぱらいで溢れていた。 本日が新酒発売日である。 全く人がいない。 酒飲み連中はどこに消えたのだろうか。

【益城町杉堂】 3月10日
西原町の隣の益城町筋堂は石垣が多く、国費で間地石での積み直しが行われている。昔の風情はなくなったが、 安全のためには仕方がないことだろうか。瓦屋根土蔵の建物は、 もったいないないから壊さず残しましょうという提案に賛成してくれた0さん。4年間被災した状態のままだ。屋根さえしっかりしていれば応急工事はいらない。 今から、住宅再建に手をつける。 隣に、 地震で有名になった布田川が横を流れている。

【土蔵の家】 3月14日
土造か土壁木造か。 2~3年前まで火災保険に土造という項目があり、防火性があるということで保険料が1/3ぐらいと安かった。その恩恵を受けた人もいた。今はなくなった。 土蔵造と土壁造は違う。土蔵造は20cm厚の土壁大壁で、 現代において新築で建てる人は皆無である。

【コロナ渦中】 3月16日
わずかな部品を中国に発注していたため、便器、キッチン、ユニットバスが当面出荷停止状態だ。今月30日引き渡し予定のT邸だ。「今の時期よく部品が揃いましたね」と聞かれる。 2月引き渡しの予定が延びただけのことである。どのメーカーも競って世界中の安い手間人を探している。小さな部品まで中国につくらせているらしい。 だったら国産と言わないで欲しい。 世界中の手間が安い国から仕入れて高く売るのは北前船と同じだ。 最近、地産地消を言わなくなった。 かわりにSDGs。 なにか胡散臭い。

【記念蔵】3月18日
この角度から見られるのも足場があるあと数日。 もうすぐ4年目になる。 瓦の材料以外は全て手仕事で、非常に手間がかかった。最近は、手間がかからないような工法を選ぶ。 白いサイデング張りの蔵もある。省手間工法が善なのか迷う。 人手不足なのか、 仕事不足なのかよく分からない時代である。

【地震の跡・瓦の利点】 3月21日
震対策には耐震・制震・免震があるが制震が分かりにくい。制震は「柳の木に折れなし」と言われるように、揺れることで地震エネルギーを逃がす。この家は揺れ方が1階と2階のずれた痕跡からよく分かる。 隣地から見えるが、 自分の敷地からは見えないので、建て主は気が付いていないかもしれない。屋根材は固い。固いがそのズレを吸収するのが瓦仕様だ。 鉄板葺だと破壊していただろう。

【プラスター仕上げ】3月23日
土壁は荒壁、中塗 漆喰と仕上げるが、 中塗でやめる方法もある。 しかし、土がザラザラと落ちるので不人気だ。土壁仕様でも中塗りにプラスターを良く使う。 そこで、土壁プラスター中塗りで止めた。ザラザラと落ちない。子ども部屋なら、 子どもが壁いっぱい汚すことを許容し、 子どもが育ったころ、仕上げの漆喰をすればよいということにした。


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【足元】4月1日
柱優先と土台優先では全く意味が異なる 。柱優先は足固め材が横から刺さって柱の定度が高くなり、横揺れを止めるので耐震要素となる。耐震性は足固め材の成りとほぞの深さに比例する。 金物にはない特徴だ。

【柱】4月6日
柱はボーッと立っているんじゃない。 ダンパーを設置すれば耐震要素となる。

【命名】 4月8日
昔、日本の木材で、栂(ツガ)は檜やケヤキを抜いてダントツ1位の高級材だった。 外材を輸入するとき、北米のファーという木材に名前を付けなければならないが、その時、 米栂と命名した。 栂とは見た目も明らかに違う。その後安ものとわかり、栂が木材の粗悪品の代名詞となった。 日本の栂は米栂と一緒にされたらかなわないと「地栂」と呼ぶようになった。 似たような命名がラワン材にもある。赤黒で着色し「南洋桜」と命名した。 あまり売れなかった。最近ではポリエステルバスを「人工大理石」と呼ぶ。 大理石の代用ではないが、命名でのお陰で高級品に見える。 大理石の浴槽はないが、あれば100 kgを超える。「人工大理石」の浴槽は一人でもてる。

【引き渡し】 4月10日
4年前を思い出す。 Tさんは震災直後から土地探しを始めた。 御船町で、日奈久断層のすぐ隣が売りに出た。断層が割れ切った場所だから、日本で一番安全ではないかと言った記憶がある。その後、割れ残りの部分の地震発生確率は高く、断層からの距離よりも、表層地盤増幅率を検証した方が良いことを知った。 結果として求めた土地は全く別だった。今度は標高4mで、浸水の可能性がある。

【新柱】4月13日
1階の壁耐力が不足するので耐震壁を追加する。旧の柱と梁は真っ黒で、新柱は真っ白。明度差は10に近い。 150年間の時代の差である。 新材を古色塗にしない方がよいと思っている。

【排水管露出の石場建て】 4月15日
家を長持ちさせても、設備の配管の寿命は30年ぐらいである。 最近、消費者の要求は「ヒートショックを起こさない暖かい家が良い」と家丸ごと包んでしまう家が多い。耐久性のこと、 修繕のしやすさをもう少し考えた方が良いのではなかろうか。断熱は床板直下だけにして、給排水の配管は見えるように露出した方が良い。

【文化財等復旧復興事業1】 4月20日
弊社では3棟担当したが、やっと1棟が完成した。ほとんど空き家状態だった。 工事費用の2/3の補助金が出て、手出しが200万円少しだったので、建て主は修繕に踏み切った。部屋の大きさは25坪である。私たち六工匠が月1万円で借りることにした。手出しのお金も賃料10年で回収するという仕組みである。

【文化財等復旧復興事業2】 4月22日
古い建具を600枚以上保管していたが、倉庫が倒壊して泥だらけとなり、掃除と整理に3年かかった。 腐食やカビで2割は処分した。現在何枚残っているかはわからない。 購入先や貰い先を管理していたが分からなくなってしまった。今から整理したいと思っている。

【早食い】4月25日
被災者生活再建支援金制度がある。最大300万円の支援金である。急がせて締め切り間近になると期日が延長になる。2018年3月の締め切りだった制度が結果として2021年5月申請までに伸びた。 予算は決定しているのだから、最初から適切な締め切り日にして欲しいものだ。 公的資金は、延長は1年しかできないので、絶対延長はありえないと言っていたが結果として、3回延長されたということになる。 「ゆっくりでよい。 その方が良い家ができる」とおっしゃっていたBさんを今年の5月締め切りに予定していたが、再延期通知が来たので来年に延ばすことにした。 熊本の建設業者は3年分を早食いしてしまったので、3年間は冷や飯食いになるだろう。

【ナマコ壁】 4月27日
ナマコ壁は平瓦を壁に貼った時の目地がどうして大きいのか疑問だった。 平瓦は9寸~1尺角でひずみが1~2cmある。 その製品のひずみをごまかすため大きくとるのだと思う。あれだけゆがんでいた瓦がマナコを付けると平滑に見える。 さらに新平瓦より古瓦が良く見える。屋根や床に使える材料を壁に使うのだから100年はもつだろう。

【 古材整理】 5月2日
地震後4年が過ぎた。保存していた古材管理が行き届かず、 養生屋根も壊れ悲惨な状態になっていた。 それで17名の参加で整理作業をおこなった。 大工はもちろんだが、 電気、 水道、 板金、建具、 ガス職人の参加だった。手間代はない。 パチンコにも行けないのでレクレーションの一環だ。 保存できたのは30本ぐらいで100本は泣く泣く処分した。 民家再生用の補充に使う。

【コロナの功】 5月8日
コロナも悪いことばかりではない。 市庁舎建て替え計画がとりあえず中断になった。中止ではなく落ち着いたら再開すると言っているが、そう簡単に落ち着くとは考えにくい。 多くのエコノミストは元に戻るのに5年かかるとの意見が多い。 収入減になれば当然支出も減になる。 熊本地震で被害ゼロの建物を400憶円かけ(税収は1000億円)建て替えるとは狂気の沙汰だ。

【文化財等復旧復興事業完了】 5月13日
県、市、 ヘリテージマネージャ、 施工店立ち合いの完了検査だった。 単純な工事なので見る部分は少ないが、 職人不足で長い工期だった。 終わると寂しい気分になる。 熊本地震被災の文化財などは国の文化財登録の意思があれば2/3の補助金が出る。 熊本県では該当件数は120~130棟だが登録申請はまだ2棟だそうだ。

【開けてびっくり】5月15日
医者が手術したが、 治療せず、 そのまま縫い合わせたという話をよく聞く。2重垂木仕様だったので2階の床を剥いで1階屋根の収まりを見た。 はね木と枕と思ったら1階の化粧天井板に枕を置いて本垂木に荷重をかけてあるのだ。 非常に良い納まりであった。 慎重に対処しなければならない。

【地震相談:弱い住宅】 5月17日
30~40年前の建物は、柱は細いし、床天井壁は新建材、基礎はコンクリートブロックが多い。 軒の出があれば外壁の痛みも少ないし、余命をもう少し延長させることはできる。 金物付きの筋交いでなく、弱い耐震壁が全体に配置されていれば、柱に引き抜きは発生しない。 ほどほどの地盤であれば、コンクリートブロックでも基礎の役割を果たす。 相談の建物は、熊本地震でコンクリートブロックの数カ所に崩壊が生じていた。 そのほかの表層地盤増幅率は0.81である。 川尻地区が2.21なので地震入力は 1/3 とみてよい。 被災確率が低いから耐震補強はいらないという考えは間違いという意見もあるが、 経済、余命などの総合判断も必要だ。 軽微な修繕をして使い続けることを勧めた。

【雨後の黒いタケノコ 】 5月19日
家を良く見せるにコストがかからないのが色である。地震前、黒いサイデングの家は珍しかった。 まちなかにポツンと1軒あれば惹き立った。地震後、乱立している新築に何と黒色が多いことか。 おそらく業者の方が、一際目立つ黒サイデングをカタログで見せ、薦めたのであろう。実際建てたら、右のお隣も左のお隣も黒のサイデングだった。

【わが社は雀のお宿ではないぞ】 5月23日
朝方から雀の鳴き声がうるさい。 5〜6匹いるみたいだ。軒下かなと思ったら違う。家の中だ。地震後わが社はまだ修理していないので、被災の隙間から入って家の中に巣をつくったみたいだ。 小屋裏中を飛び回っている。

【民家再生】5月25日
大きい梁を眺めてみると壊すに忍びない。民家は黙っていても重厚な存在感があるので、 絵や花を飾る必要はない。 風景とも馴染む。 どうしてなのだろうか。 昔からの慣れだからだろうか。日本は気候風土に適合した日本の住宅を捨て去ろうとしている。日本人は日本文化を捨て去ってから、 外国で評価され逆輸入する。 それから良さに気が付く。 浮世絵、 古伊万里、古九谷、提灯、日本酒もかな。

【のぼり梁】 5月27日
土壁土蔵の登り梁が雨漏りと白蟻被害にあっていた。登り梁を交換することになるが、大変な作業である。 登り梁は1間ごとにはいっているので、 被害梁はそのままにして、半間ずらして新しい登り梁を1間ごとに配置した。 大径木は現在安いので、今の時代はこの方法が良策だ。


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【気候風土適応住宅】6月2日
余計なお世話であるが、 来年4月から省エネ法が小住宅でも義務化される。審査はなく努力義務であるが、 仕様は厳しい。 そこで「気候風土適応住宅」認定制度ができた。地域性が強いので、基準は国が決めるのではなく、所轄行政庁で決めてよいとなっている。建築士会、建築事務所協会、 日本建築家協会、学識経験者と県行政で会議を開いた。 県からは、橋本さん、小田佐さん、土黒さん3人の出席だった。「気候風土適応住宅」基準書作成完成まであと一息だ。

【言われなくても日ごろから密ではない町から】6月4日
政治とは、金儲けの人から貧乏な人へお金を流し、仕事が多い分野から、少ない分野に仕事を回すものと思っていた。現実は、貧乏人を応援しても税収は増えないから、金持ちを応援して税収を増やすのが政治になってしまっている。よって、 田舎はより過疎化し、 都会はより過密化している。 コロナ渦中で、テレワークなど田舎でも働ける知恵がついた。 田舎と都会で二重生活を可能にすれば空き家は減り、生活が豊かになるではないだろうか。住民税が2重にならないような税制を考えてもらいたいものだ。 密の人たちは、もう少し人間らしい生活を目指さし、 散らばって住みませんか。

【補強】 6月8日
化粧垂木に2階の柱が乗っているというアクロバット的収まりだった。 垂木数本に分散させていたといはいえ、垂木は曲がっていたが折れずによく150年も持ったと感心する。 2階柱の真下に束を建てた。 梁で受けることにしたが、将来2階を解体、改装した場合はこの補強束・梁を取り除く。 束の仕口は落とし蟻である。

【伝統構法設計指針講習会】 6月10日
伝統構法の建物を限界耐力計算を用いて確認を出す場合は、 適合性判定に提出しなければならない。ハードルが高い。 それで性能をパターン化して、通常の1/10以下の作業量のマニュアルをつくった。ガラガラ会場にしなければならないので、3回に分けた。 1回目の6月17日は会場満杯だが7月17日は空きがある。県内居住者だけの制限は解除された。テキストには誤字脱字はもちろんのこと、意味不明がたくさんあり、当日は叱責満杯の空気が目に浮かぶ。 熊本県の適合性判定にしか通用しないので注意。

【目板瓦】 6月12日
熊本には特有の目板瓦がある。 身瓦に目板を貼り付けて焼いてある。1枚の寸法誤差が1寸はある。制作時の燃焼温度は低いはずなのに、寒割れはない。下地の土葺きとセットで、結露が発生しないのは、結露水を土が吸収してしまうからだろう。 製品の寸法誤差も土葺きで調整して施工する。桟瓦の普及で消えていったが、 山鹿や川尻にはまだ数件葺いたままの状態で残っている。

【伝統構法】6月14日
伝統構法の家が少なくなってしまった。人は簡便な方へ向かう。初期投資は少ない方がよいと、早くて、安くて、 今だけの家が多くなった。 耐久性については、60年耐久の建材は使っていないのに、 点検工事とセットにして60年保証の家がなぜか多い。※良心的な大工棟梁に、日本の気候風土の適合した伝統構法が消えてしまうのはなぜかと問えば口をそろえて「建築基準法」の功罪という。熊本県だけは、くまもと型伝統構法設計指針をつくった。 失われて20年。復権するのに10年はかかるだろう。

【コロナの恩恵】6月23日
木の塀やデッキをつくると補助金が出る。 山や環境のことを考えての国の政策と思っていたら、 「新型コロナウイルス感染症を踏まえた緊急経済対策」らしい。「風が吹けば桶屋が儲かる」理論のようだ。 申し込みが殺到し、公開1日で締め切った。 身内で事前に知っている人しか申しこめないだろう。外部に使う木材なので、 特殊加工品と限定している。 末端販売価格は20万円 / 立方メートルだが、 やまの原価は2万円/立方メートルなので、山への恩恵は1/10だ。最初から塀やデッキを計画していた人への金配りで、木材利用支援にはならない。 塀・デッキの製作者が余剰金でキャバクラに行けば経済は回る。

【三和土の補修】 6月30日
三和土と書いてタタキと読ませる. 学校の試験問題に出してもよい漢字だろう。材料が土と砂と石灰の3種を混ぜて叩く。強度はセメントの1/100しかない。乾燥すると表面が削れてくるので、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウムなどの湿潤剤を入れる。ヒビ割れのクレームが多いので、 補修の実験をした。下地は漆喰と土を1対10、 仕上げを1対1にして塩化マグネシウムで溶く。 結果は1週間後。

【三角海運倉庫】 7月4日
西港築港当所の135年前に荷揚げ倉庫として建てられた建物だ。その後、32年前に大規模改修が行われ、 土壁が筋交いに変えられていた。倉庫として建てられたものなので、構造は大味である。 地震のための改修であるが、 縦と横の比が1対5もあるので、 風対策の方が重要になる。筋交いのままの追加補強工事の計画だ。下屋部分は、計算上風はあまり受けないので、地震の計算となる。結構おもしろい計算となる。 今月から工事が始まり、監理をすることになった。 設計図書通りには事は進まないだろう。

【役にたつのかな 】 7月9日
地震の後、いろんな商売が出てくる。2000年より以前の瓦の棟部の施工方法はのし瓦、 がんぶりを重しとして棟に乗せてあるだけであった。 その部分は、熊本地震で相当落ちた。 お隣の家が棟部分をバンドで留める工事をした。 補強になるとは思えない。の瓦とがんぶり瓦がバラバラに落ちるのが、 一体となって落ちるだけのことだ。業者は新規産業のつもりだろう。 お隣さんだが、 「無駄でしょう」と言わない方が良い。 地震が来ないなら落ちない。

【令和2年7月水害1】7月13日
芦北の岩本製材所が床下浸水し、裏山が2カ所崩壊したと聞き、川尻六工匠で応援に行くことにした。 声を掛けたら22名全員が集まった。 人吉と比べ芦北は報道も少ないのでボランティアは少なかった。 裏山の一つの自然のり面が崩れ、製材木材がすっぽり埋まってしまっていた。 もう一つののり面は、コンクリートで保護されていた。 それが崩れた。 コンクリート混じりの崩壊土が、 すそ長く広がっていて、家屋の方に行っていたら、家は完全崩壊だった。手を加えない方がよかったのかと思える二つののり面だ。 とにかく人力がいる。 22名で、3件を手伝う予定だったが1件しかできなかった。 県外ボランティア禁止にしているが、せめて九州内はOKにしないと人手が少なすぎる。

【令和2年7月水害2】7月15日
芦北の野坂屋旅館が床上浸水1.2mの被害を受けた。徐々に増水したので、水圧による被害はなかった。 旅館なので簡易避難所として開放されていて、また、救援物資の配給拠点として利用されている。この活動は、絶対、市民が野坂屋旅館を潰さないと思った。 本日はボランティアではなく、 設計者として被災建築調査のために行った。 内壁の15mm無垢板は膨張し裏面までカビが発生していたが、30mmの床板は裏面にもまだカビは発生していなかった。 扇風機での床下乾燥が良ければ、床板は剥がさず、そのまま使えるかもしれない。

【大壁】7月17日
土壁は普通真壁である。 しかし床の間の背面は柱を見せたくないため大壁だった。 土壁の被害は叩いて、浮きがなければ大丈夫とみる。叩いて大丈夫だった1間巾の土壁が、きれいにずり落ちた。雨が浸透する場所でもない。大壁で間渡し竹が柱に刺さらず宙に浮いていたのだ。 大壁は要注意である。

【なにこれ珍百景】7月19日
川尻にキャンピングカーの住宅がある。Z氏は震災後、再建の工事先をあれこれ考えている間に時間が過ぎ、補助金の締め切りがきて、アメリカ製のキャンピングカーを2台買った。中の設備は高級ヨット並みである。価格もヨット並みである。

【構造講習会】 7月21日
くまもと型伝統構法設計法講習会第2回目が開催された。定員80名で欠席者はゼロだ。来月3回目を開催するがすでに80名をオーバーしている。こんなに関心が深いとは思わなかった。失われて20年なので、復活させるのに10年はかかると思う。再講習会や見学会などを開催していく。

【土壁の壊れ方】7月23日
真壁の土壁が地震で壊れる場合は、四隅から壊れるのが一般的だ。 しかし、中央から壊れている。貫の部分が浮いて、先に壊れて柔らかくなり四隅が壊れなかったのかもしれない。真相は分からない。断言は良くない。

【構造美】 7月25日
カッコよくつくったわけではない。 昔の大工が必然的な構造材を組み合わせただけだ。不要なものは一つもない。 近代では曲がった材は不良品という。昔は、曲がった材は、曲がっていても良い箇所に使った。 それが美しい。建築で、構造・設備でない分野を「意匠」という。 なんとなくむず痒い。

【耐震工事着工】7月31日
熊本地震最後の仕事である旧三角海運倉庫耐震工事が始まった。行政の仕事なので、安全面、段取り、 報告などきちんとしなければならない。行政の仕事は2回目であまり慣れていない。 最初から書類の間違い発生。冷や汗タラタラ。熊本地震対処工事が終わっていないのに、 熊本水害対処工事だ。対処工事は生産性がない。 税金を食うだけの仕事だ。


小さな町 川尻の震災報告46

【柱の根継ぎ】 8月3日
柱の根継ぎはできるだけ下方端部の方がよい。ジャッキアップが15mm可能なら十字目違いがよい。重くて上がらなかったので、芋継ぎとして三方から栓打ちし
た。腰板で隠れる部分なので、外観は重要視していない。

【下見板】 8月5日
古い腰板を外して再取り付けする場合、材料費はゼロであるが、 人件費が多くなる。逆に古材は処分して新材にすれば、材料費は加算するが、手間は安くつく。 瞬時に判断しなければならないのがつらい。 軒が長く、 水切りが良ければ古材・新材の耐久性にはあまり関係がない。治柱の根継ぎはできるだけ下方端部の方がよい。 ジャッキアップが15mm 可能なら十字目違いがよい。 重くて上がらなかったので、芋継ぎとして三方から栓打ちした。腰板で隠れる部分なので、外観は重要視していない。

【疫病退治祈願】 8月7日
熊本は人口当たりのコロナ感染者が多い。 町内でコロナ退治祈願をやりたいとのことで、看板作成依頼があった。疫病退治祈願祭で感染拡大するかも。

【誕生日】 8月7日
たくさんの方から誕生祝いのメールをいただいた。 小包は来ない。同級生の1~2割は逝ってしまっている。十分生きてきたみたな気もするし、まだやることがあると思えば残尿感みたいに永遠に続く。73年の節目がコロナ記念日になるかも。

【グループ補助金】 8月9日
4年半が経過し、グループ補助金による修復工事の最後の検査だった。検査官は県が熊本建築士会に依頼し、羽山さんが来られた。羽山さんは伝統構法の構造について理解があり、検査は難なくすすんだ。普通の検査官は、基礎が不足、耐震壁がないという人が多い。

【地震被害修理】8月18日
やっと地震被害の修繕の順番がきた。 最後である。 土壁剥離をどうローコストで修繕するかだ。とりあえず足場だけは組んだ。近くで見て修理方法は今から考える。 泥壁の泥縄工事。

【水害被害相談】 8月20日
圧倒的にボランティア不足だが、年寄りには向かないので、せめてと思い芦北の建築相談の窓口を行った。 15組の相談があり、私は5組を担当した。応急工事の補助金申請が主であったが、書類書きに慣れていない人には大変な作業である。 工事人も大工さんが多いのでこれまた大変である。不正受給防止のための策ではあるが、 複雑さはどうにかならないものだろうか。被害を受けているのは事実であるので、嘘発見器を通すとか。次回は9月5日。書類を持っていき半分は代筆してやろうと思う。

【ワイヤー外し】 8月25日
地震で傾いたまま元に戻らない状態を残留変形という。 変形が大きい場合は、仕口の中でヒビが入っている可能性がある。 建物をワイヤーで引いた状態でその間に耐力要素を追加する。 土壁などは耐力がでるまで時間がかかる。耐力が出た状態になったらワイヤーを外すが、一番緊張する。

【構造講習会】8月27日
くまもと型伝統構法の家の第3回目講習会が行われた。 92名の参加で、 全員を集計すると250名になる。 こんなに関心があるのかとびっくりした。 テキストが不足し、 1回目の人から借りるなどして開催した。 これから、 実物建築案内会、 実験見学会、再講習会などを行って、啓蒙運動をしていく予定である。こうやって言っておくと、有言実行になる。


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【軸力とせん断力の違い】9月3日
昔の倉庫の土壁を壊して、 筋交いを入れている例は多い。柱は1階から2階まで通し柱である。 横の梁がないので筋交いの交点に胴差しがないことになる。 耐力効果はほとんどない。改装しなかった方が良かったかもしれない。 日本にはあまりに多くの工法があり、大工さんは迷ってしまう。

【柱の継ぎ手】 10月20日
木は雨晒しには弱い。しかし修理がしやすい。 柱の修理の代表的補修方法が金輪継だ。名前のように金輪を使うわけではない。 金輪をかけたほど強いという意味だ。実験によると曲げ強度は本来の4割ほどしかないので、曲げ応力がかからない箇所で採用する方がよい。

【土蔵大壁の補修方法】 10月25日
土蔵造の土壁の厚さは20cm以上ある。地震で大きくクラックが入っているが、落脱の心配はない。 コンクリートみたいに、土のヒビに接着剤を入れても効果はないだろう。全土を落として再施工は費用も時間もかかる。 室内側の真壁の土に被害がなければ(柱間の土の状態がよければ)外部のヒビは耐震性にあまり影響していない。ヒビの両横に穴を掘り、竹串を差し、棕櫚縄で縫合した。 ブラックジャック法だ。

【大戸の仕舞】 10月28日
昔の大戸は風情はあるが、 現代に利用するには背も低く不便である。 撤去して取り除くのではなく、 引き込んで、新しく3方に枠を新設して新玄関戸を付けた。枠はビス止めにして、気が変わって、大戸を復活させたいときには、新建具枠を外せばいつでも戻せる。

【エコハウス】 11月1日
くまもとの気候風土に適応した住宅の見学会。 たくさんの来場があった。来場者から質問で「最近の家は窓が小さく、屋根も小さい。小さい窓を採用すると、サッシュ費用もかからないし、屋根が小さいと瓦代もいらない。小資源建築費になるので、エコハウスと言うのですか」とあった。 なるほど。

【筋交い切断】 11月5日
ダクト工事により筋交いが見事に切断されていた。縦割り施工のため、知らずに行うエ事は多いだろうなと思う。

【耐震障子壁】 11月8日
耐震不足の壁に耐震格子を入れた。 とりあえずの耐震壁である。 数年経てば新しい耐震装置が開発されるかもしれないし、半分を開口したいときは、残りの半分を構造壁にするのもよい。仕様規定の格子壁もあるが、 県立大学の北原教授の研究課題のプランを採用した。耐力は格子の数で決まるみたいで、計算式を開発中である。

【敷居の反り】 11月10日
居が2mで中央部が15mm下方に反っている。材質はケヤキ材で固く、ジャッキで上がるものではない。 新たな15mm30mmの敷居を底目にして入れた。 底目部が影になり、ケヤキの黒さと相まって反りには気が付かない。 建具は15mm短い。

【 耐震リングカバー】11月13日
耐震リングは変形性能があり、耐震を考える建物には大変良いが、 見栄えが良くない。座が平たんでない場合は当て木を付ける。方杖も付けるので、座を利用して板でカバリングする。

【新町橋の修繕】11月30日
橋桁の杭は岩盤まで達しているので沈下していないが、橋の両端の道は10~20cm沈下している。 橋の端部に極端な段差があれば危険なので、いままで4回ほど段差解消の応急修理がなされてきた。今度はどうも違う。端端部の鉄製フィンガージョイントが撤去される。 鉄の橋は冬と夏で伸び縮みするからジョイントがあると思っていたが違うみたいだ。(写真の両端はフィンガージョイントが除去されて中央部だけ残っている)


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【設計事務所の農業】 12月21日
高齢になり家庭菜園をうまく運営できなくなったと施主から相談があり、弊社が引き継ぐことにした。 種類は手のかからない、大根、玉ねぎ、人参などである。施主の手入れが行き届いていて、まずまずの収穫だ。 手の入らない自然農法を計画しているがうまくいくだろうか。 将来、 弊社の給料の一部は現物支給になるかもしれない。

【疑問5】 1月11日
最近、国の情報の内容が変わってきた。「脱衣室で血圧があがり浴槽で血圧が下がる」と言い出した。 であれば、ヒートショックで死亡するのは浴室でなく脱衣室のはずだ。 ヒートショックは流行語大賞になりそうなほど普及したのに。 昨年までの国の広報誌を見てみよう。 脱衣室とは言っていない。14,000人の数は浴室内での転倒や溺死した人の総数で、東京ガス都市研究所はヒートショックとは言っていない。 ヒートショックはこれから使わない方がよいのではないだろうか。 ますます信用を失ってしまう。

【復旧工事検査完了】1月27日
景観形成建造物の指定を受けても何の得もない。 規制があるだけ面倒だと思う人は多い。 しかし、弊社は、景観形成建造物の指定を受けていたので、被災文化財等復旧復興事業の補助金を受けることができた。 文化財でなくても補助金の対象になった。景観形成建造物の指定に躊躇している人は指定を受けていた方がよい。 景観保全が目的なので、目的がしっかりしていれば、内部の増改築は自由で、外部も概ね1/4は改装可能だ。 補助金は工事費の2/3をいただき、 長寿命化にもなったので、地震があって得したと思っている。

【排水管】 2月1日
昔の排水管は土管で、土管の周りを土と石灰で固めてあった。継ぎ目は特に頑丈な施工だ。工事の施工は大変だったと思う。 しかし処分は簡単だ。近代の排水管の施工は簡単だが、役目を終えた塩化ビニールの処分は大変だ。

【市庁舎建て替え事件1】 2月14日
市は熊本地震による熊本市庁舎建て替えをゼロベースで考えると宣言した。震災後、 現庁舎の構造計算を安井設計に依頼した。 地下構造物の杭は59本が致命的な被害をうける。上部建築物は「現行の建築基準法の耐震基準」を満たさないとの結果だった。 計算書の検証を今度は山下設計に依頼した。 そしたら159本の杭部が上部構造を耐えられないとの結果だった。 次に震度6強の地震が来たら倒壊の恐れがあるので市民の命を守るための建て替え論をと市長は言い張った。二つの事務所が計算した杭断面積は3割も違うし、本数も違う。その二つの計算書に疑いの目が向けられた。 本当に危険な建物だったらゼロベースなんて言っている暇はない事案だ。耐震性では勝ち目がないとみて、別の論理で建て替えた方が安くつくという経済論に転換する作戦かもしれない。 大事務所を巻き込んだ疑獄の匂いがする。 小説にもなりそうだ。

【市庁舎建て替え事件2】 2月16日
税収1000憶円の熊本市が、400億円もの巨費を費やし、市庁舎を建て替えるという。 熊本県庁舎は、熊本地震により外装材だけでなく、構造体にも被害を受け修繕した。 県庁舎より震源地は遠く、築後38年と新しく、被害は全くないのに、 市庁舎を建て替えるというのは疑問が多い。まずは、熊本市への恨み節から始める。 熊本県内で一番美しい建物は村野藤吾設計の 「熊本水道局」 だった。 その建物を耐震不足で解体した。今思うと耐震不足に対し抗弁はできた。 軒の出が2m以上あり美しかった。その部分が耐震不足だったのは理解できるが、その下は昔池だった。軒が落ちても人命には影響はないはずだったと今思う。次に三菱地所設計の「産業文化会館」の問題。 コンクリートの塊みいな建物だった。 確かに、市民の人気のなさはコンクリート柱が大きすぎ使いにくいという話はあったが、 耐震不足という理由には唖然とした。次に、山田守設計の「花畑別館」は、3階建てに4階が増築されていて、その増築部が熊本地震で壊れた。 貧弱な増築の4階部は壊れるのは当たり前で、 4階部だけ除去すればよいものを全て解体された。とにかく修繕より解体が好きな熊本市にこれ以上、耐震不足を理由に解体させたらいけない。

【市庁舎建て替え事件 3】 12月18日
熊本市は所有する公共建築物の長寿命化を図る政策を打ち出し、築後38年の市庁舎を70年使おうと、 耐震性能評価を行うことにした。設計者は競争入札で一番安い費用を提示した大阪の安井事務所が落札した。2社で検討という話も出たみたいだが、いつの間にか消えていた。 平成30年3月に報告書は出た。「現行の建築基準法の耐震基準を満たしていない」という文言は報告書のどこにもないが、市はそのように解釈した。長寿命化するための耐震性能評価だったはずが庁舎建て替えの理由にされた。ブラックジョークみたいだ。


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【市庁舎建て替え事件4】 目標値を高くしたらOUT 2月19日
2018年3月の建て替え計画報告書は、市庁舎を防災拠点にした場合の目標値で検討してある。 つまり俗にいう等級3である。 現行の建築基準法の耐震基準の1.5倍を目標としたものなのに、このことを市は、「現庁舎は現行の建築基準法の耐震基準を満たしていない」と発表し、すぐさま建て替えを前提として話を進めた。 そのとき市は「既存不適格」という言葉を使った。「既存不適格」は1981年に建築基準法が改正になり、それ以前の建築は当時の耐震基準に適合していたが、 法律が変わることで、適合しなくなった建物のことである、 違反建築物と言わずに「既存不適格建築物」と命名した。 この 「既存不適格」という言葉が議員や市民を惑わした。

【市庁舎建て替え事件 5 】 既存不適格2月21日
「既存不適格」=「現行の建築基準法の耐震基準を満足していない」と多くの人が思っている。 60m以下の建物は、「既存不適格」=「現行の建築基準法の耐震基準を満足していない」 と思ってよい。 しかし、超高層建築は時刻歴応答解析を行い、 38条申請での確認だった。 その38条申請が建築基準法からなくなったので「既存不適格」となったのだ。現行の建築基準法の耐震基準を満たしていないことではない。それを60m以下の建物しか扱っていない熊本市は「既存不適格」= 「現行の建築基準法の耐震基準を満足していない」と解釈し、建て替え路線まっしぐらに進んだ。既存不適格には二つの意味がある。 耐震性は十分だが既存不適格の建物は、熊本県内ではおそらく市庁舎1軒のみ。

【市庁舎建て替え事件6】 告示も建築基準法 2月23日
「既存不適格」のことではないが、 建築基準法の中身を見てみよう。別記載なので複雑である。 超高層建築物の耐震基準は建築基準法告示1461号「超高層建築物の構造耐力上の安全性を確かめるための構造計算の基準を定める件」とある。 その中の四のハは「極めて稀に発生する地震動によって建築物が倒壊・崩壊等にしないことを運動方程式で確かめること」とあり、明確な数字は示してない。 60m以下の建物には数値がある。極めて稀に発生する地震動の場合 1/75 である。この条項を満足していれば「現行の建築基準法の耐震基準を満たしている」になる。1/100のことでなない。 熊本市にも建築指導課はある。よくみてほしい。

【市庁舎建て替え事件7】 地震地域係数 2月25日
38年前、 熊本市長は星子敏雄で、名市長だったと聞く。星子市長は「とにかく庁舎は頑丈につくれ」と号令を掛けたのだと当時を知るものは語る。それで旧市職員はあの庁舎が耐震不足とは信じられないと言う。しかし表には出たくないそうだ。 構造計算には地震力に係数を掛ける。1.0 ~ 0.7まであり、係数が小さいほど耐震壁は少なくてよい。 当時、建築地の地震地域係数は0.8だった(今は0.9 である)。 それなのに庁舎の構造計算では1.0を使っていた。 25%増しの計算をしていたことになる。住宅でいえば耐震等級3である。 普通、構造計算は建築費のコストダウンのためにギリギリを狙うものだが、 25%増しの計算は市長の号令があったからだろう。

【市庁舎建て替え事件9】 巧みな屁理屈 3月1日
熊本地震のあとに、無傷の建物を建て替えるのは聞いたことがない。 補強工事をすればよいと誰でもが思う。 熊本市の耐震改修案では多くの杭を追加して打つそうだ。 建物より10mも離れた電車通りの場所まで必要とのこと。 補強工事の絵を見てほしい。5m手前にして、地下を貫通させれば電車通りまででなくてよいではないか。 地下は売店や食堂である。 近くは商店街で、売店や食堂がなくなれば商店街は喜ぶ(後日、この改修案に疑義が生じる…)。

【市庁舎建て替え事件 10 】 火事場ドロボー 3月3日
住民説明会のとき、地下室を犠牲にすれば、電車通りまで工事範囲を広げなくてもよいではないかと質問した。 「利用面積を縮小せずに補強工事の設計を依頼したのでこうなった」との返事だった。 建て替えありきの耐震補強案と言われても仕方がない。 すでに、 新築計画案が立てられていた。現庁舎の延べ面積は4万㎡。着々と進んでいる白川公園での新庁舎の建物予定面積は5万㎡である。 その設計図を山下設計がつくっているのは偶然ではあるまい。 疑惑の匂いはするが証拠がない。数年前に、東区庁舎、南区庁舎、 西区庁舎ができたばかりだ。人口は減るのに、どうして市は膨張し続けるのだろうか。 庁舎建て替え拡大計画は火事場ドロボーに似ている。熊本はドロボーだらけだ。

【市庁舎建て替え事件 11】 市長のトンチンカン答弁 3月5日
立て替え理由について、「当初の“市庁舎は防災拠点の基準を満足していない”から、“現行の建築基準法の耐震基準を満たしてない”に変わったのはどうしてか」と藤本議員が質問した。 これに対し市は「現行の建築基準法において、超高層建築物は一般施設も防災拠点も、必要な耐震性能の水準は同じである」との答弁。 超高層建築物の耐震基準は告示1461号である。 そんなことは基準法のどこにも書いてない。そもそも、建築基準法には防災拠点の定義・言葉はない。 法を指導する立場のにトンチンカン答弁だ。 市職員は御進言さえできないようだ。 庁舎建て替え路線にまっしぐらだ。もうひとつ。 現庁舎は築後40年の建物なので修繕費が220億円かかる。 新庁舎は床面積2割増しで、 390億円なので、経費が安いという数値が出た。 安っぽい建売業者が新築を勧める費用対効果のトンチンカン論理を使っている。 この手品に議員さんは騙されないようにしてほしい。

【市庁舎建て替え事件 12 】 告示波モード 3月7日
2019年6月発行の「本庁舎の耐震性能の不足と建て替えの必要性について」を見てみよう。 改修時目標基準は国交省基準に基づき作成した市所有建築物耐震対策基本方針の目標分類 「耐震性能」類」としている。目標値を市の独自の判断で最高値の 「耐震性能 「類」にしたのだ。建築基準法の1.5倍相当だ。 そして、 層間変形角1/100とした(震度6強の地震で1/100以上傾くこと)。 ここでいう「現行の基準」 は 「現行の建築基準法の耐震基準」ではないのだ。 巧みな表現は詐欺にも似ている。騙しなのか、そうでないのか市民に判断してほしい。 地震にはいろんな種類があり、観測波5つ (熊本地震波を含む)、 告示波3つ、 サイト3つ、長周期波1つを入れた。そしたら、告示波3つの層間変形角が1/71 ~1/75となり、 1/100を超えているので建て替えという方針を出した。 地震波で多くを使用することは悪くない。M先生をはじめ熊本の3人の学識経験者はこの図を見て、 告示波だけで、急激に7階あたりで大きく層間変形角1/100を超えているのはおかしくないかと、質問している。構造計算を行った安井事務所は「問題ありません」と返答した。 3人の学識経験者も7000万円もかかった計算を検証するわけにはいかない。それで、このデータを超高層を日本で一番多く構造設計した「齋藤幸雄」氏に見てもらった。これからが建築物疑惑解明の始まりだ。

【市庁舎建て替え事件 13 】 2次モード 3月9日
「H29年度熊本市本庁舎整備計画」の中の層間変形角図を見た、齋藤氏の発言内容。 「高さ60mを超える建物は時刻歴応答計算を行うのに地震波をいれる。 地震波の中の観測波とは実際に発生した波である。熊本では、地形や地質を考えると、 実際発生した熊本波が一番適切だ。告示波は、2000年に、どこでも当てはまるように人工的につくった波で不具合も多い。 超高層と普通の建物の境目である60m付近では、地震波が1次モードと2次モードの混乱が起きている。 1次モードとは単純に振り子の動作であり、 2次モードとは蛇みたいにくねくねスタイルになることで、スカイツリーなどの解析で有名だ。 報告書の告示波の解析では2次モードが起きているようだ。 60mでは発生しにくい。 告示波は地形や地盤を考慮していなく、想定の与条件が多種にわたり、 結果が大きく違う。結果がこうなりましたではなく、大きく違うなら原因を突き留めなければならない。 見直しが必要だろう」という見解だった。

【市庁舎建て替え事件 14】 参考人招致 3月12日
市当局は2019年8月に齋藤先生を参考人招致することになった。日当は8,000円である。 「本庁舎の耐震性能の不足と建て替えの必要性について」の報告書に対する意見だったが、 齋藤氏は基礎の図面を要求した。執行部は言われるまま基礎の図面を送った。 それが1回目の大発見とつながることになった。 なんと基礎の図面に深さ19mの地下連続壁があった。 このことは報告書にも書いてないし計算にもいれていない。報告書をチェックした熊本の学識経験者も知らない。 隠すつもりだったのかもしれないが、文系の職員が齋藤先生に地下連続壁に図面を送ってしまったのだ。 一つを疑ったら、 全てを疑い、戦いの始まりとなった。そしたら、執行部は、 建て替え賛成の高橋治教授を8月末に参考人招致することになった。普通、天下の大先生が、 耐震性能は十分だといえば、その方がよいのだが、 なにがなんでも執行部は建て替えたい意向だ。時系列より、意見比較がわかりやすので、次回から両論列記で説明する。市庁舎建て替え事件 15 地下連続壁 3月14日深さ19m。厚さ60cmで70m×70mの連続壁を計算に入れていないことについての見解。齋藤参考人:建物外周の地下部分に基礎杭を取り囲むように連続壁があるため、基礎杭が中間層で損傷を受ける可能性がなくなる。高橋参考人 : 地下連続壁の効果はゼロではないと思う。それを使用するには、JIS材しか認められないので、それ以外の材料を使うには必ず大臣認定が必要だ。 計算書をきちんとまとめて法的につくるとなると、ちょっと手を出せないという気がしている。執行部の見解 : 地下連続壁による基礎杭への効果に関する構造理論や計算方法は確立されていないため、基礎杭が中間層で損傷を受ける可能性がなくなるとは断定できない。 また、連続壁に用いるコンクリートの品質は不明である。仮に連続壁を建築物の基礎として評価を行ったとしても、品質が不明である連続壁を構造計算に反映させることはできない。天の声 : 単純に、計算すればよい(結果として2020年に山下設計に計算を依頼することになる)。 JIS材ではないから、計算にいれられないというが、当時の施工でJIS材ではないコンクリートを使用したであろうか。当時の建築技術者を冒涜する発言である。 なにがなんでも解体・新築したい執行部の見解である。

【市庁舎建て替え事件15】 建売業者理論 3月16日
昨日、熊本市はマジック収支を発表した。 設備の修繕に220億円、新築だと390億円と言っていたのが430億円にはねあがった。 そして子どもだましのような収支を発表した。 打ち出の小槌みたいな計算書で市民の理解を得られるのだろうか。 熊本市は、市内すべての建物や施設の修繕費を真面目に払えない状況だ。 なのに、 支払いを長期ローンにすれば払えるという論理だ。 ローン地獄の状態の人に、 「家の家賃が払えない状態でしょう? でも建売を購入したほうが安いですよ」という安物建売業者販売理論と同じではないか。


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【市庁舎建て替え事件18】地震被害の見解 2  3月22日
Q1. 告示波を採用することについて
齋藤参考人
:告示波は人工波で地盤が均一なことが条件だ。 現状の地形を考慮したサイト波や熊本波が信用できると思う。 告示波は2次モードが作用している。 日奈久断層を震源とするサイト波による応答が最重要である。 他の入力地震動は現実的に意味をもたない。
高橋参考人:告示波は信用できる。100人の専門家のうち99人が告示波を採用する。告示波で1/71を示したので、震度6強の地震では、建物の安全性は保てない
執行部:告示波は無視してよいかと全国12の指定性能評価機関に聞いたらと告示波を無視してよいとは言われなかったと報告。
天の声:告示波のかわりにサイト波でもよいと告示1461号には明示してある。条件を提示せず、 告示波の必要性を問うたら必要という答えがくるのは当たり前。
Q2. 耐震補強は可能か
齋藤参考人
: 耐震補強は必要ない。
高橋参考人 : 補強はコストがかかりすぎて、建て替えがよい。Q3. 杭の損傷について齋藤参考人:損傷限界(震度6強)において、建物が倒壊・崩壊の恐れがないことが基準である。よって、基準を満足していると考えるのが妥当である。
高橋参考人:計算で杭が致命的損傷を受けるとなっているので、建て替えるべきだ。
天の声:令和2年報告書で杭の断面積が3割も違うことが発覚した。 それでも、市は結論は正しいという。 計算式が間違っていて、 答えは正しいとは小学生も理解不能。

【市庁舎建て替え事件21】 熊大名誉教授三井氏の発言 3月28日
熊本在住の学識経験者であるM氏に、熊日の記者がインタビューを行った。記事内容は、 「告示波を用いた解析で変形が基準を超えたたしても、危険な違法建築ということではない。 市の調査では基礎の杭が『次の震度6強では大きく壊れる』 となっているが、 多数の大口径の杭が厚いコンクリートで囲まれており、地中の途中で折れるような力が加わるとは考えにくい」と発言している。 この重大発言をどうして執行部は無視するのだろうか。 市の見解は「現行の建築基準法の耐震基準を満たしていない」と壊れたレコードみたいに同じ言葉の繰り返しである。

【市庁舎建て替え事件22】 科学か金か 3月30日
特別委員会で原口議員が「建て替えたい方針の理解を得たいなら、齋藤氏が要請した調査を実施すべきだ」と議会で主張した。 執行部は建て替え基本構想の策定と並行して 「建物と杭の一体検証」と「地下連続壁が杭に及ぼす影響」の調査を行うと約束した。費用は3千万円。設計事務所に6社に入札打診をしたら、 現建物を設計した山下設計1社しか応札がなかった。 建て替え基本構想は素案があり一番の有力候補は「白川公園への移築新築」だ。後でわかったことだが、 その策定は山下設計に依頼していた。 建て替えないための杭調査と新築のための基本構想とどちらが先に依頼したかはわからない。 高額な調査設計なのに降りた。理由は藪の中。 山下設計の幹部は、 先輩の設計に泥を塗って400億円の建物の設計か、先輩の設計を慎重に精査して3千万円か、どちらを選ぶかの判断をしなければならない。科学か金か。

【市庁舎建て替え事件27】 再検証の内容 4月12日
7000万円の設計費用をかけての報告書に疑問を投げかけたら、3000万円の2回目の耐震診断を行うことになった。

【市庁舎建て替え事件 32】 杭の数がおかしい 4月30日
2回で1億円の費用をかけたのに、 令和2年報告書は、安全性が高まるかと思ったら逆に低くなった。 不思議だ。事件性が深まる。 共産党の上野議員が直接、図面を見て杭の大きさと数を確かめたら、なんということでしょう。H29年報告書とR2年報告書では杭の大きさと数が違うのだ。 違う原因は、H29年報告書は安井設計が設計図書を検証し、 R2 年報告書は山下設計が竣工図を検証したからだ。 竣工図とは実際建っている建物の図面であり、永久保存義務である。 設計図書と竣工図が同じ場合もあるが、 検証するなら竣工図で検証すべきだ。執行部が平成29年に安井事務所に設計図を渡したのが、大きな間違いの原因である。誰も追及しない。執行部の「結果が同じなので同じことだ」という理由は理解しがたい。

【市庁舎建て替え事件36】いきなりゼロベース 5月20日
令和3年度に新市庁舎の計画基本構想を予算組する予定だった。 それを急に市長はゼロベースで考えると言い出した。 「今出されている疑問に対して正しく検証していただくことは重要。本当にそれが正しいものなのか、異論も出ていることであって、 専門家から呈された疑問をきちんと解明していかなければ前に進めるわけにはいかない。 そこから有識者会議に専門的見地から意見を聞きたい」と発言した。 また、有識者会議の委員には、防災や財政、まちづくりの専門家など10名程度想定していて、800万円の予算計上を新年度に行った。


小さな町 川尻の震災報告51

【震災報告一区切り】 2021年7月25日
「[小さな町川尻の震災報告] 802」まで続けてきたが、 震災関係はほぼ完了し、5年間続けた建物の修繕記録をまとめている。 今後は、 5年前に戻り、伝統的構法のこと、 川尻町のことを報告していく。 「くまもと型伝統構法設計指針」による建築確認の第1号が下り、 基礎が完了した。 基礎はフラットスラブである。 今から石場建の建物を建立する。

【海抜3mの住まい】 2021年7月27日
海抜3mの地にどうしても住みたいという施主の要望に応えた住まいだ。ハザードマップの浸水はGL+3m。 床は上げたが限界がある。 生活スタイルは平屋建てだ。屋根を入母屋にして、小屋裏をつくる。 妻面から屋根に上がり、旗を振り、ヘリコプターで救出の計画。

【告示690号】 2021年7月29日
伝統的建築が建てられるようにと2016年に、告示690号ができた。平屋の場合は、限界耐力計算法に頼らずとも、 建築確認が可能である。この建物は仕様規定での石場建である。暑いので土壁の乾燥が早く、冬の10倍くらいだ。 荒壁の乾燥期間をマニュアルにしてくれと言われれば「5日~2カ月」と幅が広くなる。

【床を高く】 2021年8月3日
床を高くしたので、 通し柱と床束に貫を入れた。高すぎると階がもう一つ増えることになり、 計算が面倒になる。

【福大の学生】 2021年8月8日
伝統構法を卒論の題材にするという福岡大の学生さんがたずねてきた。今時、めずらしい。 学生さんの実家は対馬で、祖母の家は90年経過していて今も健全だという。金額の話をした。[A]対馬のおばあさんの家を伝統構法で新築すると、今の金額で建築費3000万円ぐらい。昔の家で当時から耐震性不足3割、 経年変化で3割弱くなっている。 壊すのでなく修繕を選択すれば、経年変化補修と耐震性アップで1500万円。設備も変えればプラス500万円。 民家再生工事で60年は延命する。 つまり、 150年で5000万円の建築費となる。 修繕時のゴミはほとんど土と木だ。[B]最近の合理化住宅(早い、安い、 今だけ)は2000万円。耐久性が30~40年。5回つくり替えれば、 150年で総工事費は1億円となる。 埋め立てゴミが多量に出る。 常に新品なので、きれいな家に住み続け良いことのように見えるが、新建材が多く、常に24時間換気扇を回しての一生だ。量産家具店の家具を買っては捨ての生活と同じことだ。 もちろん、梱包も多く、自分は知らないうちに建築梱包によるマイクロプラスチックを拡散していることになる。日本はエネルギー枯渇ではなく、 ゴミの捨て場がなく、ゴミに埋もれて沈没の可能性が高い。

【唐辛子とインゲン】 2021年8月10日
事務所前の花壇を野菜畑に変更した。唐辛子とつる無しインゲンを植えた。 みるみるうちに成長する。 農家や漁業の人たちのそれぞれの食の特技と、私の建築の特技を交換して生きているので、少しでも農を理解したいと思う。 食材が地球を1周して運ばれるのは不思議だ。 建材もそうである。 地球の反対側の木材不足が日本に影響するのは異常である。

【ウッドショック 12021年8月12日
林産国ニッポンが自国の木はつかわず、 外国からの輸入材を多くつかう。最近木材の自給率が40%に増えたと喜んでいる人がいたが、なんと合板の材料自給率が80%と増えたからだ。梁に至っては国産材自給率10%である。 アメリカの木材バブルは下火だ。 今年の4~5月ごろ、国産材の使用を見直し、環境面でも国産材を使うべきと多くの人が言っていた。その人たちの同じ口から、 今後どんなメッセージが発せられるだろうか。

【ウッドショック2】2021年8月14日
各国とも自分の国の産業を守るために関税を掛ける。 牛肉やコメなど、農産物はほとんど関税がかかっている。 日本は加工国なので貿易黒字が進む。鉄を輸入し車が売るとそうなる。 代わりに、外国が喜ぶものを買わなくてはならない。日本国は「木材」を差し出した。 力のない木材業界からは表立った文句は出ない。それに、「国産材は質が悪い」と思いこませた。国は性能表示が問題だといって「JAS」や「合法木材」や「FSC」制度をつくったが、 経費が高くなり川中コストが上がっていった。川下も「ヤング率」や「含水率」に興味を持つようになった。 この2項目だけを品質の基準とすれば外国産集成材が優れていて、 国産材は質が悪いことになる。木材使用の主流は梁・桁などの横架材である。 今年6月、国は「林業白書」を発表した。 横架材の国産材利用はわずかの10%である。JASどころではない。「林業白書」は日本の廃れ行く山事情を克明に分析してある。 死んでいく兵隊さんを数えるだけである。 弾の1発でも撃ってほしい。いま、ウッドショックをウッドチャンスにするには輸入木材に関税を掛けることである。

【ウッドショック3】2021年8月17日
外国産木材がかなり値上がりしている。 国産木材は、今まであまりに安すぎたので、ウッドショックに便乗して、 川上側が値段を上げるのは良いことだ。 杉の原木は13,000円が17,800円になった。 37%アップである。しかし、加工した国産杉柱1本は、2,600円が5,000円と超高値である。誰かがものすごく儲かっている。 複雑な木材価格システムで暴利犯の像は見えない。

【後藤治特別授業】 2021年8月19日
人吉に後藤先生が来られたので、急遽課外授業が始まった。 生徒は6名。専門は歴史の先生だが、基準法のこと、構造のこと、温熱のこと、まちづくりのこと、防火のこととマルチ学者さんだ。今回は防火のことで、 人吉に来られた。普通、 専門家は自分の分野だけに没頭する。部分研究を否定はしないが、マルチ学者さん以外は表に出ないでほしい。建築はあちらが立てばこちらは沈むことが多い。 ガンの名医が「ガンの手術は成功しましたが、 患者は死にました」 の例が多い。 特に温熱学者には多い。

【平均年齢】 2021年8月25日
えつり職人鹿本グループの平均年齢は78歳である。 80過ぎまで働ける勢いだ。 日本の平均寿命は世界でも長い。しかし、定年は外国と同じだ。年金がおかしくなるのは当然だ。政治家も官僚も、 在籍を重要視し、将来のことは考えず、 今だけの成果を出そうとする。 鹿本グループを見ていると、 自分もいつまでも働ける気がして元気がでる。 片方、 20・30代の左官が9人もいる吉田左官グループはえつりの訓練をしている。

【建て起こし】 2021年8月27日
築100年の建物である。 壊して、最近の住宅2000万円の新築より、 再生費用に2000万円かける方が長持ちすると確信している。 目視で理解していただくためのモデルハウスである。

【土蔵の中の室温】 2021年9月1日
外気温は32℃、 室内は 29℃。 中間域31 ℃、 30℃。 わが事務所は壁厚20cm を越える土蔵造である。 グラスウール2cm相当の断熱材に匹敵る。窓はない。よって風はこない。 3℃低いは断熱の効果ではない。1日の平均気温を保持しているだけなので、夕方は外気より3℃高い時もあるだろう。倉庫としては良いが、 住宅としては快適ではない。窓を閉め切って室温だけ下がるのを良しとする現代生活に疑問。

【極めて稀に発生する洪水】 2021年9月13日
民主党政権のとき中止になった川辺川ダムが昨年の人吉・球磨豪雨被害を受け、再度建設されることが決まった。 でも、 昨年の降雨量では、ダムをつくっても、500年に一度の洪水制御はできないと発表した。それで、県は、 「500人に一人しか合格しない試験問題より999人を救うことが大事」と、的外れのたとえ話をした。 成果がでないダム建設を遂行するつもりだ。お金がありすぎる日本の対処だろうか。 お金がない国は、洪水対策の工事費用が高すぎるので、各家庭にボートを支給し、日頃はボートで遊んで、 災害時は逃げて命だけは救い、 建物は後で補償するほうが安くつくという対策を聞いたことがある。 川辺川ダムの建設費は被害予想者に配分すれば1軒1億円に相当する。

【曲がり梁】 2021年9月19日
20坪の小さな家を完成させた。構造体はできるだけ見せる方が良いという真壁である。 柱は真直が良いが、 梁は曲がっていてもよい。 逆に曲がり材を使うとお客さんに喜ばれる。しかし、曲がり材が山で取れない。 曲がり材は安くたたかれるからと小径木のとき早々とチップ材にしてしまう。よって、最近は少ないのだ。その内、針葉樹で曲がり材は日本にしかないと高級材になるかもしれない。その前に、密閉住宅が増え、 国産の梁を露出する家は全体の2%と林業白書に書いてあった。

【マイクロプラスチック】 2021年9月24日
マイクロプラスチックの認知度があがったが、レジ袋とストローだけと思っている人も多い。 ペットボトルはリサイクルに出し、プラスチックは燃えるゴミにきちんと出すので、日本ではマイクロプラスチック問題は少ないと思っているのではないだろうか。 建築には石油製品を多く使う。 例えば建築の外壁塗装だ。劣化するとボロボロ落ちる。 それらは雨が降ると側溝に流れ、海へ行く。まさに海に流れ行くマイクロプラスチックの見本のようなものだ。外壁板仕上げの場合は含侵塗料を、 塗り壁だったら漆喰を使おう。


小さな町 川尻の震災報告52

【ウッドショック】 2021年9月27日
消費者4組とツアーを組んで、 葦北・水俣の大関山に行った。
消費者…「ウッドショックで木材が2倍3倍に値上がりして相当儲かったでしょう」
林業家・・・ 「木は夏には切りません。彼岸(3月) から彼岸 (9月)まで、 昔から、 夏は切るなといわれています。 自分の家を建てるときも夏切りはしないので、消費者の家の木材もそうすべきと考えています」
消費者…「木材のイチは開かれ、セリで価格は決まるでしょう。 高値なので夏切り材を出す人は多いでしょうか」
林業家…「夏切り出荷品も少なくありません。杉はだいたい平年の3割高だったそうです」
消費者…「材木店では10割高といっていますよ」
林業家・・・ 「山の原木は40年前の価格の1/4ですが、 末端木材価格はいろんな制度や検査がくっついて2倍の価格になっています。 いままで、 値上げと値下げがあり、値上げが3,000円だと値下げは4,000円のシーソーゲームの繰り返しで下落していきました。私たちはもう騙されません。」「ウッドショックの名のもと、 誰かが相当儲かっていますよ」とつけ加えた。

【ゼロエミッション】 2021年9月29日
京都市は財政難から観光地の「無電柱化」を断念したと発表した。国は2050年にゼロエミッションを計画している。家の造り方を高気密高断熱仕様G3レベルにして、太陽光発電を義務化すれが、ゼロエミッションが可能という。そしたら、電柱も不要となり、慌てて、 無電柱化をしなくてもよいのではないかと思う。省エネ法を義務化すれば、 ゼロエネルギーの生活が全国国民でできると本気で考えている変な政府。新首相は学者さんの意向を組んで、空想社会を論じている。

【昨年の台風10号の記憶】 2021年10月1日
台風は毎年やってくる。 1年過ぎると昨年のころは忘れてしまう。昨年の台風10号は920mb、 そのままの勢力で上陸すると言われていた。ガラスに貼るための養生テープがHSから消えた。 強化ガラスや雨戸対策は無駄だ。風速70m だと家ごと飛んでしまう。 アメリカの竜巻みたいな力と予想されたが、上陸の2日前に急激に勢力は落ちた。 被害は長崎県の一部だった。本土に近づくと勢力ダウンするものかと思っていたら、数日後、仕組みが発表された。台風9号が先に来ていて、海水をかき混ぜ、水温が実は2~3度下がっていた。 そのため、 あとに来た台風10号の勢力が落ちたという理由だった。 もし、 台風9号がなかったら、 台風10号は920mbの勢力で上陸したかもしれない。 いずれ、強大台風は本州にやってくる。 災害に対して、 平屋が良いと言ったり、 2階が良いと言ったりしているが、今度は地下室かな。

【木材の接合】 2021年10月8日
梁が、X・Y・Zと複雑に絡み合っている。大工職人の頭の中は、線に置き換えて単純に理解している。 設計者は2次元でしか理解できないが、大工職人は立体で認識している。プレカットは、設計者と同じく2次元の範囲の中でしかコントロールできない (中大建築物では高度なプレカットソフトはある)。

【建築の寿命】 2021年10月13日
人間は、臓器を部分的に治し延命をはかる。 手術が手に負えなくなったり、病名不明の場合はご臨終となる。 東の柱は10本中1本が病気。西の柱は10本中10本が病気。建築の場合は、柱を追っ掛け大栓継などの治療で、健康体を取り戻す。最近の家は合理化が進んで、 不都合が生じても大壁で原因把握ができない。 病名不明で治療ができず、 解体する家が多い。 よって短命になっている。「頑丈な家より修繕可能な家が長寿な家」は熊本地震から学んだ教訓。

【事務所農園】 2021年10月15日
事務所の前に12株の唐辛子を植えた。自由にお取りくださいを掲げたら、結構なくなる。 しおれたころまた花が咲き、また実を結ぶ。 結構長持ちする。下部にイチゴを植えた。来春は実を結ぶだろう。小学生の通り路なので、なくなるのは早い。採るのは「小学生限定」にしよう。

【災害と林業】 2021年10月18日
昨日、人吉市において、「災害と林業」というシンポジウムがあったので聞きに行った。昨年、人吉・球磨豪雨による災害が、はたして自然によるものだけなのか、という話だった。 皆伐 (山の木を広範囲に一度に切る)と植林しても15年以内の場所の崩壊が、 全崩壊の94%、 放置林の崩壊は6%、という報告だった。 山の手入れは、変なことをしているのではないだろうか。むしろ手入れしない方がよいのではないかと思った。 合理化のために、幅広の作業道をつくり、大型林業機を入れる。 大型投資をして、わずかな伐採コストは下がるが、 豪雨があれば、 また土木事業に金がいる。 最近は太陽光発電やバイオマス燃料など「善顔」の環境産業が山に入ってきて複雑化している。 そんな中、 「自伐型林業推進協会」という組織が、 微力ながら山保全のために活動している。

【 古材愛好者】 2021年10月20日
川尻六工匠では民家再生のために、古材を補足材用としてストックしている。新築希望者でも一部に古材を使ってほしいという要望は多い。古材をストックは結構経費もかかるので、 新築古材希望者にも販売して、ストック経費を捻出している。 古材素材をみたら、良くは見えないが、 あとで黒ベンガラを塗れば見違えるように変身する。

【築26年目の木の浴室】 2021年10月23日
木を浴室に使えば腐ると思っている人は多い。横に使うと腐りやすいが、縦に使うと耐久性は伸びる。 縦板の最下部に横見切りを入れたら駄目。 タイルより少し出し切り離す。木のまな板を20-30年使っている家は多い。まな板は1日3回使い、3回乾かす。 浴室を1日1回使い、 1回乾かせばよい。

【ゼロエミッション】 2021年10月25日
エネルギー消費量削減は大きな社会問題である。 創エネ等を駆使し、2050年にはCO2排出量をゼロにすると各政党は声高にいう。生活レベルを落とさずに生活しているゼロエミッションの家を見たことがある。普通の家より700万円高である。 ほとんどが機器頼みであった。 2050年には瞬間的にゼロエミッションは達成するが、2051年からは機器廃棄物のゴミの山ができる。

【省エネからゼロカーボンヘ】2021年11月5日
10年間省エネ住宅にかかわってきたが、最近、 分からなくなっている。いままでエネルギー消費量削減が目標だったものが、 CO2排出量ゼロに変わってきた。 ゼロカーボン、 カーボンニュトラル、ゼロエミッション、ゼロエネルギーの区別が付かない。 ZEHとはネット・ゼロ・エネルギーハウスのことだが、ZEH仕様にすれば、 エネルギーがゼロになるのだろうか。ZEH仕様の定義は、断熱性能をUA値0.6まで上げて、 家電・厨房を除く暖冷房・換気・給湯・電気のエネルギー消費量を2割削減することだ。ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー)とゼロエネルギーは大きく違うと思えるが、よくわからない。

【林務課主催による阿蘇地方の建設会社の見学会】2021年11月6日
県の林務課が、 阿蘇地方の建設会社の人を連れて、伝統構法の建物を見学にきた。木材の需要拡大のために新しい工法、新しいシステム、新規事業に、行政の応援というが、新規事業を開発すればするほど山は廃れる。末端購入者(設計や大工)が山にはいり、 必要な材料だけを切るのがよい。 現在、山の木は市場や乾燥場にもっていくために6回も運ぶ。 水を運んでいるようなものだ。 直接山から買えば運ぶのは製材所だけなので2回ですむ。

【木村原木価格】2021年11月13日
木材の原木価格はA材~D材に分類される。D材は枝などで、山ではゴミ扱いだ。価格は1,000円/㎡だが、搬出手間を考えると、山に放置した方がよく、山の肥料にもなっていた。 それがバイオマス発電所の増設で3,000円 / ㎡ 売れるようになった。 ゴミが売れるのだ。 ある程度売れるのは良いが売れすぎると困る。 山のゴミは10年で供給不足になることは、明白である。山に誰も肥料をやらないのに木が育つのは自己肥料である。取りすぎると肥料はなくなり、山はやせ細る。 斜面崩壊で、 太陽光発電設置に批判が集まり、次にバイオマス発電に賛成意見が向いている。D材はゴミではなく有限資源である。 不足すれば、 購入価格があがり、C材、B材へ向く。 林産県でない県は、 木材を燃料としたバイオマス発電所をつくるべきではない。

【品川再開発】 2021年11月22日
東京へ2年ぶりに行った。都市は肥大化し過ぎて、建物を建てる空き地はない。そこで、 再開発事業を行う。 法律で、 容積率や高さ制限を緩和し、少ない税金で、 民間にスクラップアンドビルドをさせて、 経済成長をさせようとする仕組みだ。まだ使える建物を壊し、新規建築物を建てるエネルギー消費量は相当なものだ。 渋谷に負けじと品川も再開発を始めるみたいだ。腫物と同じで大きくなって、いつか潰れる。

【短絡的基準法改正】 2021年11月24日
断熱化のために3階建ての高さ制限13mを16mに建築基準法改正するという。断熱材装填やダクトのためだそうだが30cmもあれば十分なのに、3mも増やす。緩和法なので、文句をいう建築士はいない。国に、声の大きい断熱専門家の忠言だろうか。 3mも増えれば設計士は考える。吹き抜けをつくっておいて、後で床を張る。大きなロフトにして、後で天井を剥ぐ。簡単に4階建てが建てれる違反建築が増えることは、想像できる。壁量計算という簡略仕様規定があるが、 係数 50が55ぐらいに増えるだろう。構造上に迷惑、景観に迷惑をこうむる人が多くなる気がする。


小さな町 川尻の震災報告53

【きずり漆喰】 2021年12月1日
石膏ボードの価格が上がっている。安いので養生シート代わりに使ったりもしている。 管理型処分なので、処分費が高い。 最後は埋め立て、ゴミなので永遠に埋め続けてよい商品ではない。 みんな後ろめたさを感じつつ使っている。そもそも、昔はきずり漆喰だった。 きずり漆喰の強度試験を熊本県立大学北原研行った。今回で4度目あるが、まだ思うような結果が得られない。

【天草での石端建住宅】 2011年12月7日
天草での「くまもと型伝統構法を用いた設計法」の住宅を棟上げした。 田舎だと伝統構法の家づくりが残っているかと言えば、そうではない。建築基準法は隅々まで行きわたっていて、近代工法に入れ替わっている。墨付けは73歳の池田大工。伝統構法の復権は、 まだ間に合うという思いの熊本県の「くまもと型伝統構法を用いた設計法」だ。 施主は88歳。 財産は子どもに残すより、生きているうちに使い切るものという考えによる建築行為だった。 棟札は施主が書いた。

【畳座】 2021年12月9日
二間続きと言えば東西が多いが、使用頻度の低い座敷であれば、 居間畳と南北の二間続きがよい場合がある。 北隣地との距離があり、庭木があれば最高である。畑を通りぬけた南風と北隣地の緑の冷輻射効果は、南国といえども、エアコン不要の家づくりとなる。

【住宅内覧会】 2021年12月13日
2日間の案内会を開催した。 まあまあの来場者だった。 コロナで買い控えの人が動き出した様相だ。 田舎での家は、日差しは家の奥まで入り、冬の晴の日は、朝から夕方まで暖房は不要だ。 最近LOW-Eガラスが主流になってきた。断熱性能をあげるための性能が、 太陽の輻射熱をカットするので逆効果になる。 アルミサッシュはLOW-Eガラスしかない。 断熱性能が逆に暖房エネルギー消費量を増やす装置となっているかもしれない。

【民家再生の前準備】 2021年12月15日
再生工事の原理は、 ① 汚いと汚く見える→汚れを落とせばよい、②強度が不足する→以前と同じ理論の強度追加を行う―しかし、最近の工事は、汚れ部分を大壁で覆い、構造は異種構造で追加する。 そして、新築とそっくりと言う。 まがい物が王道を行く日本建築業界。

【落とし物見学】 2021年12月17日
群馬県の建築県職員が、伝統構法建築を見学に来られた。 建築方法においてアスベストやホルマリンが体に悪いから使用禁止になっている。 が、 最近の日本の建築方法において、間接的に、 建築できないことが多い。石場建や開放間取りの家は、非常に建てにくい。2025年からの省エネ基準では、窓を小さくしないと、これまた、新基準をクリアーしない。 遠方からわざわざ、新製品や新工法の見学ではない。つい数年前まで、 普通に行っていた手法の忘れ物見学会だった。

【太鼓梁】 2021年12月20日
8mの太鼓梁である。 一般流通材で揃えれば4m2本を継ぐ。 また4面を製材して角材に細くして使う。 合理化したつもりが、総合的には非合理な最近の建築方法だ。山の木は20mと長い。 必要寸法の8mで伐採し、 2面製材の太鼓梁として使う。 強度低下は少ない。昔の建築法の方が合理的と思うのだが、 みんなやめてしまった。

【木と石はどちらが強い?】 2021年12月24日
木と石とコンクリートはどれが一番強いか問えば「石」と答える人が多い。軸組み組み立て時、 ボンゴシでたたくと、 石が先に割れる。 衝撃緩和にはクッションが必須だ。 木造軸組みの接点は弾力がありクッションの役目を果たす。強いばかりが能ではない。

【天草での構造見学会】 2021年12月27日
天草の建築士会相手に、 「くまもと型伝統構法指針による設計法」の構造見学会を行った。14名の参加だった。天草では10年ほど前まで土壁の施工があったが、今は壊滅状態という。 主な話の内容は「CO2削減と言いながら、生産時にはCO2をたくさん出し、2050年に瞬間的にはゼロになるかもしれないが、2051年には機器が壊れてまたたくさんCO2排出が増えるのではないでしょうか。」「木と土と竹と藁で家がつくれるなんて不思議です。 孫の代か次の代には石油は無くなり、ウランもレアメタルもなくなります。 木と土と竹と藁は減りません。孫の代か次の代のために技術を残しましょう。 今からでも遅くない、理解者の建て主は一人ぐらいいるはずです」と説明した。