21.伝統的構法は玉手箱―水俣エコハウスの材料検査・木材の品質
22.伝統構法は玉手箱―水俣エコハウスの玄関・味噌部屋玄関
23.伝統構法は玉手箱―トイレ・浴室・洗面所
24.伝統構法は玉手箱―エコハウスの寝室・子供室・座敷・寝室
25.伝統構法は玉手箱―エコハウスの居室Ⅱ
26.水俣エコハウスの材料Ⅰ
27.水俣エコハウスの材料Ⅱ
28.地域の材料― エコハウスの機器
29.改正省エネ法は日本建築文化を崩壊させるかも
31.エネルギーの独り占めをやめてくれませんか
32.割にあわない太陽光発電を国民にどうして薦めるのだろうか
33.節電をしたつもりが増電なり
34.エコハウスの屋根と床の断熱性能
35.「家のつくりようは冬を旨とすべし」でよいだろうか
36.伝統的構法木造建築が建てられない法的課題 その1
37.伝統的構法木造建築物の法的な課題について その2
38.39.40.住宅版改正省エネ法を阻止しよう

21.伝統的構法は玉手箱―水俣エコハウスの材料検査・木材の品質

 消費者にとってキュウリの品質といえば新鮮さと栄養価だけで、曲がりや大きさの差は品質とは関係がない。
基準法施行令41条によると「木材の品質」は「節、腐れ、繊維の傾斜、丸身等による耐力上の欠点のないもの」とある。「腐れ」は品質に影響があることは理解できる。しかし、節、繊維の傾斜、丸身が品質に影響するだろうか。節が強度低下につながるのであれば、枝の無い木を選べということになる。繊維の傾斜の切断は角材に製材すれば必ず起こる。施行令41条の「木材の品質」は何を言いたいのだろうか。「耐力上の欠点がないもの」というのであれば前項目はいらない。この前項目を見て「節、繊維の傾斜、丸身」を品質低下の原因と読みとる人がいるから困ったものだ。丸太梁や太鼓梁を好んで使う伝統構法では誤解が更に深まる。

設計する時、国土交通省監修「木造建築工事標準仕様書」をよく利用する。設計者が独自に決める仕様を特記仕様書という。設計者は特記仕様書を書かず設計図書の簡略のために国土交通省監修「木造建築工事標準仕様書」に準じると書く。そうするとⅤ章1条4項の「構造材及び下張材の工事現場搬入時の含水率は特記がなければ、20%以下とする」という項目を守らなければならない。設計者が特記仕様書に「工事現場搬入時の含水率は40%」とか「建具取りつけ時含水率は25%」とかを書けばよいが、書かないと搬入時20%にしなければならなくなる。理屈に合わない低含水率を指導する原因は行政ではなく、設計者だった。安直に「木造建築工事標準仕様書に準じる」と書いてしまうのに問題があったのだ。

ただし、基準法施行令46条の2(46条の1を除く)に、構造耐力上主要な部分である柱及び横架材(間柱、小梁を除く)に使用する集成材その他の木材の品質は、告示1898号に準じなければならないという項目がある。「含水率の基準が15%以下(乾燥割れにより耐力が低下するおそれの少ない構造の接合とした場合にあっては、20%以下)のもの」とあるので守らなくてはいけない。こんな建物(46条の2)は、木質ラーメンみたいな特殊な構造の家だけであり、4号建築や伝統構法的建築とは関係がない。この項目は修正が繰り返され、混乱していて六項と七項は一言一句違わない全く同じ文章というお粗末な法令だ。
品質についての誤解が発生しやすい項目について説明する。

「ヤング率が高いと良品質か」

木材の強度の指標であるヤング率を品質という人が多くなった。杉材はばらつきが大きい。ヤング率はE50・E 70・E90と倍半分の差がある。E70を基準にするひとはE50の材を不良品というだろう。例えば家1軒に平均してE50・E 70・E90の材を使用したと仮定しよう。全てをミンチにして固めた集成材であれば、杉材は平均化されE70と表現する。伝統構法の場合は仕口や継ぎ手により材の大きさを決めるので、材は大きめになりタワミを基準にすればE50でも構わないことになりE50扱いになる。家1軒の材をミンチ状態にして使えばE70、無垢材で使えばE50になるというマジック表現に騙されないようにしよう。

「ヒビ割れ無しが良品質か」
木材は特殊な加工をしない限り芯持ち材にはヒビが入いる。高温度の人工乾燥では外部でなく内部にヒビがはいる。人工乾燥材が、外観上ヒビが無いので木材店が好む理由である。伝統構法にとっては仕口加工は材の中心が主であるので内部割れが多い人工乾燥材は良くない。外部の木の繊維方向のヒビ割れは強度には関係がないことを理解するには、熊本城の台所の梁と天井材を見ればよい。200本以上のヒビがはいっていても、びくともしていない。電線のヨリ部分が解けても線の強度に影響しない理屈と同じである。低温度の人工乾燥をまじめに考えている木材店もいるので人工乾燥を一緒に考えてはいけない。

「含水率の低い材が良品質か」
乾燥木材とはでは含水率25%以下をいう。含水率が高ければ強度が弱いというのは事実である。30%を過ぎてから収縮がはじまり、強度も上昇する。その強度をいつ必要かという問題である。柱の曲げ強度は地震や台風が来た時に、梁の曲げと柱の圧縮強度は人が住んで荷物を置いた時に、小屋梁の曲げ強度は雪が降った時に、柱材の収縮は漆喰壁を塗る時に含水率が25%程度であれば良い。
材料搬入時に含水率検査するのは早すぎる。生コンは打設後28日に強度を測定するのに、木材だけを材料搬入時に測定するのはおかしい。水俣の家の材料検査時は含水率60%近くだった。今でも黒い色の大黒柱は含水率35%もある。大黒柱は壁がないので収縮は関係ないし強度は余裕たっぷりである。伝統構法の場合は、材料搬入時一夜干し程度の含水率60~40%程度で加工するのが良い。いずれ乾くのだから。葉枯らし乾燥を乾燥という人がいるがJASの乾燥とは違うので注意しなければならない。
各県に木造住宅促進のための融資制度がある。その条件に品質の含水率25%以下の基準を設けている県がある。必要以上な低含水率指導は山や大工にとっては迷惑である。

「曲がりがないことが良品質か」

山に植わっている木の根元部分は曲がっている。小屋梁や受け梁には曲がり部分を使う。木材の繊維は上に向かって傾斜しているので、繊維の傾斜は切断すれば強度は落ちる。丸太材と太鼓材と正角材の強度を比較したデータでは1.2:1.1:1.0と強度差がある。あまり加工しない丸太材や太鼓材の方が、強度はあるが寸法精度が悪く低品質という烙印を押され使用頻度が少ないのは時代の流れなのだろうか。

曲がりたっぷりの小屋梁
曲がり材の架構風景
ヒビだらけの熊本城の丸太梁
搬入時の含水率51.8%

建築ジャーナル 2010 8月号掲載

22.伝統的構法は玉手箱―水俣エコハウスの玄関・味噌部屋玄関

玄関
 玄関土間は、粘土と石灰と砂を混ぜて叩いた三和土(タタキ)仕上げである。保湿性を高めるために塩水も混ぜている。冬期は室内が乾燥しすぎるので土間に水を撒くと湿度が10%上昇する.撒いた水が床下に溜まらないように中央部はコンクリートを打っていない。ベタ基礎の場合は地盤強度と関係があるので構造計算上注意しなければならない。
 薪ストーブを玄関土間に置いているのには、理由がいくつかある。薪ストーブには煙突があり、煙突から出る煙の量と同量の空気を取り入れなければならない。玄関は気密性がない場所なので、吸気孔がとりやすい。又、薪ストーブの灰の処分や薪の補給がしやすいという利点もある。薪ストーブを居間に置く場合と比べて、玄関には燃え易い家庭雑貨が少ないので火災の危険は少ない。一般家庭の玄関にあるような小上がりは設けていないのは、土間空間を少しでも広くするためだ。土間立ち上がり部に通気口があり、夏この部分を開けておくと床下の風が室内にはいってくる。
 座敷は2階にあり玄関から遠いので、ちょっとした応接は椅子を置いて、薪ストーブを囲んで行う。丸太の椅子は木を輪切りにすれば簡単にできるが、丸太の木に合わせて座布団をつくるのは大変だ。無印良品に既製品の38cmサイズの丸い座布団がある。38㌢に合わせて杉の丸太を切ることは簡単である。

キッチン
 システムキッチンのメーカーはたくさんあるが、全部の部品を自分の会社でつくるのではなく、アウトソーシングと格好良い言葉を並べて、小さな町工場からパーツを寄せ集めて組み立てているだけのメーカーが多い。A社の引き出しに人気が出れば、すかさず他社のキッチンにも同じ引き出しの商品が並ぶ。下請け町工場の発注先を変えれば即仕様変更が可となるからだ。シンクやカウンターは下請け町工場から誰でも買えるし、2.8Mサイズで8万円と安い。引き出しや扉などは自由に地元の職人で造れば良い。
 キッチンに食器乾燥機は付けていない。放っておけば自然に乾くものをわざわざ電気で食器を乾かすことはない。乾燥するのをそんなに急がなくてよいではないか。

カップボード
 省エネを目的としたはずのエコポイント政策では大型冷蔵庫が売れている。大型ほどエコポイントの点数が高いからだ。このモデルハウスは5人家族設定なので400Lの冷蔵庫で充分である。大型冷蔵庫に買い換えができないようにスペースをぎりぎりにした。そもそも、冷蔵庫は冷やすものだけをいれるものだ。カレーの残りを入れるものではないし、ペットボトル6本やビールを2ダースもいっぺんにいれるものではない。1日で飲むビールを冷やすべきである。そのためには、風通しの良い網付き収納部分に、カレーの残りや野菜や乾物類を収納するスペースを設けておかなければならない。
 H15年、シックハウス法の施行により建築業界は接着剤にホルムアルデヒドの放出量が少なくなったが、家具業界には旧態依然規制をかけない。新議員会館のシックハウス問題が良い例だ。落とし前を付けるか逃げ切るか見守ろう。家具の管轄が経済産業省で規制をすれば経済の衰退につながるという理由だろう。健康よりお金が大事な省なのだ。ホルムアルデヒドの放出量の多い家具を消費者が買わなければよいが、家具販売店は説明の義務もない。最近19万円というシステムキッチンまで出現したが、素人には表面だけでは何年持つか判断がつかない。
 カップボードは大工工事でボックスを作り、扉を建具屋さんがつくる。建築時壁仕上げを板張りにしているので、カップボードの裏板はいらない。べニアを使わない、安くて安全なカップボードを無垢材でつくれる。

味噌部屋
 昔の田舎の家には味噌部屋があった。味噌造りのためだけの部屋ではなく、加工食品・保存食品・発酵食品のための冷暗室である。日当たりの悪い、住むには一番不都合な場所でよいので北西に配置した。
家庭菜園を楽しむ家が多くなった。これからの時代、ハイパーインフレに対処するには食糧自給に備えよと経済学者が警鐘をならしているからかもしれない。家庭菜園収穫物を処理するつくりにしておかねばならない。大根はスーパーで買えば根だけだが、自分で植えたものには葉っぱも付いている。葉は一夜漬けにでもすればよい。皮はコンポストに入れて肥料にする。石油が高騰しナスが作れないと嘆いている農家がいた。ナスは夏作るもので、野菜は石油で作るものではない。電気でレタスを作る業者もいる。省エネに一番逆行する農業ではないだろうか。魚料理も同じことで、切り身を魚屋さんから買ってくるのではなく、1匹まるごと料理しよう。旬に多量に取れる魚は、塩辛や干物等に加工しよう。そのためは外部に流しと作業場が必要だ。休みの日はゴルフに行くよりも、ドライブにいくよりも、パチンコに行くよりも食料品加工を家族で行おう。床下は広く風通しが良く網が付いているので、一夜干しが出来そうな気もする。

写真
味噌部屋・キッチン・水屋・玄関・床下・流し

建築ジャーナル 2010 9月号掲載

23.伝統的構法は玉手箱―トイレ・浴室・洗面所

水俣エコハウスのトイレ・浴室・洗面所の特徴をのべる。 
トイレ
 便所に換気扇が付いている家は多いが、あまり使われていない。建築確認申請時に、基準法施行令28条「便所は換気をよくする」という指導で設置している。ウォッシュレットに脱臭装置があれば臭いを吸収してくれるし、脱臭装置が換気扇より安くて、電気代も少なくて済むので換気扇は不要である。最近、便器の蓋が自動で開くのがある。望みもしないのにメーカーが開発するが、余計なお世話と言いたい。蓋を開けたくなかったら、開けたままにしておけばいい。
 便器の背に手洗いが付いている機種は水垢が付きやすく、奥まっていて使いにくいという理由から人気が悪い。手洗いは既製品ではなく近くの陶芸家に焼いてもらった。細かい排水金具付近のディテールは不得手なので、排水口をVU排水管に差し込んだ単純な仕組みで、臭い止めは外部のトラップ付インパト桝に頼る。VU排水管は体裁が悪いので竹でカバーする。タオル掛けや紙巻器は大工さんか建具さんがつくればいい。仕事の閑散期に一度にたくさんつくれば1ヶ3500円ぐらいまで単価は落とせる。既製品より味がある。 
節水便器は水量が従来の6Lから4.8Lと少ない。しかし、落差が取れないので圧力ポンプが付いている。エコといいながらポンプの電気代のことには言及しない。また、4.8Lでは洗浄がうまくいかず、2回レバーを押せば9.6Lの水を使うことになる。この手のエコ便器は毎年改良型新製品が登場しているが、毎年発売する部品をいつまでつくってくれるか疑問である。
 トイレにいる時間は短いが外部の庭を見たい。自分が外部を見れば外部から自分も見られる。浴室と同じ黒竹の上部をトイレ側から下部を浴室側から見るようにした。

浄化槽
下水が整備されていない地域なので浄化槽を設置する。そこには補助金が存在する。補助金があるところには財団があり。財団が管理している検査機関が多すぎる。建築基準法の検査。使用開始の検査。機能しているかの検査。定期検査を2ヶ月に1回。その検査が行われているかの検査の検査がある。どうしてこんなに検査漬けなのだろうか。40万円近くの補助金をもらえるので文句は出ない。補助金の回収システムであろう。浄化槽の大きさは建物の延べ面積で決まる。まったく実情に合わない。この家は131M2に5人暮らしの想定だが、7人槽をいれなければならない。もっと確信的なデータで言えば日本の1世帯平均は2.9人なのに平均設置浄化槽人数は6人ぐらいであろう。過剰人槽建設費の無駄もあるが、40万円の補助金は検査費用に化してしまう。

浴室
ユニットバスを最初から希望する人は少ないが、メンテナンスや掃除がしやすいという理由で業者が勧めるので、造作浴室は極端に少ない。浴室は体を洗うだけでない。日本人にとっては安らぎの場でもある。プラスチックと塗料の固まりのユニットバスの中では安らぐはずはないが、カタログの中の写真はあまりにきれいである。石調に印刷したユニットバスの壁も写真写りは本物の石と違わない。種類の多さにもびっくりする。そして、毎年新製品がでる。部品の保管義務は7~8年なので8年先部品があるかどうかわからない。現在行われているユニットバスのリフォームは部品がなく総替えとなっている。
 浴室は湿気が多いので換気扇で湿気を外に出す。よく考えてみよう。冬は家の中は乾燥している。浴室の暖かい湿度の高い空気を排出するのはもったいない。湿気を洗面所に導き入れ、さらに居間まで呼びこむと加湿器の働きをする。洗面所が高湿度になれば温かく感じる。最近全館冷暖房が流行っている。全館冷暖房にしないとヒートショックで命を失うとの脅し文句で浴室暖房もある。北海道や東北では必要かもしれない。九州には必要がないので温暖地方での脅し商法は止めてほしい。
 壁と天井は木がよい。温度差で結露水が壁を濡らすことはないが、シャワーで壁に水がかかるので、タイルより6ミリ板を出して水切りをよくしている。板壁とタイル見切りに横材が入れてある現場をよく見るがやってはいけないディテールだ。必ずカビが発生する。この家の浴室に換気扇はない。レジスターだけを付けている。外気の方が低温なのでレジスターから入り、高湿となった空気は浴室と洗面所の壁・天井材で吸湿する。
 タイルは販売量が少なくなればすぐ廃番になり新製品が出てくる。唯一変わらないタイルは、江戸時代から続く敷瓦だ。床が冷たいのでビニール敷物やスノコを敷く。最初からスノコをはめ込むようにした。スノコはヒノキでも平面に置くと長持ちしないので、ホームセンターで販売されているスノコを置くことにした。たくさんの種類があるが、ここ10年変わっていないのが450×880サイズである。何といっても1枚800円は魅力的だ。

洗面
  洗面所には既製品の化粧洗面台を置く家が多い。キッチンと浴室と洗面は住宅の機能の中心で、費用も高い。この3点で500万円とすれば、住宅会社は設備メーカー品を採用すれば、(20%の荒利とすると)100万円の利益となる。水回りはクレームが多いので、他人にまかせて責任逃れできる優れものである。木の家に既製品は似合わないのでつくることにした。引き出しを製作すると高くつくので、無印良品のかごを入れた。買い足したり、二階の子供室の家具との互換性もある。棚と受け木が全部木製なので、棚の高さを変えることも可能だ。高い場所に欄間があり勝手口へと空気が流れるようにしている。

  • 0.25坪庭の上半分をトイレから下半分を浴室から見る
  • 手洗い鉢の排水はVPパイプなので竹でカバー
  • 大工造作の紙巻き器とタオル掛け
  • 浴室から坪庭を見る
  • 造作洗面台
  • 浄化槽は2M2の面積を取る。太陽熱温水器も2M2ぐらいなので浄化槽の上に置く。

建築ジャーナル 2010 10月号掲載

24.エコハウスの寝室・子供室・座敷・寝室

寝室
 暑い夏の夜は、人工のエアコンの風より自然の風の方が気持ちよい。地面に近い地窓に枕をもってくると、気温が30度でも涼しく感じる。外が無風でも、地窓と高窓を開ければ温度差で風がはいってくる。地窓は低い位置にあるので、面格子をつけて防犯性を高めている。地窓はガラス戸・網戸・障子戸と枚数が多く、柱幅の中にガラス戸と障子戸を納めるには狭すぎるので、溝1本に縦カマチの見込み半分14㍉の障子を2枚入れている。
 寝室は、ベットを使わず布団を希望する夫婦は結構多い。外国人は畳の部屋をオールベットルームと呼んだ。畳のクッションは柔すぎず堅すぎずベット仕様と同じである。畳の部屋は布団をしまえば部屋を広く使える。
 居間との仕切りは欄間付き障子である。欄間障子はホコリが溜まっても掃除が楽なように横桟がなく縦桟のみにしている。

子供室
6歳、9歳、12歳の子供3人を想定している。個室を要求するのは12歳ぐらいであろう。6歳と9歳は相部屋にし、個室は1部屋にした。6年位経つと下の2人は12歳、15歳となり共に個室を要求する。その時は最年長の子は18歳になり家を出ているだろう。そうとはならず3部屋必要となった場合は座敷を子供室にするとよい。住まいを子供の成長期に合わせて最大必要面積にするのは勿体ないし、子供が一人減り二人減り後は夫婦だけになる。場合によっては2世帯住居になるかもしれないので、部屋は細かく仕切らずオープンなのがよい。そのため仕切りの間仕切り家具は同じ大きさの箱を大工工事で作ってあり、必要に応じて動かせるようにしている。
 子供室東収納の御簾戸の材料はセイタカアワダチソウを採用した。色が黒っぽいので間隔は開いているが中は見えずガラリ建具と同じ機能を持つ。
 他の部屋に比べて子供室は暗い気もするが、子供は昼間外で遊ぶもので部屋に籠るものではないという理由で光が入らない北に配置した。北窓は1階の居間の風の出口の役目も果たす。暗さをカバーするために、廊下との仕切りは障子にし、居間の光が子供室まで注ぐようにした。南の廊下は座敷への通路の役目であるが、来客用としてはほとんど使わない。廊下との仕切り障子溝を3本にしてあり、2/3が開くので、廊下まで一部屋となり、4.5畳が6畳の広さになる。二人部屋6畳、個室4.5畳の広さは子供にとって狭いとは感じない。思い出してみよう。子供のころ、あの大きかった川が今見ると小川ではないか。それに、子供室は少し窮屈なほうがよい。そうすると居間に出てきて、家族間の会話時間も多くなるだろう。間仕切り障子は破れにくい配慮が必要だ。下部を腰板付きにし、桟を密にし、桟の見込みを深く、更に80㌘の厚さの障子紙を使用した。
 床の仕上げは机を置くスペース以外は畳にした。寝室と同じくベッドを置かないので、部屋が広く使える。

座敷
ホテルや喫茶店で気楽に接客できるような時代になり、家庭訪問以外、座敷を接客の場として使わなくなった。その家庭訪問でさえ先生は部屋に入らないことが多い。時々来る友人や珍客は、もはや来客ではなく家族と同等1員である。では座敷は不要かというとそうではない。正月や節句といったけじめ時の場として必要だ。また、季節感を演出する床の間のある部屋としても座敷は家の核である。最近はモノがあふれて床の間が物置になっている場合もある。もひどいケースとしては床の間にピアノが置いてある。1.6Mと横幅がぴったり当てはまっている。座敷は普通玄関近くに配置するが、この家ではニ階の西側の条件が悪い場所に設けた。西陽が強く住環境は悪いが、西へ沈む美しい夕陽は絶景だし、西から吹く風は心地よい。温まった空気が他の部屋に流れずに外部に排出するように3カ所も窓がある。窓の高さは、窓手摺に腰かけて道行く人に声をかけられるように45㌢にした。アルミの手摺は触りたくないので木製にした。軒の出を長くして雨がかりを少なくすれば木は使える。アルミは耐久性が高いが、軒を短くして雨に濡れる状態にして、耐久性能を上げましたというのはガマの油売り商法に似ている。次に床の間についてのべよう。奥行き3尺の板は1枚の無垢板にすれば50万円、2枚使いにすれば10万円、3枚おろしにすれば2万円だ。伐採時、木の根元の2M部分の曲がり部はチップにしかならないので幅広の割には安価である。その曲がり面皮材を3段重ねて使った。奥行きは3尺もあるが、段があり盛り鉢は置けないので、仕方なく1輪差しですと言い訳ができる床の間でもある。床の間の落とし掛けは普通鴨居より柱1本上げるところだが、障子の下がり壁をつくり鴨居より下方にした。床の間づくりのルール違反ともいえるが、京都の詩仙堂の落とし掛けは柱1本分下げて、天井の低さを感じさせない設計にしてある。それを真似たデザインだ。批判したい人は詩仙堂に物申して欲しい。
 1階の屋根勾配を2階まで延長した。薪ストーブの煙突掃除のため屋根上に登れる勾配は5寸である。そのため、天井高が平均2100ミリと少し低めになった。入ってすぐは天井を低く感じるが、畳に座ってしまえばなんのことはない。視線は天井ではなく水平線の風景とガラス戸と障子のデザインに目が行ってしまう。大正時代、大判ガラスが高い時代に、縦4分割横4分割の間を抜いた形は不滅のデザインである。

建築ジャーナル 2010 11月号掲載

25.伝統構法は玉手箱―エコハウスの居室Ⅱ

食堂
 家の中心位置に食堂を配置した。食堂から家族の動きを見渡せる。吹き抜けを通して子供部屋の様子もわかる。家に一番長時間いる主婦が、食堂に鎮座して家の中をコントロールして、名実ともに主婦が家族のたずなを握れる家だ。一般の間取りは玄関を中心として、玄関から各室に行く導線であるが、この家は食堂が放射状の核となっている。食堂から玄関へ、食堂からトイレへ、食堂から洗面・浴室へ、食堂から味噌部屋へ、食堂から子供室と続く放射状の導線である。また、ほど良い風通しとほど良い光で、この家の中で一番居心地の良い場所に食堂がある。見晴らしも良い。北の1本引き窓は窓枠が額縁のようになり北庭に植えてあるサルスベリが額の中の絵のように見え、南の庭とは違う雰囲気となる。
 網戸には縦格子を付けているので網戸の状態では、家の中が外からは見えにくい。
 食堂は居間の延長線にある。食堂側の厨房カウンターの高さを1100㍉にして、流し周りが片付いてなくても食堂・居間からは見えないようにしてある。

居間
 軒を深くしたら、夏、直射日光を家の中に入れずにすむ。窓はできるだけ大きく取った。最近の家は、省エネ目的の高気密・高断熱仕様で窓を小さくしている。省エネの基準指標にQ値がある。詳しくは後号で述べるが、安直な基準に設計者は簡単に乗ってしまう。その基準が窓を小さくさせ、開かないFIX窓を増やしている。いい換えれば、九州でも、エスキモー住宅みたいな、軒が短く、窓の少ないトーフ状態の家が国策で増やしているのではないだろうか。
 窓は大きい方が良いに決まっているが、いくら大きくしても出口が無いと風は入ってこない。西側の無双窓から入った風は、東側の階段上に付けた高窓ジャロジーから出ていく口で、屋根の軒が長いので、夏は1日中開け放しでも良い。電気代が要らない換気装置である。省エネを推奨する世の中なのに、建築基準法で24時間換気扇の設置を強いるのは疑問である。
 天井にシーリングファンを付けた。扇風機の役目を果たし40Wと電力はあまりかからずエアコンより優れものだ。冬、吹き抜けの室内の温度むらを均一にする役目なのだが、良いか悪いか。温度むら解消に空気を動かすとかえって寒く感じるという人もいる。体験してみないとわからない。
 床下の風を取り入れる装置を付けた。装置といっても床下改め口の蓋に網を付けただけのこと。夏の夕方は室内より床下空間の気温は2度低いので、その空気を取り入れる。最近のエコハウスにはクールチューブの採用例が多い。200万円もの費用がかかる。クールチューブには結露や持続時間等課題も多く研究段階で普及するにはまだ早いと思う。この床下空気採取装置は電気代もいらず安価でよい。冬、閉めても、蓋には断熱材がないので駄目という人がいるが、蓋の上に座布団を置いたら解消すると答えている。

縁側
 断熱材が無い時代は寒さの緩衝空間として縁側があった。直射日光を家の中に入れないための深い軒と縁側が夏の暑さ対策の役目を果たしていた。冷暖房器具の普及で縁側が無くなってきた。熊本県立大学の3年生(20歳の若者)を対象に、5年間アンケートを取っているがおもしろい結果がでた。衣食住を和風・洋風のどちらを好むかという質問である。衣は95%が洋風好みである。食は60%が和風好みで、まあ理解できる。しかし住は以外な結果で70%が和風好みなのである。更に、和のどこが良いかとの質問をしたら縁側との回答が一番多かった。今住んでいる家にあるのかと聞いたら祖父母の家での体験だった。住宅会社の社長は、若者は洋風好みと決めつけ、フリフリ付きのリカちゃん人形の家みたいな住宅を世に送り続ける。
 昔は縁側の室内側に障子があり、屋外側に1本引きの雨戸があった。雨戸を収納すると縁は外部空間となり、日向ぼっこの場・社交場・喫煙ルームとなった。しかし、冬は寒いので、ガラスの普及に伴い雨戸の位置にガラス戸が取り付けられるようになった。当時はガラス戸の敷居に水返しもなく単純な構造で、木製敷居に座ることにも抵抗はなく、外部でもなく内部でもない空間で、縁側として使うのに不自由はなかった。S40年代になり、アルミサッシの普及で縁側が遠のいた。水を侵入させないアルミサッシのディテールは敷居部分に細い凸凹があり座れない。気密性向上のためサッシ周りが頑丈となり、開けることを拒否しているようにも思える。縁側に椅子が置かれ、カーテンが取り付けられ、縁側は完全に室内となった。建築基準法でも完全に上屋構造扱いされるようになり、布基礎も縁側まで廻すので居室に加えないと損みたいな感じになってしまった。縁側の外部側でなく障子のラインにガラス戸と網戸と雨戸を敷設すると縁側の機能を損なわない。外部でもない内部でもない空間は気持ちが良い。はっきりとした目的のない曖昧さを好む日本人にぴったりだ。
 縁の材料は、軒先から3枚ほどは雨がかかり5年くらいで駄目になる。軒先に平行に設置しておけば、取り換えは3枚だけで良い。塗装によるメンテが一般的である。新築時に塗装するより、1年ぐらい経過してからヒビの間に含浸タイプの塗料を塗った方が耐久性は上がる。塗装は3年毎に行わなければならない。軒先3枚の取り換えと経費にあまり差はない。塗装不要のMD材があるが、比重が高く、夏の直射日光に当たると50度を超えてしまい、室内を暑くしてしまう。

建築ジャーナル 2010 12月号掲載

26.水俣エコハウスの材料Ⅰ

木材
  最近TPPが話題にあがっているが、林業においては既に実施済みと思ってよい。木材の関税は昔からゼロである。米には778%、こんにゃくには1706%の関税をかけているというのに。政治献金が少ない木材業界が外交のしわ寄せ被害となる。
 日本は国土の65%が山林で、木材は産物なのに75%も木材を輸入している。外国から見れば理解しがたいであろう。消費者が外材を望んでいれば致し方ないが、8割の人は国産材希望と答える。では価格が高いからというと、そうではなくむしろ国産材が安い場合もある。外材が多く使われる原因は、使用基準が外材に合わせているからである。2000年の性能規定はアメリカの外圧で決まり、JAS基準を満足させるためには国産材では多額の費用がかかり、素材では安いが使用するときに高くなる。素材を素直に使うのが賢いやり方だ。湿気が多い日本の木は当然含水率が高く、根元は曲がっている。日本の伝統的構法は曲がった材料は曲がっても良い場所に、含水率は場所にあわせて一夜干し程度の乾燥をして使う。
 日本の山の木を、日本の工法で家を建てる木材が、日本の基準に合わないのは、基準の方がおかしい。無理して基準に合わせることをしないのがいい。

瓦・熊本産 
 一昔前、台風に飛ばない瓦といってたくさんの種類のセメント瓦や洋瓦が出た。そしてほとんどが廃番となっていて、修理用の瓦が無い。昔の日本のイブシ瓦は64型であった。現在は53型が主流である。熊本の中川瓦店は昔葺いた瓦が無くなるとみんなが困るからと64型を製造している。大手は儲からないとすぐ廃番にしてしまうが、後始末を地方の極小企業が行うとはおかしい話だ。極小企業の良心によって、大企業はもうけ主義を謳歌している。
 家の寿命はなんで決まるのかといえば屋根材である。最近、100年住宅や200年住宅がある。そんな家に限って屋根材はスレート瓦だったりする。長期優良住宅の屋根の基準に屋根の耐用年数の項目はない。イブシ瓦より長寿の屋根材は無い。

瓦タイル
 タイルも廃番が多い。よくトイレにパッチワークみたいなタイル貼りを見るがタイルが廃番になっているからだ。これ、かわいいねと花柄タイルは絶対選ぶべきではない。10年以内に確実に無くなる。廃番にならないタイルがある。400年前から変わらない敷き瓦である。大きさは5寸7寸9寸10寸で、厚さはまちまちだが厚さは現場でどうにでもなる。浴室に使っている。

断熱材
(カンナ屑)
 造り酒造の麹部屋を改装した時、壁の中からもみ殻が出てきた。昔の木製冷蔵庫の断熱材もモミ殻であった。工業製品の断熱材が無かった頃の断熱材である。エコハウスの天井に、工事中に木材を削った時に出るカンナ屑を袋に詰めたものを敷きつめている。カンナ屑の断熱性能は調査しなければわからないが、10Kのグラスウールよりは良好だと思う。
(フォレストボード)
 杉皮をコーンスターチで固めたフォレストボードという断熱材がある。木片を断熱材に利用した断熱材はたくさんあるが、山で処分に困っている杉皮を利用しているのが魅力だ。土壁には、断熱性能がないので、土壁の外側にこのフォレストボードを入れた。

土壁
土壁は構造体であり内装材であり、外装材でもなる。断熱性能は小さいが蓄熱性能は大きい。材料は近場にあるし、用が済めば自分の庭に捨てれば良い。建築廃材で埋め尽くされる日本の将来を考えると、最高に優等生の建材だが見向きもされない。


竹は日本の山を覆い尽くし、健全な循環を阻止している。根が浅く地滑りがし易く、保水力も少ないので緑のダムにもならない。昔、竹は裏山に植え、食糧、家庭用具、土壁下地、海苔網の支持棒などと活用してきた。伐っても翌年には同じ分だけ生えてくる便利なものだった。現在竹を使わなくなった。タケノコは中国が1円安いと偽装までして輸入し、家庭用具は竹よりプラスチックの方が安いと使わなくなったし、海苔網支持棒も腐るからと使わなくなった。竹だったら使用済みになり海に放置しても自然に分解し問題はないが、プラスチックはそうはいかないのに。現在山で、竹の逆襲を受けている。

漆喰
漆喰の原料は石灰岩であり、日本の国土は石灰岩の塊である。わざわざ、火山灰や貝殻を使わなくてもよいではないかと思う。北海道の帆立貝の殻を鹿児島で使い、鹿児島の火山灰を北海道で使うのはおかしい。漆喰は安いため広告はなく、カタログもない。砂や砂利にカタログがないのと同じだ。建築家はカタログがないと使わないので、帆立貝殻や火山灰をカタログ化して漆喰の倍くらいの価格にしても売れる穴場商品だった。漆喰は昔からあり、室内の湿度が高いと吸湿するし、湿度が低いと放出してくれる便利な材料だ。湿気以外の家の匂いも吸い取ってくれる。安いのがいい。

土間
土壁と同じく土間の三和土の原料はただに近い。ほとんどが人件費である。施工は左官職人が一人いて、あとは素人でよい。新建材に「タタキ」という高い商品もあるので間違えてしまう。

建築材料の産地と処分方法

使用場所材料産地将来
構造材水俣市久木野地方のメアサ杉
漆喰福岡県田川市
屋根熊本県宇土市の中川瓦
天井の断熱カンナ屑この家の工事現場
壁の断熱フォレストボード秋田県
建具襖紙水俣市産の楮
畳表熊本県八代産のイ草
畳床水俣市の稲
床・天井杉無垢材水俣市久木野地方のメアサ杉
浴室の床瓦タイル熊本県宇土市の中川瓦
土間三和土水俣市
土壁熊本県小川市の土
設備機器電気・給排水住宅設備メーカー各社産業廃棄物

建築ジャーナル 2011 1月号掲載

27.水俣エコハウスの材料Ⅱ

畳(いぐさ)熊本産
 イグサの9割は熊本の八代地方で生産されている。畳表生産は分業システムではなく、イグサ生産者が畳表織り加工まで一貫して行うのが特徴である。生産者と直接話せばトレーサビリティは確かだ。「○○マークがついているので安心」という認定品より信頼性はある。
 畳床は藁床とし、吸湿性能を期待している。畳床が藁であることを知らない人が多いのは、最近では藁ではなくスタイロになっているからだろう。そのため畳の効能から吸湿性が消えた。高温多湿の御家芸だった吸湿装置が消えた。理由は畳屋さんの都合でスタイロに替わってしまったのだ。1枚1000円も利益が出ない38㎏のものを、エレベーターのない最上階までかついでいくのは大変である。それでダニのせいにしてスタイロに替えてしまった。畳床は藁と昔から決まっている。
 藁は米の副産物である。藁床がないと言う人がいるがおかしい。米をつくったらかならず藁が出る。また米をつくる合理化のために機械化が進み、コンバインで稲藁を粉砕してしまうのは確かだが藁束にする機械もある。「明日稲藁をくれ」と言うからないのであって、1ヶ月前から予約し、藁代に僅かでもお金を払えば喜んで揃えてくれる。自家米や産直販売米の場合、稲を掛け干しにする人は多い。今回は水俣副市長の森さんが自家米をつくっていて掛け干しにしていた。その藁を市の職員が畳床製作場まで運んだ。掛け干ししたおいしい米と吸湿性が確かな藁床は、食と住の共生であるのに、近代は循環システムを捨ててしまった。

杉板
 杉の比重は0.38である。60%が空気と思っていい。木材の中のカーペットである。
キズは付きやすいが、気になれば無垢材だから削ればいい。ワックスなどかけるものではない。ワックスは塗装の劣化を守るためのもので、新建材塗装床材に使用する。建築業者で安物のフローリングを勧めるために、「無垢材は反るから使わない」と言うからびっくりする。その程度の説明しかしていない。2~3㍉の反りを気にするかしないかは消費者の判断に任せるのがいい。無垢材に反りや収縮防止のためにウレタン塗装したら、吸湿性の特徴もなくなってしまう。

和紙
 和紙の原料はほとんどコウゾである。コウゾは草みたいなものでどこでも育つ。やる気があればどこでも和紙生産は可能である。静岡出身の金刺順平氏が30年前、水俣の地域性に魅せられて、1㎞四方に家のない袋地方に住みつき和紙生産を始めた。漆喰壁に吸湿性能を期待することは大事だが、開放的な日本家屋の壁の半分は建具である。その建具を紙でつくり、建具にも吸湿性を負担させる。

障子
 座敷、寝室欄間、寝室窓、子供室窓、子供室南、居間、欄間、洗面欄間は、前出しの和紙を使った障子である。

生垣
 「タデ食う虫も好き好き」というように、樹木や草花に付く虫は種類が違う。同一種の生垣にすれば、付く虫も1種となり被害は拡大する。しかし、混植すると虫も多種になり広がらない。このことは、アルセッド建築研究所の三井所清典氏が、佐賀県陶磁会館の設計時に虫予防のために混植を採用したと聞いたからだ。今回のコンペの審査員長は三井所清典氏だった。受け狙いで混植植樹の提案をした。審査後聞いたら、混植採用のコメントは見なかったとのことだった。

カタログ商品
 昔、照明器具のカタログは年に2回発行されていた。売れ行きが悪い商品は半年でカタログから消える。5年もすると総替えとなる。芸能社会とよく似ていて空しく感じる。ちょっと高いがルイスポールセンの器具を選んだ。40年以上前から作り続けている。ヤマギワの木座ボール球照明も30年前も存在していた。おそらく今後も存在するだろう。
 システムキッチン・洗面化粧台・ユニットバスを見てみよう。機器類を改良してくれるのはありがたいが、毎年モデルチェンジをしてくれると翌年は型落ちとなる。メーカーの部品保存期間は5~8年なので、修理が必要な時期には部品はなく、結局総替となり、使える部分も捨てるはめになる。ちょっと便利なものは、壊れたらおしまいと思っていい。キッチン・洗面化粧台・浴室は、地元の大工で地元の材料でつくれば特注にもならないし、廃番もないし、修繕は永久に可能である。

ゴミ問題から考えるとエコ商品に疑問
エネルギー枯渇の危機から、エネルギー問題が新聞・テレビを賑わしている。石油があと50年しかもたないので、レアメタルやウランに代替しようとしている。しかし、そのレアメタルやウランもあと70年と言われている。しかし、エネルギー問題よりゴミ問題で日本は崩壊するように思えてならない。水俣はゴミ問題には敏感で、現市長宮本氏は産廃処理場建設反対で生まれた市長である。都会の人はゴミを有料化し、お金を出せば田舎に捨てる場所はたくさんあると思っていないだろうか。日本全国ゴミの捨て場はない。

エコと言われるシステムを採用しない理由

屋根緑化輻射熱が強い九州において、屋根材は重要な要素である。輻射熱低減には効果があるものの、緑化には水が必要である。屋根緑化は屋根材が常に濡れていることになり、耐久性に問題が出る。費用対効果に長持ちを分母に加えると、いぶし瓦に断熱材の方が優位と思う。また処分に困る建材を多量に使うことになるので使いたくない。
和紙クロス貼り薄塗り珪藻土下地が石膏ボードであれば、和紙や珪藻土が吸湿しても下地の石膏ボードの吸湿効果はない。ビニールクロスよりましという考えだ。木ずり漆喰のほうが吸湿効果が大きい。
太陽光発電パネルの生産時に相当のエネルギーが必要であり、レアメタルの採掘のために発展途上国にゴミの発生を強いている。パネルガラス面のメンテナンス費として、経費が毎年かかる。たとえ電気代を8万円うかせたとしても、1.5万円は維持経費で消える。
ダイレクトゲイン寒い地方での輻射熱取得には良いが、水俣では夏はむしろ害になることが多い。マニュアルでは良く夏至の12時の図が用いられるが、8月の4時が一番暑い。夏、床部に日光を当てない設計は難しい。雨戸を閉めて対処するというのは言い訳である。
外壁通気工法内部結露防止の役目は果たすが、通気層の外側には軽い建材を使わねばならず、サイディングを張ることになる。サイディングは街並みの風景を壊す。内部結露防止には、吸湿性のある断熱材で対処するのが良い。
Low―Eガラスガラスは熱ですぐ溶ける。よってリサイクルはしやすい。しかし、高性能Low―Eガラスは重金属がガラス面に吹き付けてあるので、リサイクルが利かない。埋め立てゴミとなる。熱貫流抵抗は、普通シングルガラス+内障子で十分取れる。
複合サッシュアルミはリサイクルの優等生である。プラスチックも燃えるゴミに出す。しかし、アルミとプラスチックが複合されたものは埋め立てゴミとなる。「分ければ資源、混ぜればゴミ」の原理を考えると使いたくない。

建築ジャーナル 2011 2月号掲載

28.地域の材料―エコハウスの機器

薪ストーブ
 エアコンやファンヒーターのような空気を温める装置は、温風を部屋全体に行き渡らせるのに強制風がいる。風が起こると体感温度が下がり、寒く感じるので更に温度を上げなければならない。しかし、薪ストーブ等の輻射暖房は室内材からの熱線なので、隙間が少々あっても急に寒さを感じることはない。それで、熱を保持できる蓄熱性能が高い土壁と薪ストーブは相性がよいのである。薪ストーブは煙突から出る煙と同じ量の空気を外部から取り入れなければならない。薪ストーブを玄関に置き、玄関の引き違い戸や無双窓の隙間から吸気するようにした。
 木をたくさん燃やすのは環境破壊と言う人がいるが、建築現場の残材や街路樹の伐採材は焼却炉で廃棄物として燃やしている。確かに日本人全員が薪ストーブを採用するわけにはいかないが、今のところ燃料の方が余っている。最近、ナラ枯れが各地で起こっている。昔、人間がナラやカシの木を切ったら、切り株から又枝が生え、60年サイクルの里山状態を保持していた。しかし、今は、木を切ることを止めたら虫が入ってきて、根まで浸透し、ナラ枯れを起こしている。ナラ・カシの木は、人間が60年毎に切ってやらねばならない木なのである。針葉樹は人手を入れ植林をし、広葉樹は燃料として伐採することで、人と山が共生していたのだ。

シーリングファン
 風が吹かないときもある。南と北の窓を開放し、地窓と高窓で温度差による風をシーリングファンでちょっと風を起こしてやると、風の速度が増す。ファンの向きは夏は下向き、冬は上向きとなっているが、夏はどちらでもいいような気がする。エアコンと比較して消費電力は少ないのがいい。冬、薪ストーブによる暖房は、部屋の上下で温度差が7度あるので、ファンを回して上部の暖気を下におろす。この時、ファンを上向きにして、暖気を天井に当て壁伝いに下方におろす。直接風が肌に当たらないので寒さを感じない。

24時間換気扇はない
 気密の度合いを隙間相当面積(C値)で表現する。C値5以下が気密住宅である。
 24時間換気扇はシックハウス対策で義務化された。室内の空気を入れ替えることが目的で、換気扇の能力を家の体積で割り0.5回/時以上あれば良いという単純な計算を指導した。設計者はトイレや廊下に換気扇を設置し、各室に吸気口を設ける簡単換気法を採用した。北方建築総合研究所の福島明は、C値5の気密住宅でも簡便換気法だと計算の2割しか換気していないという。日経ホームビルダー23年1月号の実例実験では、なんと気密住宅であっても換気性能ゼロという衝撃的な報告をしている。板の隙間、建具の隙間、壁と柱の隙間から換気している。いわゆる漏気である。温熱専門家はこの漏気を非常に嫌う。計算出来ないからだ。漏気は電気を使わない自然換気システムと思うのだが。
 シックハウス法は、有害物質含有の家具を持ち込む恐れがあるので、持ち込む人も持ち込まない人も、万民公平の原則から24時間換気扇を付けなさいという法だった。建築基準法28条では居室の換気義務がある。その条項では換気扇による機械換気は認めないし、逆にシックハウス法では建具の隙間等の自然換気は認めないのである。矛盾する法だが文句をいわずにコンプライアンスといって従順に従うのが日本の建築士像。換気扇の電源をいれている人は25%というデータもある。あるホテルに泊まったらスイッチは自分で切りなさいという表示がしてあった。24時間換気扇による換気法は破綻している。
 シックハウス法にただし書きが付いている。「真壁造りで面状の建材を使用しない場合は0.5回/時の換気があるものと同じ」と。土壁には隙間があり、換気扇を付けなくても換気は充分というお国のお墨付きに喜んでよいものか。

太陽光発電器
普通の家庭で使う電力は昼間1.5Kほどである。1.5Kサイズの太陽光発電器を付け、自分で使う分だけ発電するのはよいことだが、5Kサイズの大型を付け、売電し儲かるという。儲かる人がいれば損する人もいる。損する人とは太陽光発電を付けない人のこと。48円で買い取り、昼は22円夜は8円で売る仕組みはどう考えてもおかしい。
 機器を取り付ける際の防水を屋根瓦にコーキングしたり、母屋材の耐力不足を検討しなかったり、2次部材の交換費用や黄砂、隣地の樹木の枝等でも効率低下は、設置時にはあまり説明されていない。こんなはずではなかったということが今後起こってくる。

太陽熱温水器
 水道圧を利用した直圧式は床置きでもよい。水圧があるのでシャワーも使える。夏期は高温になりすぎるので3方弁を付けることになっているが、風呂の温度を正確に把握する必要はない。複雑なオプション機器を付けすぎると高価になり、減価償却期間が延びてしまう。省エネ機器でメンテナンスを考えて現実に償却期間が10年以下の商品は太陽光温水器だけではないだろうか。

浴槽
 設備機器の効率も大事だが、浴槽の湯冷め防止をした方が省エネになる。既製品浴槽に断熱材が吹き付けてあるが薄すぎる。断熱効果が高い商品として存在するのは、Y社のシステムバスは床部を魔法瓶みたいにしているし、T社の断熱浴槽は50万円を超える。メーカーはエネルギー問題を真剣に考えているのであれば、普及タイプ浴槽の薄い断熱材を厚くするのが先ではないだろうか。

建築ジャーナル 2011 3月号掲載

29.改正省エネ法は日本建築文化を崩壊させるかも

 1997年に京都議定書が採択され、日本の炭酸ガス排出削減の2012年までの目標は1990年比―6%だったが、逆に10%増加しており絶望的な状況である。家庭部門が3割近く増えているのは事実である。産業関係部門が2008年に減小したのはリーマンショックのためであるが、産業界は「産業部門、運輸部門、エネルギー転換部門は減らしているのに、家庭部門が頑張っていない。産業界は枯れた雑巾を絞るように頑張っている。家庭部門こそ努力せよ」という。家庭部門が増えたのはパソコンやゲーム機や大型TVやビデオなどの消費エネルギーなのに、住宅の暖房性能をあげれば炭酸ガス削減につながるという法律をつくろうとしている。経済企画庁は、規制は技術向上につながるとマスキー法を例に上げ、経済と環境問題は両立すると主張する。
 住宅は経済活動の一部ではない。エネルギー消費の削減が目的ではなく、エネルギー効率を上げるために建築設備が投資されれば、経済が潤うのが目的と思えてしかたがない。「使い放題・食い放題」を助長する最近の世の中を規制するのが先ではないかと思うのだが。

建築専門家でもよくわからない省エネ法
 戸建住宅に、「旧省エネ基準」、「新省エネ基準」、「次世代省エネ基準」、「断熱性能評価基準」、「トップランナー基準」、「省エネ法」、「CASBEE」、「自立循環型住宅ガイドライン」、「住宅事業建築主の判断基準」とあるが、どれだけの人がその違いを理解しているのだろうか。まず、「省エネ法」は、経済産業省が1979年に出した「エネルギーの使用の合理化に関する法律」の略称である。その中の73条に基づき定められたものが「省エネ住宅基準」である。省エネの住宅基準は変更が繰り返され、「旧省エネ基準」「新省エネ基準」「次世代省エネ基準」の3種類がある。2000年、住宅にも車と同じように表示があったほうがよいと「品確法」ができ、その中で断熱性能を等級で表示したのが「断熱性能評価基準」である。その基準内容は省エネの住宅基準を転用している。旧省エネ基準が等級2、新省エネ基準が等級3、次世代省エネ基準が等級4となる。ここまでが法律である。法律ではあるが、フラット35や長期優良住宅の融資、エコポイントの補助金をもらうときに必要なだけで強制力はない。
 人間の暑さ寒さの要因は、気温、湿度、気流、放射、着衣、活動熱の6項目だが、建築性能の要素は断熱、気密、湿度、風、輻射である。前出しの旧・新・次世代省エネ基準は、建築性能の断熱、気密だけを指標にしている。いわゆる「熱損失係数Q値」である。床・壁・天井・窓の断熱性能と気密性能を足した数値で低いほど性能がよい。地域区分のⅣ地域において、旧省エネ基準のQ値は5.2、新省エネ基準は4.2、次世代省エネ基準は2.7である。
 断熱・気密だけのQ値では評価できないと、住宅性能と周辺環境を含んだCASBEEがある。また、数値化にも限界があると風通し、輻射熱、遮熱を考慮した設計マニュアルとして自立循環型住宅ガイドラインもあるが、共に法律ではない。
次に、2009年、企業の事業主を相手にした「改正省エネ法」ができた。2010年からは300㎡以上の住宅・建築物と年間150戸以上の住宅供給事業建築主に規制の対象が広がったが、戸建て住宅に関係するものではなかった。

改正省エネ法住宅版が産声をあげている
 改正省エネ法には「住宅事業建築主の判断基準」がある。年間のエネルギー消費を1次エネルギーで換算する「消費量算定シート」がある。そもそも建売住宅を相手にしたシートなので戸建てには合わない。そのシートを使い、全ての住宅に法規制をかけようとしている。「低炭素社会に向けた住まいと住まい方推進会議」が検討を重ねて「住宅・建築物の省エネ基準の適合義務化に関する検討会」が2011年6月に骨子をつくり、2012年に国会に提出する予定である。若干の微調整があると思うので、今のうちに問題点を提示しておきたい。
 品確法のように選択性であればいいのだが、すべての住宅に国策として省エネ基準を強いるのは問題である。土壁真壁の断熱性能はゼロに近い。そうなると、真壁・土壁の家は日本ではつくれなくなるのである。世界に冠たる桂離宮が違反建築となり、茶室もつくれない。土壁には蓄熱性能や吸湿性能があるし、縁側や玄関、押し入れをバッファゾーンとした温熱環境手法もあるが、そんな評価は無視し、高気密・高断熱指標のQ値を最高の指標とする可能性がある。九州地方では、住宅の断熱性能は少々悪いが直火暖房生活の人は多い。そしてエネルギーをあまり使っていない。少々寒くても開放的な家に住みたい人を規制するのは人権侵害ではないだろうか。「用の美」の象徴である真壁は日本特有の建築デザインである。

建築家はどうしたらよいのか
 コンクリート打ち放し住宅も造れなくなるので安藤忠雄氏もびっくりするだろう。法案提出は2012年。施行は2020年というから、2020年は先の先。国は8年間講習会を行い、講習会ビジネスが潤う仕組みである。講習会新規ビジネスは建築士から集金するので、税を使わないから事業仕分けにはかからない。24時間換気扇設置、改正基準法、建築確認の厳格化、瑕疵担保履行法など、国はいつも「改正法は正しいが、周知が徹底しなかった」と弁明する。8年先のことと皆の関心は薄い。「消費量算定シート」の基準が決まるのは今年の夏ごろだ。「伝統木造など住宅構造の評価方法の検討」を行うと言っているが、土壁の外に断熱材をはればよいという安直対策にならないようにしてもらいたい。「消費量算定シート」の問題点を次号に提示する。

建築ジャーナル 2011 4月号掲載

31.エネルギーの独り占めをやめてくれませんか

現在の世の中は「ウソではないが本当のような話」が淡々と仕込まれ、実際とは異なる表現がまかり通る。

H14年10月25日「詩と真実」
 文芸詩「詩と真実」という熊本の地元誌がある。何気なく平成14年の号の編集後記を見た。今月号かと目を疑った。

  • 「絶対安全」と謳い文句の東京電力の福島第1、第2原子力発電所で「隔壁ヒビ割れ」が起こり、次いで柏崎、刈羽発電所にもと。東京電力のトラブル隠しが表沙汰になり、会社の経営者が報道陣の前に居並び頭を下げて陳謝し、引責辞任を表明したのも型通り。
  • 原子力発電の国の監督指導の日本保安院は厳しく摘発するどころか、東京電力にトラブル隠蔽を示唆したというからビックリ。国民の安全より企業の発展、国策の推進というのだから怖い。
  • 東京電力の隠蔽が表に出たのは、実は勇気ある良心的会社員の「内部告発」だった。彼は転職して我が身を守ったが。
  • 日本保安院はこの良心的会社員を「危険人物」として東京電力に教えていたという。その為この会社員は転職したGE(ゼネラル・エレクトリック)を解雇されていた。
  • 会社の反社会的な不正を告発すると、国は会社の肩を持ち、良心的会社員の行く先まで追い掛け職を奪うのだろうか。
  • 「絶対安全」の筈の原子力発電所のトラブルはスペイン風邪のように東北電力、中部電力、日本原電と広がっているという。

H23年3月28日「経済産業省資源エネルギー庁」発表
 原発事故後の3月28日、経済産業省資源エネルギー庁が「省エネルギー技術戦略2011の策定」を発表した。これからの国の進む道の基本となる。長文なので住宅部分のみを抜粋する。

  機器自体の省エネルギーを一層進める対策として、エネルギー消費の大きい冷暖房等空調、給湯、照明、OA機器、また、IT機器関連のエネルギー消費量に対する省エネ技術であり、これらを制御するゼロエネルギーハウスがある。
 外皮性能・建材については、高断熱・高気密、パッシブ住宅の技術がある。冷暖房等空調においては、冷暖房の空調機器の効率化と、断熱性能の高い外皮性能と建材の採用により空調負荷自体を減らす技術が重要となる。
 照明においては、高い発光効率を可能とするLEDや、有機EL等の光源技術を要素技術とする高効率次世代照明が重要技術となる。
給湯のエネルギー消費を減らすには、給湯用ヒートポンプ、燃料電池、ガスエンジン給湯、潜熱回収型給湯器等の高効率給湯器や、これらの給湯器と太陽熱との一体化を図る技術が今後の重要技術となる。
省エネ情報機器・システムは、IT機器の利用等により増大する消費電力量を削減するため、個別のデバイスや機器の省エネルギー化に加え、省エネ型情報機器、省エネ型次世代ネットワーク通信、待機時消費電力削減技術、高効率ディスプレイという関連技術を駆使し、情報通信ネットワーク全体での革新的な省エネルギーを実現するエネルギーである。
 さらには、家庭機器を利用する人間サイドから、居住空間を含め、個人により異なる快適性や嗜好性を追求し、制御技術、センサー技術等を駆使することにより最適な住環境を実現する快適・省エネヒュマンファクターが、省エネルギーの視点から新しい概念の装置・システムを創造することが出来る重要な技術となる。
また定置用燃料電池は、発電効果の向上・熱の利用技術の進展により、家庭分野の1次エネルギー消費をさらに大幅に削減するとともに、スケールアップに業務分野、産業分野にも適用でき、省エネを加速する重要な技術である。

H23年4月25日「九州電力」発表
今年4月25日、九州電力は、昨年の電力消費量が前年比4.9%増の875億㌔㍗時であったと。販売電力量は過去2番目の大きさだった。特に家庭用は4.3%増で過去最高。エアコンの使用量が増えたからと発表した。エコポイントで各家庭のエアコンの設置台数が増えたからだろう。

  • フランスの放射線防護原子力安全研究所のジャック・ルピュサール氏は「日本はテクノロジーを過信しすぎる」と警告するが、「省エネルギー技術戦略2011」は、ルピュサール氏が言う通りテクノロジーにどっぷり浸かった策定である。
  • 電気機器をたくさん付けて省エネという「省エネルギー技術戦略2011の策定」は、鉄腕アトムの世界に近い。この策定をつくった委員を調べたら、東京電力・大阪ガス・パナソニック、プレハブメーカー、大学教授2名、設計事務所2者で構成されていた。設計事務所とは、小さすぎる住宅設計は苦手な天下の日建設計と日本設計である。電力会社・ガス会社・電気製品会社の主導による「省エネで金儲け」の魂胆が透いて見える。
  • 省エネ電気機器をたくさん付ければ「省エネと経済成長は両立する」という方針は方向転換しないのだろうか。国民の目は明らかに変わっているし、構想会議の梅原猛氏は「文明の転換期」に差しかかっているという。現在作成中の「改正省エネ法」は、省エネ機器をたくさん付ける基準が多いので見直しが必要だが、国の方針は変わらないのであろう。策定委員の方々の「電気で省エネ」・「省エネで金儲け」の目論み通りに進んでいて、事故があっても、命よりお金が大事な暴走列車はブレーキを踏むことなく走り続けるだろう。「改正省エネ法」は、一時ストップして再度検討してほしいのだが。
国が描く省エネ像
国民が描く省エネ像

建築ジャーナル 2011 6月号掲載

32.割にあわない太陽光発電を国民にどうして薦めるのだろうか

 Q:割にあわない太陽光発電を国民にどうして薦めるのか。A:割にあわないからである。
原発事故の後、省エネルギー運動が高まりつつあるが、原発の代替エネルギーとして太陽光発電をたくさん付けるべきだという意見が出てきた。太陽光発電を電力会社や事業主が設置することには賛成だが、個人に付けさせる政策には疑問がある。

■発電時間
 夏の昼間に電力が不足するが、一番使うのは冷蔵庫を屋外に放置したような自販機や湯水のように電気を使うパチンコ屋だ。彼らの事業者が昼に発電する太陽光発電を設置すべきであるが、発電コストが46円/kwhと高いので設置しない。一方、個人住宅では昼あまり電気を使わない(図1)。そこで、発電のピーク時に個人住宅に太陽光発電を付けさせる案を考えた。余剰電力と命名し、高値買い取りのシステムだ。すそ野は、製造メーカー、量販店、営業会社、工事会社と広く、経済効果は高い。

■世界で高い日本の電力料金
 原子力発電には、政・官・学の利権が絡み、発電原価が安くなるような計算はバレてしまった (表1) 。原子力が安いと言っていたのに、石油や天然ガスに切り替えたら2000億円原価が上がると矛盾することを言い出した。発電の平均原価は10円/kwhで、一般家庭への売価は22円/kwhである。日本の電力料金が高いのは、発電原価が高いからではない。夜の電気を8円/kwhにし、企業用の電力料金を8円/kwhと安くするから、一般家庭用の昼の電力料金が22円/kwhと高くなるのである。夜を大廉売しなければならないのは、原子力発電所が夜止められないからだ。深夜電力のエコキュートを薦め、ガスは高いというマイナスキャンペーンをはり、エネルギー独り占めのオール電化に走った(図3)。

■余剰電力というカラクリ買い取りシステム
 夏のピーク時に個人住宅に発電してもらうことを考えたのが「余剰電力買い取りシステム」だ。43円/kwhで買い取るシステムで、パチンコ屋と自販機の電力事業者に43円/kwhで売るなら納得できようが、事業用料金8円/kwhで売るのだ。その差額は「太陽光発電促進付加金」として国民全員に負担がかかるので、国や電力会社の懐は痛まない。余剰電力売電は147kwh×43円=6321円/月ぐらいなので、太陽光発電を日本全所帯が設置すれば、太陽光発電促進付加金は147kwh×(43-8)=5145円/月となる。序々に増えるので気が付くのは20年後だ。年毎に高くなる年金システムと同じで、最後は破綻するネズミ講とも良く似ている。そもそも、売価8円と22円の商品を43円と高値で仕入れる商いがおかしい。

■原価償却の計算
 減価償却は10年と平気で言う。3kwの太陽光発電を設置費共で212.9万円としよう。1ヶ月の発電電力を300kwhとすると、300 kwh×22円×12月=79200円が年間発電料金となる。パワーコンデシショナー(30万円)は10年毎に取り変えなければならないので、2回分を入れて計算すると、(2129000+300000×2)÷79200=34.45年となり、耐用年数20年の機器の減価償却は成り立たない(図4)。そこで売電と絡めて計算を例にあげ、自分で使った残りを余剰電力として売れば電気代が半分になるという計算を示す(図2)。減価償却は設置費用÷発電費用と単純にすればよいものを、複雑な計算を使って煙に巻く。
補助金を使えば減価償却は10年近くとマスコミは言っている。東京の補助金は昨年度まで百万円近くと高く、更にパワーコンデシショナー交換のお金を計上せず、(2129000-1000000)÷79200=14.2年とした場合に、10年近くで元を取るという情報だった。今年の4月以降も10年償却と言っているマスコミもあるが、東京での補助金は半分に減ったので10年原価償却の地域はどこにもない。熊本の場合は、補助金が20万円なので減価償却31.9年となる。
3kwの大型太陽光発電で、売電43円/kwhと高値だから自分では使わず全部売れば300 kwh×43円×12月=154000円。(2129000+300000×2-200000)÷154000=16.4年となり耐用年数20年より短いので儲かるはずだが、太陽光発電促進付加金は自分も負担するので絶対元はとれない。ただし、10kwの大型太陽光発電を乗せれば高値43円/kwh買い取りなので、自分だけは儲かるが他人が損をするので正義ではない。環境問題を論じる人は金儲けに走ってはいけない。

■そもそも耐用年数20年は疑問
 設置方法はカラーベストの場合脳天から穴をあけてコーキングで留める (図5) 。コーキングの耐久性は10年が常識。瓦の施工はさらに難しい。瓦の施工で雨漏れを一番心配するのは瓦施工業者である。初めは設置に協力的だったが今はそっぽを向いている。「どうぞ太陽光発電業者さま勝手に取りつけてください。私たちは知りません」という態度だ。

 太陽光発電は巨大台風が来襲すれば、ガラスが割れるか、機器が飛ぶだろう。台風は天災だから責任は誰も取らないでよい。まずは、電力会社や事業者が太陽光発電を設置して量産し、コストを下げてから一般庶民に普及を促すべきである。1000万台もの太陽光発電を個人住宅に付けさせ、コストを下げさせてから電力会社が設置する計画だろう。

■エコは税収アップの源
 日本政府はエコという名のもと特定の企業を応援する。企業の2/3が赤字で、納税企業は1/3である。2/3は法人税を納めていない。業界全体を潤わせるより、特定企業が潤った方が納税は多くなる。例えばトヨタが1兆円の経常利益を挙げれば5千億円が納税される。住宅版エコポイントも全体のエコを考えるより、儲かっている特定のサッシュメーカーをピンポイントで支援して、更に高利益を得てくれる方が法人税は増える。アルミサッシュの精錬には木材の800倍もの電力を使うから、木製建具や障子の方が省エネには良いのだが、貧乏業者を応援しても税金は増えないので、エコポイントの対象にはならなかった。電化エコポイントの時、エアコン台数が増え電力使用量が増えたのは皮肉な話だが、量販店と家電メーカーは潤った。次の潤いの番は太陽光発電製品メーカーだ。エコの名のもと200万円以上の経済活性化商品の売上を延ばして税収を上げなければならないのだ。日本では、辛抱は悪で、消費は美徳である。

経済産業省エネルギー白書 2008年板
1kwh当たりの電力原価

太陽光発電46円
地熱発電8~22円
風力発電10~14円
水力発電8.2~13.3円
石油発電10.0~17.3円
天然ガス5.8円~7.1円
石炭5.0円~6.5円
原子力発電4.8円~6.2円

平成11年総合エネルギー調査会 原子力部会
1kwh当たりの電力原価

原子力59円
水力136円
石油・火力10.2円
天然ガス6.4円
石炭6.4円

建築ジャーナル 2011 7月号掲載

33.節電をしたつもりが増電なり

 電力消費を15%削減しなければならない状況となった。日本の省エネ技術は世界最高で、これ以上の削減を求めることは乾いた雑巾をしぼるようなものだという人がいるが、我が国はアメリカに次ぎ世界第2位のエネルギー浪費国だと知らないのだろうか。自分の快楽のレベルは落とさずに、照明器具をLEDに変えたり、太陽光発電機を屋根に乗せたりして、省エネを実施しているつもりだが、それは単にウランからレアメタルの消費に変わっただけのことで、発展途上国にゴミの山を強いることには変わりがない。

節電いろいろ

  • 電柱の数ほどある自販機を止めよう。自販機は冷蔵庫を屋外に置いているようなものである。電力料金を考えれば、ほとんどは採算が合わない。別の問題だが、自販機の空き缶は飲料メーカーが責任をもって回収すべきではないか。ボランティアで空き缶を拾う運動はおかしい。そもそもマニフェスト運動は民主党ではなく産業廃棄物処理において、発生者責任を問うシステムから始まった。製造者がラベリングを行ない、途中不法投棄をされても、製造者が責任をもって回収しなければならないというシステムである。それならば空き缶の処理はボランティアではなく製造者が処理すべきである。一昔前までは、ビン回収というすばらしいリサイクルシステムがあったが、自販機の普及で崩れてしまった。復活させるにいい機会である。飲料は飲む1時間ぐらい前に冷やせばよいものを、自販機に入れて1ヶ月も前から冷やすのはエネルギーの無駄だ。
  • コンビニは店舗名の通り7時から11時までの長時間営業が売りでスタートした。地方のコンビニ店長は深夜、店を閉めたいが、本部からの指示で仕方なく開けている。初心に戻り7時から11時まででよいではないか。電灯をLEDに変えることは悪くはないが、明るすぎる照度を落とすべきだ。外国のコンビニの10倍は明るい。
  • エコパチンコという機器が出た。画面がLEDだからエコだという話だが、一度検証に行かずばなるまい。昔、パチンコは指の運動と言っていた。電脳式から手動にしたらいい。指の運動はボケ防止にもいいし、ばねの運動で発電も出来るかもしれない。風俗だから警察の管理下というより、健康機器として扱い厚生省の管理下にしたが博打収益の配分バランスがよい。ちなみにサッカーくじの収益は文部省だ。
  • 運動不足でジム通いがブームである。運動器具のエネルギーは相当なポテンシャルである。発電装置に結線して発電しよう。
  • 食糧危機に役立つといって、電気で野菜をつくっている、お天道様がいるのにどうして電気で野菜をつくるのか。速刻禁止にすべきだ。減反しているぐらいなので、農地が不足していることはない。
  • 乾燥機付き洗濯機を止めよう。晴天が多い地域では太陽光発電を付けようというなら、その前に洗濯物を太陽で乾かすべきだろう。確かに共稼ぎの家庭では必要かもしれないが、全所帯に薦める機器ではない。
  • リニアモーターカーは止めよう。リニアモーターカーは新幹線の5倍の電気を消費するという。昔、JR駅の広告に「狭い日本、そんなに急いでどこへ行く」というのがあった。東京~大阪間の切符の奪い合いになる。リニアモーターカーか、新幹線か飛行機か、どれかが赤字になることは明らかだ。競争はサービス向上につながり良いというが、競争は敗者がいて成り立つ。この前、航空会社に税金投入したばかりなのに。経済効果指標はプラスだけ計上し、マイナスの指標がないのは不思議だ。
  • IHヒーターは止めよう。エネルギーの独り占め作戦は原発が夜も止められないため夜昼電気を消費する仕組みだった。消費電力が3800Wと大きいIHヒーターも、深夜電力のエコキュートと一体になり、消費料金はカモフラージュされていた。燃焼効率90%と2次消費エネルギーで計算したウソ情報をメーカーの社長が発言するから、電力業界は全く信用を無くした。電磁波の危険性があるかもしれないものををわざわざ使わなくてもいい。ガスを燃やすガスレンジがよい。
    ●誘導灯は昼夜問わず、点きっぱなしである。夜しかいらないので、光センサー式点滅式?でもよさそうだが、消防法が邪魔するのだろう。さらに、真夜中も点灯しているマンションの廊下灯は、外人の目には日本人が省エネに努力しているように見えないだろう。
  • 冷凍食品を買うのを少なくしよう。冷凍餃子事件の時、製造から消費まで1ヶ月以上あった。つまり餃子を1ヶ月間も冷凍しておいたのだ。産業用の電気代が安いから可能なのだろう。家電エコポイントの効果で、省エネだからと家庭の冷蔵庫は500Lを超える大型になった。さらに家庭冷蔵庫の中にも冷凍食品が長期保存されるだろう。
  • 生活スタイルと生活レベル
    生活レベルを落とさずに省エネという方針は、エコ機器の増設により、結果、総エネギー消費量は増えている。LEDへの機種変更や高効率機器への買い替えではなく、窓を開けたり、冬は着込むなどして生活スタイルを変えよう。待機電力の消費量は5%なのでプラグを抜こうというが、ボイラーやテレビのプラグは簡単に抜けない。ドライヤーのプラグを抜いても効果はない。待機電力が多いリモコンを無くすことが先である。家の中でリモコンをいつも探している。リモコンは無い方がよいかもしれない。
  • 電気自動車は省エネではない。
    原発は夜も止められないので、深夜料金を8円と大廉売している。これをいいことに利用しているのがエコキュートや電気自動車だ。原発が太陽光発電に替われば、8円は当然22円になる。エコカーなんて存在しない。
  • 太陽光発電機をベランダの手すりに設置するタイプは禁止するのがいい。太陽光は水平線より上なので垂直パネルは地上へ反射する。発電効率は15%なので、残りの85%は熱としてヒートアイランドの原因となる。自由社会日本であるが、自分のことしか考えない会社が多いので法律で規制しなければならないのだろうか。
  • 蓄電池は電力使用量を増やすだけ。
    リチウムイオン蓄電池の人気が高い。車1台分の価格もするが、省エネにはならず停電時自分だけ役立つお金持ちのエゴ商品だ。停電になってから起動させても役に立たないので、常に充電しておかねばならない。電気ポットと同じ原理で、常に通電していれば総エネルギー量は増大する。
  • 某家電量販店のHPを見ると、「我が社は省エネ機器の販売で、東京ドーム22.5個分のCO2削減を成し遂げた」という。あるハウスメーカーも高性能住宅の普及で樹木2万本相当のCO2固定化を成し遂げたという。自称エコ企業は増えたのに、どうしてエネルギー消費は増えるのだろうか。
「限りある地球資源を大切にしましょう」と、まず櫂から始めよ自販機様。
日本の地の1/10の明るさしかないデンマークの日本のコンビニ
ヒートアイランドを助長する手摺式太陽光発電 
180万円の蓄電池

建築ジャーナル 2011 8月号掲載

34.エコハウスの屋根と床の断熱性能

●屋根の断熱
 太陽の熱を受けた屋根材が家の中にどのように影響するのかを調べた。まず平地に鉄板屋根と瓦屋根のモデルを置き、太陽からの輻射熱による表面温度を測った(写真1)。鉄板屋根の表面温度は57℃まであがり、噂通り目玉焼きが焼ける。瓦は鉄板屋根より10℃落ちの47℃であった。エコハウスのイブシ瓦と鉄板屋根の下に温湿度計を埋め込んで計測した(図1)。外気温35℃の日の計測であるが、鉄板仕様の場合は断熱材上で52℃、断熱材下では33.6度であった。瓦仕様の断熱材上では45℃、断熱材下では33.4℃であった(図2)。屋根の上では10℃も温度差があるのに断熱材を介すれば温度差は0.2度である。この差を大きいとみるか、小さいとみるかは個人の判断で決めてほしい。居住空間に与える影響が0.2℃であれば、鉄板屋根でも瓦屋根でもよいではないかと考えるのは早合点すぎる。
  温度が上がれば湿度は下がるのだが、断熱材の下で、温度が上がっているのに湿度まで上がる現象が起こっている(図3)。鉄板屋根裏の断熱材上では気温52℃と高温になると、相対的に湿度は19%と当然下がる。しかし、鉄板屋根の断熱材下では気温33.6度なのに湿度は66.6%と高くなっている。どこからか水分が来ているのは確かだが、軒先から入った外気からか、天井板を通して室内からかは特定できない。屋根裏は温度差が激しいので、湿度が高い梅雨時に夏結露が発生しやすい。九州の建設屋さんは、昔から結露問題から野地板としてコンパネは使用しない。しかし全国展開のビルダーや新鋭作家たちは、コストと工期短縮といって野地板にコンパネを使用している。将来どうなることやら。最近の住宅の工事仕様書を見ると壁と天井の仕上げの下にビニールなどの防湿層をいれるようになっている。内装仕上げの珪藻土は材料の吸湿性能を強調しているのに、ビニール等の下地を入れればその効果はいかに。長持ちさせるのが絶対条件である長期優良住宅の基準がビニール包みとは理解に苦しむ。吸湿性がある断熱材であれば、温度差が発生して、少々結露が発生しても水蒸気として吸湿するのだが。
 エコハウスの屋根裏の断熱材にカンナ屑を使った。現場でカンナ屑は、廃棄物である。杉やヒノキのカンナ屑であれば防虫効果も期待できる。吸湿性は抜群である。断熱性能を、熊本県立大学細井准教授に計測してもらった(写真2)。熱伝導率はλ=0.07であった。グラスウール10Kがλ=0.05なので性能は少々悪いが、材料がタダなのが魅力である。普通は12㌢の厚さに詰めるが、厚さが均一にならない為、計算上10㌢の厚さで天井の熱貫流率はK=0.5となる。カンナ屑を不織布に詰める作業は誰でもできる。施主にしてもらうのがよい。カンナ屑断熱材の性能は厚さに比例すると説明すれば、施主が詰めた袋は厚い。 
 一般によく用いられるグラスウールは経年変化で収縮している事実を職人は知っている。湿気を含むとすぐ縮む。20年経過のグラスウールをリフォーム現場からもらって性能実験をしてみた。縮んでしまったグラスウールの断熱性能は60%に低下していた(写真3)。長期優良住宅仕様の温熱性能は等級4を求められるので、価格が安く密度の低いグラスウールは壁の中に詰め込めばいくらでも入る。将来的性能は60%に落ちるであろう。更にグラスウールは既製品なので横幅は910モジュールと2×4用しかない。関西間や九四国間だと当然間柱と断熱材に3㌢の隙間が発生する。間柱の隅にはカビが生えて可能性がある。仕様書には隙間なく充填施工することと書いてあるが現実は不可能な施工である。袋は伸びるので引っ張ってホッチキスで間柱に留めれば外部からはわからない。
遮熱塗料なるものが出現した。

●遮熱塗料
 遮熱塗料が多くでまわっている。その効果の実験をしてみた。価格は非常に高い。その高い遮熱塗料とホームセンターにある一番安い塗料を石材に塗って、表面温度を測った(写真4)。遮熱塗料とホームセンターの安い塗料の温度差はほとんどなかった。遮熱塗料には断熱効果もあるというので、良く見るとブツブツの材料が少し含まれている。僅かな断熱効果はあるかもしれないという程度の効能だ。スペースシャトルにも採用されているというのが売りであるが、飛ばす毎に塗装をやり変える仕様と比較するものではない。この遮熱塗料はウソかと思い、細井准教授に聞いてみた。明度が低いほど効果があり、高いと効果は薄いとのこと。なんだ。遮熱塗料と高い塗料を塗るなら、安い白い塗料を塗ったほうが安上がりということが結論だ。

●床下に計測機を埋めている
夏の夜、室内は29℃なのに床下は25℃で温度差は4℃(図4)もある。昼の床下も段々気温は上がるが外気温以上にはならない。この冷気を利用しない手はない。床下点検口に網を張って、夜1日中開ければ4℃低い冷気が入ってくる。300万円もするクールチューブがびっくりする装置である。
冬対策としては、床の仕上げは杉板21㍉で下地にフォレストボード60㍉を入れていて熱貫流率はK=0.58である。床から熱の逃げる熱量は悪くはない程度。

屋根鉄板の温度差
へたりグラスウールの性能実験
カンナ屑断熱材の実験風景
床下通気口

遮熱塗料の実験 

左:遮熱塗料 42~44℃  
中:塗料無し 52℃    
右:安い塗料 43℃

屋根裏の断面2種類
屋根裏 ●瓦断熱材上の温度●瓦断熱材下の温度●鉄板断熱材上の温度●鉄板断熱材下の温度
屋根裏 ●瓦断熱材上の湿度●瓦断熱材下の湿度●鉄板断熱材上の湿度●鉄板断熱材下の湿度
床下温度  夜室内29℃、夜床下25℃   昼室内30℃昼床下29℃外部32℃

建築ジャーナル 2011 9月号掲載

35.「家のつくりようは冬を旨とすべし」でよいだろうか

 省エネのためには「家のつくりようは冬を旨とすべし」という意見が目に付く。夏の冷房消費エネルギーより、冬の暖房消費エネルギーが多いからというのが理由らしい。冬の寒い日は1枚羽織ればよいという昔からの理屈が通用しなくなり、夏も冬も機械で室温を管理し、その機械の性能と、それを効率よく動かす環境をつくることに重きを置いている。根本的に夏と冬でどちらを旨にすべきか、夏日と冬日で比較してみよう。日本は南北に長く、日本全土に共通するものではないので、熊本の場合という注釈を付けておく。

 1日の最高気温が25℃以上になるのが夏日、30℃以上になるのが真夏日、35℃以上になるのが猛暑日である。昨年の熊本の夏日・真夏日・猛暑日を数えると、149日・85日・23日であった。夏日だけ見ると2008年は157日、2009年は167日、2010年は149日である。

 冬については、最低気温が0℃未満になれば冬日、最高気温が0℃未満になれば真冬日となる。熊本での冬日は、2008年は13日、2009年は24日、2010年は35日、真冬日は無い。これではどうも冬が短すぎるので、最低気温が4℃以下となる日を「寒い日」、平均気温が4℃以下となる日を「非常に寒い日」とした。それでも夏が長い。1年の内で夏が6ヶ月、冬が2ヶ月、春・秋が4ヶ月であれば、どう考えても「冬を旨とすべし」にはならない。当然といえば当然である。熊本の緯度はカダフィが住んでいるリビアと同じなのだから。それでも、東京から、冬主体の高気密・高断熱の家が押し寄せてきている。迷惑している。
最近の住宅設計のノウハウ本を見ると共通して次の事が言える。

  • 熱が逃げやすい窓を小さくして、壁を多くする。
  • 熱が逃げないように、建物の凸凹をつくらず、2階建てなら外壁の表面積が小さくなる総2階がよい。
  • 気密性能を上げるために防湿シート、気密テープを使用して、隙間を最小にする。空気の流れは、換気扇に頼る。
  • 地震対策を考慮して屋根は軽い方がよい。瓦屋根は重いので良くない。 S54年に発行された宮川英二著の「風土と建築」の建築手法と比較してみると面白い。全く逆の考えである。
  • 開口部を大きくして、通風、換気をはかる。
  • 規模が大きな家は輪郭を凸凹にして、また、場合によっては中庭を設けて、外郭の延長を長くし、多くの開口部をあけやすくする。
  • 軒の出を深くし、開口部に庇を付けて、夏外壁に日のあたるのを防ぎ、また室内へ直射日光の入るのを防ぐ。
  • なるべく外気の影響をうけないように、室内の空気容量を増やすようなプランや構造にする。
  • 雨の季節にも、窓や出入り口が開けられるように、軒や庇を設ける。
  • 床を高くし、また、建物の裾まわりの水はけ・通風をよくして、大地からの湿気を防ぐ。 とある。

 東京や大阪は家が密集して仕方がないかもしれないが、田園の中でも窓を閉め切った家が多くなった。1軒1台のエアコンが2台となり、エコポイントで更に加速し、3台4台と増えていった。暖房と違い、エアコンでの冷房は、室内を3℃冷やせば家の吹き出し口から3℃の高温が出る。そうすると、お隣は更に冷房の能力を上げなければならない。お互いがシーソーゲームとなり、更なる電気代が必要となり、窓を閉め切る。

 東電の原発事故により、電力需給は夏のピーク時の消費電力が問題であることが露呈した。「冷房にはエネルギーはあまり使いません。冬を旨とすべし」と言っていた学者さんは今、黙っている。
人間の快適さの感覚は温度、湿度、風速、輻射熱だけでなく人の感覚によっても違いがある。
人間の暑さ寒さの感覚は、温度、湿度、風速、輻射熱だけでなく着衣量や代謝も影響し、違う。

  例えば地下水に焦点を当ててみるとよくわかる。地下水や井戸水の温度は安定しているので、夏も冬も16℃と同じ温度であるが、夏の16℃の井戸水を冷たいと感じ、冬の16℃の井戸水を温かいと感じる。これは、人間の体感温度が季節により違うからである。夏と冬では7℃の感覚差があり、春と秋にこのセンサーが切り替わる。その季節の変わり目にセンサーがうまく切り替わらないと体調を崩す原因となる。一日中機械設備に頼って生活する人はセンサーの切り替えができず、せっかくの夏・冬モードを活用できない状態で暮らすことになる。また生まれ育ちでも違う。体温を調節するのは皮膚の汗腺が影響している。汗腺の数が多いほど体温を冷やす能力がある。アイヌ人の平均汗腺は143万個なのにフィリピン人は280万個と倍半分の違いがある。幼いときからエアコン漬けの生活をしていたら、汗腺が退化してうまく機能できなくなる。それが現代の熱中症の増加につながっていると専門家は言う。日本の熱中症の患者は年間3万人を超えるのに対して、タイ国では50人とTVは報じていた。人間には体温調整能力があるからだ。

 今年2月18日、同時刻に一斉に日本全国17000人を対象に電話アンケートで室温を聞いたラジオ番組があった。一番高温で暮らしているのが北海道で22℃、2位が秋田。一番低温で暮らしているのが佐賀で17℃、2位が長崎だった。佐賀が貧乏だから暖房をつけずに我慢しているということを否定はしないが、寒い地方の人は九州より、より高温に暖房しているという事実に驚く。(夏の場合は逆の現象が起きてないか、興味深い。)北海道の人は、冬部屋を暖かくして、ランニングシャツ1枚の姿でビールを飲む人もいると聞いたことがある。寒い時は、一枚余計に羽織り、温かい飲み物で暖を取り、暑いときは一枚脱いで、冷たい飲み物で涼を取る。これが、真のエコだろう。やはり「家のつくりようは夏を旨とすべし」がよい。

建築ジャーナル 2011 10月号掲載

36.伝統的構法木造建築が建てられない法的課題その1

×××住宅版改正省エネ法は要りません××

はじめに
 木造建築は、建築基準法施行令3章3節に従いコンクリート基礎を作り、土台と柱と筋交いや合板で耐震性能を確保しなければなりません。昔ながらの土塗り壁やたれ壁の構造壁で、足元は石場建ての伝統構法木造建築は建てにくい状況でありましたが、2000年の基準法改正で性能規定が導入され、限界耐力計算法を使えば伝統構法建築も設計可能になりました。

 しかし、2007年の建築基準法改正による建築確認の厳格化で、主に高さ20m以上の建築物等の特殊な構造を審査する適合性判定という機関が新設され、限界耐力計算法を使うならば小さな4号建築物でも適合性判定機関の審査を受けなければならなくなりました。多大な審査費用、長期の審査期間、そして120頁を越える構造計算書類が必要となり、申請物件は全国で一ケタ以下となりました。

 そこで「伝統的構法の設計法作成及び性能検証実験検討委員会」(委員長:鈴木 祥之立命館大学 立命館グローバル・イノベーション研究機構・教授)が結成され、4号建築物程度は容易に審査できるよう進めています。そのうち構造的問題は改善されていくでしょう。しかし問題は他にもあります。

 建築基準法は社会的問題が発生するごとに追加・改訂され、複雑化しています。郷原信郎氏が「法令遵守が日本を滅ぼす」の中で、具体的なこと、細かいこと、枝葉末節なことが多くなれば、法の基本的なこと、重要なことを忘れてしまいマニュアル主義になると警告しています。建築基準法にぴったり当てはまります。(参1)特に、排煙開口、換気扇設置、そして、今審議されている住宅版改正省エネ法です。

排煙窓
 200m2以上の住宅に排煙窓設置義務があります。排煙窓は火災時、煙を高い位置から逃がす目的であり、天井から80㎝下がりの開口部が有効開口面積です。伝統構法建築物では天井下がり部に欄間か垂れ壁があり(参2)有効な開口ではありません。今回の設計法では垂れ壁は大事な構造要素なので、構造の面では必要とされ、防火の面ではなくしなさいと矛盾するのです。商業建築ではFIX窓や腰窓が多く、火災時は外部にすぐ避難できないので排煙開口は必要でしょうが、住宅では排煙窓を開ける時間があれば掃き出し窓から逃げます。以前は200m2以上の建物であっても、法の不条理さから排煙規制は審査の対象から外すという姿勢の地方行政もありましたが、法令遵守を言いだした昨今ではありません。微細な防火避難対策が伝統構法の基本構造要素を阻害するのです。日本を代表する桂離宮等の建築が違反建築となることは、外国からみたら笑い者です。すぐさま改正して欲しい基準です。

シックハウス法
 建築材料に含まれる有害物質が健康被害を及ぼすので、シックハウス法が生まれました。そもそも土壁、木材などの自然素材の建材はシックハウスと関係がないので法律の適用外と思われますが、建材の区別審査がしにくいという理由で全建築に換気扇設置が義務付けられました。ベトナム戦争でベトコンと農民の区別がつかず村ごと焼き払う行為と同じです。高気密住宅の場合、換気扇が必要なのはCO2濃度の問題で混同する人もいますが別の次元の話です。気密性の低い住宅の多い九州では吸気のショートサーキットを起こし換気扇は換気の効果を全くなしていません。無駄な法令対応のために、今では24時間換気対応のレンジフードまで出現しました。商魂たくましい日本の家電業界です。逆に婦人雑誌では細めに電気のスイッチを消しましょうと換気扇のスイッチを切ることはもはや省エネの社会運動です。もう一度(参1)を見て下さい。換気が目的なのに、換気扇設置が目的になっている例です。そもそも換気法については、建築基準法の中に床面積の20分の1の換気開口部の規制があります。この法では機械換気は駄目で、自然換気でなければなりません。シックハウス法の換気では自然換気は駄目で、機械換気でなければなりません。同じ換気法なのに相反する規制がどうして起きるか不思議です。おそらく細分化した担当者の違いによる矛盾です。

省エネ法
 建築基準法第1条に「建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、・・・」とあります。基準法は、最低の基準というわりには箸の上げ下ろしまで細かく規定しすぎていますが、「敷地、構造、設備」の枠を広げることはできません。雨漏れや断熱の項目を法令化することができないの、雨漏れについては「瑕疵担保履行法」をつくり対策を講じました。断熱は住宅金融公庫の仕様書で融資と引き換えに全国に浸透しました。金融公庫はフラット35と姿を替え利用する人は少なくなりましたが、誘導法効果で、断熱材を入れない住宅は少なくなりました。平穏な状況にまた物議が起きそうです。

 省エネが話題なり、外国への原発販売が怪しくなった昨今、国は省エネ機器販売がこれからの日本の進むべき道と位置づけました。太陽光発電は日本が先駆者だったのに、誘導政策を取らなかったのでドイツに追い越されたという認識なのでしょうか、省エネ機器販売をまず国内で普及させる法をつくろうとしています。経済産業省と国交省は、「我が国の卓越した省エネルギー技術の海外進出」を目指し「単身世帯を除く全所帯に高効率給湯器・給湯用ヒートポンプを普及させる」と宣言しました。まずは省エネ法の改正です。省エネ法の基準は断熱・気密が主で、総合的なエレメントで構成された伝統的構法の家やまじめな家づぐりの仕様には合いません。生活の基礎である住宅が産業に利用されてよいのでしょうか。

参考1

上方
・重要なこと・基本的なこと・根本的なこと
下方
・具体的なこと・枝葉末節なこと・細かいこと

参考2

住宅の環境性能評価

評価次世代省エネ基準
住宅版改正省エネ法
伝統的工法の家
断熱×
気密×
蓄熱×
遮熱×
吸湿×
通風×

建築ジャーナル 2011 12月号掲載

37.伝統構法木造建築物の法的な課題について NO2

住宅版改正省エネ法は要りません
 省エネ法は石油危機に直面した1979年に制定・施行されました。そして翌年具体的な断熱の基準として「旧省エネ基準」が生まれました。主に住宅金融公庫の基準に採用され普及しました。規制するのではなく誘導法の代表でした。1992年に強化されたのが「新省エネ基準」です。1999年、「気密」が加わり「次世代省エネ基準」が生まれました。その後、2000年の品確法に採用され、「旧省エネ基準」は等級2、「新省エネ基準」は等級3、「次世代省エネ基準」は等級4と表示することになりました。更に2010年の長期優良住宅の温熱基準では、「次世代省エネ基準」だけが採用されました。

 CO2排出削減が話題になり、経済企画庁と国交省は2000m2以上の建築と150棟/年以上建設の建売業者に「事業主の判断基準」を課したのが改正省エネ法です。この法は3年毎に報告義務をつけましたので、永久に報告しなければならないという申請者にとっては重荷な法です。屋外広告物法と同じく、法律はあるが看板屋さんさえその存在をしらないのと同じく、形骸化して将来は誰も提出しなくなるのではないでしょうか。

 鳩山首相が2020年までにCO2を25%削減と国際公約をしたので、2010年に改正省エネ法の建築基準を2000m2以上から300m2以上に引き下げました。続いて次なる改正が予定されています。2010年11月民主党の市村国土交通大臣政務官は「低炭素社会に向けた住まいと住まい方推進会議」の中で「新築の住宅すべてを省エネ基準に適合させることを検討せよ」と指示し、「その取り組みが産業界のビジネスチャンスを生みだす」と付け加えました。 

 その指示のもとに作成されようとしているのが住宅版改正省エネ法です。具体的な基準書づくりは「住宅・建築物の省エネ基準の適合義務化に関する検討会」が担っています。検討会の委員長が今年の正月に「トップランナー基準をモデルにする」と発言していますが、トップランナー基準は伝統構法木造建築物には厳しいものです。

 原発事故後の3月28日、経済産業省資源エネルギー庁が、これから国がすすめる基本となる「省エネルギー技術戦略2011の策定」を発表しました。長文なので住宅部分のみを抜粋します。「省エネルギーを一層進める対策として、エネルギー消費の大きい冷暖房等空調、給湯、照明、OA機器、また、IT機器関連のエネルギー消費量に対する省エネ技術であり、(中略)外皮性能・建材については、高断熱・高気密、パッシブ住宅の技術がある。冷暖房等空調においては、冷暖房の空調機器の効率化と、断熱性能の高い外皮性能と建材の採用により空調負荷自体を減らす技術が重要となる。省エネ情報機器・システムは、IT機器の利用等により増大する消費電力量を削減するため、個別のデバイスや機器の省エネルギー化に加え、省エネ型情報機器、省エネ型次世代ネットワーク通信、待機時消費電力削減技術、高効率ディスプレイという関連技術を駆使し、情報通信ネットワーク全体での革新的な省エネルギーを実現するエネルギーである。(中略)また定置用燃料電池は、発電効果の向上・熱の利用技術の進展により、家庭分野の1次エネルギー消費をさらに大幅に削減するとともに、スケールアップに業務分野、産業分野にも適用でき、省エネを加速する重要な技術である。」と報告しました。そして「2020年までに高効率給湯器・給湯用ヒートポンプを、単身世帯を除くほぼ全所帯に普及」と付け加えています(参考7)。経産省はエコポイント政策で省エネ効果があったと手褒めしていますが、本当に省エネ効果はあったのでしょうか。一世帯あたりの家庭の人数は減っているのに500Lの冷蔵庫、50Vのテレビへと大型化し、中部地方ではエアコンの台数が3倍になったとの報告もあります。住宅のエネルギー消費量の30%以上を占める家電エネルギー消費量には手を付けず、暖房エネルギー消費量を一番の標的にしています(参考5)。ドイツに遅れているという学者さんもいますが、おそらく高性能住宅だけを視察したからでしょう。困ったものです(参考4)。

 そもそも家の環境性能は断熱・気密・蓄熱・遮熱・吸湿・風速で決まります。しかし、住宅版改正省エネ法では断熱・気密だけを評価基準にしていますので、伝統的構法の家は評価が悪いものとなってしまいます(参考3)。委員会でも日本の家や伝統的構法の家が基準に合わないことは認識していていますがどう対処されるのでしょうか(参考6)。断熱・気密が不充分なら、ヒートポンプ暖房や高性能エアコンを付け、太陽光発電やエコキュートでトレードオフせよというのでは困ります。

 「次世代省エネ基準」の家の普及が2割近くあるのは、長期優良住宅の100万円の補助金をもらうために省エネ基準を採用しているだけです。補助金が無くなれば採用も止まります。過去のバリアフリー住金融資を考えればわかります。性能を上げる意識より100万円の融資をもらうために最低限の仕様だけを守るので弊害も出てきています。955モジュールに910の既製品断熱材を入れれば45㍉の結露域が出てカビだらけになったり、1階と2階の通気スペースが通っていなかったりと、断熱工事に不慣れな温暖地方では、充分に温熱の仕組みを理解せずただ融資をもらうためだけの仕様になっています。「木材防腐工業組合・長期優良住宅の総合的検証委員会・耐久性分科会」では、「この10年で木部が急に腐るようになってきている」とさえ報告しています。955モジュールの断熱材が世の中に存在しないのに、生産の指導もせず、「隙間が無いように施工しなさい」だけでは不良工事が発生するのは当然でしょう。

まとめ

この住宅版改正省エネ法が成立すると、伝統的構法の家、日本的な家、ログハウス、新建材を使わない家は建てられなくなります。断熱・気密性能の指標である熱損失係数だけの性能をあげるために、合板や防湿ビニール等の石油製品が主要な建材となり、真壁、竿縁天井は消えてしまいます。
土と紙と木と藁で構成される日本の伝統的構法の家は、つくるときもエネルギーを使わず、役目を終え処分するときも産業廃棄物を残さない最高の環境共生住宅であるはずです。エコという名の消費拡大成長戦略に住宅建築を巻き込まないで下さい。世界で最高の環境共生住宅が建てられないというこのひどい法律をつくろうとしていることに、叩かれ強い建築士の皆さんはどう動きますか。

参考4
住環境計画研究所「各国の統計データに基き」より
参考5
住環境計画研究所「家庭用エネルギー統計年報」より
参考6 低炭素社会に向けた住まいと住まい方推進会議より
参考7 省エネルギー技術戦略2011の策定より

建築ジャーナル 2012 1月号掲載

38.39.40.住宅版改正省エネ法を阻止しよう

 2020年までにCO2排出量を25%削減のため、住宅版改正省エネ法(以下改正法)がつくられようとしている。学者や環境専門家が中心で、委員の中に建築士は少なく内容は幼稚すぎる。「国がそんなおかしな法律をつくるはずがない」と言う建築士もいるが、いままでの改正基準法やシックハウス法のことを考えればわかるだろう。「はずがない」ものが「はずがある」になるのだ。今回の改正法は一部の企業を応援するような内容で、膨大な書類作成と審査費用と建築費がかかり、官製不況は免れないだろう。せめて住宅の質の向上を促すものであれば少しは救われるが、内容を見ると逆になることが多そうだ。

 改正法は、現在建売住宅に採用されている「事業主判断基準」(以下「判断基準」)を基本とするとの発表なので、それらを運用した時の問題点を挙げてみる。

 エネルギー問題に世間が関心を持ち始め、住宅の省エネ化には賛成だが「判断基準」が「高効率の電気機器を満載すれば省エネになる」という方向性は、エコよりエコノミー推進が目的に思えてしまう。

1、建築の環境性能指標を増やすべき

  • 判断基準」は、建物外被の高断熱・気密化と高効率設備の利用を誘導する内容だ。
  • 建築の環境性能の要素はたくさんある。JIAの環境ラボ(中村勉委員長)は9つの要素を挙げている。断熱、気密、日射遮蔽、日射導入、蓄熱、通風、換気、調湿、水・緑の利用である。しかし「判断基準」には断熱、気密だけの要素しかない。土壁の家は、蓄熱、調湿性能はあるが、断熱性能がないので不良建築物となってしまう。また、家の内部でも外部でもない縁側という緩衝空間は温熱環境的に非常に有効だがその評価はない。9つも要素があるのに、評価しやすいものだけを基準にするのはいかがなものか。
  • 土壁の家は断熱性能や気密性能が無いので「判断基準」を採用すれば、日本の風土、歴史、文化により生まれた土壁・真壁の家は建たなくなる。
  • 土壁の家に住み、薪ストーブなどで山に余った木を燃やして暖を採る家は環境的には優等生である。建築生産時もエネルギーを使わないし、処分時もエネルギーを使わないのに、悪者扱いになるのは基準の方がおかしいのではないだろうか。
  • 京都に多く建っている数寄屋建築が「判断基準」によると違反建築扱いになることを外国人はどう思うのだろうか。吉田五十八、谷口吉郎の建築は駄目であり、環境性能を考えた吉村順三の建築も駄目である。これらの建築を対象外にしないと日本は世界から笑い者になる。

改善事項

  • 土壁の蓄熱性能や調湿性能を評価する基準を追加すべきだが、評価が困難なら茶室と同様に、土壁・真壁の家については「断熱・気密」の項目を対象外にすべきだ。
  • 縁側は日本住宅のシンボルである。温熱の緩衝空間であるのに「判断基準」では性能評価の基準はない。外皮ですっぽり包むことを主にしているので縁側は逆に悪い評価となる。縁側を評価する計算が環境専門家にできないので排除するというのならはおかしい話。このまま進めば縁側が日本から無くなってしまう。緩衝空間の評価式をつくるべきだ。
  • 玄関ホールも縁側と同様な考えである。玄間戸までペアガラスという「判断基準」は本当に必要だろうか。格子戸のペアガラスは作りにくいので、規制すれば格子戸が日本からなくなってしまう。玄関戸と玄関ホールの戸で評価する方法を作るべきだ。
  • 断熱・気密の基準Q値だけで評価するのには無理がある。前記した9項目で評価すべきである。
  • 構造計算には、壁倍率計算、許容応力度計算、時刻歴応答計算、限界耐力計算等多くの種類があり、建物に合った計算法を自由に選択できる。環境性能においても「判断基準」だけでなく「自立循環型住宅への設計ガイドライン」やその他多くの基準をつくり、選択できるようにすべきだ。

「判断基準」を分析する
1次エネルギー消費量算定シートの問題点

  • 「判断基準」は「1次エネルギー消費量算定シート」に目標値があり、それ以下になるようにしなければならない。地域区分を8区分に分け、年間の基準1次エネルギー消費量を定めている。例えば北海道での基準1次エネルギー消費量は113 GJ、岩手県は62GJ、熊本県は53GJである。地域区分に差があることは理解できる。しかし、Ⅳb地区の熊本において、全館空調設備式を採用すると、53GJ が89GJに上がるのである。岩手の人より熊本の人がエネルギーを多く使っていいとはおかしい話だ。ダクト式換気装置を設置すれば、更に93.9GJまで上げてよい仕組みである。金持ちには基準が上がるというアラブの国のような制度である。
  • (A)暖房設備の1次エネルギー消費量+(B)冷房設備の1次エネルギー消費量+(C)給湯設備の1次エネルギー消費量+(D)換気設備の1次エネルギー消費量+(E)照明設備の1次エネルギー消費量-(F)太陽光発電等の発電電力の総和である。この値が「基準1次エネルギー消費量」を超えないことを基準にしている。

改善事項

  • 全館冷暖房装置やダクト式換気装置を設置すると53GJ が93.9GJにもなるような基準を上げる裕福者優遇措置はやめて、高性能機器を付けようと付けまいと平等に扱うべきだ。
  • 近年のエネルギー増加は暖房エネルギーではないのに、住宅の建築性能に過度な規制をする。エネルギー消費の増加は家電である。大型テレビ、3Dテレビ、温水洗浄便座、IHヒーター、待機電力機器、パソコン等が消費量を押し上げて、全体を占める割合は36%とトップである。次に多いのが30%の給湯エネルギーで、暖房エネルギーは24%と3位である。一番多い「家電のエネルギー消費量」という項目を追加すべきだ。そして家庭全体のエネルギー消費量削減を考えることである。

用途別1次エネルギー消費量の問題点をあげてみる
(A)暖房設備の1次エネルギー消費量

  • 暖房によるエネルギー消費量は全体の24%なのに、九州ではこの項目の規制が大き過ぎる。暖房エネルギーの1軒当たりの平均消費量は北海道では40GJ、九州では10GJ程度であろう(環境建築読本資料より推測する)。日本全国を高気密高断熱住宅にしたらエネルギー消費量が総じて一律に減ると考えるのは間違いである。寒冷地では効果があるが温暖地では効果が薄い。
  • 新築時に設備が設置されていない場合や項目が無い場合はエアコン設置と同等とみなされる。コタツは省エネ暖房の王様と言われているのに項目がない。高効率エアコン暖房がコタツ暖房より4.4 GJ少ないことになるのはおかしい。
  • 薪ストーブの暖房方法を採用すれば「設備が設置されていない」項目に該当し20.9 GJ使ったことになる。暖房設備がない方が設備を付けるより消費量が多くなるのは矛盾している。
  • 全館熱交換換気扇を付けている家は1~2GJ少なくてよい。全館熱交換換気扇が九州の戸建住宅に何軒あるだろうか。非常に稀に存在する家を基準にするより、一般的に使用している暖房機器を考慮すべきである。九州で一般的な暖房機器は石油ファンヒーター、開放式石油ストーブ、コタツである。価格の安い暖房器具は意図的に排除するのはおかしい。

改善事項

  • 薪ストーブの項目がない。樹木などの再生可能エネルギーを使い、1次エネルギーを使わないのでゼロと表示すべきだ。
  • 石油ファンヒーター、開放式石油ストーブ、コタツの項目をいれるべきだ。Ⅳb地域では10GJ程度だろう。これらの項目を入れるべきだ。
  • 暖房なしの家をエアコン暖房ありの家と同じ基準にしたのは、売却したりして持ち主が変われば暖房方法が変わることもあるからだろう。それならエアコンの耐久性は7年程度だ。故障したら外すかもしれないので同じことではないか。全ての暖房機器を入れるべきだ。
  • 掛け布団・敷き布団をしっかり使い保温すれば、こたつは電気ヒーターといえど部分暖房の王様である。九州ではこたつが主な暖房という家は多い。「部屋全体を暖房することを基準にした」ものではない局所暖房方法も基準に入れるべきだ。省エネの王様であるコタツを基準に採用しなければ「暮らしの手帖」社などが必ず取り上げ、批判の渦が巻くことは明らかである。学識経験者や法を作る人は国民のライフスタイルを知らないのだろうか。

(B)冷房設備の1次エネルギー消費量

  • 通風確保の家とそうでない家の区別がある。風通しを良くしてエアコンを使わないように誘導する基準かと思ったら、エアコン冷房の家よりエアコンを使わない家が1.2GJエネルギー消費量多くなるとはおかしい。
  • 機器を設置していなければ、普通のエアコン機器を入れているのと同じでは「推定有罪」の考えだ。「疑わしきは罰する」は日本の法の基本ではない。

改善事項

  • 温暖地の九州といえどもエアコンを使わない家もある。冷房機器をいれない家の消費エネルギーが6.1 GJとなっているが、エアコンを使わない家は0GJにすべきだ。

(C)給湯設備の1次エネルギー消費量

  • 給湯設備の種類が7種類ある。冬の水道水の温度差を熊本と東京で同時に計測したことがある。熊本14度、東京は6度だった。給湯1次エネルギー消費量の差は地域によりかなり違う。
  • 節水シャワー、手元止カラン等を設置すれば3.3GJ減じて良い。節水機器について過大評価である。
  • 高性能給湯機器は普及すれば価格は下がるというが、下げなければ普及しない。法律化するのであれば価格を下げることを先にすべきだろう。

改善事項

  • 暖房エネルギーより給湯エネルギー使用量が多い。配管材料の保温や浴槽の保温性能を向上させた方がよい。浴槽の湯冷めはかなりのエネルギー消費である。浴槽に敷設してある断熱材の厚みは1㌢と薄い。本気で国が省エネを考えているのであれば、国民に強いる前に普及版の浴槽の断熱材を厚くするよう浴槽製造メーカーを指導してほしい。(高級品の浴槽は存在する)
  • 地域差をつけるべきだ。特に水温の差で倍半分の差があるはず。もっと調査して基準を決めるべきだ。

(D)換気設備の1次エネルギー消費量

  • 換気扇は法律だから設置したものの廻っていない。

改善事項

  • 24時間換気扇は実態として機能していない(昨年の建築士2月号)。換気扇を廻していない家は4.1GJではなく0GJにすべきだ。
  • 万民平等の原則から沖縄地域にまで24時間換気扇を設置させているのは、実情に即していない。換気扇設置のシックハウス法そのものを改正すべきだ。

(E)照明設備の1次エネルギー消費量

  • 調光器を蛍光灯に付けている人はいない。非常に個別なマニアック仕様が基準になるのは委員会に声高なメーカー寄りの人がいるからだろう。このようなマニアックなものまで採用すれば、他に100項目ぐらいあるだろう。

 改善事項

  • 新築時に照明設備が設置されていない場合などありえない。この項目は排除すべきだ。
  • 蛍光灯に調光器の項目は排除すべき。環境専門家のオタク志向が強すぎる。
  • 非居室では点灯時間が短いので白熱灯を使うことが多い。白熱灯はトランスもないので短時間の消費量は少ない。白熱灯3.3 GJと蛍光灯の1.6 GJとは違いがありすぎる。非居室は共に1.6GJでよい。
  • 「全ての器具が蛍光灯」ではなく、「主たる居室の全ての器具が蛍光灯」にすべきだ。防犯灯、フッライト等の短時間使用の白熱灯もあるのだから。
  • 人感センサーを設置すれば省エネとなるのはおかしい。人感センサーには待機電力が必要なので逆に多くなる可能性もある。この項目は無くて良い。

(F)太陽光発電設備等のトレードオフ

  • 太陽光発電をつければトレードオフでエネルギー使用量を削減できるが、あまりに削減量が多すぎる。機器費用が200万円ぐらいかかるので普及していないコ・ジェネレーションシステムまで出てくる。これらは生産時に相当なエネルギーを使う。当然生産時のエネルギーを加算すべきである。100万円近くの補助金が出るが、国民全員が設置すれば、その補助金は国民全員が負担するという変な話。また、中国産の太陽光発電が増えている。補助金が中国製品を購入するために活用され消費税を上げざるをえないのに国民は気付いているのだろうか。

改善事項

  • 太陽光発電に8GJのエネルギー生産とみるのは多すぎる。雪やホコリ、メンテナンスによる発電効率低下、消耗機器交換を考えると6 GJが妥当ではないだろうか。
  • 10KWの太陽光発電をつけ、売電が目的で利益を得ようとする人を優遇すべきではない。創エネ機器は生産時や処分時のエネルギー消費量を加算して評価すべきだ。
  • 太陽光発電購入の多額の補助金は国産品購入の場合に限定すべきだ。

更なる矛盾

  1. 薪ストーブを暖房に使い、エアコン無しの風通しの良い家では実際使用エネルギーを支払ったレシートで計算すれば30GJ以下である。しかし、「消費量算定シート」に沿って計算をすると53GJを越えてしてしまう。エネルギーを使ってないのに使ったことになる。盗んでいないのにドロボーにされてしまう冤罪に似ている。計算法が間違っていることの証明だ。
  2. 「改正法」は許可なのか確認なのか。違反しても建築基準法違反ではない。違反した場合の罰則者は施主なのか、設計者なのか、施工者なのか。そして、取り締まる役所は建築指導課なのか。申請時だけなのか、完成時なのか。屋外広告物法と同じく、誰も守らない法になってしまう気がする。
  3. 設備機器は7~10年しかもたない。建物はそれ以上もつ。長期優良住宅は100年もつ要素を保有するというが、エコキュートやボイラーが耐用年数を過ぎた場合の規制はどうするのだろうか。「100年間付け続けます」という制約書でも入れるのだろうか。逆に、「高性能エアコンを次のボーナスで付けます」という人の対応はどうするか。そもそも日用品に近い機器設置を法で規制することは困難である。
  4. 「算定シート」の項目をみると高効率機器類をたくさん設置させる目的に思えてしまう。エコポイントと同じく省エネが目的でなく、メーカー商品機器の販売促進が目的に思える。
  5. 冬、北海道・東北ではぬくぬくした生活をしていて、九州は寒々した生活をしている。昨年2月18日のラジオ情報によると、日本全国17000人に同時刻にアンケートをとり室温を測ったら、一番高温で暮らしているのが北海道で22度、2位が秋田。一番低温で暮らしているのが佐賀県で17度、2位が長崎だった。北海道・東北では冬、ランニングシャツでビールを飲むと聞く。即刻辞めてもらいたい。九州と同じくらいの温度設定の生活をすることが省エネ生活だ。「改正法」が適用されれば、九州でも北海道と同じに冬、ランニングシャツでビールを飲むことになるだろう。
  6. 北海道と九州や沖縄では省エネ対策は根本的に違う。同じ「算定シート」の基準の数値を少し変えて使うことに無理がある。感覚的に年間暖房費は2万円である。北海道は20万円だろうか。10倍近くの差がある。同じ指標で数値だけを補正するのではなく根本から違う基準にすべきである。
  7. 九州での年間エネルギー費は平均23万円である。暖房費は2万円、給湯費は7万円、家電・調理費は9万円である。目標は5万円削減である。自ずとどこに力をいれて省エネにすべきかは子供でもわかる。あまりに費用対効果の少ない住宅の断熱規制が強すぎる。経済産業省は家電機器規制に消極的で、建築側に規制に力を入れる。国土交通省より経済産業省の官僚が強い結果だろう。
  8. ヒートポンプエアコン暖房は効率が良いと推薦するが、室内が乾燥し過ぎ健康面からはよくないと、医者は加湿器やストーブの上にヤカンをのせることを薦める。室内環境は医学的見地からも考えるべきだ。
  9. 九州電力の23年4月26日の発表によると昨年の電気使用量が前年比5%増えたのは、エコポイントで家電が大型化し、エアコンの台数が増えてからとのことだ。又23年12月13日の新聞では、家電製品が大型化し住宅のCO2排出量は6.8%増えたと報道した。
  10. 北欧やドイツの高断熱高気密住宅に遅れているという理由で日本全土を高気密高断熱住宅にするつもりだろうか。日本は縦に長い国である。地域ごとに気候が違い、省エネのやり方は全く違う。単純な基準で全国展開するのをやめて欲しい。
  11. 環境専門家は開放型石油ストーブは良くないという。開放型石油ストーブは、毎年ホームセンターに山積みされている。高気密高断熱住宅を法律で推奨するのであれば、開放型石油ストーブの販売禁止の法律を先につくるべきだろう。
  12. 1次エネルギー消費量は家庭の電気代・ガス代の領収書で簡単に算出できる。省エネが目的の法律なので領収書証明でもよいではないか。複雑な計算式を使いその審査関係に財団の臭いがする。
  13. 「判断基準」は室温20℃確保が基準である。法律で、国民の最低限度の生活を確保するためのものであるならば、最低室温は10℃程度を基準とすべきである。「判断基準」はそもそも理想的な性能を誘導するためのものであった。室温20℃の理想を目標にするのは法律ではない。
  14. 使わないスイッチは消しましょうという省エネ運動で、24時間換気扇のスイッチを消す主婦。大きいな家ではエアコンで室内全部を暖房するより小型ヒーターを使いましょうという運動に、環境専門家はどう対処するのだろうか。机上の計算の世界ではなく、省エネには主婦の目も必要だろう。

まとめ
 法律は簡単でなければならないという論理があるが、計算しやすいヒートポンプ機器設置は高得点で、計算しにくいコタツ等は切り捨ててもよいものではない。難しいものを簡単に評価する基準をつくるのが専門家の仕事である。ヒートポンプもコタツも評価した基準になることを期待する。

 「住宅事業建築主の判断基準」がそのまま施行された場合の問題点を列記した。改善されることを希望する。「がまんしての省エネはよくない」「快適性を保持しての省エネ」「エネルギーを電気に集中させれば省エネ」という考えが今までは多かったが、東日本震災・福島原発事故の後、原発に頼った省エネ政策は大幅に方向転換せざるをえない。地下資源が無かったころの生活の知恵に答えがあるかもしれない。

 寒い地域では高気密高断熱仕様の家は必然かもしれないが、鹿児島や宮崎の温暖地域でも、高気密高断熱仕様にしなければならないという法律にJIAとして反対声明を上げて欲しい。

建築ジャーナル 2012 2・3・4月号掲載