雑誌「建築ジャーナル」に掲載されていました”古川保のこんなもの要らない”。 本当に「こんなものいる?いらない?」そしてこんなものはいったい「誰のため?」真剣に考えてみましょう。

1.伝統構法とは何ぞや
2.伝統構法万歳 3方良しの産直住宅システム
3.格子戸いろいろ
4.伝統構法に厳しい瑕疵担保履行法1
5.伝統構法に厳しい瑕疵担保履行法2
6.熊本のスギQ&A その1
7.熊本のスギQ&A その2
8.太陽光発電に費用対効果はない
9.長期優良住宅普及促進法に物申す
10.エコエコエゴエゴ
11.伝統構法の住宅実例1
12.伝統構法の住宅実例2
13.民主党政権への税収提案
14.品確法再批判その1
15.品確法VOL.2
16.品確法VOL.3
17.品確法VOL.4
18.住宅版エコポイント
19.水俣エコハウスの理念
20.伝統的構法は玉手箱―水俣エコハウスの構造

1.伝統構法とは何ぞや

 古いものを見直そうという動きがあるが、建築業界も例外ではない。伝統構法というコピーが良く目につく。伝統構法、伝統的構法、伝統工法、伝統木造といくつかの表現方法があるが、まずは言葉の整理が必要だ。

工法と構法の違い
伝統構法という単語は建築大辞典に載っていない。工法と構法の違いは載っている。工法は「物の組み立て方、施工の方法」。構法は「建物の構成方法、材料及び構成部品により構成される建物の実態」とある。
定義がないからこれが伝統構法だと断定もできない。

伝統とは
広辞苑によれば伝統は「系統を受け継ぐこと」とある。ウィキペディアによれば、「伝統は常に変革を伴う。そうでなければ、現代に生きる我々は古代の人々と全く同じ生活を送っていなければならないはずである。伝統の維持を求める者は、大量の『変革されたもの』に混じっている少数の『変革されていないもの』を見つけ出し、そしてその『変革されていないもの』の保護を求めるという行為が不可欠になる。」つまり、
生活のあわせて新しいものに変革させても良いということである。

伝統構法
伝統構法の材料要素は、昔から受け継いだ貫や板壁や土壁などである。それらを昔から受け継いだ施工の方法で家を建てる。民家村などの展示建築では生活しないので、純粋な伝統構法の建築は可能である。しかし、現代に生きるものが生活として使用する住宅では変革をどの程度行うかが議論となる。その変革の範囲に個人差や思い込みの差があるものだから話しが複雑になる。

伝統構法[思い込み仕分け]
伝統構法の思い込みを6つに仕分けしてみた。
① 基礎石。石場建て。足固め。貫。土壁。金物なし。漆喰壁。込み栓。渡り顎。木の建具
② コンクリート。足固め。貫。土壁。金物なし。漆喰壁。込み栓。渡り顎。アルミサッシュ
③ 布基礎。土台。貫。土壁。金物なし。漆喰壁。込み栓。渡り顎。アルミサッシュ
④ 布基礎。土台。貫。下がり壁。モルタル壁。断熱材。金物なし。漆喰壁。渡り顎。アルミサッシュ
⑤ 布基礎。アンカー緊結。土台。貫。モルタル壁。断熱材。金物なし。ボード塗り壁。渡り顎。アルミサッシュ
⑥ 布基礎。アンカー緊結。土台。筋交い。モルタル壁。断熱材。金物なし。ボード塗り壁。渡り顎。アルミサッシュ

伝統構法[認識の差]
A ①については、名工と呼ばれる人の施工が多く誰も反論はしない。しかしコストが200万円/坪かかるかもしれない。
B 伝統構法の構造は、木材の曲げとめり込みにより構築しているので、①~⑤は伝統構法だという人。
C 過半の建築工法要素を伝統構法から学んでいるので、筋交いを使っても良いのだ。よって①~⑥は伝統構法だという人。
D 地震が多い日本は、布基礎に建物を頑強に緊結し地盤の揺れにしがみつく構造思想ではない。丸めの  基礎石に乗っかっていて、大地震の場合は基礎石からずれて地震エネルギーを吸収する。免震と制震を合体したような構造思想が基本だから①~④という人。

伝統構法とはなんぞや、異論反論もたくさんあるが、建築大事典に掲載されていない言葉を定義するのは難しい。日本の建築文化を残すことに主眼を置き、構造思想の再確認にためには①~⑥論争に巻き込まれても、Dの認識で基礎にアンカーボルトで建物を留めない家の作り方を伝統構法と称して今後書いていく。
伝統構法が強いか弱いという議論には意味がない。「綿1キロと鉄1キロではどちらが重い」というクイズに似ている。伝統構法愛好者が言う「強い」というのは、筋交いや合板が建築基準法で認められて、貫が認められていないことに対する反逆論である。

法的規制
戦後復興当時、柱が9寸とかバラック建築が横行したため、昭和25年に建築基準法が施行された。伝統構法のことは眼中になかった。不法建築も多く、建築基準法も申請主義だったため根本からの建築基準法改正はなかった。60年が過ぎ問題が露呈した。最近の問題の極みは瑕疵担保履行法まで及ぶ。土壁の中に防水紙を入れよとのお達しである。土壁の検査はないので、「土壁の中に防水紙を入れました」と言って事なきを得る方法もあるが伝統構法を行う人は正直者が多い。法的問題は後述する。

伝統構法[表舞台へ]
伝統構法は確かに建築基準法に違反している。法律の方がおかしいので訴訟になっても無罪の判決。今の時代、法令遵守が言われ建築検査が行われてきて、裏舞台では建築出来なくなった。声をあげて表舞台に上げなければならないが、なんと舞台に階段が無い。

左:限界耐力計算で解析して建築確認を下ろした。アンカーボルトでの固定はない
右:基礎は地中梁方式で上部への立ち上がりはない。強震が来たら建物は横にずれる。給排水管に被害で出るとう意見もあるが、強震時大事なのは給排水管よりも命である。

建築ジャーナル 2008 11月号掲載

2.伝統構法万歳 3方良しの産直住宅システム

 価格は売手と買手の間で決まる。産直住宅が最近流行っているが、買手が安く買いたい意向と売手が高く売りたい意向は相反する。途中の中抜きをしたとしても、途中の手間はどちらかが負担しなければならず大して安くもならない。

伝統構法に限ればいろんな展開が生まれる。
外国は丘に木が植わっているが、日本は山に植わっているので曲がり木が多い。伝統構法では直材は通し柱や管柱に使い、曲がり木は小屋梁に使う。クリープたわみのことを考えれば曲がっているほうが良い。伝統構法は継ぎ手に重なりが必要。渡りあごの場合はスパンより30センチ長めの材が必要である。例えば3.9Mスパンのときに、オーダー材は4.2M材が必要となる。しかし、量産伐採システムの山側は30M以上ある木を3.4.6.Mと定尺に切断する。4.2Mの材が欲しければ6M材の価格となる。つまり、1M1万円とすれば4.2Mならば4.2万円で良いはずが6万円となる。施主にとって142%の高買いとなる。柱は3M材が常識である。例えば30Mの木から3Mの柱は10本取れる。階高の低い伝統構法なら2.7Mの柱で良いので11本取れる。また流通システムで特注というのがある。大黒柱7Mは3.4.6Mからもはずれているので、目の玉が飛び出る特注価格となる。産直木材には特注はない。

● 山側にとっての高売り
伝統構法の家に合わせた寸法の玉切りを山に要求する。JAS等の規格とは関係ない切断である。材がバラバラで頭が混乱するが、その代わり2割高く買う。製材所には梁を取った残り材(裏材)を鴨居・敷居材にしてもらう。製材所にも労力に合った対価を支払いする。切り旬が良くても半年の乾燥期間は必要である。山側に近い製材所は田舎なので土地代も安いので、半年間の自然乾燥費用として3~5万円を払う。

● 施主側にとっての安値
住宅の設計には半年ぐらいが必要である。基本設計が終わり、実施設計の前に山へオーダーする。伝統構法は骨組みが単純なので基本設計時にオーダーしても少々の変更には対応が可能である。価格的に見て、直梁・曲がり梁・大黒柱・管柱・鴨居・敷居・枠材をグロスで考えると安値となる。山側は瀕死の状態でお金が無い。山から切り出した時点で山側に、製材が終わった時点で製材所に施主が直接お金を払う。40坪の家で300万円を越えることは無い。又梁・柱以外の鴨居や敷居に節があることを受け入れなければならない。木には枝があるのでその枝が節となる。山の木に「枝は無いほうが良い」とは言えない。

● 設計。施工側にとっての利点
設計はJAS規格と関係なく設計が出来るという良さがある。ただし山の木を見て梁の大きさを設計する必要はある。120×300材は縦に長いので裏材が多く出て無駄になる。120×300と240×240は断面2次モーメントが同じである。240×240の方が構造組み立て時に接合剛性は高いという具合である。
伝統構法で手間がかかるのは継ぎ手の加工である。12Mの桁を4M材使用だと継手3箇所となるが6M材を使えば2箇所となる。タルキや母屋も6Mと長物が使え、継手がかなり減る。
施主と山側の直接取引となるとそこに大工の材料マージン利益は無いが、相当分の利益は確保しないと、大工の理解は得られない。

● トリセツ
秋切りの材を半年乾かしても含水率は35%前後にしか乾かない。伝統構法はこの程度の乾燥が一番良いのだ。(後日記事)。九州は白蟻が多いので杉の木も自己防衛手段としてタンニン成分を多く出す。九州の木に黒ジンが多い所以である。この黒ジンは厄介である。半年乾燥程度では含水率は90%もある。2~3年かけても30%以下には中々ならない。少々収縮しても良い場所。4方曝しの柱や小屋梁に使うのが良い。

施主の目の前で木を切る 1本1万円にもならない。
設計に合わせたバラバラの木材。
端材は鴨居。敷居となる。
 

40坪の家です。タルキを含めた構造材は250万円です。
ちょっと高いシステムキッチンとあまり変わらない。

建築ジャーナル 2008 12月号掲載

3.格子戸いろいろ

 格子は引き戸より歴史が古く、法隆寺のしとみ戸に既に使われている。風通し、防犯、目隠しの役目をはたし、日本建築特有の要素である。

面格子(防犯・目隠し・通風)
最近、敷地が狭くなり建物が道路や隣地に近くなり、目隠し機能を求められるようになった。外国では防犯目的だけで、頑強なスチール製が多い。最近の日本住宅にもアルミサッシュの付属品で横桟型・縦桟型・格子型・菱型と種々のデザイン面格子があるが、いずれも防犯目的で目隠しの機能はない。昔から狭い敷地の日本の町屋には、防犯・目隠し・風通しを目的とした木製の格子がある。木の格子は、水かかりのことを考え縦使いが多い。デザインは地域によって異なり、そのことが地域景観の特徴になっている。徳島の貞光・脇町は道路が狭いので、通行人からの目線を考え格子戸のピッチは狭く家の中はほとんど見えない。(参考写真1)
京都は格子縦桟と隙間が同じ寸法の連子格子が多い。道路から覗き込めば中は見えるが、町の暗黙の了解として道路を通行中は他人の家の格子を覗き込まない。京都は内陸で風が動かない地域なので、少しでも風を取り込みたいから格子間が少し広いのである。(参考写真2)
いずれの地域でも家の中の採光は減少制限されるので、目線の上部の格子をカットして少しでも採光量を増やす子持ち格子がある。倉敷は、商業が中心で、細い格子だと防犯上不安なので子持ち格子の親格子が太い。(参考写真3)
日本の住宅はアルミサッシュのオンパレードである。メーカーは他社との差別化を図り競い合った結果百花繚乱の様である。木製の面格子はアルミサッシュを隠す目的もある(写真1)。風通しをよくするため縦桟のピッチを広げ、縦桟の見込みを深くすれば、正面から覗き込めば別だが斜めからの目線はカットできる。(写真2)格子桟が細いと、外部に使用すれば反りが発生するので柾目材が多く使われる。費用を安くするためには、貫工法ではなく板目材でも裏から反り止め桟を入れると良い。(写真3)

格子網戸(防犯・通風)
昔は家の建具を全開放にして蚊帳を吊って暮らしていた。物騒な最近では網戸だけでは就寝できない。そこで網戸に格子をつけた。引き込み式のガラス木製建具であれば、全開網戸にできる。防犯上桟が細いと不安なので太めにして隙間は広くする。光の回折により、隙間は家の中から広く見え、外からは狭く見える。(写真4.5)南側は道路から離れていることが多いので、桟ピッチは広くても遠目には良い。しかしこの原理は昼夜逆転し、家の中が明るい夜は道路から丸見えとなるので注意が必要だ。
目隠し用にカーテンが一般的であるが、レースカーテンといえど風通しの機能はない。格子網戸を雨戸の役目にもしたい場合、物の飛来防止にはなるが風圧防止にはならないので、ガラス戸のガラスは強化にする必要がある。全開口木製サッシの構成は外から雨戸・網戸・ガラス戸・障子とするのが普通であるが格子網戸は網戸と雨戸を兼ね備え、格子網戸・ガラス戸・障子となる。格子網戸に錠を付けると夏の夜は蚊帳設置と同じ開放状態のままで、通風を取りながら寝ることができる。錠の位置は、家毎に少しずつ変えているので外部からその位置を確認することは難しい。

玄関の格子ガラス戸(防犯)
玄関の採光が玄関戸からしか取れない場合はガラス戸となる。防犯上厚めのガラスを入れると戸が重い。そこで格子桟の間隔を手が入らないくらい狭くすればガラスは3ミリで良い。できれば片引き戸が良い。玄関戸のピッキングやサムターン回しやデッドボルト切断等、泥棒は開き戸が得意である。錠の構造は同じだが引き戸だと勝手が違うので泥棒は侵入をあきらめるのでないだろうか。引き戸には防寒しゃくりをつけるので、外から見て鎌錠が見えないのでデッドボルト切断しは不可能となる。(写真6)

耐力格子戸
明かり取りにしたいが耐力が不足し、やむを得ず壁にしなければならない時がある。そこで、格子戸にも耐力を持たせるようにした。建築基準法上認められていないので、耐力割り増し時にしか活用できない。(写真7)

参考写真1
参考写真2
参考写真3
写真1
写真2
写真3
写真4
写真5
写真6
写真7

建築ジャーナル 2009 1月号掲載

4. 伝統構法に厳しい瑕疵担保履行法1

瑕疵担保履行法の部分修正を希望する
瑕疵担保履行法が今年10月から施行される。H18年の基準法改正と同じく社会問題になりはしないかと危惧している人は多い。基準法改正時、「そのものに問題は無いが周知徹底不足」と国土交通大臣は反省の弁を述べた。建築士の理解の能力不足と言わんばかりであった。今回の瑕疵担保履行法については、各団体に山のようなパンフレット配布と、無料の講習会が各地で何回も開催されている。その講習会も、テキストの読み合わせで、質問に対するは的確な回答はない。建築基準法があり、瑕疵担保履行法に全件加入となれば瑕疵担保履行法の仕様書は基準法と同じ強制力を持つ。施行予定の瑕疵担保履行法仕様書は一部の住宅メーカーを基本にした基準としか思えない部分もある。今からでも遅くない。修正可能な項目を部分修正してほしい。

転んでもただでは起きない官僚機構
買主を保護するための法律であり、たいへん良いことのように見える。問題が多いマンションや建売だけでは保険金の集金が少ないので、数が多い戸建て住宅にも枠を広げ強制加入としたことに問題がある。
瑕疵担保履行法施行には表と裏の目的がある。裏の目的は、姉歯事件のように責任の矛先が国に向かうことは無いようにした。ついでに副産物を盛り込んだ。税金を天下り先に投じると国会がうるさいので、建築士や工事業者からの集金システムを考えた。建築確認と検査機関も準民間に開放し、建築士の管理も準民間に移行し、その費用は4~5倍に跳ね上がった。新建築士制度も、講習会や試験により10億に近い集金システムとなった。「災い転じて福と成す」のことわざ通り、複雑に仕組んだ国の人は賢い。天下り先の確保の仕組みはジャーナル12月号に掲載。天下りする人たちは姉歯建築士が服役している刑務所に足を向けて寝てはいけない。

大工の質問
Q外壁にヒビが入いりました。保険金で修理ができるのですか?
できません。ヒビが入ったらそのままにしておいて下さい。ヒビから雨漏れが発生してから申請してください。ただし、その間、地震や台風に遭遇したのであれば、原因が地震や台風と見なされ出ません。

Q配筋は工事が完了して自主検査を行ってから検査依頼をします。建築士も1週間前に検査日を言います。保険屋さんにも検査依頼を出さねばなりません。配筋工事は1日で済むのに検査に2週間近くもかかるので工期に影響します。どうにかならないでしょうか?
住宅メーカーさまを基準にしています。設計事務所の設計監理は眼中にありません。職人の腕より検査を大切にする世の中に変わっていますのでご理解を。

保険金の内容
保険会社は民間である。当然保険金を払いたくないので当然独自の基準を作る。そこに矛盾と不都合な事象が発生する。車の自賠責と同じことだとの説明で納得した。しかし、契約書の中に次のような記載がある。

  • 台風・暴風雨による雨漏れは保険金を支払いません。
  • 土地の沈下による構造体の損害は保険金を支払いません。

免責事項は、加入説明のパンフレットにも記載がなく、別の重要事項説明書に書いてある。大事なことは小さく書くのが保険屋さんの習性である。

基礎の仕様
基礎の設計は設計者がいろんな条件を総合判断して決定する場合がある。

  • 超軟弱地盤で杭工事に4~500万円もかかる場合がある。住宅程度では負担が多いので、沈下覚悟で基礎と土台の間に梁を入れ、建物が沈下した場合に梁をジャッキアップする設計手法がある。

【要望事項】沈下覚悟の場合は、保険金も要らないので免除して、その分掛け金を安くしてほしい。

  • 有明海地方は地盤が弱く、水位も高いので木杭を頻繁に採用する。塩分が多いのでむしろ木杭が良い。建築基準法にも木杭の項目があるのに、木杭の場合は保険に入れない。
  • 各保険会社にベタ基礎仕様がある。地盤が20~30KN/㎡の場合の基準であり、「布基礎間隔4M以下だと13㎜鉄筋を150㎜ピッチ配筋、4Mを越えると150㎜ピッチのダブル配筋」となる。軟弱地盤の場合はこの基準でよいのだが、30KN/M2の場合でも、防蟻対策や湿気対策でベタ基礎を採用する場合がある。しかし、ベタ基礎仕様が適用され、建築基準法以上の過剰設計となる。「ベタ基礎配筋は構造計算」すればよいという条項があるが建築確認添付となると、厳格なる審査が待ち受けていて、書類作成費用は多大となる。

【要望事項】ベタ基礎仕様は地盤強度が20~30KN/㎡の場合に限るというただし書きを追加してほしい。

基礎検査

設計施工の場合、第3者が検査を行うことはない。他社の目から検査することは望ましい。しかし、設計監理を別契約し、建築士が設計監理を行っていれば、検査は二重業務となる。住宅程度の建物で、設計監理者の配筋検査と保険会社の配筋検査の二重検査は無駄だ。住宅程度の基礎配筋は1~2日で終わる。検査日の調整は日頃から難しい。保険会社による検査は1週間前に予約しなければならないので、工程の空き日は相当なものと予想する。施主から、建築士の監理業務を排除してくれと要求が出てもおかしくない。

建築ジャーナル 2009 2月号掲載

5. 伝統構法に厳しい瑕疵担保履行法2

保険会社に対する大工の質問
昔の大工です。1500万円以上の工事には業者登録が必要とのことですが、業者登録なんぞしていません。保険に入れますか?
加入できません。大きな会社に仕事を廻して下さい。そこから丸投げ下請けで仕事をもらってください。工事の丸投げは大手もやっていることです。違法ですが罪に問われることはありません。
アスファルトルーフィングなんぞ木が蒸れるし、10年も経てば硬化してボロボロになるので使いたくないのですが?
防水が大事です。10年以上の耐久性は無視しています。10年持てばよいのですから。
Q屋根葺き工事の下地に防水テープを使用のこととありますが、屋根面は、夏季70度になり防水テープは耐えるのですか?
A防水テープが10年持たないという証明はなされていません。よって、よいことにしています。
日本の伝統構法で建てています。土壁で施工してもよいのですか?
土壁の中にアスファルトルーフィングを入れて下さい。
Qいままで瑕疵保証支払いは壁が直接雨に当たる部分からの雨水浸入と聞いています。軒や庇が短いのが原因ですから、軒や庇の短さを規制することは考えていませんか?
A日本の家は平均寿命26年です。軒や庇が短い家は、日本のスクラップアンドビルドで建築経済に貢献しています。経済を止めるわけにはいきません。私たちは10年という基準をつくり、政治家先生に理解を得られたということです。
工務店との紛争処理に対処してくれるとのことですが住宅リフォーム・紛争処理支援センターが各
県の建築審査会に連絡するだけではないですか?
そうです。電話するだけで1万円です、ウファウファ。
地盤沈下をおこしました。修理費用は出るのですか?
建物周囲の地盤も沈下していれば、土地の沈下とみなし、保険金は出ません。
Q地盤調査会社は補強会社と関係が深く、調査結果からすぐ補強工事を薦めます。私はこの図面の基礎で大丈夫と思うのですが?
A地盤調査による基礎設計は難しく、建築士が大丈夫というサインを入れれば貴建築士の図面で良いことにしています。ただし地盤沈下の責任は貴建築士が取って下さい。(JIAケンバイを利用する方法もあります。ただし建築士は瑕疵ではなく私のミスですと認めなければなりません。)

構造中間検査

住宅でも構造中間検査において、条例で役所検査を求める県がある。そして、確認機関の検査と保険代行機関の検査が同じ場合は兼務で良いとのことになっている。しかし、検査費用はそれぞれ支払いとなる。検査は1回なのに2箇所への出費は理解できない。
コストダウンを求められる時代に、同じ目的の検査を2回も行うのは費用の無駄だ。
【要望事項】確認機関と保険代行機関が同じ場合は検査費用の低減をお願いしたい。

屋根・湿式外壁仕様
保険のパンフレットには「建築基準法レベルを想定しており、通常の設計施工レベルであれば問題ありません」とある。だったら、どうして、保険会社独自の設計施工基準があるのだろうか。

  • 「湿式外壁下地にはアスファルトルーフィングを防水紙に使うこと」となっている。木構造の場合、内部の木が蒸れるので、アスファルトルーフィングを嫌い透湿防水紙が使うことが多い。確かに庇や軒の短い最近のモダンな住宅で透湿防水紙を使うと雨漏れが多く、アスファルトルーフィング貼りが良いのは確かだ。防水だけを考え、保険会社は10年間雨が漏らなければ、構造はどうなっても良いという考えに起因する。
  • 土壁や落し板壁の場合は防水紙の挿入を義務づけているが馴染まないので、基準の見直しが行われているとのことだが、掛け金の低減をしないでただ除外するだけでは意味が無い。
  • 「屋根の下葺きルーフィング材の軒先は防水テープを用いて、軒先の雨押さえ金物に密着させること。」
  • 「開口部の周囲は防水テープを用いること」。とある。
    最近の簡略工法の仕様である。瓦葺で広小舞を使う場合は雨押さえ金物や防水テープは使わない。また木製建具仕様で木枠に防水テープは使わない。防水テープの耐久性は10年。伝統構法の住宅には全く馴染まない。

【要望事項】雨漏れ対策は軒や庇の出が重要というのは、日本建築の常識。よって、軒や庇の出が60センチ(2尺)以上ある場合は、防水紙や防水テープの仕様を省いて欲しい。

届出の責任
「瑕疵担保履行法により引き渡した状況を、3月と9月、県に報告しなければならない。」車の免許みたいに期限切れですよという通達は来ない。50日を過ぎると保険加入が出来なくなる仕組みである。書類書きの苦手な大工たちを、わざと排除する意向ではないだろうか。
【要望事項】保険会社は県によっては2社しかない。各保険会社がまとめて県に報告するようにした方が合理的と思うのだがいかがだろうか。

事業者の登録費用

「事業者の登録費用として毎年3~5万円を支払わねばならない」。以前の登録費用の目的は、経営状態を調べる費用であり経営が悪いと登録できなかった。現在は、事業者の経営が赤字であろうと保険加入を拒めない。全軒加入なので事業者の経営調査は不要である。よって登録費用は要らない。新規保険会社2社は登録費用を取らない。
【要望事項】全保険会社に登録費用を取らないように、国の指導をお願いする。

建築ジャーナル 2009 3月号掲載

6. 熊本のスギQ&A その1

スギの性質
Q
杉の木にも種類があるのでしょうか?
A熊本には10種類あります。アヤ・ヤブククリ・メアサ・シャカイン・マスギ・等です。それぞれに特徴があります。
Q
九州の杉が黒ジンが多いのはどうしてですか?
A九州地方は高温多湿で物が腐りやすく白蟻も多いので、樹木自ら身を守ろうとするためタンニン成分が特別多いのです。その成分は黒っぽく、黒ジンと表現します。特に南の地方の杉の木に多いようです。防蟻性は高いのですが、水分が抜けにくいという欠点があります。
Q地元で建てるなら地元の木が良いというのはなぜですか?
A木にはその土地の自然環境に適応した性質があります。白蟻が多い地方の木は防蟻性のためタンニンが多く赤か黒っぽいのです。同じ杉でも、秋田杉は色が薄くピンク色をしています。白樺の木が白いのは白蟻を知らないからタンニンの必要がないからです。熊本のような高温多湿地方において、色白の北欧の木を使う場合は、薬剤による防虫加工が必要なのです。
Q
杉に漆喰が付けば黒くなります。どうしたらよいでしょうか?
A漆喰は強アルカリです。杉のタンニンと反応して黒くなります。酸性の物、酸っぱいミカンの皮を剥いて置いておくと黒さは消えます。そのまま放置しておいても1ヶ月で元に戻ります。
Q
日本の木は曲がりが多く、外国の木は曲がりが少ないというのは本当でしょうか?
A
 本当です。日本は海からすぐ山へと続いていて急斜面です。外国は大陸なので山といってもなだらかで丘みたいなものです。木は光に向かって上に伸びるので、急斜面に植わっている木は根元から曲がることになります。根元部分は曲がっていてもその上は直材です。日本の建築技術はそのことを欠点とは考えません。曲がった部分は梁に使い、真直ぐな部分を柱として使うのです。 梁・柱共、直材を使うプレカット工法にとっては不都合なことです。

育成と伐採
Q
環境のためには、針葉樹より広葉樹を植えた方が良いと言われていますが?
A針葉樹が良いか広葉樹が良いかという議論が良くなされますが、問題は広葉樹の育成を誰が行うかということです。広葉樹と針葉樹を混植し、樹木下まで光が通るようにしてコケが生える状態を作るのが理想でしょう。広葉樹育成はお金にならないので民間での育成は難しいのです。税金を使ってなら可能でしょう。戦後の拡大造林計画のツケを山林所有者に押し付けるのは酷な話です。原始林に人間が一度手を入れてしまったら、ずっと手をいれなければなりません。
Qではどうしたらよいでしょうか?
A山を一律に論ずることはできません。産業として成り立つ針葉樹を間伐伐採し、風と光が通るようにすれば、自然に広葉樹と下草が生えてきます。そして針葉樹と広葉樹の混合林が生まれることになるのです。急斜面の山の場合は搬出手間がかかるので、皆伐し植林が良いと思います。
Q杉の木を間伐しますが、最初から間を空けて植えれば良いのではないでしょうか?
A稲作の田植えと同じ原理で、まず1haに3000本植えます。そうすると、樹木間に競争がおこります。育ちや癖の悪い木を間伐し、良い木を残します。最終的に1000本の優良木を取るのです。吉野地方では6000本植えますので間伐手間は相当なものです。それで吉野杉は目細な材が多いのです。 

針葉樹・広葉樹・下草の混合林、同じ時期に植えたのに大きさにかなりの差がでる。自然界にも勝ち組と負け組がある。

Q新月に伐採した木にはシロアリがつかない、反らない、ヒビも入らないといわれていますが本当でしょうか?
A新月伐採は冬季に伐採し、谷側に倒し8ヶ月間葉枯らし乾燥するという内容なので、白太部分が赤身化し、虫が付きにくくなるとの研究結果があります。新月という伐採時期には関係がなく、葉枯らし乾燥にその効果があるようです。倒木は3~5月に虫が入りやすいので、日本では8ヶ月間の葉枯らし乾燥は現実無理な話。外国の一例を日本に持ち込むのはいかがなものでしょうか。

満月に切った木と新月に切った木を土に埋めて実験します。9月に報告。

Q葉枯らし乾燥は良いことでしょうか?
A杉の木は自分の体重の倍くらいの水分を含んでいます。春季は含水率200%くらいですが、秋季には150%~120%に落ちます。秋季に伐採し、葉をつけたまま乾燥させると90%くらいに落ちます。ただし、間引き伐採では立ち木の葉で光が入りにくく、葉枯らし乾燥させても乾燥効果はありません。皆伐の場合、有効な乾燥方法です。
Q人工乾燥はヒビが入りにくいとは本当でしょうか?
A自然乾燥は餅にヒビがはいるのと同じく表面にヒビがはいります。人工乾燥は内部にヒビが入るので外から見えにくいのです。伝統構法の場合は材木の中心を加工しますので外部割れより内部割れが問題です。杉のように含水率の高い木は半分以上が水分なので、重油を使って乾燥させること自体が問題です。木材は15000円/M3ですが,乾燥費用が15000円/M3かかります。 

建築ジャーナル 2009 4月号掲載

7. 熊本のスギQ&A その2

木の本当の強度
Q寿命の長い木はなんでしょうか?
A世界で寿命が一番長い木といえばなんといっても屋久杉です。縄文杉は推定3800年と言われています。しかし屋久杉は伐採禁止なので入手できません。
製材品で強度低下が発生する時期は、檜は1000年、杉は600年程と言われています。ケヤキなど広葉樹は400年です。もちろん虫害や腐食が無い環境に置いた場合でのことです。民家再生で、古材が100~200年経過していても強度低下は無いといわれる理由です。
Q木材の梁の大きさを決めるとき、材のたわみで決めます。たわみは木材のヤング率で決定されます。杉のヤング率はE50~90です。ベイマツはE90を超えています。数値だけで考えるとベイマツが良いように思えるのですが?
A梁として使用するとき、杉は60年生を使うので心持ち材。ベイマツは大径木なので心去り材になります。心持ちと心去りでは心去り材の方が材の収縮率は大きく、材収縮分を含めた材のたわみ量ではベイマツの方が大きくなります。結果として、杉E70材とベイマツE90材は同じ程度ということになります。数値だけに惑わされないようにしましょう。
Q平角材と太鼓と丸太の強度差を教えて下さい?
A辺材の皮目辺りが引っ張り強度は高いので、曲げ強度やたわみに関して丸太が一番強いとなります。平角材を1.0とすれば太鼓梁は1.1、丸太梁は1.2となります。伝統構法において、梁に太鼓や丸太を使うのは賢い使い方です。
Q木材の芯材と辺材ではどちらが強いですか?
A樹木の強度原理として、風に対抗するために辺材には引っ張り力が発生しています。又芯材は自分の重さを支えるために圧縮力が高いので、建築の柱に圧縮力だけを負担させるのであれば、芯材が良いとなります。しかし、伝統構法では柱に軸力・曲げ力・せん断力を負担させるので、バランス良く芯材・辺材を含んだ芯持ち材が良いことになります。100年以上の大木から細い4寸角柱材等を取ることは強度的に賢い方法ではありません。
Q年輪の目が粗い木は弱いのですか?
A目が粗くても密でも曲げに対する強度は、実験によると同じだそうです。大工さんは目が細かい方が強いと言いますが、ヤング率以外の要素であろうと。まだ解明されていません。
Q集成材が強いと言われています。本当でしようか?
A杉のヤング率はE50、E70,E90とバラバラです。無垢材として使う場合は最低強度で表現するのでヤング率はE50となります。集成材は木材をミンチ状に加工し、接着剤で貼り合せるので強度は平均のE70になります。よって集成材の方が強度が強いという表現をする人もいますが、家全体で比較すれば同じことです。熊本には本物の無垢材がたくさんあるのに、数字のマジックで集成材を使うのは賛成できません。ステーキ肉をミンチにしてハンバーグにするようなことです。
Qヒビがはいれば木材の強度はどれくらい弱くなるのですか?
A杉の木600本の強度実験がなされています。曲げ強度・圧縮強度共、ヒビがある方が、若干強度は高い結果となっています。硬い木の方が高強度です。硬い木の方が、ヒビがはいりやすい。よって、ヒビがある方が強度は高い結果となるのです。木材を、鉄線を束ねた電線と考えてください。鉄線の束ねが少々離れたからといって強度低下は考えられないでしょう。集成材は違います。集成材が長手方向の接着面の剥離が発生することがあります。鉄線の一本が切れることと同じで強度低下は著しいです。わざわざ、集成材を構造材に使うことはありません。無垢材が熊本にはたくさんあるのですから。

表面割れ長さと木材の強度の関係(スギ105mm角心持ち柱材)。ヒビが多いほど強度が高い。

Q金物で補強した建築は強いと言う人がいますが本当でしょうか?
A紙をホッチキスで留めるのとコヨリで留めるのはどちらが良いでしょうか。長期保存が必要な裁判資料はコヨリで留めていました。ホッチキスが錆びれば強度は著しく低下します。

森林が抱える問題
Q森林認証制度を国が進めています。「熊本の山の木で家をつくる会」では採用しないのですか?
Aそもそも不法伐採が多い欧米で提唱された制度です。1本1万円もしない木を盗む人はいません。杉の木は全て日本産です。菊池米を日本の米ですよという証明はいりませんし、直接山主から購入するのに認証してもらうことはありません。その認証経費が必要です。申請紙代と検査員の給料は誰が払うのでしょうか。日本における不法とは、皆伐したら植林をしなさいという「森林法」を守らないことです。この不法取締りは全く行われていません。持ち主はわかっているのですから、森を守るのだったらこちらの取り締まりを優先すべきではないでしょうか。
Q山に竹が多くなってきました?
A深刻な問題です。竹は食用として、海苔養殖材として、生活用具材として、家の裏に植えていました。竹は根が浅く横に広がるので、降雨を最初に採取しますので、他の木に水分が行かないのです。昔は竹と人間は共存していたのですが、見捨てたため竹の逆襲を受けています。そして竹の根は浅いため保水力が無いし、地すべりも起きやすいのです。税金をつかっての土木工事が必要となるでしょう。一番深刻な問題ですが手付かずです。

写真(はげ山)日本で熊本は禿げ山が多い。禿げた部分にはいずれ竹が侵食してくる。山のテッペンまで竹が伸びている。

建築ジャーナル 2009 5月号掲載

8. 太陽光発電に費用対効果はない

 中国に「朝三暮四」という故事がある。宋の狙公が、猿に朝3夕4の比率で餌をやろうと言ったら、猿は怒り、逆に朝4夕3の比率でやることにしたら喜んだという話である。同じことが、高速道路料金の休日割引や太陽光発電普及補助金だ。国民は、高速道路料金が割引きになったと喜んでいるが、2~3年後に消費税はアップされ割引料金差額分は国民に跳ね返ってくる。高速道路割引の弊害で大阪~九州フェリーの乗客は半分になり危機的状況らしい。フェリーが永続的に不要だったら、時代の成り行きで廃止も止むを得ないと思うが、2~3年後に高速料金は元に戻る。その時フェリー会社は無いかもしれない。「朝三暮四」よりもっと悪質な騙しだ。明日のことより、今日のことしか考えない国の政策には困ったもの。

 去年まで車はCO2排出量が多いので車にはあまり乗らないようにという運動が盛んだった。車は購入しても乗るなという意味だったが、トヨタ城が傾き始めたら車に乗れという。国の税収の40兆円のうち車業界は1兆円以上の税金を払っていたので、それくらいの税金投入は当然というのが政治の世界だろう。車が増えればCO2の排出量も増えるが、増えた分は途上国からCO2削減権をお金で買い取れば良いという考えだ。
経済波及効果は、車産業のお金が1動けば社会全体の経済は3倍動くとのこと。電気業界の経済波及効果は2.5倍。電気自動車は、車業界にも電気業界にも経済貢献できるので国の力の入れようはすごい。深夜電力を充電すれば燃費は安いというが、深夜電力は現在使用量が少ないので大廉売価格で7円/キロである。昼の料金の1/3の価格で、電力生産時原価より安い。皆が使い出したら価格は値上がりする。過去深夜電力が1.5倍になったこともある。良く考えてみよう。重油を電気に変え蓄電してモーターを廻すここと、重油を焚いて直接モーターを廻すこことではどちらが燃費効率が良いかは子供でも分かる。

 地球温暖化防止に貢献という言葉に騙されてはいけない。電気はクリーンというが電気の原料は2/3が天然ガスと重油である。原子力発電はCO2を出さないが海水温を直接暖めていて、CO2廃出以上に地球温暖化の原因施設である。熊本県某所に原子力発電所の新設計画の話が上がっている。地形とか岩盤とか交通の便とかが立地条件ではない。貧乏地域が立地候補である。地震大国に原子力発電所を55基以上も作って安全というが、事故が起これば想定外で済ませる。こんなにエネルギー源を電気にシフトしてよいのだろうか。H21年の15兆円もの追加経済対策では、経済波及効果が高いと電気業界救済に太陽光発電の普及促進をすすめている。

太陽光発電の計算に騙されるな。

1、データに騙されるな。
太陽光発電は10年で減価償却するというデータが横行している。
 太陽光発電3キロパネルでは月7000円程度の発電で年間84000円となる。設置費用は200万円程度なので、単純計算で減価償却は24年となるが、深夜電力やエコキュートを併設して計算し10年償却という表現が横行している。その深夜電力設備やエコキュートの減価償却費用は計算に入れていない。
  受電面にはゴミが溜まりメンテナンスが必要だ。最初の1年は無料だが2年目から1.5万円かかる。そのメンテ費用は計算に入れていない。メンテ費用や修理費用等を考えれば減価償却は24年を遥かにオーバーし、本体の耐用年数を越え、元は取らないと考えるのが妥当だろう。

2、太陽光発電が増えると原発が多くなる。
上記の減価償却をカモフラージュさせるためにオール電化を促進する。家中のエネルギーを電気に頼れば、ますます電力の消費量は増えて、原子力発電所の新設が必須となる。核廃棄物や核施設廃棄時の放射能問題は次世代のことで問題視しない。明日より今日の便利さを大事にする。

3、太陽光発電は家の中を暖める。そしてエアコンで冷やす。
太陽光エネルギーの10%は光で、残り90%は熱である。その熱は屋根面に伝わり小屋裏の断熱材で防御するには更にコストがかかる。寒い地方では問題はないが、南の地方では家の中が暑くなり発電した電気を使ってエアコンで冷やす馬鹿なことになる。
同じく太陽光を利用したOMソーラーシステムがある。費用は200万円で太陽光発電と設置費用は変わらないし、減価償却は設置費用を上回り効率は良い。しかしこちらには補助金は出ない。OMソーラーの会社は中小企業が多く、政治献金をやらない会社だ。

4、屋根瓦の寿命が短くなる。
太陽光発電の裏面は高温になり、直接屋根材に伝わる。ドイツなど低温地域ではさほどでもないが、九州では屋根面温度が70度を越え、屋根材を傷め寿命を縮めることになる。その研究は全く行われていない。

5、不公平な電気料金。
自分が使う電力を求めて太陽光発電を設置したのに、高価で買い取ることを強調する。電力会社に50円/キロ近くの高価格で買い取らせる計画をしている。そして、オール電化の人には深夜電力7円/キロで売る。その損失差額は国民全体の税金で負担する。

6、 太陽熱温水器をどうして推進しないのだろうか。
太陽光発電の熱効率10%と比べて太陽熱温水器は、太陽熱で直接水を温めるので熱効率は50%と高い。太陽光発電みたいに裏面が高温になることもない。太陽熱温水器の設置費用は20万円程度と安いし、減価償却は6年程度と短い。気温が高い九州では集熱効果は抜群で、太陽光発電と同じく21万円もの補助金を出してくれればお釣りがくる。しかし、これまた太陽熱温水器の生産会社は零細企業で政治献金を出せないから補助金制度はない。

7、 景観破壊。
屋根に太陽光発電が乗っている景観は良くない。ただでさえ見苦しい日本の街並みがますます見苦しくなる。

8、 本当に環境に良いのか。
自然エネルギーのことを考えればOMソーラーや太陽熱温水器の方が効率は良い。太陽電池のシリコンダイオードはレアメタルが必要で発展途上国に残骸の山を作り、生産時に5年分の電力が必要で、リサイクルも効かない。太陽光発電設置推進は、善良な国民の意識を利用した消費拡大の一環である。次世代は、冨士山ニッポンがゴミ山ニッポンと化す。エネルギーを少なく使う運動をすべきである。

建築ジャーナル 2009 6月号掲載

9. 長期優良住宅普及促進法に物申す

 200年住宅という言葉が一人歩きし、石油があと50年と言われているのに200年とは何事かなどの批判を浴び超長期住宅と改名した。それでも批判が続き長期優良住宅という命名に落ち着いた。

 長期優良住宅普及促進法が昨年11月に成立し6月に施行される。法律は、法律―政令―省令―基本方針―認定基準という構成で、国会では省令まで議論され、認定基準に国会議員が口出すことはなく、国の担当者の手の内で決まる。最初、この法律に野党は反対していたが、

  1. 住生活基本法の趣旨を踏まえ、地域材の利用、技術者の育成など、住宅の建設における木材の使用に関する伝統的な技術の継承及び向上に配慮する。
  2. 国産材の適切な利用が確保されることによりわが国における森林の適切な整備及び保全が図られ、地球温暖化の防止及び循環型社会の形成に資することをかんがみ、国産材その他の木材を使用した長期優良住宅の普及が図られるよう配慮する。
  3. 長期優良住宅が将来にわたってまちなみ等の一部を形成することを踏まえ、地域のまちなみ等との調和が図られているかどうかの観点から判断される。

が追加され全会一致で可決成立した。

 具体的に家を建てる時設計に関係するのは認定基準である。能書きが意見一致していても認定基準に合致していないと長期優良住宅にはならない。能書きに順応する認定基準を探したが、無い。無い。どこにも無い。追加された3項目の内容がどこにも無いのである。確かにRC造は長期住宅という意見はあるが、「地域材の利用、技術者の育成など、住宅の建設における木材の使用に関する伝統的な技術の継承」といえば日本の伝統構法木造住宅である。

 政治家先生は基本方針まで見て認定基準など見ない。官僚の手による品確法の復興版である。H12に作成した品確法があまりに人気がなかったので、看板を付け替えての再来である。ローン減税と不動産取得税減税で客集めをし、審査機関に天下り先の財団を起用し、税金の無駄使いと批判され存亡の危機だった財団の蘇生法である。

部分修正を希望する
 本来の趣旨を尊重し部分修正をすれば、使えないことはない。各地で長期優良住宅の講習会が開催されているので、以下に記した赤文字部分の追加を、みなさんにお願いして欲しい。

1、外壁の軸組み等に対する措置
外壁が通気構造でない場合はK3薬剤処理材とある。サイデング工事ではやりやすいが、湿式工事や真壁仕様では通気工事がやり難い。(ⅲ)同等の劣化の低減に有効な措置の項目に、「D1材120角材使用で軒の出、桁の出が共に90㎝以上あれば有効な措置」を追加して欲しい。都会ではやむをえないが日本の町並みが、あまりに軒の短い建物に覆われている。外壁の劣化対策に軒の深い家をつくることを推進すれば、地域のまちなみ等との調和を図ることになる。

2、浴室及び脱衣室の防水措置
脱衣室の壁が防水上有効な仕上げが施されているもの。(品確法ではビニールクロス等という表現)
健康のことを考えればカビの発生源になりビニールクロスは適切ではない。「国産材の適切な利用が確保される目的で吸湿性の高い無垢の木材でも可」を追加して欲しい。

3、 床下防湿措置
最近の住宅の軒が短くなり基礎高さ400以上の規定となった。伝統構法にそぐわない基準。「構造計算を行った基礎の場合は、軒の出が90cm以上であればこの項目は除外」にして欲しい。

4、省エネルギー性能:省エネ対策等級4
省エネ基準の基本原則において、建物の総二階化、窓を小さく、なるべく真四角に近い構造体を推奨する項目がある。推奨基準を守って設計すれば、リカちゃん人形の家みたいになってしまう。又、外気音が消音され、音に敏感になり、我が子の発生音まで気になったり、子供は自然を拒否するように育つ。この基準を守りローコストの建築手法は、FIX窓を増やし、窓が小さくし、隙間相当面積の低減化を図ることである。

  高気密高断熱化は賛否両論がある。九州では圧倒的に不要論者が多い。伝統的技術の継承、国産材の利用、町並みとの調和を考えたら、省エネルギー性能等級4や3はむしろ害である。土壁では無理な話で、伝統的技術の継承には全くつながらない。高気密高断熱化住宅でインフルエンザ対策のため加湿器を付けたり、九州での夏結露対策を怠れば、壁内の木材は腐蝕する。高気密高断熱化はそもそも耐久性とは関係が無く、施工を間違えれば逆に建築の寿命を縮めてしまう。薪ストーブと風通しでの省エネ住宅が、この法の目的に一番合致していると思うが、省エネ基準外である。
省エネルギー性能は排除して欲しい。地域を重要視するなら九州の人は、Q値2.7・C値5の基準を必要としていない。

九州の建築士に9つの質問
九州の建築家に次のようなアンケートを取ってみた。数は37名と数は少ないしアンケートの内容がやらせに近いという批判もあるが、一般の人との認識にほぼ近い。

Q長期優良住宅普及促進法において、家を長寿命させる要素を次にかかげました。このうちから一番有効と思うものを3つ選んで下さい。

  1. 軒や庇が3尺以上長いこと。⇒92%
  2. 柱や梁が大きいこと。おおむね管柱4寸・通し柱5.5寸・梁幅4寸・梁背7寸以上あること。⇒92%
  3. 床下が開放されていること。⇒81%
  4. 高気密高断熱仕様であること。⇒0%
  5. 柱に防腐剤が混入されていること。⇒8%
  6. 筋交いが通常より1.25倍はいっていること。⇒8%
  7. 外壁に仕様が通気工法であること。⇒10%
  8. ペアガラスをつかうこと。⇒3%
  9. ユニットバスまたは洗面所にビニールクロスをつかうこと。⇒0%

長期優良住宅の認定基準は4~9を満足させることで、1~3は関係がない。

建築ジャーナル 2009 7月号掲載

10.エコエコエゴエゴ

 最近はエコの大合唱である。少しでも効率が良ければすべてエコと言う。ハイオクガソリンがエコガソリンで、タイヤの摩擦力があるものがエコタイヤだそうだ。エコ建材というのもあり、国産建材かと思ったら東南アジア産である。東南アジアの植林材を合板にして遠い国から重油を使って運んだ商品にもかかわらず、植林材を利用しており地球環境を守ったのでエコ建材だそうだ。この勢いだと、ピースよりタール分が少ないセブンスターを健康煙草としてJTが売りだすかもしれない。

  かつて資源が少ない日本はリサイクルやリユースはドイツよりも進んでいた。酒・醤油・牛乳・ヤクルト・ビールなどの容器はリサイクルシステムだった。便利さを悪なく追及する消費者の要求を聞き入れ、ガラス容器はペットボトルに変った。消費者がペットボトルを分別ごみに出したから環境に貢献したと言う。また自前のエコバックを用意しても、魚や冷凍商品を別のラップで包めはゴミの量は変わらない。

 日本人の環境意識は高い。意識だけである。CO2排出量が多いと中国やインドを批判するが、人口当たりのCO2排出量は日本は世界第2位であるし、国土面積当たりで比較すれば、アメリカを抜いて世界第1位である。資源が少ない日本の環境技術は高い。「乾いた雑巾をこれ以上絞れない」とCO2排出量削減を否定する人もいるが、国民一人あたりのCO2総排出量が問題なのだ。

エコ家電は本当に省エネ?
5月15日から家電製品にエコポイントがついた。ほんとうにエネルギー消費削減になるのだろうか。

冷蔵庫
家族の人数は減っているのに、冷蔵庫が大型化している。600Lとびっくりする大きさである。せめて料理の質だけでも上がれば救いようもあろうがそうではない。確かに保温技術が向上した分消費電力は少なくなったが、300Lも600Lも消費電力が同じというのは、中に食品を入れない空っぽの状態で計算だ。容器の保温性能がよいのであって食料品を入れれば話は別。容積600Lの食料品と容積300Lの食料品を冷やすエネルギーを比べたら、どんなに容器の保温性能が良くてもエネルギーは倍必要だ。その消費電力の計算も10年前の冷蔵庫との比較である。大型冷蔵庫の利点として、下記項目が挙げられている。

  1. 買ってきたビールのカートンを崩さず収納出来ます。
  2. 2Lのボトルが6本も入ります。
  3. カレーの残りも鍋丸ごと入ります。
  4. 保温庫もついています。(冷蔵庫なのに)
  5. すいかが丸ごと冷やせます。(食べる前に冷やせば良いのに)
  6. 大きくなりすぎドアーが重くなり、電動ドアタイプまで出現(もちろん電動ドアの電気代はカウ  ントしない)

これらは本来の食品を冷やすという目的から外れている。冷蔵庫に貯金通帳まで入れている人もいる。概ね料理の腕と冷蔵庫の容量は反比例すると思ってよい。政府のエコポイント政策で500Lクラス以上の大型冷蔵庫が売れているとのこと。エネルギー消費を考えれば「ちっちゃいがいい」に決まっている。

大手企業といえど偽装表示が横行している。最近の新聞記事こんなニュースが載っていた。【最新モデルの冷蔵庫9機種でリサイクルの樹脂材料を活用しCO2排出量を削減したなどと宣伝しながら、実際はほとんど活用していなかったとして、公正取引委員会は4月20日、景品表示法違反で、製造・販売した日立アプライアンスに排除命令を出した。日立アプライアンスは不当表示を認め、経済産業省の「省エネ大賞」で、9機種が2008年度に受賞した「省エネルギーセンター会長賞」を返上した。
同社は大型冷蔵庫「栄養いきいき真空チルドV」「ビッグ&スリム60」シリーズ全9機種のカタログや新聞広告で「使用済み冷蔵庫の棚などの樹脂材料を真空断熱材として活用」と表示。「断熱材製造工程でのCO2排出量約48%削減」などと宣伝していた。『リサイクル樹脂』は全く使われていなかった】。

エアコン
家電店のチラシに、「古いエアコンと比べ電気代が年間2万円も違う」と宣伝している。計算の詳細をよく見ると1日18時間使用した場合との注意書きである。1日2時間しか使わない家庭では減価償却は102年かかる。いままで扇風機で夏をしのいでいた人が全館冷暖房にして、電気をワンワン使うことになる。
高気密高断熱の家の夏はたまらない。夏布団に包まって生活しているので、1日18時間もエアコンを稼動させるのだろう。エコポイント家電と長期優良住宅(高気密高断熱)の家は相思相愛の関係で国民の税金を湯水のように使いまくる。
エアコン付きの洗濯機もある異常さには唖然となる。洗面所に1台のエアコンをつけるより省エネになるからエコだそうだ。

テレビ
地デジへの変更が良いか悪いかは良く分からないが、テレビの買い換えも進んでいる。家電店に行けば広い店舗の中では40V型のテレビも小さく見える。店員は大型テレビがエコポイントの割引率が高いと、消費者の家の広さも聞かず大型テレビを勧める。40V型以上が一番の売れ筋らしい。部屋が狭いと言えば薄型になったから大丈夫という。6畳の部屋に40V型は似合わない。小さい画面が省エネに決まっている。

核廃棄物の後始末
アメリカは1979年に発生したスリーマイル島原子力発電所事故の後、原発増設を断念していた。しかし、低炭素社会に舵を切るために、オバマ大統領は原発増設を宣言した。が、廃棄物処理場がないため、再度断念した。日本は違う。日本には核廃棄物の最終処理場はない。(6カ所村は一時保管地である。)九州の電力会社は、増え続ける電力消費量のため、原発建設を計画している。なんと熊本県の風光明媚な天草にである。その天草の建設業協会は原発の誘致運動を始めている。核廃棄物の最終処理場が無いのにどうして原発新設を計画するのだろうか。将来のことは全く考えない。紙の無いトイレにはいるようなものだ。誰も紙を持ってきてはくれない。自分の手で拭くしかない。つまりエコポイントの多量使用者は核廃棄物を自分の家の庭か、天草建設業協会の会員の庭に埋めることを約束してほしい。

大事なことは小さく書くのが日本の企業である。「エアコンの性能表示で1日18時間使用として算出」 と2ミリ文字でほとんど見えない。
電気代が年間13900円もお得という記事は8ミリ文字。

一番売れている冷蔵庫は543L。テレビは40V。扇風機生活の人もエアコン生活に切り替え、総エネルギー消費は増える。

建築ジャーナル 2009 8月号掲載

11. 伝統構法の住宅実例1

  住宅は不動産である。動産なら消耗品でよいが、不動産は長寿命であることが原則である。日本の伝統構法には、長寿命のための要素がいっぱい詰まっている。伝統構法の要素を紹介しよう。
伝統構法といえば伝統構法愛好者からお叱りを受けるので、伝統的構法の建物を紹介ということにしておこう。

土間
土と石灰と砂が材料の土間を´三和土´と書き´たたき´と読ませる。湿気を吸収させるためにニガリを混ぜる。ニガリは金属を錆びさせるので、土間の中にガス管や水道管を通してはならない。田舎の家は土間の高さを外部のGLに合わせてあるので、いつも適度の湿りがあり、ヒビがはいることはない。生活スタイルの変貌で、玄関土間は内部的要素が強くなり外のGL線より上げるようになった。結果、土間は乾燥し、ヒビがはいり易くなった。適当な散水が必要だ。土間に水を撒くと湿度が5%ぐらい上がるので、電気代の要らない加湿器の役目も果たす。乾燥肌や鼻炎の人にとっては格好の健康器具となる。ベタ基礎の場合は土間の部分に穴をあけておかないと地中の湿りを呼びこまない。近代建築は壁内結露を嫌うあまり室内を乾燥させ過ぎる。健康に良くない。暑い夏、猫が土間に頬をすりつけていた。土間床の表面温度を計ったら他より1度低かった。
三和土は用が無くなったら金槌で砕けば元の土に戻るという最高の自然素材である。

無双窓
普通の窓に防犯の役目を望むなら、面格子を付けなければならない。無双窓は、目板の半分はスライドするが、残りの半分は固定している。防犯の役目も期待できる。網を貼ることもできる。無双窓の仕組みは簡単で、大工工事だけで出来る。断熱機能はないので、居室には向かない。玄関上の無双窓は良い。

深い軒
雨が降ったら傘を差す。年間降雨量は減っていないのに、最近の住宅から軒の長い家が消えた。日本建築の特徴の深い軒は長寿命の要素である。最近は軒の出が短くなり雨漏れが多く外壁通気仕様が増えた。外壁通気は軽い外壁となりサイデング仕様となる。軒の出ゼロの家が、外壁通気・サイデング外壁仕様で100年もつという長期優良住宅の基準に合格するから笑ってしまう。

構造材の使いまわし
民家再生が見直されている。単なる修繕ではない。柱や梁の構造材は単品として600年位の耐久性がある。ライフスタイルに合わせて間取りは変えるが、構造材はそのまま使おうという考えだ。民家再生を行おうと思えば、新築時に解体のことも考えておかねばならない。花結びの原理の建築工法である。部材と部材を解き易い込み栓や鼻栓でとめる。又、傷みの状態が外から分かるためには真壁構造が必須条件である。

いぶし瓦
30年前、電着塗装瓦は日本の最高技術が成し得た最高級製品という触れ込みだったが、昔からのイブシ瓦の方が長持ちしている。私の事務所の瓦は100年も経過してやっと交換した。凍害が無く、紫外線の強い南国ではイブシ瓦が良い。台風には弱いと言われるが、台風被害では自分の家の瓦が飛ぶことより他所から物が飛んできて被害を受けることの方が多い。被害は、部分的なので補修も部分的である。100枚割れても瓦代は15000円と保険の免責以下で保険金をもらうのさえ難しい。昔から自分で換えられるようにと瓦を10枚位床下に置くのが日本の慣習だ。屋根は上りやすいように屋根勾配は5寸以下にしなければならない。最近洋風建築といって急勾配の屋根が多くなったが、軒の出は短くなるし、屋根には上れない。洋風の建築はデザインが良いというが、機能無視も甚だしい。

土壁
土壁は環境面では最高の建材である。材料は竹と土なので、役目が終われば竹は燃やし、土は庭先にでもばらまけば良い。「何も足さない何も引かない」建材なのに、環境問題を問題視している建築業界では注目されない。生活の必需品として竹を植えたのに、日用品はプラスチックに変わり、建築業界は外壁にサイデングを使い、竹を使わない。竹は切らないとどんどん伸びる。今や山は竹だらけで、竹の逆襲を受けている。被害が原因者にかかるなら理解も出来るが、関係の無い山林業者なのでたちが悪い。土壁は吸湿効果がある。最近になってやっと土壁には防湿紙不要という見解が出た。微に入り細にわたる新建材を基準にした国の指導には困ったものだ。

土間
無双窓
深い軒
構造の使いまわし
いぶし瓦
土壁

建築ジャーナル 2009 9月号掲載

12. 伝統構法の住宅実例2

網収納
昔は戸棚に網が付いていて、冷蔵庫に入れないでもよい物を収納していた。カレーの残りは網笠を被せて保管したものだ。最近は家が密閉化し、収納までゴキブリ侵入を嫌い気密化している。そして冷蔵庫が大型化した。冷暗所に収納すれば良い物まで冷蔵庫に入れる。
昔の手法を学ぼう。泥もの野菜、葉野菜やカレーの残りは網収納に入れよう。4人家族だったら600Lの巨大冷蔵庫は要らない。300Lで充分である。

面格子
熊本は西に海があり、夏は西から風が吹く。西に窓を付ければ西陽がキツイ。西窓に面格子を付けゴーヤ、ヘチマ、朝顔などのツルものをからませよう。ツルものがラジエーターの役目を果たし、冷却した風を家に取り入れることが出来る。ゴーヤなら1間窓の面格子で収穫は20ヶ位である。2000円相当しかないと金勘定する人には向かないかも。

柔構造
構造壁で一般的なものが筋交いである。日本に筋交いが入ってきたのは明治時代だ。それを文明という人がいるが、日本の大工さんが筋交いを知らなかった訳ではない。筋交いは横揺れ防止には簡単で都合が良い。建物を上棟して骨組みがしっかりするまでの期間大工さんは借り筋交いを使う。日本木造の構造材は杉・檜・松等柔らかい材料なので、部材の交点に筋交いを使うとあまりに交点に応力が集中し、強すぎて接点を壊してしまうという考えから採用しなかった。それよりも貫を使って貫楔のめり込みで横応力に対抗する手法を取ったのだ。宇治の平等院は貫構造がそのまま見える。現在の貫構造と全く同じなのだ。1000年前と仕組みはかわらない。昭和24年まで続いたと言える。(建築基準法は25年)

では貫と筋交いはどちらが強いかという話で、図1・2を見てほしい。縦軸が強さで横軸は力を加えた時の横のタワミである。図1の筋交いは、強度は5㌔あるが10㌢傾いたら折れる。図2の貫は2.5㌔の強度しかないが、タワミは20㌢にもなる。傾きはすれど貫が折れるか折れないかは分からない。そこで図1の面積Aと図2の面積Bを比較して、面積が同じだったら地震に対する強度は同じである。

一般的に図1を固い構造。図2を柔らかく粘りがある構造という。樹木に例えれば図1が柿の木で、図2が柳の木だ。柿の木は強いといって枝の先まで柿取りにいって落ちて腕を折った子供は多かった。柳は「柳に折れ無し」という諺があるように、揺れて風を受け流す。筋交いと貫のどちらが強いということではない。ただ筋交いは引っ張り力が作用するので、接点には金物が必要となる。金物は錆びるとか長持ちしないとか、柔らかい杉の木を金物で止めるのは豆腐に釘打ちといって嫌う人が多い。又開口部を必要とする日本建築では、窓の部分にも貫設置が可能という利点がある。伝統構法や伝統的構法といえるのは、図2のように粘りの特徴を構造体としたものだ。足固め・貫・土壁・差し鴨居・下がり壁等の耐力要素だ。しかし研究が殆どされていないので評価が低いし、建築基準法ではごく一部しか認められていない。一方、図1の評価は建築基準法では高い。合板・石膏ボード・筋交い等である。石膏ボードは濡れれば耐力はゼロになるのではという批判があるなかで、2×4の解禁時採用された。この図1がコスト安でもあり木造建築の構造主流となった。どうしても貫を使いたいと貫の上に合板を貼って、建築確認を取っている人もいる。合板は腐るのであってもなくてもいいんだという理屈は理解できる。また貫に筋交いを入れて検査後に筋交いをはずしている剛腕大工さんもいる。地震大国が生み出した柔構造を認めず、外国の構法を大事にするのはなぜだろうか。合板は30年しかもたず、石膏ボードは濡れればボロボロになり、立て替え速度が速まり、経済効果貢献度が高いからだろう。

床下解放
図2の場合は柱に浮き上がりが少なく、柱を基礎に固定しないで良い場合がある。その時は床下の全面開放が可能となる。白蟻が多い地域では、床下の風通しで白蟻が地表に上がって来難い方法だった。

建築ジャーナル 2009 10月号掲載

13. 民主党政権への税収提案

日本は当初2012年までに温室効果ガス排出削減「1990年比6%削減」を世界に向かって約束したが、ほとんど達成不可能となったので、麻生太郎前首相は、達成期限を2020年まで延ばし、「2005年比15%削減」と目標を変更した。目標は同じなのに、数字のマジックの煙にまかれ国民の意識調査では60%の人は削減幅が大きすぎるといっている。命よりお金が大事な経済界は猛反対している。安部前前首相は2050年までに50%削減と言ったが、ズーッと将来のことは関心が薄く経済界からの反論はなかった。その意向を組んでか、鳩山新首相は「1990年比25%削減」とは高い目標を打ち出す予定である。官僚の方々は面白い。麻生太郎前首相が「2005年比15%削減」と言った基本資料をベースに鳩山新首相発言の「1990年比25%削減」を重ねるとおもしろい。

  • 太陽光発電を現状の55倍増やす。
  • 次世代車の販売台数は90%にする。
  • 省エネ住宅は100%、既存住宅は100%を省エネ改修する。
  • 国民の所得は世帯当たり年22万円少なくなる。
  • 国民の光熱費負担は世帯当たり年14万円多くなる。

官僚の方々はこのことを発表するか見ものである。
HPで「地球温暖化対策の中期目標について2009年4月内閣官房」を検索してみて下さい。早く見ないと消されてしまうかも。

目標達成のために課税はどうだろうか。温室効果ガス排出増大行為に税をかけてたら、消費税アップをしなくてもよいかもしれないという提案を新政権にしてみる。

1、 自販機税
電柱の数ほどある自動販売機。自動販売機は冷蔵庫を屋外に置いているようなもの。電力消費量は相当なものである。販売売上で儲かったと錯覚しているが電気代を差し引けば僅かな利益しか残らない。世界に稀にみる贅沢装置なので税をかける。

2、コンビニ税
セブンとは7のことでイレブンは11のことである。初心に戻り7時から11時までの営業時間でよいのではないか。夜中の買い物は贅沢行為であり、緊急的買い物は夜間料金を取っても良い。夜に明かりが灯っていて防犯に役立つという人がいるが、それだったら省エネの防犯灯を灯せばよい。

3、ペットボトル税
ペットボトルの生産・回収・処理費用はお金がかかり、不法処分も相当なもので、川や海に流れたペットボトルの回収は不可能に近い。昔からの瓶利用は重いとか、回収が面倒くさいというのが、ペットボトル愛好者の理由なので税を掛けて少々高くなってもの良い。

4、リニアモーター税
日本の代表航空会社2社は共に赤字である。今年、国は航空会社に1000億の政府保証をした。高速道路の無料化も進み、新幹線の5倍も電気を使うリニアモーターカーが開通すれば、航空会社は更に大赤字が出て当然税金での補填が行われる。やはり原因者に課税しておくべきだろう。「狭い日本そんなに急いで何処に行く」と昔のJRの広告が泣いている。

5、外材税
こんにゃくには1000%を越える関税がかけてある。自然の代名詞である山。日本の山の木は切らねばならぬ。なのに、日本の建築業界は80%もの外材を輸入し国産材は20%しか使わない。関税がゼロで安い。環境は大事だというが、環境よりお金を大事にする国民には強制的発動が必要だ。木材にも農産物と同じく関税を掛けるべきだ。1000%とはいわない。せめて20%ぐらいかけて欲しい。

6、プレカット税・人工乾燥税
日本の建築従事者は多い。建築件数が減ったことより、プレカットという合理工法の採用により、建築関係の失業者が増えた。そのプレカット工場の設置には補助金が使われた。その補助金と失業手当の税の補填のために、プレカット税を新設したら良いと思う。木造住宅工法はRC造やS造より環境に良いというが、合理化工法の木造住宅は重油による人工乾燥を行っている。放っておけば自然に乾く木材を重油で乾燥させるのであれば税をかけるべきだ。

7、海水温上昇税
温室効果ガス排出削減の目的は海水温上昇防止である。海水を直接温めているのは原発の冷却水である。消費大国アメリカには83基しか無い原発が狭い日本には55基もある。周囲が海のため放熱は分散され話題に上らないが、気が付いた時は取りかえしがつかない。今のうちから原発に海水温上昇税を課しておくべきだ。

8、太陽光発電税
東京都は100万円。地方でも50万円も補助金を出し、太陽光発電を推進している。国は20倍に増やすといっている。原発をやめる代わりというなら理解も出来ようが、特定産業の売上増が目的である。ドイツみたいに北海道より北の国ならいざ知らず南国日本では、集熱装置はヒートアイランド現象を加速する。買電価格を倍にして、その差額は一般電気代に上のせするというから困ったものだ。屋根の上にバンソウコウを貼ったような太陽光発電パネルは景観破壊でもあるので、景観税も付加しよう。

9.エコポイント・エコカー減税返却税・オール電化税
いままで扇風機で良かった人までエアコンを使う。グリーン家電で総エネルギー消費量は増えている。エコポイントに使った税金は課税で戻してもらいたい。
家族3人なのに500Lの冷蔵庫は大きすぎる。生活必需品を越えて贅沢品である。
6畳の広さに40Vのテレビも贅沢品である。メルセデスベンツ3500CC1400万円の車にもエコカー減税の対象である。エコポイントで特定の業種だけは潤った。
車業界や電気業界の救済が目的だった。奨学金と同じく急場をしのいだら戻して欲しい。

10、長期優良住宅の固定資産税
日本の木造住宅の固定資産課税期間は20年である。課税期間を延ばせば税収は増える。20年の課税期間を40年にすれば税収は倍になる。長期優良住宅の目的はなんだろうか。フラット50という制度まで現れ、50年ローンが組めるそうだ。サイデングとべニアとビニールクロスの家は100年もつという触れ込みの長期優良住宅は、課税期間を40年に延長して、税収アップをはかるのが目的の政策かもしれない。長持ちと関係なし長期優良住宅は新聞チラシ上を踊っている。

建築ジャーナル 2009 11月号掲載

14. 品確法再批判その1

 住宅品質確保法(品確法)が出来て9年が経過した。時の政府は50%の賛同を得るものと試案していたが、個別住宅での利用者はほとんど無い状態だ。情宣不足と10数センチの厚さもあるテキストをタダで配り、全国で講習会を行ったが広まらなかった。粗悪建て売り業者の「わが社の住宅は品確法ランク4」という新聞チラシを賑わすだけだった。完全に死に体法と思っていたら、ゾンビのごとく減税と融資付きの長期優良住宅基準に乗っかって生き返った。あまりに内容が幼稚で品確法を使う気になれないが、減税と融資がセットになれば、幼稚さと関係なく皆が使う。家の品格が落ちることになりはしないかと危惧する。当時9項目であったが現在はいつのまにか10項目になっている。再度項目毎に検証する。

火災時の安全に関すること

 火災警報器には煙感知と熱感知がある。最近の火災による死者の多くは、新建材の煙による窒息死だ。それで火災警報器の感知装置の義務化は熱感知器ではなく煙感知器にしている。新建材から出る有毒ガスを吸い込めば一呼吸で体が動かなくなる。試しにウレタンフォームを燃やして吸い込んでみれば分かる。断熱効率が高いからとウレタンフォームで包まれた家は火災時有毒ガスが多量発生し、煙感知器は鳴れど体が固まり1歩も歩けず中毒死する。新建材を使わない木の家は良く燃えるがゴホンゴホンとしながらも逃げることができる。吐き出し窓がたくさんあれば外への逃道は多い。火災時安全な家とは「逃げ道がたくさんある家」と思いきや警報器をたくさんつけたが性能が良い住宅とのこと。感知器は非常に敏感でホコリやクモの巣によっても感知しなくなる。30年前、100人以上の死者を出した熊本某デパート火災時には、消防設備が機能しなかった。以後検査が厳しくなった。事務所や商業建築では1年に1回専門業者による定期検査が義務づけられている。
 そもそも火災警報器の義務化は火災のよる年間死亡者が1000人から減らないという理由で始まった。同じ死亡者である自殺者は火災による死者の30倍を越えるというのにそちらの対策は見当たらない。それはさておいて、火災死亡対策はアメリカの物真似だった。アメリカでの警報器設置は全住宅の50%を越えるそうだがそれは1ヶ1500円程度と安いからだ。8年前、火災警報器は1ヶ1万円を越えていた。大手家電メーカーは火災警報器が売れると見込んで品確法の説明会会場に警報器のカタログを山程積んていた。しかし、最近では安売り商品が出始めて3000円岱で売ってある。最近の建築雑誌には火災警報器の広告は載らない。大手家電メーカーが潤うようにと仕込んだのだが世の中の人は思うように動かなかった。
 本当の「火災時の安全」対策は、1つに火災に気をつけること。2つに火災が発生したとき逃げやすいことと家から有毒ガスがでないこと。3つ目に火災を知らせることだ。3つ目が優先されるとは妙な対策だ。
「火災時の安全」の別仕立てに「開口部の耐火等級」というものもある。準防火地域や防火地域では開口部に防火戸を付けなければならない。防火戸対策で一番コストが安いのは雨戸だ。隣家に火災が起こり、時間があれば類焼防止で雨戸を閉めることはあるだろうが、「火災時の安全」のために雨戸を閉める人はいない。そんな余裕があれば逃げることだ。
防火戸は基準法で義務化されているので準防火地域や防火地域では必ず設置する。つまり密集地で防火戸がある家の方が、防火戸不要の山の中の1軒屋より「火災時の安全」性が高い家というなんとも理解しがたい基準である。

建築ジャーナル 2009 12月号掲載

15. 品確法VOL.2

 住宅にも性能のランクづけが必要と、誰が要求したのかは知らないが品確法がH12年に出来た。項目毎に等級1~4(3)と決められていて数字が高いほど性能が高いとなる。

光・視環境に関すること「等級なし]
居室の開口部の面積の広さを評価する基準だそうだ。単純開口比と方位開口比がある。「あなたの家の単純開口比は30%です。南側開口比は40%です」と言われても、良いか悪いかは分からない。窓は小さいより大きい方が良いに決まっている。「温熱環境に関すること」という別の項目評価では、窓は小さい方が有利になる。相互矛盾がおきないように「光・視環境に関すること」には等級のランク付けは無い。素人には窓の大きさは立面図を見て、「1間幅の掃き出し窓ですよ」という説明の方が分かりやすい。ランクづけが目的なのにランクづけが無ければ不要ではないだろうか。こんな評価に評価費用をだすのはお金の無駄というもの。

空気環境に関すること「等級1~3」

室内に発散されるホルムアルデヒドの発生量の少なさを評価する基準である。評価方法は、建築基準法の告示で定められたホルムアルデヒド発散建築材料の種類と使用量で決められている。☆1~4に区分されていて☆4が高性能である。基準が決まれば建材メーカは基準にあう建材をつくる。そして世の中の新建材はほとんどが☆4になってしまった。そうすると「空気環境に関する」基準は☆4仕様の等級3がすべてとなる。等級3は性能が最高の基準といえばそうではない。27度の気温で測定し、健康な人に害を及ぼさない基準なので、気温が27度を越える九州などの地域では等級3では空気環境は普通である。建築基準法では、24時間換気扇を義務づけている。搬入する家具から発散するホルムアルデヒド対策という。本当は通産省が家具業界を規制すべきだが、商業業界指導は行わない。国の声にはすぐイエスの建築業界を指導する。建築行政指導も法律の方がおかしいと理解してくれていて検査は甘い。台所のレンジフード換気扇の代用にも建築許可を出す。台所のレンジフード換気扇を24時間廻している人はいないだろう。民生分野では省エネ励行で不要なスイッチは切りましょうという運動も盛んである。
 本来、室内の空気が2時間に1回入れ替わる換気は必要だ。C値(隙間相当面積)という基準がある。(説明すると長くなる)C値=8の家は2時間に1回の換気は自然に行われている。その性能があれば24時間換気扇は不要と言ってもよいのだが、良い設計をすることよりも審査がしやすい基準をつくることを優先する。
等級1~3とあるものの99%が等級3では、あってもなくても良い評価基準である。

温熱環境に関すること「等級1~4」
高気密・高断熱の潜水艦みたいな密閉住宅の基準である。冬、部屋を暖かくすれば結露が発生するので、壁の内部に結露が発生しないように室内側にビニールなどの防湿層で目張りすることを基準にしている。高気密・高断熱の家では、ストーブの上にヤカンを置いたり、加湿器設置は結露発生の原因となり禁物である。今年はインフルエンザが流行していて、医者は菌が死滅する室内湿度50%以上確保のためにストーブの上にヤカンを置くことや加湿器使用を薦める。命が大事か、家が大事かという決断に生活者は迷ってしまう。
 寒い地方の住宅には、高気密・高断熱の基準があることを否定はしない。温暖な地方では、採用しなければ良いことだが、長期優良住宅の基準に「温熱環境に関すること」の評価があるからことが複雑になる。長期優良住宅は長持ちさせることがことの始まりであったが、「温熱環境に関すること」等級4を条件にしている。「温熱環境」を示す基準に熱損失係数Q値という基準があるが(Q値は数値が少ない方が良い性能)、沖縄でもQ値3.7という高性能な高気密・高断熱にしないと長期優良住宅にはならない。密閉化には面状の合板や通気性のない石油製品の建材が多くなり、埋め立て建築廃材も増え、結果住宅建設がもたらす環境負荷が増大することになる。更に、密閉化は短命化につながる要素も持ち合わせている。
 地域によって求められる住宅性能は当然違うので日本全国を6つの地域に分けられてはいる。北海道が1地域で沖縄がⅥ地域である。Ⅳ地域は新潟から熊本までと範囲が広く、日本全土の半分を占める。そんなに広いのを地域区分と言えるだろうか。
 温暖地方ではQ値4で充分という専門家もいるが、新潟から熊本までⅣ地域なので、温暖な熊本でも長期優良住宅ではQ値2.7にしなければならない。Q値は、壁・屋根・床下から逃げる熱量、窓から逃げる熱量、換気回数の総和で決まり、建築業界ではQ値を少なくするマニュアル本まで出ている。その項目を紹介しよう。

  1. 家の間取りは真四角にして、表面積を小さくする。豆腐みたいな家にする。
  2. できるだけ窓は小さくする。
  3. 換気回数は0.5回/時間を最低守れるように密閉化する。

冬を旨にした住宅は九州には合わない。しかし、長期優良住宅の基準があれば、業界はそれに従い補助金や優遇措置を餌に薦める。省エネが目的にした基準「温熱環境に関すること」を満足させた家では、夏エアコン無しでは住めない家だ。
東京理科大学の井上隆教授は、「住宅の断熱・気密化は、室内環境水準の向上に大きく貢献していると評価されるが、いわゆるリバウンド効果で、高断熱・高気密化住宅では、より長時間、より広い範囲、より高い室温で、暖房される傾向があるとも報告されている。設備機器についても、それぞれの効果は向上しているものの、エアコン台数は増え冷暖房範囲・期間は拡大、室温もより快適な水準へ、冷蔵庫・TVも大型化、給湯量も増加、など、全体としてエネルギー消費が大幅に増大する結果となっている。」と警告する。

建築ジャーナル 2010 1月号掲載

16. 品確法VOL.3

住宅にも性能のランクづけが必要と、誰が要求したのか知らないが品確法がH12年に出来た。項目毎に等級1~4(3)と決められていて数字が高いほど性能が高いとなる。

「劣化の軽減」に関すること{等級1~3}
等級1 建築基準法の定める対策が行われているもの。
等級2 構造躯体が50年~60年もつ程度の対策が行われているもの。
等級3 構造躯体が75年~90年もつ程度の対策が行われているもの。
日本の住宅の平均寿命が26年といわれているのに90年耐久性の家とはすごい。人間に例えれば寿命26歳の人が90歳まで生き延びるための健康管理は相当な工夫と努力が必要であると思う。75年~90年もつ基準は、現存する100年寿命の家の要素を参考にして基準は決められたのだろうと誰もが想像する。これらの家の多くは瓦で軒が長く、床下は風通しのため開放されている。しかし、無い。無い。無い。日本の長持ち住宅の要素は全く採用されていない。「劣化の軽減」に関する基準の項目が8つあるが、カラーベストとビニールクロスとサイデングを主体としたハウスメーカーの提案を受け売りした8項目である。

  1. 外壁の軸組等の防腐防蟻の基準(外壁の軸組等に通気が確保されていることと耐久性の高い樹種の使用、有効な薬剤処理が行われていることが基準。)
    外壁の軸組等に通気が必要なのは、家を密閉化し吸湿性の無い断熱材を使えば、内部結露が発生するからである。土壁や吸湿性のある断熱材の場合は不要であるが、その基準はない。
    外壁の軸組等に通気を確保するには、通気空洞確保のため外壁が軽くなければならない。そうすると外壁仕上げはサイデングがよいとなる。サイデングを留めるには長い釘が必要となる。釘が長いとタワミが生じる。そのタワミを止めるための製品が発売された。プラスチック製品である。プラスチック製品が90年もつとは思えない。
  2. 土台の防腐防蟻の基準。(土台に耐久性の高い樹種が用いられているか、又は有効な薬剤処理が行われていることが基準。 )
    木を密閉させるから腐る。イカをサランラップで包めば1日で腐る。乾燥させてスルメにすれば1年でも2年でも持つ。同じ有機物の木材も同じだ。木は濡れても乾燥させれば良い。まな板を見よう。毎日3回濡れても水きりを良くして乾燥させれば30年以上もつ。家庭の主婦でも知っているスルメ状態にして耐久性をあげる基準は無い。
    土台には赤身の杉が良いとしている地域もあるが耐久性の高い樹種には該当しない。有効な薬剤は毒性が強い。毒性が強いものを使うか、耐久性の高い外材を使うかの基準である。
  3. 浴室・脱衣室の防水の基準(浴室の軸組・床組・天井・脱衣室の軸組に防水上有効な措置が行われていることが基準。)
    脱衣室の仕上げは防水上有効なビニールシートなどの仕上げをすることとある。更に、床にPタイル等の建材であれば下地に合板を使えともある。90年持たせるために、脱衣室にビニールクロスや合板を使えという基準は 本当に専門家が決めた基準かと疑いたくなる。法の条文は正しい。しかし、運用基準となると骨抜きになる1例。
  4. 地盤の防蟻の基準(ベタ基礎など防蟻に有効な基礎としているか、薬剤処理が施されていることが基準)
    ベタ基礎でも白蟻は上にあがってくる。床下の乾燥とは関係がない、白蟻はどこにもいる。風が起きればモグラと同じで地表には上がってこない。床下解放が一番であると思うが防蟻薬剤土壌処理を薦めている。薬剤の効能は5年なので5年毎の薬剤散布となる。自然素材と謳った木酢液とかヒバ油等があるが、基準には合格しないし、効能期限は2年なので散布してもしなくても効果にたいした差は無い。
  5. 基礎の高さの基準(床下からの湿気を軽減するために、地面から充分な基礎高が確保されていることが基準)
    基礎の高さ400㍉以上という基準である。どう考えてもおかしい。土台や足固め材を地盤より400㍉以上にすべきなのに、基礎の高さで決める。基礎が400㍉と高ければ間仕切り基礎部では床下の風通しは悪くなる。基礎を低くして土台や足固め材を高くする方が目的には合っていても、いやむしろ最も合っているのに、検査では不合格になる。
  6. 床下の防湿・換気の基準。(地面からの湿気を防ぐために防湿コンクリートなどの処置がなされておりかつ床下に換気口が有効に設けられていることが基準)
    床下の開放は大事である、床が高く開放されていれば必ずしもコンクリートは要らない。
  7. 小屋裏の換気の基準。(小屋裏に発生する湿気を除くために、換気口が有効に設けられていることが基準。)
    この基準はあっても良い
  8. 構造部材の基準。建築基準法の基準。
    建築基準法にある基準だから守らねばならない。基準法の検査があるからこの項目の検査はしなくても良いはずだ。審査費支払の無駄。

 この8項目を全部満たせば、ビニールクロスとサイデングの家でも90年持つのかと質問すれば「その住宅の寿命が90年あるということではなく、90年もつと考えられる仕様を満たしている」と答える。頭のよい人にもそうでない人にも理解できない表現だ。最悪なのは、長期優良住宅の基準がこの品確法の等級3+基礎通用33㌢以上とあるので困った状態になる。長期優良住宅にするために、ビニールクロスを使い、基礎は立ち上がり400㍉にして、逆に短命化する場合もあるので注意したい。基本的に、木造建築の長寿化は軒を長くして、木材が乾燥しやすい構造にしておくことが最善の方法であるが、国は無視する。今まで長持ちしてきた日本の伝統構法の家が、日本の長寿命の基準に合わないのは、外国から見たら笑い話だ。

建築ジャーナル 2010 3月号掲載

17. 品確法VOL.4

 朝青龍に品格があるかないかの議論が話題になったが、「物のよしあしの程度」という意味では品確法も品格の程度を表す尺度だろう。品確法は利益至上主義の住宅産業に迎合してハウスメーカー商品支援法のように思える。

維持管理への配慮に関すること(等級1~3)
排水管・給水管・給湯管・ガス管の日常における管理(点検・清掃・修繕)のしやすさ
基礎部分に二重のサヤ管を埋め込み、その中に排水管や給水管を通し、さらに点検が可能なように床板に床下点検口をつけることになっている。
通常の配管工事とサヤ管の工事をすれば単純に考えて工事費は倍かかる。古い家の再生改修工事の経験がある方は分かっていると思うが水回りは多くの場合変更になる。キッチンの長さは変わり、シンクの位も変わる。例えば便器の古い型番又はメーカーを変えれば給排水の位置は変わる。設備機器のモデルチェンジ・間取りの変更で、同じ場所に給水管・排水管・ガス管がくることはまずありえない。さや管工事は同じ場所で配管を差し替えるのには有効だが、位置が変われば結局、無駄な工事となってしまう。古い管はそのまま埋め込んで新しい管を別に付けるほうがコストは安い。
 次の点検口について、木造住宅の場合、床下は開放状態なので点検は床下に潜って容易にできる。便器の詰まりは便器直下の部分で起こる。便器をはずして修理するので、費用が高い便器専用の掃除口を付ける必要はない。そもそも掃除口はRC造建築で配管をコンクリートに埋めてしまう場合に行うことで、床下に潜れる木造住宅では設置しない。給水、給湯、排水、ガスのそれぞれに点検口や掃除口を付ければ、台所・洗面所は蓋だらけになる。誰がこんな基準をつくったのだろうか。RCを専門にしている設備設計士に聞いたのだろう。木造住宅を知らない人がつくった基準であろう。

音環境に関すること (等級1~3)
外部からの騒音の遮断の程度として、居室の外壁開口部に使用されるサッシュ及びドアセットの遮音性能の評価
 高速道路の近くだったら音遮断をしなければならないが、閑静な住宅地だったら小鳥の鳴き声ぐらいは聞きたい。住宅はそもそも置かれた環境で性能評価はなされるべきである。
住宅の遮音の性能がどのくらいあるか住人としては知りたい項目ではある。家の中から出るピアノの音や外部からの高速道路の音が素人が判断するには分かりやすい項目だ。ただ言えることは遮音壁の性能ではなく、窓開口部の性能についてだけである。アルミサッシのほとんどがT-1.T-2の遮音性能商品なので、アルミサッシュを採用すればほとんどが等級2を満たしている。受験者全員が100点の試験と同じと考えれば良い。オーディオやピアノの使用や、外部からの音の侵入を検証するには、換気扇の穴、24時間換気扇の吸気穴、壁の性能を考慮しないと音環境に関する性能評価は難しいのにサッシュだけで評価するのはおかしい。

高齢者への配慮に関すること (等級1~5)
 加齢などで身体機能が低下したときの住宅内の移動の安全性及び介助の容易性を評価します
等級1から5まであり、床に段差がないこと。階段がある場合は緩やかさ。階段・便所・浴室・玄関。脱衣室に手摺の有無。通路の幅が780mm以上あること。浴室の広さ、トイレの広さなどがこと細かく決められている。 全ての項目が工事されていれば等級5で、将来工事が可能であれば等級2である。高齢者や障害者はそれぞれ人によって障害のあり方はまったく異なる。千人分の基準は千通りである。万人共通の基準は邪魔な場合さえある。家中手摺だらけでは、もはや住宅ではない、施設である。病院のような家が高性能住宅だろうか。木造住宅は不都合になった時改装出来る良いように設計するのが良い。 ある設計者が、障害者に合わせて「ハイハイの家」を設計した。どこにでも這っていけるよう配慮した家だ。手すりはなく、車いすのことも考えられていないが住む人にとっては最高の家。なのに、性能評価は落第点になる。
子育ての家では、子供の危険予知訓練のため、若干の危険場所はあった方が良いように、住宅設計は非常に個人的な与条件で決まる。細部まで細かく工事されているより、不具合に対して改装が可能な家つまり等級2レベルが良い。
 高齢者や障害者への対応は靴と同じだ。平均や多数とは関係がない。25.5cmの靴が平均であっても27㌢の足は入らない。履けない。27cmの靴が必要だ。 マニュアル好きの日本人らしい基準である。

防犯性に関すること(等級無し)
開口部の侵入防止対策を評価する
住戸の出入口、外部からの接近が比較的容易な開口部、その他の開口部と3つに区分され、それぞれを錠による対策、サッシ・ガラスによる対策、雨戸による対策と表示するだけである。小学生でも書ける評価書。今どき、鍵がなかったり、ガラスが入ってない家があるだろうか。品格法の報告書の枚数が多い方がお金が貰いやすいためにある項目だろう。
H18年から新規追加された項目である。
すぺーす
  住宅は環境・家族構成・住み手の好みにより、要素は異なる。性能表示は迷惑な話だ。素人も玄人も絶賛する吉村順三の設計した住宅は、「住宅性能表示」に当てはめれば最低の等級となり、安売り○○ホームは等級4の高性能住宅になる。
 日本の住宅地は美しくない。国が新しく作る基準に比例して見苦しくなっていると言っても過言ではない。日本の山が疲弊したのは、品確法ができてからだと和田善行氏(TSウッド)は言う。

建築ジャーナル 2010 4月号掲載

18. 住宅版エコポイント

 住宅版エコポイント制度は、国費1000億円を費やし、景気対策と温室効果ガス削減の一石二鳥の効果を狙ったものと言う。前原国交相は「例えば国内材の需要振興、ひいては林業、大工、工務店の仕事が増えるというのはすばらしいこと」とも言っている。新築とリフォームに分けて説明する。

新築
エコポイント新築住宅は「新築基準は省エネ法に基づくトップランナー基準相当の住宅」・「省エネ基準を満たす木造住宅」が対象となり一律30万円を補助してくれる。満たす省エネ基準は品確法省エネ性能基準4のことであり超高気密高断熱仕様にしなければならない。高気密高断熱が普及していない九州地方において、この基準を満たすには100万円の追加金が要る。新築時に30万円をもらえるから家を建てようと思う人は少ない。新築価格が平均2700万円とすると30万円は1~2%である。もし、1~2%安くなるだけで新築促進になるのであれば、住宅業界は一斉に1~2%値引き運動をするだろう。別商法で、200万円値引きという住宅販売がある。○○ハイムは誰が購入しても、何時購入しても、200万円値引きか、太陽光発電プレゼントという販売商法である。全員値引きの場合、それは値引きとは言わないが、この商法は新築促進には結構イケテル。上乗せした後値引きするのは住宅業界の常識でもある。
このエコポイントをもらうための省エネ基準4仕様を沖縄に当てはめてみよう。天井に200mm程度、壁に100mm程度の断熱材をいれよとなる。沖縄において、布団にくるまったような高気密仕様は不要であろう。この制度は温室効果ガス削減を狙ったのではなく、住宅金融支援機構のフラット35S基準の家を建てようと思う人へのおまけ補助金である。住宅金融公庫が廃止になり残務処理のための住宅金融支援機構だったはず。独立行政法人を廃止する民主党政策だが、住宅金融支援機構は、新たな住宅融資に加担し、上手くコバンザメ手法で生き延びる。新築エコポイントは、「例えば国内材の需要振興、ひいては林業、大工、工務店の仕事が増えるというのはすばらしいこと」ということには決してならない。
新築エコポイント受給時、不正防止ためには第3者機関から証明書を発行してもらわなければならない。証明書の発行には3万円の費用がかかる。30万円をもらうために3万円かかるのだ。申請ビジネスは潤う。

リフォーム
温室効果ガス削減が目的なので「窓の断熱改修」「外壁・屋根・天井・床の断熱改修」は対象であるが、なぜか「バリアフリー改修」でも補助金を受けることができる。
アルミサッシの価格は掛け率が低い。誰が購入しても6割前後の値引きなので、10万円のサッシは3~4万円で購入できる。定価で販売すればボロ儲けである。リフォーム業界にリフォーム詐欺が多いのは定価表示が高いからであろう。定価で販売しボロ儲けしても詐欺ではない。「エコポイント事業の普及で、通常のリフォーム市場が成長し、悪徳リフォームに代表されるマイナスイメージが解消する」と呑気なことを言う人もいる。全く逆である。いろんな素人業者が参入し、そしてトラブルが増大する。
問題点を挙げてみよう。

  1. 断熱は部屋全体を均等にしなければ断熱効果はない。すでにFIX窓やジャロージー窓がある場合、既製品がないからと部分的に断熱サッシ工事しかしない場合は断熱効果はゼロに等しい。熊本県産山村の水漏れ大蘇ダムの漏水工事を、片面だけするようなものだ。断熱効果の出ないエコポイント工事が多発すると思われる。
  2. アルミサッシの熱貫流率はK=6.5(少ない方が良い)。ペアーガラスはK=4.6。サッシに内障子を付けた場合はK=3.9だが、内障子設置にはエコポイントはつかない。
    アルミサッシが鉄より高いのはアルミ精錬のために膨大な電力を必要とするからだ。エコポイントをもらうために、内窓アルミサッシの売上が伸びると電力が必要となる。電力量が増えると原発建設や戸建て太陽光発電普及は必要となる。温室効果ガス削減が目的ではなく経済活動が目的のように思えてならない。内窓アルミサッシを付けるより、内障子設置の方が、「大工、建具店ひいては林業、の仕事が増える」ということになるのだが。
  3. リフォーム工事は専門業種だ。家電量販店もアルミサッシの販売施工を行うことになった。当初の計画では工事施工会社の領収書でなければならないというものだったが販売業者でも良いとなった。家電量販店は自社では工事が出来ないから施工を下請けに出す。当然経費がかかる。途中に1クッション増えるので、経費は増える。得したはずのエコポイント補助金は隠れ隠れて経費に消える。消費者は決して得しない仕組みなのだ。
  4. アルミサッシのメーカーは定価しか表示しない。価格を確認するためにメーカーに電話しても定価しか言わないので怪しいリフォーム会社にとっては好都合である。アルミサッシが材工価格ではなく、材料だけの価格が定価の半分近くかどうかを確認すれば、詐欺まがいなことは防げる。
  5. 施工は建設業許可業者ということだったが、いつのまにか変なただし書きが追加になった。「施工者が建設業許可業者の場合、許可番号の記載義務あり、許可業者でない場合は提示の義務はない」という。つまり、免許を持っている人は免許証を提示しなさい。持っていない人は提示必要はありませんという変な基準である。

不正受給の方法はどんな手法が考えられるか。
リフォームは新築のように3万円の手数料をとられることもない。現地審査がなく書類審査だけなので不正受給はしやすい。どのような手法が考えられるかいくつか手口を挙げてみる。リフォーム詐欺業者が審査員の目をくぐりぬけるのは簡単だ。マニュアル通りに審査するので、マニュアルに書いてないことをすればよいのだ。

方法1、現地調査はないので、親子別々の名前で申請を行う。住居表示と謄本地番を別々に使えば同じ住居とは思わない。謄本地番でも郵便物は届く。年金問題で社会保険庁が間違った原因の手口を逆の手法として使うのである。アルミサッシュの写真を別のアングルから撮影して、その違いは書類審査では分からないから、同じ場所のサッシュを2回申請に使う。そして60万円をゲット。又はアルミサッシの補助金と断熱材入れの補助金を別々に貰う。バリアフリー補助金も別申請すれば30万円×3=90万円補助金収入も夢ではない。

方法2、新築工事のエコポイントの30万円はハードルが高い。新築工事に100万円近くの追銭工事がいるので新築申請しない。そこで新築の工事中に、断熱入れの写真を取っておいて、入居後にエコリフォーム申請をする。業者発行の領収書の日付け等の空欄にしてもらう。新築が終わってからリフォーム工事の申請する。日付け無し領収書発行は日常茶飯事の行為である。これで新築においても30万円をゲット。

建築ジャーナル 2010 5月号掲載

19. 水俣エコハウスの理念

 環境省は、環境共生型住宅に対する知識や設計・施工技術の向上と需要創出を目的にエコハウス事業参加を全国の自治体から公募し、20のモデル地域が選ばれた。その一つが水俣市である。水俣市は、市内で排出するCO2量を2020年までに32.7%削減することを目標としている。①環境配慮型暮らしの実践②環境にこだわった産業づくり③自然と共生する環境保全型都市づくり④環境学習都市づくりの4つの柱を掲げており、今回のエコハウス事業と一致するものがすでにあった。事業はモデルハウスの建設からスタートし3年間続けなければならない。設計は公募によるコンペでおこなわれた。景気対策予算の税金を使い、モデルハウスを建築するだけのハコモノ行政ではないかとコンペ応募には少なからず後ろめたさを感じていた。趣旨の明確さを知り、伝統構法の普及に役立てばと思いコンペに応募し、選ばれた。私は今まで行政の仕事をしたことがなく、伝え聞くところから難しくトラブルが発生するのではないかと危惧したがスムーズに進行した。行政マンは規則遵守が一最優先と思っていただ水俣市の場合は違っていたので、その進捗状況を含めて、普通と違う設計・監理の進め方や積算、材料、入札、構造、設備について「伝統構法は玉手箱」と題してシリーズで紹介する。

環境共生住宅と日本語で言えば環境と共生する家づくりとなるが、エコファーネス・エコファースト・サステナブル・エコハウス・グリーンハウス・エコウインハウス・ゼロカーボン・エコプロダクト・カーボンオフセットハウスとカタカナにした言葉が世の中にあふれている。なんでこんなに多いのだろうか。今年もまた2つ3つ増えるだろう。その中の一つ「エコハウス」とはどんな住宅かとインターネットで検索してみた。ヒートポンプ・地熱利用・エネファーム・オール電化・太陽熱利用・バイオマス等と機器をたくさん付けて、生活レベルを落とさない快適な住宅をつくるというのが多い。機器をたくさん購入すれば、産業界が潤う。環境問題に気が進まない経済界だが、建築業界のエコ活動には販売が増えるので賛成らしい。建築業界の環境問題意識は環境全般ではなく生活時のCO2排出量削減だけが目標で、生産時のCO2排出量はあまり問題にしない。節約という意識は薄く「使い放題のお湯を使い、冬でもランニングシャツ1枚で過ごせるような全館冷暖房の家で、たくさんエネルギーを使っても、敷地いっぱいに太陽光パネルを敷きこんで発電すれば、CO2排出量を削減したことになる。機器類を付ければ付けるほどゼロカーボンに近づく」という仕組みである。 

建設・生活・解体時の全てを含んだCO2排出量(LCCO2)を考えるとき、LCCO2の6割以上が生活時CO2排出量であるため、建設・解体時のCO2排出量は少ないから無視しても良いとか、夏の冷房エネルギーは比率が少ないので考えなくても良いという乱暴な環境専門家も存在するようだ。それで生活時CO2排出量削減だけを声高に訴え、建設・解体時のことはあまり話題にしない。建設時、機器装置製作のためのレアメタル採掘は発展途上国に採石廃材の山ができることで、加害者になっていないのだろうか。原子力発電所の近くの住民は放射能汚染の危険に晒されていないだろうか。CO2排出量削減といいながら、自分の生活の利便性だけは優位に考えて良い子になっていないかを水俣では考えさせられる。水俣はもはや日本の水俣ではない。世界の水俣だ。科学は人間の生活を豊かにする。しかし、片方で被害者をつくっていないだろうか、被害が少ないからと言って無視したら、数年後には数百倍数千倍になってお返しがくることを水俣は過去の歴史で学んだ。発展途上国の一部や貧乏町村に被害を強いての「エコハウス」はありえない。

では、建築においてそんな理想住宅建築ははたして可能だろうか。都会では不可能だが、田舎では可能だ。風が抜ける家、近くの山の木での家づくり、土の土間、裏山の薪を燃料とした薪ストーブ、天日、ヘチマのグリーンカーテン、家づくりの原料は土と木と紙と藁と竹。昔の日本の家づくりの知恵がそうである。田舎には大工職人・左官職人・建具職人は健在だ。材料と職人がいる地域では、理想住宅建築は目の前にある。青い鳥はそこにいたのだ。

日本人の8割は温熱度日区分のⅣ地域に住んでいる。水俣はⅤ地域である。Ⅴ地域でエアコンなしの生活が可能であることを実証できたらそれ以北の人たちもエアコンなしの生活がで可能といえる。器械に頼らない人間の潜在能力をも活用した省エネルギーを考えなおそう。木材、土壁、小舞竹、三和土、伝統構法技術、手漉き紙は無限の地上の資源だ。埋蔵量があと50年といわれている石油や70年といわれているウランに頼らなくてもよい方法が日本にはあるのだ。役目を終えた木・紙・竹・藁は燃やせば良い。燃やして出たCO2は、木が光合成で山を潤す。瓦や土壁は土に戻せばよい。埋め立てゴミは出ない。建築廃材とは無縁の自立した循環の世界を目指したい。無限の地上の資源には目を向けず、世界中の有限の地下資源を探しまわる日本と中国。
水俣でのエコハウスとは、地下資源をあまり使わず、少しの不自由さは楽しみに替え、次世代も次々世代も、変わることなく自然と共存しながら生活できる家である。

水俣エコハウスの外観
水俣エコハウスの内観

建築ジャーナル 2010 6月号掲載

20. 伝統的構法は玉手箱―水俣エコハウスの構造

 伝統構法の建築の場合、現在限界耐力計算法を用いて建築確認をとる。その日数は確認機関と適判機関を合わせて70日も要する。H22年6月1日からは、確認機関の審査後、適判機関が審査して70日かかっていたものを同時に行い35日に短縮してもよいという通達が出た。しかし、それは書類に訂正がない場合に限ってのことだ。学業で100点満点を一度も取ったことがない小生には困難。建築確認審査では認識の違いや表現不足により書類訂正が必ずある。確認機関と適判機関は、訂正した書類のやり取りをしてくれないので、かえって煩雑になる。100点満点を取れる人だけの論理である。
水俣エコハウスは限界耐力計算ではなく、仕様規定と部分構造計算により、適判に行かずに確認を降ろしたので紹介する。伝統構法はきちんと計算しなければならないという考えの人や総二階の建物には参考にならない。

基礎工事
基礎の仕様規定に基礎高300㍉以上とある。(平12建告示1347号)この項目は土台等の木部を雨風から守るという意味である。だったら「土台や足固めの最下部は、地盤面より300㍉以上の位置にあること」とすれば良いのだがそうはなってない。伝統的構法はこの300㍉以上の規定が障害となるが、施行令38条4によれば基礎だけの計算をすれば告示1347号は省けることになっている。限界耐力計算では長期荷重と短期荷重と最大級地震荷重の計算をしなければならないが、38条4では最大級地震荷重の計算は省けるので少しは楽である。基礎の構造設計は接地圧と反力だ。接地圧は建物の重さを基礎底面積で割った地盤耐力との照合である。問題は反力である。RC基礎の計算をすれば、軽い木造でも建物にも馬鹿でかいコンクリート量の基礎となる。軽い建築物で、計算のような反力がくるのだろうかと計算方法に疑問が沸く。この土地は100KNと非常に固い岩盤であるが、建物の重さ73トンしかないのに基礎コンクリートの重さは50トンとなる計算だ。どう考えてもおかしいのが計算の世界だ。
この敷地は東西に勾配があり、建物を建てたら東西に60㌢の段差がでる。バリアフリーが設計条件なので床に段差は付けられない。60㌢の段差を4つに分け15㌢の棚田式にした。仕様規定による立ち上がり基礎を採用すれば一番高い場所では1Mを超える基礎になり、建物を遥かに超える重さのコンクリート基礎となるだろう。

壁耐力
仕様規定では、土壁の壁倍率は1.5で、木ずりは0.5である。足固め、差し鴨居やたれ壁の耐力は、仕様規定では認められていないので計算上耐力不足となる。計算上筋交いを入れなければならない。上棟時は筋交いを入れて検査後は筋交いを外す剛腕大工もいたが、コンプライアンスをいう時代になり激減した。本来、柔構造の土壁、貫、足固めと剛構造の筋交いは性質が違うので併用するものではない。30×90の筋交いは柔らかくたわんで他の耐力要素の邪魔はしないだろうと、この家に筋交いは4ヶ所入れている。実際の耐力は足固め、差し鴨居やたれ壁で負担している。

引き抜き
施工令46条では土台は基礎に緊結しなければならないと規定している。緊結には構造計算上、水平緊結と垂直緊結がある。垂直緊結の計算は平12建告示1460号により行う。いわゆるN値計算である。この計算で引き抜きが発生しなければ垂直緊結は不要となる。水平緊結だけとなり、ピンを出して横揺れだけを拘束すればよい。N値計算式はN=A×B-Lである。Lは押さえ効果でLが重ければNの引き抜きは少なくなる。重い屋根は軽い屋根の1.3倍も重いのに同じ係数では不公平である。数値は実情に合わせて勝手に動かせない。動かせば違反となる。そこで国語的解釈をし、文面通りの計算を行うことによりN値は低減できる。出隅に耐力壁を配置しないことと耐力壁を連続させることで低減できる。計算はおかしいかもしれないがコンプライアンスにより、伝統構法に近い足固め工法が可能となる仕組みである。運用する場合は、計算では表現していない柱間は7寸以上の足固め材でつなぎ、床梁、小屋梁は連続して柱を押さえる等の配慮がいる。
N値計算式で、引き抜きが発生するカ所は引きボルトで拘束しなければならない。

木組み
金物は強いという表現が多い。木より鉄が強いから当たり前だ。初期強度は確かにそうだ。30年以上経過した建物をみると熱橋等により結露がおこり金物の廻りの木部に腐食が多くみられる。ちょうど金属ホッチキスで止めた書類が10年も経過したら錆びてバラバラにほどけるのと同じ。長持ちさせたいなら紙は同質のコヨリで止めたがよい。木も長持ちさせたいならコヨリと同じ原理で同質の込み栓で止めたがよいだろう。

水平剛性
施行令46条3項で火打ち梁を入れるように規定している。ほどほどの剛性を要求している。高い剛性は火打ち梁では無理で、合板でないと取れない。柔らかい建物は計算に含まれない耐力要素をバランスよく配置しなければならない。硬すぎず、軟すぎずというバランスは限界耐力計算法の場合でも難しい。46条3項ただし書きにより部分構造計算で火打ち梁は省くことが出来るが扱いには注意が必要だ。

建築確認は許可ではない。淡々と基準法と照合する作業であり、安全性を証明するものではない。安全性の確保は資格の信義則にあり、法の揚げ足を取り、網の目をくぐったから大丈夫と思ったらいけない。

1.基礎の段々仕上げ
2.軸組み途中
3.段々の軸組み
4.引きボルト

建築ジャーナル 2010 7月号掲載