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71.省エネ法義務化は真の省エネになるのか(伝統構法の家の良さ)
国が推進する『和の住まいのすすめ』
国は2013(平成25)年10月に、冊子『和の住まいのすすめ』(写真)を発行した。その主旨は次のとおりだ。
「我が国の伝統的な住まいには、瓦、土壁、縁側、続き聞、畳、襖をはじめ地域の気候・風土・文化に根ざした空間・意匠、構法・材料などの住まいづくりの知恵が息づいていますが、近年はこうした伝統的な住まいづくりとともに、そこから生み出された暮らしの文化も失われつつあります。このような状況の下、和の住まいや住文化の良さの再認識、伝統技能の継承と育成、伝統産業の振興・活性化等を図っていくことがますます重要となっており、和の住まい推進関係省庁連絡会議(文化庁、農林水産省、林野庁、経済産業省、国土交通省、観光庁により構成)を組織し、冊子『和の住まいのすすめ』のとりまとめを行った……(以下略>」
2020年の東京オリンピックへ向けて和のデザインをアピールしたい思惑もあると察するが、6省庁がすすめる「和の住まい」とそのうちの3省(経済産葉貧、環境省、国±交通省)がすすめる省エネ法との間には矛盾が生じている。
「和のすまい」の特徴
日本の国土は南北に長く、亜熱帯の沖縄から亜寒帯の北海道までと気候はさまざまである。それに反映して地方ごとに独自の文化を生み、伝統的な家屋のつくり方にも特色がある。長い歴史のなかで醸成された仕組みは、その時代時代で淘汰と進化を繰り返して今日の伝統的構法の家がある。
土壁は断熱性能がないからと椰喩されたりするが、見方を変えれば優れた建材である。構造体であり、外壁・内壁仕上げであり、蓄熱体でもある。さらに化石エネルギーも埋蔵資源も使わず、地元の材料と職人でつくり、用が終わっても環境に悪影響を与えない。環境面からみても、理想の建材ではなかろうか。
伝統的構法の家は特別一つの機能が優れているわけではない。長年の歴史・文牝のなかで、環境と共生し、地域の雇用を生み、住み継いでいくことを前提として耐久性、修理の工夫が盛り込まれて、総合的に意義があるのである。ただし、夏を主体として考えている要素が多く、冬対策に不足することは否めないが、総合バランスが優れておりで補完しあっている要素も多い。一つの要素ではなく、総合的な判断が必要である。
■耐久性、維持管理、構造
◇修繕する部分をあらかじめ想定している。部品交換で対処できる部分とそうでない部分を長い歴史のなかで習得し、長寿命のシステムが確立している。
◇歴史が長く、劣化対策の手法が整備されている。
◇木材は有機物であるが、風通しがよければ防腐剤を使わなくてもかなり長持ちする。
◇自然劣化は避けられないものとして考え、維持管理、部材交換を重視した東洋的思想である。材料劣化は防水性などで克服できるという西洋思想とは異なる。(中村正夫の説による)
◇伝統的構法は石油製品がなかったころの工法なので、安くて便利な石油製品は使わない。ビニールや接着剤など石油製品の寿命は30年である。木材をビニールで包むと木材が腐りやすくなる。伝統的構法は長持ちの知恵が満載である。
◇深い軒、高い床、十分な屋根勾配、コーキングに頼らない雨仕舞で耐久性を確保。
◇仕口・継手の工法は昔から変わらないオープンシステムである。地域を越え、時代を越えて修繕が可能である。多少の差はあるが、全国共通の技術である。
◇真壁は溝造体の劣化状溌を確認しやすい。
◇高床は床下の状況を確認しやすい。
◇部材断面を大きく使い、交換を前提としたディテールである。
◇仕口・継手は、金物や接着剤などで接合しない。部材交換を前提とした工法である。
■温熱環境
◇深い軒や引き戸で風通しを良くし、エアコンに頼らない生活が可能。
◇置き屋根、越屋根、無双窓などの工夫がある。
◇外気温との極度な温度差をつけない。
◇土間や土壁は蓄熱性能がある。夏は蓄冷性能でひんやり感がある。
◇空気暖冷房に頼らない。条件を付加すれば、輻射熱による採暖は気持ちが良い,
◇緩衝空間(縁側、玄関、押し入れ)を設け、主な居室だけ温熱環境を良くする。
◇深い軒は、夏の直射日光を遮断し、室内温度の上昇を防ぐ。冬は太陽の高度が低いため、目差しは十分取り込める。
◇三和土、土壁、藁、紙の吸湿効果があり、梅雨時でも快適な住まいとなる。
■風景、街並み
◇構造的合理性が機能美を生んでいる。
◇統一された材とわずかな形の差が美しい街並みを形成している。
◇日本がこれから観光を重要政策にするのなら、伝統的構法を絶やしてはいけない。
■地域、山
◇伝銃的構法の使用材は国産材が当たり前で、他工法と比べ、木材の使用量は倍である。
木材の需要が増えれば、国家予算(税金)を使って山の木を切ることが少なくなる。
◇資源を木材と考えれば目本は資源大国だ。木材は日本全国に散らばって存在する。近くの山の木での家づくりは省エネである。
■LCCM(ライフサイクルコスト分折)的考えとゴミ問題
◇木、土、紙、石、竹、藁などが主材料なので廃棄エネルギーが少ない。また、運搬エネルギーも少ない。
◇生産時エネルギーで最も大きいのが基礎コンクリートである。伝統的構法の告示が出来上がれば、基礎石仕様で、コンクリート・鉄筋なしの建築も可能である。そうすれば、生産時エネルギー消費量は激減する。
◇石膏ボードは1枚290円である。処分時のコストは1枚600円相当である。家電のリサイクル法と同じく生産時に費用負担を課し、1枚890円にすべきである。そうしたら石膏ボードでなくてスギ板を使う人が増える。そうなれば山も潤うし、産廃の量も減る。
◇長寿命なので、大量生産、大量廃棄から脱却できる。
◇環境負荷の少ない建材なので、次世代にゴミのつけを回さない。
◇恒久品と消耗部品を使い分け・本体の長持ちの工夫をしてきた。たとえば、障子紙や畳表である。
■職人、雇用
◇雇用は日本の一番の社会問題である。手間がかかるので職人の仕事量が多くなり、雇用が生まれる。
◇近場にメンテナンスする職人がいる。
◇瓦、左官、大工、畳、表具、飾金物、塗師、と少しの技術の違いはあるが、ほぼ全国共通の技術が継承されている。絶やしてはいけない。
■健康、自律神経、気分、愛着
◇シックハウス対策を24時間換気に頼ったのは間違いではiなかろうか。換気は大事であるが、なにも機械換気ではなく、人間が開閉してもよいではないだろうか。
◇快適すぎる環境は自律神経の障害を起こす。室温が冬は20℃、夏は28℃以下の環境基準は、老人には良いが、育ちざかりの子どもにはある程度のストレスは必要だ。老人専用の施設では平成25年省エネ基準でよいが、子育て世代の住宅は、16℃程変の基準でよいではないか。
◇伝統的構法には、数値化できない五感に響くものがある。風鈴の音色を聞けば体感温度はわずかに下がり、浴衣姿やスダレを眺めるだけでもわずかに下がるだろう。
◇伝統的構法は確かに冬季の温熱性能は弱い。見慣れた和小屋組、真壁、床の間の空間のたたずまいに居ると、16℃程度の室温でも良いのではないだろうか。
建築ジャーナル 2014 11月号掲載
「大改造!!劇的ビフォーアフター」が民家再生や古い物を大事にすることを一般市民に幅広く伝えた功績は大きい。しかし一方で、「やらせだ」と思っている入も多いのではないか。11月2目に放送された「お客様が一番の家」に出演した範囲で収録の顛末を語る。
まず相談者であるAさん(建て主)がABC放送局に書類を送り申込むことから始まる。局は申請を受諾すると、建築地と同じ熊本県内在住の建築士探しをする。そこで白羽の矢が私に立った。建築士の審査の方法は、局のプロデューサーであるN氏が弊社まで来て、まずAさん宅の現状と要望書を見せた。75年前に建てられた石場建ての平屋の家に、38年前に、お神楽式(※1)に2階を増築したものだった。N氏から解決策を尋ねられた私は、具体的な設計手法ではなく基本的な設計思想を語った。「新建材を使わないこと」「長持ちすることを優先すること」「自然の力を引き出すこと」「職人の手仕事を表現すること」などである。N氏はそれをビデオで撮影し、局に持ち帰り、局内で適任調査が行われたようだ。それはAさんに見せられることはなく、私の採用が決定された。
3月に初めてAさん宅を訪問した。建築の要望は書面で事前に拝見していたが、改めてAさんの注文を聞いた。40数年、旅館業をやっていて3年前にやめたこと。旅館をやめた今、70歳代の夫婦二人には広すぎ、住みやすくしたいこと。費用は息子さん(Kさん)が親孝行のために出すこと。離れの客室を壊すには忍びないので、予算が余れば息子さんの趣味部屋に使用したいということだった。現状は陽の当たらない場所が居間で、離れのボイラー小屋の中に風呂があり、段下がりの台所は危なく、番組特有の不便さを絵に描いたような生活であった。聞き取りは漏れがないよう、考えて記入してもらえるようアンケート用紙を10枚用意し、郵送してもらうようにした。
主に母屋は構造体まで手をつける「再生工事」、離れは構造には手をつけない内装だけの「リフォーム工事」を行うことにした。「再生工事」は厳密な調査が必要である。翌目、大工2名、左官、建具屋、瓦屋、板金屋、電i気屋、水道屋を同行し、一斉調査・計測をおこなった。築後75年住宅は少し地盤が沈下していた。同時に地盤調査も行ったが、弱い地盤だった。べた基礎補強が一般的だが、重くなりすぎるので、基礎石をコンクリートで補強する程度が良いと判断した。
いよいよ工事が始まると、局とのプランの打ち合わせが始まる。建て主への提示の前にディレクター(O氏)のチェックが入る。建て主は高齢でもあるので、2階建てを平屋に減築したコンパクトプランを提示することでO氏と合意し、建て主への第1回目プラン提示をした。しかし、健康なうちは2階も使いたいからと要望され、1回目の提案プランは没になった。それから局との過酷なプランのやり取りがはじまった。風通しと構造を重んじる私とカメラ目線を重んじるO氏との見解が一致せず、合意したのは13回目のプランであった。綿密な打ち合わせの効果があってか建て主への提示は2回目にしてすんなりパスした。
実施設計の期間は少なく、弊祉スタッフ4名全員がA邸の設計にかかった。工事中の打ち合わせができないことから、棚の位置からすべてを図面で表現するために図面の枚数は100枚を超えた。工事が始まると東京から来た正副ディレクター二人(O氏を含む)は、近くのアパートに住み、盆休みもなく、ドキュメンタリードラマのように6ヶ月間張り付いての撮影だった。500時間撮影をして、それを1.5時間に縮めるので最後までどんな番組になるのかまったくわからなかった。
番組の中で、ゲストに推理してもらうテーマになる撮影や特に強調するシーンを用意しなければならない。畳表製作現場、藁床製作現場、天草陶石採石場、古材バンク取材、毎年行っている灼熱セミナーの建て主参加、制震ダンパー製作、軒先の風圧実験、格子網戸実験、鉋屑断熱材づくり、照明器具製作、看板作製、瓦屋根の説明など12件提案した。しかし、提案テーマが放送されたのはそのうち5件であった。
建物が完成し、インテリアの専門家が来た。Aさんの所有物に、新しく小物や食器や衣類や装飾品を追加購入し飾り付けをしたので見違えるようになった。
10月8日、Aさん一家に初公開し、撮影は終了した。21日に編集と私のチェックとゲストコメントの収録が完了し、11月2日に放送となった。番組の製作費がいくらかは誰もが知りたいところだ。私だけにこっそり教えてくれと頼んだが駄目だった。楽しい1年だった。
みんなが思っている疑問に答える
■掲示建築費はほんとうか。工務店はどうやって決めるのか。スポンサーから協賛はあるのか
解体工事、消費税を含む工事の契約金額を表示した。関係協力者や材料メーカーの資材提供などがあり安く感じる場合もあるだろう。
工務店は私が指名した。放送広告のスポンサーは14社あるが、番紐で使用すれば協賛はあるだろう。私は、協賛依頼はしなかった。
■所さんやゲストは事前にVTRを見ているのか
簡単な台本は事前に渡されている。江口ともみさんの質問は台本に書いてあり、モデル回答を4~5例用意してあった。しかし、所さんの進め方に乗ってしまい、ゲストの岩下さんも、剛力さんもほとんどアドリブ回答だった。岩下さんが伝統構法を「柳に風」と表現したのにはびっくりした。台本には全く書いてなかった。
■建て主が出来上がリシーンを初めて見るのはほんとうか。やらせではないのか。
局はAさんが初めてわが家を見る「なんということでしょう」という感動シーンにすべてを賭けている。そのため、建て主には現場途中を見せないし、現場は囲いで覆い、常駐二人が厳しく見張っている。よって、完成現場を初めて見せるシーンは事実である。「やらせ」と思っている人が多いと思うが決してそうではない。素人が演技で涙を出せるものではない。少しオーバーな表現があるが、局から指示があるわけでもない。感情が豊かな人を人選していることは否めないが。
Aさんが建物を見てどんな驚きを見せたかは編集後にしか見ることはできない。私は少し後に家に入るが、「思った通り」と言われるのか「イメージと違う」と失望されるのか、天下分け目のシーンである。局も私以上に心配しただろうと思う。なぜなら、建築物は手直しすればよいが、人の感情は顔に出る。1回限りの撮影で撮り直しなどできないのだ。
■建て主との打ち合わせは、しないのか。
建て主との接触はディレクターを通して行う。だからといってお任せスタイルではない。ティレクターが建て主と私の間に入り、逐一説明する。使用者が完成するまで現場を見られないのは、住民と公共工事の関係と同じだ。普通、現場立ち合いは、自分の説明不足を補うためにも行う。それができないので、逆に慎重にならざるをえない。その方が結果的に出来はよくなるかもしれないと思う。
※1:お神楽式…平屋の佳宅に2階を増築するようなとき、外周に通し柱を建て2階建てにする構造のこと
建築ジャーナル 2014年12月号掲
73.省エネ法義務化は真の省エネになるのか(伝統工法をなくさないための提案)
昨年8月号か11月号までは、省エネ法が伝統的構法の家には障害となり、「和のすまい」との矛盾が生じることを提示してきた。それではどのようにすれば解決するのかの提案をする。
「外皮性能」への提案
A案:リスクトレードオフ
南米のペルーで、上水道の塩素が人間の体に悪い影響を及ぼすという理由から、水道の塩素混入を止めてしまった。そうしたら、コレラが発生し、2万人の死亡者が出た。あるリスクを回避させようとしたら別の大きなリスクを生むことをリスクトレードオフという。省エネ法も同様なことが起きる。暖房エネルギー消費量の削減を目的に外皮性能を上げようとしたら、日本の「和のすまい」の良さがなくなってしまう。なんのための性能アップかわかちない。求める性能と失われそうなものをトレードオフしようという考えを提案したい。先月号で掲げた環境循環、景観、地域、健康、歴史性に点数をつける。例えば、景観は0.2、ゴミ問題は0.3、山問題は0.1、雇用問題は0.1、生産時エネルギーは0.3相当として、外皮性能の義務化UA値0.87に加算できるようにする。理科と国語の問題を足すようなものだと批判がありそうだが、CASBEE(キャスビー)と同じような評価法だ。
B案:例外3を地方行政庁に任せるという方法
省エネ法には特例で例外3の規定がある。条件は「地域の気候風土を考慮した建物」で「所管行政庁が認めたもの」とあり、地方分権の絶好のチャンスである。「認めたもの」の指針をつくってくれと地方行政は国にお願いするのではなく、地域独自の基準をつくるようにすればよい。
C案:部分間欠暖冷房の家は、旧・新省エネ基準相当でよい
自立循環型住宅のエネルギーコスト表をみると部分間欠暖冷房の家は外皮性能をあげたところで暖房エネルギー削減の効果は低い。というのも、もともと消費エネルギーが小さいからだ。外皮性能の規制をかけるとしても6(旧Ⅳ)地域においてはQ値4.3やQ値5.3の家でも消費エネルギーは大差ない。Q値をUA値換算にして1.5~1.8が適当ではないだろうか。
D案:UA値計算法を伝統的住宅に限り別の計算法をつくる。
「一次工ネルギー消費量」への提案
1次エネルギー消費量は建売住宅を基本にした「事業主判断基準」をベースにつくられているので、多様な日本の住まいに適合させるには無理がある。とりあえず次に掲げるものの修正をしてほしい。
また、熱損失の計算には外皮性能を表す熱損失量(U)を入れなければならない。「例外3」を適用した建物のUA値は1.5~2.0となるので、1次エネルギー消費量の計算の熱損失量はU値0.87×外皮面積として計算するのが妥当である。
A案:暖房1次エネルギー消費量
◇暖房器具は細かく分類されている。その中でもエアコンの部分は、専門家が見ないと区別がつかないほど緻密である。ヒートポンプ誘導法に思えて仕方がない。家電暖房機器は大雑把な区分がよいと思う。当然、コタツも暖房器具の分類に入れるべきだ。敷き布団、掛け布団の状況でエネルギー差があるから数値化できないと専門家は言う。数値化が難しいから省エネ優良品を排除するのはおかしい。私たちは数値化のために暖房しているのではない。
◇薪ストーブの暖房エネルギー消費量はゼロとすべきは当然であろう。しかし、多くの人が薪ストーブを利用すれば日本の山の木がなくなると思っているが山の木はあり余っている。
◇空気暖房と輻射暖房は基準を分けるべきだ。6地域での暖房エネルキー消費量は12~15GJである。床暖房を選択すると、地上1.2mの位置で室温20℃を目標に計測するから40~50GJになる。床暖房の場合は室温を20℃まで上げなくてよいのに、測定基準を一定にして公平にしているからだ。人間の体感温度を基本に考えてほしいものだ。基準づくりが目的になってしまっている。
B案:冷房1次エネルギー消費量を見直す
「窓を閉めてエアコン」もよいが、「窓を開けて扇風機」もよいではないか。「家庭エコ診断」では扇風機を薦める。エアコンも扇風機も同じ家電量販店で売っているし、機器の長持ち具合も同じなので、扇風機を排除するものではない。計算では扇風機設置の場台、40Wしか使わないのに800W相当を使ったことにされるのは、無実なのに有罪にされる冤罪に似ている。扇風機や風通しの場含は、冷房エネルギー消費量をゼロとすべき。チェックの方法はエアコン用コンセントがないことにすれば簡単だ。
エアコンコンセントを付けて「暖房用エアコンは使いますが冷房用エアコンは使いません」という姑息な例はあるかもしれないが、それぐらいは許容してもよいではないだろうか。
C案:電気1次エネルギー消費量を見直す
◇照明エネルギー消費量において、居室で1つでも白熱灯があれば全て白熱灯を使ったことになり4GJも増える。プログラムで「全て、蛍光灯を使用する場合」から「主に蛍光灯を使用する場合」にかえるべきだ。トイレや納戸などは点灯しても10分以内には消灯するので、白熱灯でもエネルギー消費量は増えない。
◇照明エネルギー消費量は「蛍光灯にライトコントロールを掛ける」や「蛍光灯にセンサーライト設置」の項目があるが、まれな事例だから必要ない。
D案:給湯1次エネルギー消費量を見直す
エネルギー消費量の中で給湯のエネルギー消費量が多いのに項目が少なすぎる。次の項目の追加を望む。
◇「浴槽の外に断熱材」は既製品だけでなく現場造作の浴槽にも採用の余地をいれる。
◇「浴槽の湯量」で決める。250L以下、300L以下、300L以上と3種類に分ける。
◇「シャワーと浴槽水栓」が同一か分離タイブかの区別をする。
◇「給湯箇所が4ヶ所」までか以上かを区別する。シャワーと浴槽カランを分離すれば湯量は増えるし、洗濯にまで湯を使う人の消費量は多い。
◇2世帯住宅の場台は、給湯エネルギー消費量は倍増だ。基準エネルギーと設計エネルギーは共に数値を1.5倍にあげる。
E案:換気1次エネルギー消費量を見直す
シックハウス法で、床・壁・天井に面状建材を使わなければ24時間換気扇は不要であるから、換気エネルギー使用量はゼロとなる。約4GJの削減が可能で、伝統購法の場合は有利となる。
何が目的の法律なのか
省エネ法は、経済活性化のための省エネ機器販売促進法でもないし、快楽住宅応援法でもない。そもそも省エネが目的なら「外皮性能基準」は中止して「1次エネルギー消費量基準」だけにすべきだ。その基準も生活者の実状にあわせた基準にすべきである。
温暖地・蒸暑地において、暖房エネルギー消費量削減の費用対効果は少ない。以上の提案が考慮されれば、伝統的構法の家でも「省エネ法」は受け入れられるだろう。
建築ジャーナル 2015年1月号掲
改正省エネ法の問題点と対抗手段を5回シリーズで書いたが、いくつか言葉足らずの分や補足があるので追加する。
省エネ法がエネルギー消費量を拡大させるかも
読者には建築士会会員も多いと思う。そこで、士会機関誌「建築士2014年10月号」51ページを見てほしい。5月15日公開フォラム「伝統的木造住宅と省エネルギー」の内容が載っている。その中に、建築学会会長吉野博氏の発言がある。「断熱するとエネルギーが増えてしまうことがある。もともと暖房エネルギー消費が低い中で断熱改修をする。高断熱住宅に移ると、かえって暖房時間が長い、部屋の温度が高いということで増えてしまう。それはおかしい」と。ブラックジョークみたいな話である。省エネ法がエネルギー消費量を拡大させてしまうのではないかと警告しているのである。
冷房方法と外皮性能
一般的な外壁の仕上げ材であるサイディングやモルタルに100mmの断熱材を入れれば外皮性能のU値は0.5である。開口部のペアガラスのU値は4.6なので、壁と窓では10倍の開きがある。家の性能を上げるには窓を小さく、または少なくすればよいことになる。夏季も小さい窓の方がエアコンの効きはよいと環境専門家は言う。しかし、エアコンを使わない場合は、室温より風通しや日射遮蔽を重んじるので壁の外皮性能はあまり関係がない。夏の温熱対策は輻広い評価方法にしなければならない。
景観の醜悪化
基準値が決まれば、基準値ぎりぎりの家が多くなる。開口部が少ないと性能(UA値)は良くなるし、軒の出が短くなると目射取得量は増える。つまり、窓が小さく、軒の出が短い家が性能が良くなることになる。安くて性能が良いとくれば、豆腐みたいな家が増えるのは目に見えてくる。日本の風景が様変わりする。
伝統構法と変形性能
変形性能の大きい建物は気密化に問題がある。家が完成すれば防水紙は見えなくなる。変形性能を考慮した伝統構法は、震度5で建物は4センチ傾く。施工時はマニュアル通りにしていても震度5の地震を1回でも受けると面状の防水紙は切れる。そうすると気密性能は落ちる。防水紙と伝統的構法は相性が悪い。
土壁大壁の問題点
土壁真壁はよいが雨水侵入防止のために外側に板を張る場合がある。板を張るから大壁と認識されるかもしれない。壁倍率1.5を確保するには土壁の厚さは70mm以上必要となり、空スペースは15mm程度となる。左官作業は中央を凸に塗るので空きスペースは10mmの場合もある。
「土壁真壁は伝統だから認めよう。しかし、板を貼れば大壁になり、空スペースができるから断熱材を入れるべきだ」という意見がある。土壁は水をたっぷり含んでいるので吸湿しないグラスウールなどの断熱材はカビの発生源にもなりかねない。使用にはかなりの注意が必要だ。土壁真壁の外に板を貼っただけでUA値は3.23から2.21へと上がるが、土壁板貼りにメクジラたてて真壁ではないから断熱材を入れよというほどのものではない。
「土壁の外壁は適用外で構わないが、床・天井は基準性能を満足させるべきだ」という意見もある。床・天井に自然素材で断熱施工をしたとしてもUA値は2.86とさほど向上するものでもない。外壁板貼りとさほど変わらないのである。
適正温度と外皮性能
3月15日公開フォラム「伝統的木造住宅と省エネルギー」において、篠節子氏は22例のアンケートから調査して、住人が快適と感じる室温は16~18℃だったと報告している。
「自立循環型住宅ガイドライン」(参考2)を見てほしい。外気温12℃の場合、レベル4(旧基準Q値2.7)とは室温20℃をキープできる性能の家の説明だ。別の見方をすれば、快適性は18℃でよい人はレベル3(室温18℃)の性能でよいし、17℃を快適と思う人はレベル2(室温17℃)の性能でもよいことになる。
費用対効果
村上周三氏は「民生用エネルギー消費と消費者の行動パターン2007」の報告において、暖房費用には年聞2~3万円しか使っていないので、住宅の性能を上げても省エネにならないと言っている。
つまり、外皮性能をあげて省エネをはかるのは、費用対効果が薄いのだ。参考3を見ると年間エネルギー消費量を削減するのに何が一番効果的か分かる。25年省エネ基準は暖房に特化しすぎている。
実地検証をして補正すべきだ
基準値設定のために、暖房機器ごとのシミュレーションは数多くなされているが、生活スタイルのシミュレーションはなされていない。例えば2世帯の場合、浴室2カ所、台所2カ所となり家電も2倍となるが、実生活とかけ離れた消費量となっている。
設計1次エネルギー消費量と実質エネルギー消費量を近づけたデータを示してから、設計と基準を論じるべきだ。これから環境省のエコ診断が一般化する。住まい手は、電気量、ガス量、灯抽量で消費量を簡単に求めることができるようになる。それでも、国土交通省は「設計エネルギー消費量や基準エネルギー消費量は、実態ではなくあくまで基準値である」と言い出すだろう。実態とかけ離れては納得できるものではない。
エネルギー消費量削減
真にエネルギーの削滅をしようと思えば環境省の「エコ診断」と手を組み、地域区分6、7の地域では家電エネルギー消費量、給湯エネルギー消費量削減を一番に考えられるべきである。暖房エネルギー消費量削減を主眼においている「25年基準の省エネ法」は将来、成果があがらず批判の的となり「悪法」の烙印が押されるだろう。そのころにはもう関係した担当者はいない。
外国の例を参考にするのはお門違い
そもそも欧州の暖房エネルギー消費量は年間20万円を超える。新築は少なく、ほとんどが改築である。改築が中心なので新築は建設時に生産エネルギー消費量が大きいので厳しい。もし欧州基準の物まねをするのであれば、建設時生産エネルギーも考慮した基準とすべきである。日本列島は欧州全土を覆ってしまうほど緯度差があり、省エネの方法は北海道と鹿児島では根本的に異なる。同じ基準で数値補正するだけでは限界がある。欧州の基準は北海道には合っても、暖房エネルギー消費量の少ない九州には合わない。
法律になじむのか
理想値や融資基準値を法律で規制するものではない。法律は生命の危機がある場合は必要だ。寒さで命を落とすおそれがある欧州・北海道では法律が必要かもしれないが、温暖地・蒸暑地には適正でない。エアコンの設置までも法律で決めるのは尋常ではない。
守らない守れない法律は山ほどある。省エネ法もそうならないようにしなければならない。
建築ジャーナル 2015年2月号掲
75.省エネ法義務化は真の省エネになるのか
(「今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方について」のパブリックコメント)
法律や告示をつくるとき、国民からも幅広く意見を聞くパブリックコメント(以下パブコメ)という制度がある。昔は、国の官僚たちが地方行政庁を訪れて地方の意見を聞いていた。東京からわざわざ地方に訪ねてきて、意見を聞くとなると、酒が伴う。国の官を地方の官が接待する官官接待はけしからんと社会問題になった。下戸な入たちが反対したのだろうか、国の官僚たちの地方行脚は廃止となり、地方の意見は直接国民から聞こうということになった。それがパブコメだ。国土交通省だけでも、年間200件ぐらい出されるが、ほとんどコメントは集まっていない。官官意見交換からパブコメ制度に代わってから様子がおかしくなってきているようだ。北に行けば熱燗、南に行けば冷酒なのに、地域の区別がつかなくなって全国一律化に拍車がかかっているように思えてならない。
特に省エネ法はそうだ。省エネ法の骨子案である、今回の「今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方について」も地域差無視の典型のようだ。
今回の省エネ法のパブコメの告示日は2014年12月18日で、意見の受付締切日は2015年1月6日と超特急だった。普通のパブコメの募集期問は30日あるが、今回は、年末の正月連休を差し引くと実質の営業日は8日間と驚くほど短期間であった。あまり意見を聞きたくない意図があったか無かったかは知らないが、それにもかかわらず、結果は210人から310件ものコメントが出された。約2週間後、パプコメはグルービングされ「見解・対応等」が公開された。これらの「見解・対応等」に「見解」をしてみる。
「骨子案」
建築物の省エネルギー性能を確保する際には、新築時に外皮・設備等に関し必要な対応を講じることが効果的・効率的である。…建築物を新築する際に省エネ基準に適合させることを求め、省エネルギー性能の確保を図る方句で検討を行う。
家電などの規制
「パブコメ」
家電等のエネルギー消費が伸びているのでそちらを規制すべき。
「見解・対応等」
機械設備に関するトップランナー制度等により対応すべき事項と考えております。
■「見解・対応等」に「見解」してみる
トップランナー制度は機器類の効率化向上を目的にしているもので、エアコンや車や冷蔵庫やテレビの効率化は当然のことである。住宅でのエアコンやボイラーは、暖冷房エネルギー・給湯エネルギーである。パブコメはテレビの大型化、冷蔵庫の大型化、自動掃除機、食器乾燥機などの必要以上の家電製品の増大を規制すべきと言っているのに、機器の効率化で対応とはトンチンカンな回答だ。増え続けた住宅のエネルギー消費量の原因は家電製品なのに、家電メーカーに効率の良い製品をとんどん開発させ、消費者に買い替えさせることで経済成長を促そうという魂胆だ。50インチのテレビや700Lの冷蔵庫は決して省エネにならない。
住まいの評価
「パブコメ」
エネルギーを使わない住まい方を評価すべき
・冷暖房設備を設けない場合の評価を認めるべき
・住まい方でエネルギー消費量は変わるので設計段階での規制はなじまない
・世帯ごとのエネルギー消費量など暮らし方で評価すべき
「見解・対応等」
長期間に渡り存続し、使用者・使用方法等の変更が生じることの多い建築物におけるエネルギー消費量の削減に向けては、標準的な使用条件下で一定の省エネルギー性能を満たすストックの形成を推進する必要があり、当初の利用者が予定している特殊な使用方法を前提に省エネルギー性能の劣った構造・設備とすることを許容することは不適切と考えております。
■「見解・対応等」に「見解」してみる
窓を閉めてエアコンを使うではなく、窓を開けて扇風機を使うなどなるべくエネルギーを使わない住まい方を問うているのに、使用方法が変わるかもしれないので、エアコン使用という一律な条件下にすべきという見解である。また、また扇風機を廻すというのは特殊な扱いにされ、省エネ性能に劣った構造・設備であると決めつけてある。その結果、不適切という見解である。
全館暖冷房だけが正義のような見解で、庶民の生活を軽んじているように思える。
地域による気候風土の違いについて
「パブコメ」
高気密・高断熱住宅を好まない暮らし方を認めるべき
・伝統的構法のみならず、地方の住宅の多様性を尊重し、戸建て住宅については義務化すべきではない
温暖地域では暖冷房基準だけでなく、採暖・採涼の基準をつくるべき
・外皮規制によるエネルギー削減効果と規制によるコストアップや失われる価値を比較検討すべき
・一般的構法であっても、地域の気候風土への対応に関する工夫を凝らしているものに対しては評価できる仕組みを設けるべき
「見解・対応等」
ご指摘を踏まえ、今後、伝統的構法の建築物など地域として継承・保全する必要性が高いと認められる建築物の継承を可能とする仕組みを検討することとしています。
■「見解・対応等」に「見解」してみる
伝統的構法については「地域の気候風土に対応した伝統的構法の建築物などは外皮規制を適用外」があるので、伝統的構法でない地域の多様性を尊重した戸建て住宅について聞いているのに見解はない。暖冷房ではなく、採暖・採涼の評価法を採用すべきといっているのに、これに対しても見解はない。規制により100万円ぐらいの建築費アップになり費用対効果がないことや、縁側がつくれなくなる日本建築の価値の喪失については言及かない。
伝統構法の扱い
「パブコメ」
伝統的構法の扱い検討について工程表に記載すべき
「見解・対応等」
ご指摘を踏まえ、工程表の中に「伝統的構法の扱い等の検討」を追加します。
■「見解・対応等」に見解してみる
ほとんどの事項が、〈原文を維持〉なのに対し、これは唯一の〈一部修正〉である。
薪ストーブなどの評価
「パブコメ」
薪ストーブなどの評価検討をすべき
「見解・対応等」
ご指摘を踏まえ「新しい技術・材料等の性能の評価に際しても、専門性を有する民間機関の活用を通じ、技術開発成果等の活用の円滑化を図る必要がある。」と追記し、想定される評価方法の方向性について記述します。
■「見解・対応等」に「見解」してみる
薪ストーブは「新しい技術・材料」ではない。昔からある暖房機器である。評価が難しいから最初は入っていなかったのだろう。
「和の住まい」との対立
「パブコメ」
・国土交通省も参加しておしすすめている「和のすまい」と対立するものが多い。義務化すれば日本から「和のすまい」が無くなる。「和のすまい」を守るために「伝統的構法の扱い」に限らず、外皮の規制強化を図るべきではない。エネルギー消費量削減だけの規制にすべき。
・新しい規制ができると、偽装防止対策の団体が新たにできる。そして、天下り先がまた増える。
「見解・対応等」
なし
省エネ法の骨子案が決まり、義務化が始まる。エコとエコノミーは両立するという考えで、賛同者も結構多い。しかし、縁側がつくれないといえば賛同者も疑問に思うだろう。次号は「縁側」
建築ジャーナル 2015年3月号掲
回転寿司屋に行けば「エンガワ」が100円という廉価で大量に回っている。ヒラメやカレイは回転台にさほど乗ってないのに、どうしてエンガワだけがたくさんあるのだろうか。そのほかの部位はどこへ行ったのだろうかという疑問は残るが、それは今回のテーマではない。縁側の『縁』という字は「エン」とか「フチ」とか読むが、どちらも同じ意味である。「ヒラメのフチガワ」と言ってもおかしくはない。額縁を例にあげると絵画とバックの壁の境界にあるものをさす。額縁には幅が必要で、アルミパネルに見られる細くて線に近いものは額縁とはいわないだろう。絵でもない壁でもない中間領域みたいなものだ。「縁談」とか「人の縁」といえば自分という人間と他人という入間を柔らかくつなぐものであろう。建築でいえば家の内部でもなく外部でもない、家の内と外をつなぐ緩衝空間となる。一方で使い方を勘案すると、家の内部でもあり外部でもあるという見方もできる。禅問答の世界である。
構造からみた縁側
伝統構法の建築には上屋と下屋があり、下屋は上屋を支えるつっかえ棒みたいな役目をしている。例えば、上屋は5寸柱で梁は梁間方向、桁方向にしっかり組まれ、足固めもあるのに、下屋の柱は4寸か3.5寸程度で、差し掛けの梁下に2間ごとにあるだけで足固め材はない。基礎も基礎石の上に乗っかっているだけである。このように下屋は、地震時に上屋を守るために柔軟に揺れてエネルギーを吸収し、先に壊れてくれるのだ。トカゲのしっぽみたいな役目である。 (参考1)
しかし、現在の建築基準法では上屋も下屋も区別がなく、同じ扱いになる。下屋にも土台や梁や基礎が必要となり、上屋と下屋の構造的区別がつかなくなってしまった。そうなると建築費用も同じようにかかり、コストが高いとなると縁側も部屋にしてしまおうと縁側がだんだんと消えてなくなってしまった。
ところがこうなると、従来の縁側のある家の耐震診断において構造的問題が発生している。耐震診断の基準にも主屋、下屋の区別がないために、下屋扱いになるであろう縁側にも、雨戸の戸袋の壁に耐力壁補強をする例が少なくない。壁倍率4倍の補強をいれて、構造バランスが良いという判定綜果の耐震診断を見たことがある。いかがなものか。
温熱性能の縁側
寒い地方には玄関に風除室を設けてある。外部環境を一度風除室で受け止め内部へつながる。同じく縁側も、寒い外気を一度縁側で受け止め、それから内部へとつなげている。例えば外気が10℃の場合、縁側が15℃となり室内が20℃となる。省エネ基準がいう外皮は外壁の熱損失量なので外気10℃と室内20℃の関係だけで、縁側は考慮されない。日本の住まい方では縁側という緩衝空間は非常に重要だが、それは評価しないで外部のサッシにペアガラスをいれよという。サッシだけが防寒装置とみるのは、産業界優遇事業なのかと疑いたくなる。縁側や障子の効果とは無関係にサッシ単独の性能が高くなっていくと、付属品が増え、特にペアアラスは重くなり、ますます窓を開けなくなるという悪循環に焔ってしまう。縁側がなくなってしまう理由でもある。
採涼の縁測
夏、直射日光が当たればアスファルトやコンクリートの表面温皮は50℃を越える。外気温が33℃の場合、軒が長く縁側があると室内は31℃である。しかし、軒がないと外気温は33℃でも直射日光が床面を暖め輻射熱が加わり、室内の表面温度は40℃近くになる。
家の外は常に風が吹いている。0.5m/sの風で体感温度は2℃も下がる。縁側に座り込み、風鈴の音色を聞きながら、スイカでも食べる風景こそ「ザ・日本の夏」である。おもてなしニッポンから「縁側」は切っても切れないのだ。
合理化住宅
最近、つくり手側からの台理化が進んでいる。総二階、小さい窓、疵なしか短い軒の家のオンパレードである。家の間取り上も、床の間がなくなり、縁側もなくなった。建築建材もサイディングとビニールクロスを標準仕様と聞かされ、住み手は疑問に思うことなく言われるがままにつくり手から提供されている。コストは安くなるが、寿命が短くなれば合理化とは言えない。
軒が深い縁側は、風雨から壁を守り、温熱要素の緩衝空間であり、主屋を守る大事な耐震装置であるゆえ家の寿命が長くなり、寿命/コストが高ければ合理化住宅である。さらに日向ぼっこや半戸外作業場が付いてくるというおまけもある。
縁の種類
外部であり内部である縁側は日向ぼっこをしたり、近所の人との応接だったり、干し野菜置場だったり、作業場だったりとその曖昧さゆえに非常に便利で多用途な空間である。昔は勉強部屋と化した時代もあった。
もうひとつ忘れてはならないのが、掃出し窓の外に付けただけの縁側だ。いわゆる「濡れ縁」という。月見台、ウッドデッキ、縁台と用途に合わせて呼称は違うが、雨に直接あたるので耐久性はあまりない。大昔は下屋の外ラインに雨戸があり主屋のラインに障子戸が立てられた。その場合の縁側は廊下的な役割を担い、それこそ温熱要素としての緩衝空問の役目を果たしていた。木製のガラス戸が登場してからは、雨戸のラインにガラス戸が設置され、縁側の使い方がもっと内向的に変わってきた。木製ガラス戸からアルミサッシに替わると実際の開口部は半分以下となり、完全内部化された。さらにサッシの内側にカーテンが設置されると縁側のいい面はまったく生かされなくなり、物置と化す家が多くなった。(参考2)
このとき、参考3のように雨戸が障子のラインにあるものを基本に、ガラス戸・網戸が障子のラインにあれば様相は変わったと思う。本来の縁側の使い方ではないだろうか。
これからの居場所
人口は滅ってくる。しかし、都会は相変わらずより便利により近くにと限りない密集化に歯止めがかからない。少し都会から離れた建築地では敷地に余裕が出てくるので、縁側が復活するかもしれない。筆者は3年前まで「熊本県立大学」で非常勤講師をしていた。授業の内容に感化されていない初回の授業で、アンケートを5年間採った。まず、衣、食、住で和・洋のどちらを好むかという質問をする。衣は洋好み95%に対して和5%で納得できる。食は健康志向からか和好み60%に対して洋好み40%でなんとなく納得できる。しかし住はなんと和好み70%に対して洋好み30%で、圧倒的に和好みなのだ。5年間ともほぼ同じ結果である。和のどこが一番好みかと問えば『縁側』だった。家に縁側がある学生は10%もない。どこでそう感じたかと問えば、祖父母の家と答える。構造面、温熱面で問題点が解決すれば、将来必ず縁側は復活すると希望を感じた。
次回は費用対効果について。
建築ジャーナル 2015年4月号掲
一昔前、車の表示価格はバラバラたった。エアコンやラジオがオプションなのか標準装備なのかは車種やメーカーで異なっていので、価格の比較が困難だったのだ。
現在では、ステレオは標準装備で各メーカーの仕様は統 一化されているので価格の比較がしやすい。それにひきかえ、あいかわらず住宅業界の価格は非常に分かりづらい。わざと分かりにくくしているようにしか思えない。
標準仕様について
価格を表示する際は、家の大きさと仕様で異なるため、仕様を固定化したものを標準仕様という。標準とは普通「平均的なもの」を意味する。しかし、住宅業界ではちょっと意味が違う。一般的な住宅の内装の壁仕上げの標準仕様といえば「ビニールクロス」である。しかし、一般的にビニールクロスより安い仕上げはない。悲しいかな住宅業界では、標準仕様とは最低仕様を意味するのだ。外壁仕上げも同様に、標準仕様はサイディングである。サイディングより安い仕上げはない。タイル調、吹き付け調、石目調、木目調と選択はあるが価格はほぼ同じで、本物でないことでは一致している。つまるところ、外装でも標準仕様とは最低仕様のことにほかならない。
標準価格について
標準価格についてはさらにひどい。車業界に置き換えれば「標準装備としてタイヤは付いていますが、ハンドルは好みがあるのでオプションにしています。エアコンやステレオはもちろん別途費用です」というようなものに近いものがある。住宅業界でいう主なオプションとは「網戸、屋外給排水、出窓、照明器具、屋外立水栓、散水栓、ベランダ、テラス、水道引き込み、TVアンテナ、エアコン専用コンセント、ネット引き込み、ウォシュレット、ガス工事、厨房セット、下駄箱、カーテンレール、障子、照明器具、付庇、地盤補強、地盤調査」である。価格に含まれるべき工事が多すぎる。
こういったメーカーほど、「システムキッチンとペアガラスは標準装備です」と声高にうたう。なかには、仮設工事までオプションにしている会社もある。昔は網戸、給湯ボイラーまでも除外している会社があった。さらにひどいのは、柱の大きさは135×135とテレビコマーシャルでうたっていたのに、土台と梁は105幅である。柱に土台と梁の幅を135に合わせれば追加工事となる仕組みである。最近はあまりの酷さに自粛したみたいだが。住宅業界の表示価格はまったくあてにならない。
工事面積と坪単価
昔から工事価格を面積で除した坪単価がよく使われる。工事範囲も曖昧だが、それよりも建物の面積がもっと曖昧だ。建築確認上の延面積では、開放的なベランダでも面積に算入するし、軒の出が長いと軒内までも面積に算入させられる場合がある。逆に太陽光発電用の部屋は、4方が壁に囲まれていても面積には含まないという変な法律なのである。
建物の面積は、登記簿用の延床面積が一番公平であると思うが、建築関係者は複雑さが好きなようだ。大きく見せたいなら、吹き抜けやロフト、ペランダ、軒下費積を計算に入れる。特にマンションではそれが慣例になっていて、造語で占有面積と表現している。占有面積25坪2,500万円という表現であるが、実際の延床面積は18坪という具合である。延面積、工事面積、占有面積、建築面積、延床面積とすべて数値が異なるのである。坪単価を安く表現したければ分母を大きくすればよい。大きい数値になる面積を採用すれば坪単価が安く表現できるのは言うまでもない。坪単価表現も藪の中である。「坪単価26.5万円」と表示している会社の平均坪単価が50万円を超えているが、社長は「わが社は安く提供しているので、施主さまが追加工事を多くなされる」ともっともらしいことを言う。
耐用年数
コンタクトレンズには1日使用品と1週間使用品と無期限使用品がある。当然1日使用品が一番低価格だが、使用日数で割れば一番割高になるので、1日使用品が安いとは言えない。住宅業界では耐用年数で割る習慣がないので、ことが複雑になる。軒の長い100年以上耐久性のある昔の家も、サイディングとビニールクロスの短命な現代の家も総金額でしか比較しない。コンタクトレンズの1日使用品と無期限使用品を比べるようなものだ。もちろん何も知らない消費者にとっては、総金額は安い方が魅力的に見える。1日使用品が安いように見えるのだ。ヨーロッパは時間軸を念頭において物事を考える。石畳、家具、処分までを考える原発などがそのいい例であろう(ドイツが原発を止めたのは環境問題ではない。処分コストを勘案すると高コストだからた)。日本は耐久性や将来のことはあまり考えない。
そもそも、住宅では、住宅品確法が耐用年数表示をさらに分かりにくくしている。
家の傷み共合は白蟻被害や地震・大風による被害がなければ渥根材、壁材の仕様で決まるだろう。過去100年もった家になぜ耐久性があるのかは、屋根の軒の長さに比例するといっても過言ではない。しかし住宅品確法での耐用年数では、この常識と判断基準がまったく違う。住宅品確法の基準で最高レベル3は
1、外気通気工法かつ柱4寸以上または薬剤注入材
2、土台は檜または薬剤注入材
3、洗面所の床はビニールコーティングした材料を使用。無垢材は使えない。
4、床下の防湿、換気
5、小屋裏の換気
の以上であり、これを「構造が90年もつ程度の対策が行われているもの」と国がお墨付きを与え、長期優良住宅やフラット35Sの認定基準になっている。現在、実例として日本で100年耐久を証明する家は伝統的構法の家よりほかにないのだが、その耐久性要素というものが住宅品確法の基準にはない。耐久性に一番重要な屋根の耐久性は問わず、ハウスメーカーの標準仕様のカラーベストでもよいのである。材料メーカーは90年耐久と言っていないのに、その建材を使用すれば90年耐久の家になるのは不思議だ。もちろん軒の長さも認定基準にはない。住宅品確法の基準を決めている学者さんが、屋根の材料と軒の出が一番重要な要素であることを知らないわけがない。建築界に毒されているからだろうか。
耐用年数を考慮した金額提示を願う
建物は長く使用する。維持管理費用やランニングコストを考えて、建築費は目先ではなく、耐用年数で割って比較しなればならない。
千年住宅を呼称したハウスメーカーもいたが、さすがに数年で引っ込めた。自分でもあまりにひどいと思ったのだろう。
一般消費者にも言いたい。価格を比較するなら分母に耐用年数を考慮してもらいたいのだ。総2階で軒をなくし、不要な2階責積を増やす手法は日本の住宅事情と街並みをいびつにしている最たる原因だ。瑕疵担保履行法でも10年が目安なので、10年耐久の防水シート、コーキングが採用され、軒の出で耐久性を上げることは眼中にない。
そこで大体の目安を30年で区切り、30年で耐久性が終焉する石油製品を使った住宅と60年以上の耐久性があり、軒の出もある無垢材使用の家では耐久性に少なくとも2倍の開きがあるのだ。そこで、総建築工事費用÷述べ面積×耐用年数の表示ができれば車業界と同じような比較ができるのだが、住宅業界は変わらない。ゆえに一般消費者が賢い消費者にならねばならない。
建築ジャーナル 2015年5月号掲
浴室の壁・天井の板
世の中の諮室が、掃除が楽という理由でユニットバスが多くなってきた。本来日本人は、温泉旅館のような風呂や露天風呂を好むはずだ。確かに、壁の表面をビニールコーティングしたユニットバスは、カビが付着したら取りやすい。カビ胞子が黒色して沈着したものがカビである。カビキラーなどの薬剤を散布すると黒色が消えるので、カビは除去されたと思っている人は多いが、色素がなくなっただけでカビ胞子は残っていてまた生えてくる。カビ菌を完全に除去するにはアルコールがよい。
ここで注目したいのは、カビが付着して黒変してから除去するか、胞子状態のうちに対処するかだ。
後者の場合、霧吹きでエタノールを壁天井に吹き付ける。ただし仕上げ材は木でないとエタノールの浸透効果がない。エタノールは薬局で1瓶1,000円程度で販売している。純度は85%だ。密室で散布すると酔っぱらった気分になるので、中毒にならないように注意しなければならない。3週間に1回程度の散布でカビ発生の予防は可能である。しかも、カビは室温20℃以上かつ湿度75%以上でないと増殖しないので、4月~11月の期間だけでよい。
カビの事前予防ができる木の壁の浴室と、カビを発生させてから除去しやすいユニットバスとどちらがよいだろうか。
檜風呂は桶と思うべし
手桶を10年使えれば長持ちしたと言える。少々の劣化も風合いである。檜風呂はポリバスなどの浴槽と同じに考えず、手桶と思えばよい。ポリバスと思うから耐久性がないと言うのだ。しかし、ポリバスにない魅力は満載だ。保温性もあり、なんといってもお湯が柔らかく感じられ、肌触りも良い。75cm×100cmの桶を毎日便って10年もったと思えば充分ではないだろうか。檜風呂といっても、材質はいろいろである。普通サワラやヒバが多く、高野マキや神代ヒノキを使えぱ2倍の20年は長持ちする。価格もちょうど2倍であるが。
洗面所の床
浴室と洗面所の間にマットが敷いてあるお宅は多い。湯上りにマットで足を拭いたら、足の水分を吸収してくれる。しかし、3人も拭こうものならマットは飽和状態となり、床まで浸透して床板にカビが生えてしまう。その解消法として珪藻土マットなるものがある。厚さは2cmもある。2cmないと吸湿性の効果がないことを物語っている。
蛇足になるが、一般に珪藻土を壁に塗る場合、2mm程度の厚さしかない。2mmではほとんど吸湿効果はないと言っていいのではないだろうか。珪藻土敷きマットは1万円である。問題は費用対効来である。洗面マット代りに2cm厚のスギ板の床材を敷くことを薦める。これを「床板マット」と命名しよう。2cm程度の床板の端材は現場に多量に出る。適当な幅に切断して、浴室の出入口に置くだけでよい。ただし、綺麗なうちは床と同化して、つまずく危険があるが、だんだんと黒ずんでくるので大丈夫。汚れたら天日に干し、腐食したら、バーベキューの薪にすればよい。
トイレの敷物
洋式トイレの場合は小便の跳ね返りは解消されない。水面に泡を浮かべて跳ね返り防止をする機器も出現したが、陶器でないのでおススメしない。
床の掃除対策として専用タイルがあるが3万円もする。ちょっと高すぎる。トイレマットは耳の部分が15cm程度で短すぎる。近頃ロングサイズなるものが売っているが、熊本のホームセンターやニトリには売っていなかった。唯一ハンズマン1軒だけにロングサイズがあった。耳が40cmと長い。こちらのロングサイズを購入されたが良いと思う。
杉板の床
床材には傷が付きにくいナラやチークなどの堅木を使う例がある。外国ではほとんどが、土足の生活なので靴で傷がつかない堅木が多い。しかし、日本は世界にまれな素足文化である。素足だったらスギなどの柔らかい床材のほうがよい。人の素足では傷付かないが、物を落としたときに床材が凹んでしまうことが多い。凹んだら出せばよいが、少しテクニックが必要だ。そのテクニックを紹介しよう。スギ板の凹んだ部分に水を垂らして針で2~3カ所に小さく穴を開ける。その上にタオルを被せてアイロンをかけるのだ。すると、穴も消え元のスギ床に戻る。ただし、削り取られて凹んだ傷は戻らない。
次に変色のクレームもある。台所などでアルカリ系の洗剤や重層を床に落とすと黒変する。杉材の赤身のタンニン成分に反応するのだ。ハイターなどで脱色すると、床が真っ白になってしまうのでよくない。酢や酸っぱいミカンの汁を垂らすとよい。アルカリ反応で黒色は元の色に戻る。
外部の漆喰の黒変
漆喰は強アルカリである。横雨が外部の杉の木に当たり、その汁が垂れて漆喰に当たればアルカリ反応を起こし、黒くシミになる。あわてて酸などで中和しない方がよい。酸を使えば漆喰を傷めてしまうからだ。対処法は何もしないことだ。3週間放置しておけば完全に消えてしまうのであわてなくてもよい。
漆喰壁の補修
クロスは汚れが付いてもふき取れる利点があるという。そもそも、クロスとは布のことであるが、本物のクロスのことを布クロスと言わなければならない。日本で、布は偽物に席を奪われてしまいビニ一ルクロスがクロスなのである。もともと目本の家の壁仕上げは漆喰が主流であった。きれい好きの日本人の奥さん方は、壁がふき取れる利点があるとクロスを好み、壁材の主流となった。漆喰壁は汚れが付きやすいと嫌う人がいるが、電気のスイッチプレートの操作時に、壁に直接手を触れないように訓練してもらいたいものだ。漆喰壁は吸湿性が高い利点があるが、汚れも付着しやすい。しかし漆喰に汚れが付着しても浸透性の汚れでなければプラスチック消しゴムで消すことができる。浸透性の汚れであれば、ハイターやカビキラーがよい。漆喰は真っ白なので塩素の脱色作用を利用するのだ。コーヒーを漆喰にひっかけてしまったことがあったが、カビキラー5回吹き付けで完全に消えた。最後にどうしても消えない場合は、120番の目のサンドペーパーで削りとればよい。
建築ジャーナル 2015年6月号掲
政府は4月30日、2030年までに日本が排出する温室効果ガスを2013年比で26%削減する目標を発表した。2013年は福島の原発事故後、化石燃料による発電の比率が高くなり、温室効果ガスの排出量が特に多くなっている年を基準にしているので、この26%は低い目標値だという見解もある。
削減のための対策は、産業界には非常に甘い。自販機やコンビニは野放しで、新幹線の5倍ものエネルギーが要るリニアモーターカー開発にストップをかけない。民生に対しては、エネルギー消費量削減のために「国民はエネルギー消費を控えなさい」とは言わず、「我慢は良くない。エコ商品を購入したり、エコ工事を行ってエネルギー消費量削減を図りなさい」である。
とにもかくにも、2020年に義務化することに向けて着々と進んでいる。規制のための省エネ法はエコ商品販売とエコ工事を目的にした経済活性化法に思えてならない。2013年、国は平成11年省エネ基準の適合率は60%と審議会で公表していたが、住宅省エネルギー技術施工技術者講習テキストでは中小工務店の適合率は2割と記述している。中小工務店は全建築の半分を占めるので計算が合わないが、そんなことはどうでもよい。
最近、省エネ規制の目的が環境専門家の間で様相が変わっている。主旨は次のような内容だ。「欧州と比べて日本のエネルギー消費量は少ない。それは日本人が我慢して暮らしているからだ。2020年に平成25年省エネ基準を義務化してもエネルギー消費量は大幅には減らないだろう。まずは、日本人の住まいの住環境性能を上げ、我慢の暮らしから解放させるのが先で、その後で規制をかけ、ステップアップしなければエネルギー消費量の削減にはならいない」と、義務化してもエネルギー消費量は減らないと先手を打っている。さらに「ノンエナジーベネフィット」というエネルギー削減には関係ない効果を掲げている。
今や、社会問題のトップは医療費である。25年省エネ基準を義務化してもエネルギー消費量の削減にはならないが、国民の快適な暮らしが営まれれば病気が減り、医療費が下がるというとんでもない論理展開である。省エネを考え、2030年を見据えればもっと住宅の高性能アップをすべきとも訴える。HEAT20G2(坂本雄三氏委員長)構想もその一つである。外被性能にUA値0.46を要求するのである。宇宙船並みの仕様である(200~-300mm断熱材とトリプルサッシ)。そのような仕様の家をつくるためのエネルギーはどうするのだろうか。製造のために地下資源や石油製晶を相当量使用するという落とし穴があることを忘れてはならない。温室効果ガス削減を御旗に、建築資材消費拡大を促し、日本の経済を一時的に活性化することが目的だろう。経済産業省主導だとこうなるのだ。
真の省エネ対策
世界的に温室効果ガスの削減を考えるなら真の省エネを考えなければならない。日本は敷地面積当たりのエネルギー消費量は、世界一だろう。衛星から地球を見た映像を見ると日本が一番明るい。それなのに、日本の省エネは乾いた雑巾を絞るようなものだという人がいるが信じられない。真に省エネを考えるなら次の削減方法がある。
① 電柱の数ほどある自販機を撤去すること。冷蔵庫を屋外におくようなものだ。欧米にはない。
② コンビニは初心に戻って7時開店、23時閉店の営業時間にすること。欧米並みに。
③ 空港の照明は、震災直後9割消してあった。外国並みだった。瑛在はもとに戻っている。9割消すこと。
④ネオンサインを赤々と照らすのは香港と日本だ。これこそネオンのない欧州を真似て、看板照明やネオンを減らすべきだ。
⑤リニアモーターカーは新幹線の5倍ものエネルギーが必要。リニアモーターは中止すべき。新幹線でよいではないか。狭い日本そんなに急いでどこに行く。
⑥コンパクトシティの励行。逆に田舎暮らしも貴重だ。
⑦2世帯住宅の推進。テラスハウスを励行し、街中に戸建て住宅を建てにくくする。
⑧マイカーのガソリン代も多い。マイカーでの都市の乗り入れ禁止や一入乗り禁止にすべきだ。車産業にあまりに気を使いすぎ。
⑨マンションやアパートの廊下灯は明るすぎた。深夜まで点灯している。街灯並みの明るさに規制すべきだ。あるいは高い料金にすべきだ。
⑩誘導灯は昼も点いている。検査のために点灯しているのだろうか。自動点灯にすべきだ。ホームセンターに売っている安いセンサーライトでさえ自動点灯装置は付いている。
⑪住宅のIHヒーターの禁止。ガスの3倍くらいのエネルギーを消費する。
⑫柱宅のエコキュートの禁止。電気でお湯を沸かすのもガスよりエネルギーを消費する。
⑬700L冷蔵庫の発売禁止。いれたことを忘れて1カ月間ビールを冷やし続ける場合もあるだろう。冷やすのは飲む直前だけでよい。
⑭増え続ける家電製品の大幅削減をはかる。
産業界に気を使い、大きな削減項目には手をつけず、ちまちました項目を国民に強いる。エコ商品を買わせ、エコ工事を促すのだ。
副作用Ⅰ 工務店の動き
30年前、厳寒の北海道で高断熱化がすすみ、結露によるカビが発生して社会問題となり、官民挙げて対策を考えて実行した。おかげで末端の小さな工務店まで結露対策は行き届いている。では、温暖地(5,6,7,8地域)ではどうだろうか。融資がもらえるからと、へたに厚い断熱材を入れると結露が発生する危険性がある。高温多湿地域では、湿度が高いので、わずかな温度差で結露が発生する。極寒などの必要に迫られての断熱工事ではないので、施工側は真剣に考えない。大工人口40万人のうち、2O万人の大工を対象に特安千円講習会を用意しているが、半分の期間を経過しても受講大工は3%程度だ。5年間の予定期間での受講者は5%程度にしかならないだろう。受講者に感想を聞いてみた。まったく理解していないのが実情のようだ。結露防止工事は、建築基華法ではないので義務とは思っていない。このまま、高断熱の家を遂行するなら、施エ
ミス(手抜きではない)の連発で30年前の北海道みたいにカビだらけの家になり、社会問題となることは明自だ。
副作用Ⅱ 風景の醜悪化
日本から日本の家がなくなっている。軒が短く、窓が小さい家は廉価住宅だったが、最近は違う。軒が短く、窓が小さい家は高性能と表現して販売している。25年省エネ基準のモデル計算式をみてみよう。標準プランは開口率10%の場合、窓はペアガラスにしなければ25年省エネ基準は満足しないが、窓を小さくして開口率7%にすればシングルガラスで達成できる。さらに、軒を短かくすれば日射取得量が多くなり、暖房性能が高くなるという計算だ。結果、窓が小さく軒が短い家の方が高性能住宅となるのである。環境専門家は「窓を小さくすることを推奨したのではない。窓の性能を上げること」を勧めているというが、世の中は思うようには動かない。背後にアルミサッシ業界の魂胆が見え隠れしてしょうがない。日本の住宅業界はモラルが低いと環境専門家はいうが、外国とは違う。熾烈な競争業界で住宅販売の専門員を置いている。売り上げトップが優績社員と崇める会社と、基準を満足した家が高性能住宅という社会がタグを組む。産業構造の中に取りこまれ、景気対策の道具にされてしまい、残るのは醜悪な日本の街並みだ。
来月の話は、「エコ商品で費用対効果があるのは太陽熱温水器」
建築ジャーナル 2015年7月号掲
原子力発電の発電原価は、事故処理などの費用を含めても、発電原価は8円/kwhとほかの発電原価より安いと国は発表したが、どんな計算をしたのだろうか。日本は福島原発事故により甚大な被害と反省があるから、今後の事故率は減ると思われるので、損金を少なく見積もっての8円/kwhだと言っている。これでは、殺人を犯した犯罪者は服役の経験と反省があるので、信用できるという論理がまかり通るではないだろうか。
事故当時は原発批判で、太陽光発電設置へ切り替えるべきだとの意見が多数だった。38円/kwhの高額で買い取り、22円/kwhで販売する。動力の場合は更に安く11円/kwhの安値である。中古車でいえば、下取り価格38万円、再販価格11万円と大損の仕組みである。しかし、電気の場台は、差額損金を電力会社負担でもなければ国負担でもない、国民全員で負担するという仕組みをつくっているのだ。そのことを知る人は少ない。電気代の請求明細書を見れば「再エネ賦課金」という欄がある。何のことか分からない。難しい言葉は理解できず、煙に巻かれてしまっている。例えば、わが事務所の今月の「再エネ賦課金」は470円だった(資斜1)。この「再エネ賦課金」は昨年の2倍になっており、雪だるま式に累積して増えていく。470円は10年先、20年先には2,000~-3,000円になっていくことは明らかだ。消費者が「再エネ賦課金」の意味に気が付き、社会問題になってから騒いでも遅い。そのことを決めた人たちは雲の上に行ってしまっているから。電力会社は、数年後に批判の矛先が自分たちにくることは分かっているので、近年、太陽光発電の高額買い取りにストップをかけ始めた。
38円の高額買い取りを得したと思うのは間述いである。国民全員が太陽光発電を設置したら、数年後には、儲けた分と周額の5,000円相当の「再エネ賦課金」が請求されるという仕組みで、タコの足食いと同じである。太陽光発電や蓄電池などの省エネ機器の費用対効果は低い。税金補填で効果ありとするのは、孫に払わせるだけのことで、費用対効果があるとは言えない。
太陽光より太陽熱
省エネ機器のうち唯一、費用対効果があるのは太陽熱温水器だ。九州において、年間消費エネルギー代は、暖房費用2万円、冷房費用1万円、給湯費用6万円と圧倒的に給湯費用が高い。給湯費用にメスを入れた方が効果は高いのだが、経済産業省の省エネの思惑は違う方向を向いている。大企業がつくっていないからだろうか。その太陽熱温水器販売に詐欺まがいの事件があった。50年前、朝日ソーラーという会社が大分にあった。熊本の亀田産業という小さな会社に太陽熱温水器をつくらせ、朝日ソーラーは販売に徹した。会社は社員に高いノルマを課し、夜討ち朝駆けの強引な販売で高収益をあげ、経済界は○○社長をスターとまつりあげてもてはやした。しかし、強引な訪問販売とクレームが殺到しブラック企業と烙印を押されて、売り上げは急降下していった。今ではエコ会社と自称し、太陽光発電装置を販売している。
当時、朝日ソーラーの強引な販売で、九州の田舎の家の屋根には沢山の朝日ソーラーの太陽熱温水器が設置された。しかし、度重なる台風の襲来でそのほとんどが落ちた。原価償却前に破損した家は悲惨な状態であった。どこにも文句を言えず設置損だった。
床置きのメリット
屋根に乗せる揚合は取付番線が必要だ。瓦屋根の場合は番線を軒先に付けるので、風にあおられ、軒先瓦が破損する。台風被害は太陽熱温水器本体だけでなく、瓦の被害も受ける。それで、専用の金物をつくり、瓦の隙間に差し込んで番線を留めるようにした(写真1)。金具が見えないので見栄えは少し良い。
屋根の上では太陽熱温水器が落ちる可能性もあるし、見栄えも悪いので床置きを考えた(写真2)。太陽光発電の場合は、床に置けばパネルが日陰になることが多くなる。一部でも日陰になると、その列全部が機能停止するが、太陽熱温水器の場合は、パネルの日照面の面積比例であるので、太陽光発電ほどの効率悪化にはならない。太陽光発電の受光効率は10~15%に対して太陽熱温器は50%なので、少々効率が悪くてもよいと思う。
屋根の上に設置した場合、水の落差は5mだ。シャワーの高さはFL(フロアライン)より1mの高さなので、水の落差は4m。水圧は0.4kg/㎡しかなくシャワーには使えない。シャワーの水圧は1kg/㎡は必要だ。シャワーの水圧を高めるためには加圧ポンプが必要になる。どの道加圧ポンプが必要だったら太陽熱温水器は床に置き、加圧ポンプで水圧をかけ、お湯をボイラーに入れる。
春や秋で、お湯が30℃ぐらいまでしか湧き上がっていなくても、ボイラーで30℃のお湯から42℃に加熱する。水道水20℃から42℃まで加熱するより温水器の30℃から42℃に上げる方が省エネルギーとなるのだ。春や秋でも太陽の熱の恩恵を受けることになる。しかし、冬期には、太陽熱温水器のタンクの水温が、逆に水道水の水温より低い場合があるので、3方弁を付けて上水道から直接ボイラーにいくように切り替える。
さらによいことは、床置きの場合はメンテナンスがやりやすい。10年も経つと本体よりも寒暖の差で、パイプなどの付属品は傷みやすい。屋根の上の作業になると、簡単な工事でも費用は高くなるが、床置きならガラス面に枯葉やゴミの付着の除去が簡単で自分でもできる利点がある。
木製架台をデザインする
敷地が広い場合はよいが、2m×2mの1坪の広さでも太陽熱温器に敷地を奪われるのはもったいないという場合は、浄化槽の上や架台を車庫と兼ねるとよい。車庫の屋根は車全部を覆わなくても、朝の出勤時の車のフロントガラスの霜対策だけで良いので、2m×2m分だけを太陽熱温水器の屋根とした(写真3)。架台は杉の赤味だけでつくっている。それでも雨晒しでは6~8年の耐久性しかないので、あとは建主が防腐塗料を毎年塗ることにしている。防腐塗料は有色の方が劣化は少ないが、はみ出したり床に落ちたとき汚くなることを考えると、劣化速度は早いが無色の塗料がよい。
西向きに設置してよい
南に向けて設置するほうが受熱効果が高いのは当然だ。しかし、場所的に南に置けない場合や隣家の影になる場合は西でもよいと思う。南面に向けて最高に熱があがるのは14時~15時だ。太陽熱温水器は魔法瓶みたいな仕組みにはなっていないので、入浴時間までには水温は下がる。西向きの場合は受熱効果は悪いが最高温度になるのは16時~17時である。南向きの場合より湯冷め低下は少ないことになる。
敷地が狭くても小さい機器を付けた方がよいかという事例がある。わが家に70Lの温水器を設置してみた。浴槽の湯量は200Lだ。太陽熱温水器の湯温が60℃で上水道水温25℃の場合は70Lの温水器でも十分となる(写真4)。夏季の単純シャワー利用の場合は、湯量が少なくてすむので特によい。
次回はプレカットの功罪について。
建築ジャーナル 2015年8月号掲
木造の軸組で、木と木を接合するとき、直角方向に接合するものを仕口、長手方向に接合するものを継手という。その仕口・継手をコンピュータで制御された機械によって加工するのがプレカットだ。機械は設計図と連動していて、家1棟分の構造材加工は数時間で終えてしまう。プレカットは合理性が高く、工期も早く、普及は9割を越える。しかし、コンピュータには限界があり、追掛大栓継や金輪継など複雑な接合はできず、蟻継など簡単な接合しかできない。すると金物が必要となる。さらに、合理化が進み金物補強工法というよりは金物主体工法となっている。木材の断面欠損が少ないと喜ぶが、木と金物は相性が悪く、熱橋が発生し結露する。そして、金物は精度が高いので、木材との接合において木材にも高い精度を要求されるのだ。木材の寸法精度の要求が高くなり、供給システムにも速度が要求され、木材業界はプレカットの普及とともに振り回されている。
大工の手加工の仕組みと木材の精度
イカはスルメになると縮む。大根も干し大根にすれば縮む。同じ有機物の木材だって同じことだ。日本の木材は水分が多いので、縮み具合も大きくなる。その縮み具合には法則がある。木材の繊維方向は5%の縮み、繊維と直行方向は3%、長手方向は1%である。日本の大工はこのことを頭にいれて手加工する。加工する前に墨付けという作業を行う。木の縮みを予想し、曲がった木は曲り面を上にし、柱の末と元を目視で確認し、梁の腹と背を区別し、接合部の節を避けて加工するのが大工仕事の醍醐味だ。
プレカットの機械は木材の癖が読めないし、融通が利かない。指図した通り、先着順で淡々と作業を進めるだけ。そうなれば、真っ直ぐで、反りがなく、完全乾燥で、断面寸法の精度が高い木材が優良品として扱われる。箱に入らないからと真っ直ぐな商品しか受け付けないスーパーで売られているキュウリの原理だ。自然の木材は風雨に耐え抜いて成長するため木の癖である反りや当てが少なからずある。反った材は、上反りにして太鼓梁として使う。太鼓梁に適切な木材はプレカットの機械に入らないという理由で流通に乗らず、チップに加工されるしかない。反りはJASでは欠品扱いだ。太鼓梁は強度があるのに『JAS規格に当てはまらないので粗悪品』とみるのは大きな間違いである。(写真1)
大工も機械道具を使う。その延長がプレカットで同じものではないのか、という意見
それはまったく違う。丸鋸、電気かんな、角ノミと最近の道具は発達した。電気機械であっても道具は、木材を知り尽しくした大工の頭の中の僕(しもべ)として使われ、手の延長線にある。曲がり方向や縮み方向を予想しながら1本1本合わせていき、節や欠けがあれば避けるという人間にしかできない調整を行う。そのとき、接合部は木のクッション性を利用してわずかにずらす(写真2)。
プレカット工法では、機械が頭脳で人間が僕となる。その後の組み立ては大工が行うが、間違いは大工が補正するから成り立っている。しかし、大工がいなくなって、組み立て工だけでプレカット材を扱うと間違いの修正ができなくなり、問題が出てくる。どういう問題が浮上するか説明しよう。
人間は間違える生き物だ。大人だって小学6年生の算数のテストでも100点は取れない。ちょいミスがあり良くて99点だろう。建築の場合、その1点が命取りになる。墨付けをした大工は原理原則を体で覚えているので、ちょいミスの1点を見つけるのは早い。
しかし、組み立て工が99点しか取れない場台、1点のミスは瑕疵担保履行法の検査があるから安心とはいかない。算数のテスト解答を眺めただけで、1点の間違いを探せるわけがない。検査システムで防こうとすれば車の検査みたいに5段階の検査がいるのだ。
プレカットはコストパフォーマンスが高く付くのか
そうはいっても、プレカットを採用したほうが建築コストは安くなると思う人は多い。プレカット加工費が坪7,000円と安価なのは、プレカット機械や人工乾燥窯導入費用に税金の補助金があるからだ。負債大国日本はこれから先、税金のばらまきはなくなる。現在のプレカット機械の寿命が尽きたころ、機械購入に9割補助や5割補助の制度はない。今でさえ機械償却費に追われているのに機械購入費が正規の値段になったらプレカット費用は坪14,000円となる。するとプレカットの利点がなくなり、墨付け手刻みの手加工に戻ろうとしてもその時には大工はいない。
大工がいなくなれば、縁側がつくれない、玄関引違もつくれない。床の間もない。座敷もない。日本の家がなくなってしまう。なくなってから気がついても遅い。技術は一度なくなれば復活はできない。
将来のこと
プレカットでも、加工は大工仕事の延長線に立脚している。原理原則を理解できる大工が管理しているからこそ可能なのだ。現場で間違いを見つけ、手直しをしている。技術を持った大工がいなくなったらプレカットそのものが危機的状態になる。そのときは検査制度を厳しくすればよいと思うのは間違いだ。図面の検査ばかり行っている検査員は現場の間違いを見抜けない。墨付け大工を育ててこなかったツケが10~20年後に来ることは想像に難くない。大工がいなくなるとプレカット加工もすたれ、加工機械が不要で金物だけで組み立てる2×4工法が普及してプレカットは要らなくなる。
プレカット業界はどうすべきか
プレカットは木材屋や機械屋が売り込んで普及したのではない。工務店が手間を省くために採用し『わが社だけがプレカットを採用しており、簡単に組立てができ、利益をあげることができる』と試みた。しかし、多くの工務店がプレカットを採用する現在では差別化にはならない。大工手間を下げた分、プレカット機械の減価償却費に追われている。
ハウスメーカーといえど、和室の座敷は腕の良い大工に頼る。その大工はハウスメーカーが育てあげた大工ではない。昔ながらの手加工で木造住宅をつくってきた大工を引き抜いて雇用しているのである。手放す地元工務店が悪いといえばそうだが、他人のフンドシで相撲を取っているようなものではないだろうか。一人前の大工になるには時間がかかる。教育期間は地元工務店が負担し、一人前になってから僅かな賃金差で引き抜かれたらたまったものではない。教育期間の費用をハウスメーカーは地元工務店に払うべきではないだろうか。
プレカット占有率が9割にも達しているのは危機的状況だ。来年の作付用の種まで食べてしまうような愚かなことをしないことだ。せめて墨付け大工のシェアは3割ぐらい残しておくべき。そうすれば、プレカット工法と伝統的構法の家は共存できる。
建築ジャーナル 2015年9月号掲
環境共生住宅をそのまま説明すれば地球環境と共生した家という意味で分かりやすいが、他に、世間には分かりにくい横文字の表現がたくさんある。エコハウス、グリーンハウス、エコファースト住宅、スマートハウス、エコウィンハウス、ゼロエネ、ゼロカーボン、エコプロダクト、カーボンオフセットハウス、サステイナブルハウス、と何が何だかわからない。一際目にとまるものがもう一つあった。バイオクライマティックデザインである。胡散臭いと思いつつ内容を調べてみた。環境系の学者さんたちの集まりで「その地域の自然に合致し、地球環境を維持できる、人間に快適にかつ喜びを与える建築デザイン」と定義している。工学系の先生方が文学的な「喜びを与える」と定義しているのでなかなかおもしろいと思った。環境系の学者さんたちは高気密・高断熱愛好家で、夏でも窓を閉め切りゲージとにらめっこして、断熱メーカーの応援ばかりしていると思っていたが、そうでもない人もいるみたいだ。その舌を噛みそうなバイオクライマティックデザインの研究会に似合いそうにない私は、地元の建築士として本日参加している。
「地球環境を維持できる建築デザイン」
地球環境を維持できる建築デザインとはどういうことだろうか。「石油やウランはいずれなくなる。木、土、竹、藁を資源と考えれば日本は資源大国だ。」という意味ならすばらしいのだ。最近は設備盛りだくさんの「ダイエット食品(エコ商品)を腹いっぱい食べて痩せましょう(省エネ)」的なエコハウスが多い。
断熱・気密の目的のために石油製品をたくさん使う仕様になっていないかをチェックしなければばらない。バイオクライマティックデザインのために石油製品を多量に使うなら本末転倒だ。石油製品は10年~20年で硬化する。木造住宅の構造は地震や台風対策として、損傷限界を1/120に設定している。つまり、震度5ぐらいの地震を受ければ壁の頭部が25㍉(1/120)斜めに動くことになる。すると硬化した石油製品は壁の動きに追随できずクラックが発生する。石油製品の気密シートは、10~20年経過して、震度5以上の地震を受けると使いものにならなくなると思ってよい。日本は地震の無いフランスやドイツと同じ考えではいけないのだ。
石油製品を使わずに、どの程度の温熱性能なら確保できるだろうか。人の感覚や湿度や輻射や風を考慮にいれれば、Q値4.2ぐらいでよいと思う。そうしたら地球環境と共存した建築が見いだせる。地球温暖化防止策のための性能は、我が社が一番という企業間競争が多量の地下資源を使った建築行為に走り、逆走の競争をしているように思えてならない。
日本はアルミの宝庫である。ボーキサイトは無いがアルミの埋蔵量は世界一と聞く。アルミは、路上生活者の生活基盤となり回収率は非常に高い。90%以上リサイクルしているので、アルミは日本ではもう地下資源ではなく無限資源かもしれない。ところがアルミサッシュメーカーは樹脂窓に切り替えはじめている。使用時の僅かな性能向上は生産時や処分時に多大なエネルギー消費をしていないだろうか。北海道以外ではペアガラスのアルミサッシュでよいではないか。
ドイツやフランスに遅れていて日本は窓の後進国というが、熊本の緯度はリビアである。リビアにおいて樹脂高性能窓が売れるはずがない。限りない快適性を要求するのではなく、ほどほどの性能で良ければ、高すぎる断熱性能や、高すぎる気密も要らなくなり、24時間換気扇も要らない。Q値4.2程度であれば、ほとんど廻していない24時間換気扇も要らない(気密住宅には必要)、縁側があり、日向ぼっこが出来る程度の緩やかな性能のほうが喜びを与える建築デザインで、これこそバイオクライマティックデザインではないだろうか
Low-Eガラスと水銀
Low-Eガラスは普通の窓ガラスであるペアガラスと比べて15%ほど断熱性能が上がる。これがLow-Eガラスを推奨する理由である。現在、Low-Eガラスの出荷量は増え続けていると聞く。Low-Eとは、Low Emissivity(低放射)の略で、複層ガラスのうち、その内面部に特殊な金属膜を設けたものをいう。問題は処分時である。ガラス面に薄く塗布した重金属は簡単に剥がせないので、埋め立て処分か燃焼処分となる。そのとき、普通ガラスとLow-Eガラスの区別はつかない。核廃棄物用のような頑強な処分場をつくるとは思えないので、いずれその重金属は地下に浸透し海に流れ出るか、空中放出になるだろう。水俣のチッソ株式会社は水銀垂れ流しで水俣病を発生させた。その他にも日本はカドミウムでイタイイタイ病を経験した。銅やPCBによる公害も経験した。重金属はごくわずかでも生物に異変を起こす恐ろしいものだという事は誰でも知っている。
Low-Eガラスの出荷量を見ると50年後、いやもっと早い時期に必ず問題となると予想する。アスベスト問題と同じで経済に逆行する問題は、わかっていても緊急性を要するものでなければ、国は次世代に先送りする。Low-Eガラスや厚い断熱材の使用で、暖房エネルギー消費量の削減はわずかにできるかもしれないが、生産時エネルギーの増大や処分時の社会問題に、今目を向け対処をしないと、今の利益の数十倍か数百倍の代償を負担しなければならない。固定化されたアスベストは世界一日本に存在する。重金属は食物連鎖だけでなく、胎児を通じて次世代へと続く。放射能、水銀を含む重金属は、各項目は許容値以下であっても複合化すれば、足し算なのか掛け算なのか分からない。海に捨てて薄めて安全という理論は、クジラの水銀残留から考えて現在ではありえない。発生時に対策を打つのがベストである。
「その地域の自然に合致し」
地域を語れば寒い時期もある。鹿児島や熊本でも寒い日はある。奄美大島だって雪は降る。Q値4.2では対応できない日が1年のうち30日あるとしよう。その日は石油ストーブを焚けばよい。灯油を4缶使っても18×4×36=3GJのエネルギー消費量だ。地下資源を使っているとお叱りを受けそうだが、電気で回す24時間換気扇のエネルギー消費量は4GJ・年とあまり変わらない。
最近、夏が長くなったと感じる。最高気温25℃以上が夏日、30℃以上が真夏日、35度以上を猛暑日という。各地の夏日、真夏日、猛暑日を調べてみた。
表1
熊本は6地域なのに鹿児島より、那覇よりも暑い地域だ。1年の半分近くが夏である熊本では「夏を旨とした家づくり」がよいではないか。グローバル化され、情報は日本全土平均的に流れる。そこでは地域性を考えない情報が多い。最近は、ヒートショック論が日本中を駆け巡る。心臓疾患で国民の医療費が倍になり、更に浴槽での死亡者は交通事故死の3倍の14000人/年になっているという。断熱建材メーカーは、この情報を盛んに販促に使う。浴室での年間死亡者数をA教授は14000人と言うし、B教授は4000人と言う。熊本では滑って転んだ人も含めて年間30人だから、日本全国では4000人ぐらいと思うが、どちらが正しいのだろうか。
建築ジャーナル 2015年10月号掲
「その地域の自然に合致し」
25年省エネ基準の仕様規定では、開口率が7%以下ならシングルガラスでよいとしている。開口率が小さい方が有利となると、窓は小さくなり、通風ではなくエアコンで部屋を冷やすことになる。「家のつくりようは冬を旨にすべし」を主張する学者さんがいるが、このことは「地域の自然に合致」したことになるのだろうか。
エアコンの設置台数は10年で倍に増えているそうだ。エアコンは室内を冷やしているが、反対に屋外を暖房している。すると外気温があがり、更にエアコンの台数が増えることになる。冷房は暖房と比べエネルギー消費量は少ないというが、120㎡の家を常時連続冷房すれば、基準1次エネルギー消費量は20GJである。平均暖房1次エネルギー消費量の12GJと比較にならないほどのエネルギー消費量である。常時連続運転は避けるべきである。
窓を開けて室温30℃を越えても快適に過ごす術は日本にはたくさんある。しかし、腰屋根、無双窓等は「計算ができない」、「条件が多様である」、「指導が難しい」という理由で、温度だけを基準にした方法だけが規制値となる。
無料ソフトの「ケイサン」に室温、湿度、風速を入れて体感温度を求めてみた。土壁の家など吸湿性のある家は30℃でも、冷房した27℃と同じ体感温度になる。扇風機を使って2m/Sの風に当たれば室温32℃でも同じ体感温度だ(表2)。表1の真夏日80日間だけはエアコンをいれる。計算上の冷房1次エネルギー消費量は80日×0.8KW×0.5(COP)×5H×9.8=1.6GJ/年でよいことになる。
縁側をつくり掃出し窓があれば開口率10%をはるかに越える。開口率をあげ、窓を開け放し、縁側で花火ができる家こそが、バイオクライマティックデザインに通じる喜びを与える建築デザインではないだろうか。縁側が25年省エネ基準の外皮性能には適合しないことを義務化推進派の人はご存じだろうか。エネルギー消費量の規制は理解でき、賛同できる項目はたくさんあるが、外皮性能の規制を義務化は失うものが大きすぎる。
表2
室温 | 湿度 | 風速 | 体感温度 |
27℃ | 70% | 0m/S | 26℃ |
28℃ | 60% | 0m/S | 26℃ |
29℃ | 60% | 0.2m/S | 26℃ |
30℃ | 60% | 0.5m/S | 26.4℃ |
31℃ | 60% | 2m/S | 26.3℃ |
32℃ | 50% | 2m/S | 26.5℃ |
地球環境を維持できる建築材料:土壁
日本は資源が無いから地下資源の輸入を減らすためにと鹿児島の川内原発を再稼働した。資源は石油とウランだけと考えるからこうなるのだ。25年省エネ基準の設計1次エネルギー消費量の算定プログラムから見えるのは、「窓を小さくしてCOPの高いエアコンで暖房、冷房が良い」との指南である。石油やウランの資源に頼らず、木材、土、藁、竹などの地上資源をもっと活用すべきではないだろうか。
土壁には断熱性能がないという人は多い。土壁の家は壁からの隙間風が多く、冬は氷の家に住んでいるようなものと決めつける。断熱性能は熱伝導率で表すが、土壁の熱伝導率は0.69w/m・Kで、断熱材の代表であるグラスウールの熱伝導率0.05 w/m・Kの14倍となる。つまりグラスウール50㍉相当を確保するのに土壁だと760㍉の厚さが必要となり現実的ではない。ところが土壁には蓄熱性能がある。断熱性能は材料の比重に反比例するが、蓄熱性能は重さに比例するとおおむね思ってよい。断熱性能と蓄熱性能の双方を持ち合わせている建材を望むが、軽くて重い材料となり、引力が存在する地球上には存在しない。
断熱性能とは温まった空気の熱を逃がさないことで、気密とセットで考えなければならない。毛皮のコートが断熱性能でコートのボタンがしっかり締まっていることが気密性能だ。コートの下に温かい石焼芋用の石をかかえこんでいれば、石が蓄熱し、保温効果は持続するので、気密性はほどほどで良い。それなら高気密にして換気扇で換気するより、薄い毛皮のコートにして蓄熱性能を利用してほどほどの気密で自然な換気をするほうが健康的だ。
蓄熱性能についてもう少し詳しく述べる。蓄熱式暖房の代表は薪ストーブだ。薪を燃やして、安定するまで1.5時間かかるが、火を消しても温度が元に戻るまでに1.5時間かかる。その仕組みを利用しようというのである。つまり冷めるまでに時間がかかるのでフル運転しなくても、薪が消えかかってから燃やせば、燃料は半分ですむという理屈である。ゆえに蓄熱暖房の薪ストーブと蓄熱性能が高い土壁は相性が良いとなる。
日本人は、輻射熱には関心がなく、室温の高い低いで、喜んだり、悲しんだりする。空気暖房をして暖まった空気を少しでも逃さまいと気密する。気密化すると、空気中のCO2濃度が高くなり、24時間換気扇が必要となる。
蓄熱を利用した輻射暖房の場合、室温は高くなくてよいので外気温との差は少なく、高気密性能を必要としないだろう。輻射暖房の場合、人の体感温度は室温と発熱体・床・壁・天井の平均表面温度を足して2で割った温度となる。室温が17℃でも薪ストーブと周辺の床・壁・天井の表面温度が23℃であれば平均体感温度は20℃となり暖かく感じる。室温が低ければ隙間風も少ない。夏は30℃で快適に、冬は17℃で快適な住まいづくりが良いと思う。
夏の土壁
朝方は気温が低い。7時ぐらいが放射冷却現象で最低気温となる。この下がった温度を保持することを蓄冷という。土間ともなれば、地とつながっているので、そう簡単には暑くはならない。室温が33℃となっても土間は30℃と2~3℃低い。逆に、蓄熱体である土間に冬対策で直射日光を当てるような設計をして、夏季に西日も含めて直射日光を土間に当てると最悪になる。表面温度が40~50℃に上がってしまう。短い軒でパッシブといって縁側の床を蓄熱体(トロンボウォール)した例が数少なくある。
すだれが良いというが九州ではスダレ程度では防除できない。スダレの隙間から直射日光は3割通過し、室内の床の表面温度を上げてしまうのだ。特に西日の斜め照射に気を付けなければならない。
軒の出は1.5m以上は必要となる。暖冷房1次エネルギー消費量計算において、イータ値(冬季)は、軒の出を1.5mも出すと日射熱取得量が少なくなり、設計暖房エネルギー消費量がドーンと上がる結果になる。軒を長くし、窓を開け、風を通し扇風機での生活は、性能の悪いエアコンを使ったことにされ5GLのエネルギーを使ったことにされてしまう。使っていないのに使ったことにされるので冤罪の気分だ。
日が当たらない土間の部屋が昔はあった。それは味噌部屋である。今でいうパントリーだ。ひんやりしていて他の部屋より2~3℃室温は低い。家の中全てを均一にしようと思わず、午前中は居間で、日中は味噌部屋に引っ込み、夕方は縁側へと、猫みたいに時間ごとに居場所を変えるのも、エネルギーをあまり使わない生活方法だ。
もっと土を利用すればよいのだ。土は日本国土がある限り存在する。絶対枯渇しない。なんといっても処分法に困らない。土壁は再利用して又壁に使っても良いし、処分する場合は庭に廃棄すればよい。ゴミ処分がこれからの社会問題になる。生産、雇用、移動エネルギー、梱包費、蓄熱、処分、資源のことを考えると土壁は総合的に優等生なのだ。
真の省エネを
日本の国土は南北に長く、亜熱帯の沖縄から亜寒帯の北海道までと気候はさまざまである。それを反映して地方ごとに独自の文化を生み、伝統的な家屋のつくり方も地方に特色がある。
義務化にするのなら省エネ法は根本から変えるべきだ。外被性能に頼った規制は甚だバランスが悪い。暖房エネルギー消費量の実態差は九州と北陸では3~5倍あるのに規制値は1.5倍の差しかない。温暖地では費用対効果が薄く迷惑な話だ。規制する側から考えての基準があまりに多すぎて現実的でない。
真に省エネを考えるのなら、外皮性能を規制するより、急速に増え続ける家庭電化のエネルギー消費量を規制すべきである。
学者や国土交通省は「ライフスタイルの範疇」「経産省管轄」と逃げるが、増えた分を減らすのが道理である。自動開閉するトイレの蓋、家族は減っているのに大型化する冷蔵庫、部屋は狭いのに大型TVなど、省エネと逆行している家庭電化には手をふれない。
建築ジャーナル 2015年11月号掲
伝統的木造住宅と省エネ法の関係を問題視して、日本建築士会連合会、日本建築家協会、日本建築学会、東京建築士会、木の建築フォラムの5団体で、京都で「夏を旨とした地域型住宅の省エネルギーを探る」(仮題)と題してフォラムが2016年1月17日に開かれる。京都には温熱環境だけでは語れない住文化がある。まさに技術論だけでは省エネ法は市民の理解は得られないだろう。京都大学大学院の高田光雄教授は言う。「京都の冬の町家は確かに寒い。何とかしたい。しかし、暖房設備に依存するだけでなく、デリケートな自然の変化、季節感を感じとることができる幸せにも目を向けるべきです。」更に、「異なる価値観との共存はまさに社会の問題、まちの問題です。」と加えている。 京都フォラムは、木材資源や自然素材の循環利用を図り、伝統的で開放的な生活様式を継承するために温暖地型省エネルギーモデルの糸口が掴めないかを模索するための公開フォラムである。高気密・高断熱住宅はあってもよいが、義務化することがその地域で妥当だろうか。25年省エネ基準の本来の目的を深堀りして、真の省エネを目指すべきだろう。1次エネルギー消費量も規制は理解するにしても、外皮性能規制は地方によって効果のあるなしの違いがある。特に地域住宅に及ぼす影響は大きい。 京都フォラムのなかで私の出番がある。内容は外皮性能を10分で計算しようという試みである。普通、講習会ではモデルプランが提示され、説明に従って進んでいって、最後はOKとなる。誘因なので当然な回答でありOUTになるものを提示するはずがない。では、普通の地域住宅はどれくらいの外皮性能だろうか。「夏を旨とした地域型住宅」のモデルプランが必要だが、公平に選ぶのは難しいので、24年度事業:伝統的構法の設計法作成及び性能検証実験検討委員会の間取りを選んだ(図1)。10分で計算するためのあらかじめ建物の外皮面積は出しておく。(表5) 次に、計算には断熱材の性能が必要で、まずよく使われる断熱材の種類をリストアップした。種類が多いので熱伝導率の差でグループ分けをする。
グループ | 熱伝導率 | 断熱材の種類 |
A | 0.05 | グラスウール10K |
B | 0.045 | グラスウール16K |
C | 0.04 | グラスウール20K、セルロースファイバー、フォレストボード、ポりスチレン、ウール、ウッドファイバー |
D | 0.033 | グラスウール24K |
E | 0.034 | 吹き付けウレタンフォーム |
F | 0.022 | フェノールフォーム、ウレタンフォーム |
次に、熱貫流率から厚みを考慮して熱貫流率(U値)を求める。空気層や下地の仕様など複雑に影響するが、簡略式のために無視する。
表2-1
(天井) | 厚さ | U値 | 厚さ | U値 | 厚さ | U値 |
Aグループ | 200mm | 0.23 | 100mm | 0.42 | 50mm | 0.72 |
Bグループ | 200mm | 0.21 | 100mm | 0.38 | 50mm | 0.67 |
Cグループ | 100mm | 0.32 | 50mm | 0.61 | 30mm | 0.88 |
Eグループ | 50mm | 0.54 | 30mm | 0.79 |
・屋根断熱仕様である。断熱材の直上に板がありその上に空気層があり、天井仕上げは板仕上げ又はPB下地吹き付け・クロス貼りである。
・天井断熱で仕様の場合はU値は0.05ぐらい悪くなる。
表2-2
(壁) | 厚さ | U値 | 厚さ | U値 | 厚さ | U値 |
Aグループ | 100mm | 0.43 | 50mm | 0.75 | ||
Bグループ | 100mm | 0.39 | 50mm | 0.70 | 50mm | 0.67 |
Cグループ | 60mm | 0.55 | 50mm | 0.64 | 30mm | 0.93 |
Eグループ | 60mm | 0.48 | 50mm | 0.56 | 30mm | 0.83 |
・内装壁仕上げは板壁、PB下地吹き付け、PB下地クロスである。
表2-3
(床) | 床板 | 厚さ | U値 | 厚さ | U値 | 厚さ | U値 |
Aグループ | 15mm | 100mm | 0.41 | 50mm | 0.70 | ||
Bループ | 15mm | 100mm | 0.38 | 50mm | 0.65 | ||
Cグループ | 15mm | 60mm | 0.52 | 30mm | 0.85 | ||
Aグループ | 30mm | 100mm | 0.39 | 50mm | 0.66 | ||
Bグループ | 30mm | 100mm | 0.36 | 50mm | 0.60 | ||
Cグループ | 30mm | 60mm | 0.49 | 30mm | 0.78 | ||
Cグループ | 畳 | 30mm | 0.61 |
開口部が一番外皮計算に影響するので、少し面倒な計算を行う。まず、開口部(窓の仕様)から熱貫流率(U値)を選択する。窓枠がアルミか木製かは区別しない。
表3
窓の仕様 | U値 |
シングルガラス | 6.51 |
シングルガラス+内障子 | 4.76 |
シングルガラス+雨戸 | 5.23 |
ペアガラス | 4.65 |
ペアガラス+内障子 | 3.60 |
ペアガラス+雨戸 | 3.92 |
ガラス玄関戸 | 6.51 |
板玄関戸 | 2.50 |
ガラス+板の玄関戸 | 4.50 |
次に、図1プランの開口部の面積は表4に算出しているので表3のU値を入れて計算すること。
表4
開口部 | 面積㎡ | U値 | 面積×U値 |
1階南掃出窓 | 12.7 | ||
1階中窓 | 14.1 | ||
1階小窓 | 3.6 | ||
1階玄関戸 | 3.1 | ||
2階中窓 | 15.3 | ||
2階小窓 | 4.8 | ||
合計 | (53.6) |
いよいよ最後の計算だが、いくつかの注意がある。
・玄関などの土間床は床に含まず総外皮面積には土間床は含んでいるので、天井・壁・床面積が外皮総面積となならない。
・土間は床面積ではなく、基礎の立ち上がりの外周部の長さで検証する。複雑になるので固定数字を入れている。
・木材のU値は0.8だ。0.8近辺では熱橋を考慮しても全体に影響しない。この略算式では熱橋は考慮していないが、U値が悪い場合は熱橋を考慮すると性能はあがる。例えば土壁真壁の場合、910㎜に柱1本がある場合は、(0.79×3.98+0,12×0.8)÷0.91=3.56となり、U値3.96→3.56となる。
表5
面積 | 単位 | U値 | 係数 | 面積×U値×係数 | |
壁面積 | 140.4 | ㎡ | 1 | ||
天井面積 | 91.1 | ㎡ | 1 | ||
床面積 | 79.49 | ㎡ | 0.7 | ||
開口面積 | 53.58 | ㎡ | 1 | ||
基礎外周 | 1.8 | m | 1.8 | 1 | |
基礎内周 | 5.46 | m | 1.8 | 0.7 | |
合計 |
面積×U値×係数の総計を総外皮面積367.89㎡で割った数値がUA値だ。
いくつになっただろうか。5地域の家ではUA値0.87をクリアーした例は多いと思うが、6地域7地域の家では少ないと思う。UA値0.87に達するように断熱材や窓を入れ替えてみて自分仕様を見直してみよう。温暖地の皆さん、義務化になれば新潟と同じレベルの規制がかけられることを認識してほしい。
図1
建築ジャーナル 2015年11月号掲
省エネ法においてエネルギー消費量の計算でジュールが採用されているが一般ではあまり馴染がない。熱量の表示にはジュール、ワット、カロリーがあり、ワットとカロリーはなんとなくわかる気がする。時間軸の有無の違いはあるが、基本は同じ意味だがどうして3種類もあるのか分からないが、食べ物はカロリー、電化製品はワット、そしてエネルギー関係ではジュールが使われる。
以下、ワット(W)、カロリー(cal)、ジュール(J)と表示する。熱量のうち、電気消費量のWは料金に換算できるので理解が早い。1000Wの電気器具を1時間使えば1KWHとなる。28円/KWHなのでお金に換算すると、1000W器具を1時間消費すれば28円となる、同じことだが、100Wを10時間使うと28円となる。
JとWの関係は、1Wを1秒使えば1Jである。1000Wのヒーターを1時間使えば1KWHなので、J換算すれば60分×60秒となり、3,600,000J=3,600KJ=3.6MJ(メガジュール)となる。つまり、1KWH=3.6MJで、逆数は1MJ=0.287KWHだ。
食べ物はでエネルギーを考える。
1gの水を1℃上げるのに必要なエネルギー量が1 calである。よって1000㏄の30℃の水を100℃に上げるには、1000×70=70,000 cal=70K必要となる。CalとJとの関係は、1calは4.2 Jなので70Kcalは294KJである。後述するが石油1㏄で36.7KJの発熱量なので、294/36.7=8㏄の石油の熱量70Kcalと同じとなる。1000㏄の水は8㏄の石油でお湯が沸かせるとなる。
1日の食事の摂取量が2,000Kcalとすれば4人家族で2000×4=8000Kcalとなる。Jに換算すれば8000×4.2=33600KJ=33.6MJなる、1日中家に居て、うんこ以外は室内に熱量として発散するとするので、8000Kcal=33.6MJのヒーターを使用したことと同じ熱量となる。
1次暖房エネルギー消費量計算で、4ヶ月間を人間ヒーターが暖房の役割を果たしたとすれば4ヶ月×30日×33.6(MJ)=4GJとなる。冬季の4ヶ月なので4GJ/年と考えてよい。
よく太って油ぎった人がいると部屋が暑苦しいというがそれは違う。高カロリーの食べ物を沢山食べる人がいたら部屋が温まるのだ。スポーツをやっている中学生の方が発熱は高いかもしれない。粗大ごみとして役立たずとして扱われている旦那も部屋にいるだけで1500KCalの食事をすれば、0.6GJ/年の暖房器具の役割を果たしたことになる。トウモロコシから燃料をとらずとも、大根やキャベツからも熱量は取れる。
照明器具の発熱量
次に照明器具で考えてみよう。100Wの電球を4ヶを4ヶ月間使用すれば、4×100×4×24×30×3600=4147MJ=4.1GJ/年となる。
先ほどの人間4人の食事で発熱するカロリーは3GJ/年だった。100W電球4灯で発熱する熱量は4.1GJがほぼ同じなので、人間一人と100W電球が同じと言える。
ここで疑問
白熱灯より蛍光灯が省エネという理由で世の中の照明器具がほとんど蛍光灯に替わってしまっている。25年省エネ基準の照明1次エネルギー消費量の計算式で、白熱灯を蛍光灯に替えれば4GJダウンになる。しかし良く考えてみよう。白熱灯を蛍光灯やLEDに変更して省エネしたつもりが、照明器具による発熱がなくなるので、暖房を追加するだろう。照明で4GJ減らしても、暖房で4GJ増やせば省エネにはならない。このことは冬の状態のことであり、夏季、確かに照明器具は暑苦しい。照明器具の球を、冬は白熱球、夏は蛍光灯にいれかえば、賢いエネルギー削減方法といえるだろう。
安部首相は11月26日に電気のエネルギー消費量削減のために白熱灯の禁止令を出したが、暖房エネルギーは増えることを安部首相に誰も教えないのだろうか。
省エネ法はどうしてGJを採用するのか
省エネ法は不慣れなJを使うが、どうして慣れているcalやWを使わないかといえばエネルギーには1次と2次があるからだ。電気の場合、原料はウランや石油や石炭などが種々あり、電気1Jを生産するためには1次エネルギー2.7Jが必要である。電気のWとJの関係において、1次エネルギー換算では1KWH=9.76MJであり、2次エネルギ換算では1KWH=3.6MJとなる。省エネの観点からすれば1次エネルギー換算が妥当である。
費用について
灯油は27年11月時点で62円/Lである。1Lの灯油を燃やすエネルギーは36.7MJである。よって、1GJ当たりの灯油のコストは1722円であり、電気は28円/KWHなので1GJ当たり2870円となる。このように電気は高額なエネルギー源である。石油ストーブより電気ストーブが、ガスレンジよりHIヒーターが、コストが安いということはない。
薪ストーブの選び方
薪スト―ブは家全体を暖める。UA値1.5W/㎡・Kの家の場合外皮面崎が300㎡、とすれば、450W/Kとなる。外気温5℃、室内を15℃に確保するには(15-5)×450=4500Wとなる。しかし、この数値にロスは含まれていないし、室温の平均値であり、空気を混ぜる必要性も考慮していないので、1.5倍を考えれば6750Wとなる。
薪ストーブは空気暖房ではないので、温度ムラがある。薪ストーブの面した場所は20℃で背中は5℃で、室内にたき火を焚いている状態だ。高気密・高暖熱にしたら、温度ムラや熱損失がすくなくなるのは事実であるが、適度の温度ムラも否定するのではなく楽しいものではないだろうか。薪次第でコントロールできないのが薪ストーブ愛好家が引き寄せられる魅力だ。薪ストーブを選ぶとき、大型が暖房能力があると思いがちだが、薪を燃やさないと暖房能力は上がらない。薪ストーブは大は小を兼ねない。ある程度の温度上昇がないと完全燃焼しないので、フル運転になければならない。大型ストーブにチョロチョロ燃やすと本体にも悪影響がある。36坪の家の場合、階段や間仕切り壁があり所詮全館暖房は無理な場合が多いので、7000Wもあれば充分である。大きすぎないことが重要である。
冷房を見てみよう
外気温33℃室内を28℃にするとき、UA値1.51.5W/㎡・K、外皮面積300㎡の場合、(33-28)×1.5×300=2250Wとなる。ロスを1.5倍としても3300Wとなる。日本の家のエアコンの設置数は平均2.5台だそうだ。高効率エアコンのCOPを3とすれば、3300×3×2.5=24750Wの能力を設置していることになる。まずそんなに使っている家は少ない。エコポイントで高性能のエアコンを買わせて過剰設置ではないだろうか。効率が良くても使わなければ費用対効果は少ない。
それより、窓を閉めてエアコンより、窓を開けて扇風機の生活を選ぼう。
地域区分5.6.7の外皮性能が同じ0.87という理由。(全館暖房の場合)
全館暖房、120㎡の家の場合、外皮面積306㎡
5地域の基準暖房1次エネルギー消費量 55.2GJ × 287 15842KWH
6地域の基準暖房1次エネルギー消費量 37.1GJ × 287 10648KWH
7地域の基準暖房1次エネルギー消費量 19.1GJ × 287 5481KWH
要求される外皮性能が同じ0.87なので
5地域の場合 (2016℃日)
温度差15℃(外気温5℃―室内20℃)24時間 5.5か月
306×0.87×15×24時間×5.5ヶ月(165日)=15800KWH
となる。
6地域の場合(1750℃日)
温度差13℃(外気温7℃―室内20℃)24時間 4.5か月
306×0.87×13×24時間×4.5ヶ月(135日)=11213KWH
7 地域の場合(1000℃日)
温度差11℃(外気温9℃―室内20℃)24時間 2.8か月
306×0.87×11×24時間×2.8ヶ月(80日)=5622KWH
となる。
**合理的に思えるが、7に近い6地域、7地域において、全館連続暖房はありえない。 もう少しエネルギー消費量は多い。ある意味で、7地域においては、基準値8.3GJが厳しいように思える。
延べ面積120.08㎡の家 主たる居室29.81㎡ その他の居室51.34㎡ 基準1次暖房エネルギー消費量は
地域区分5 | 地域区分6 | 地域区分7 | |
全館暖房 | 55.2GJ | 37.1GJ | 19.9GJ |
部分間欠暖房 | 21.6GJ | 15.4GJ | 8.3GJ |
何とも理解しがたい理由 6地域では15.4GLだが、7地域に同じUA値0.87を当てはめれば、8GLとなるから7地域にも0.87を強要するという何とも理解しがたい数義の遊びである。5地域の新潟と7地域の鹿児島は窓の開口率は違う。愛知産業大学の宇野が開口率を調べたデータがある。 UA値は開口率の大きさに非常に影響する。UA値0.87を規制すると、新潟ではペアガラスなのに、鹿児島ではトリプルガラスというなんとも奇妙なことになる。
建築ジャーナル 2015年12月号掲
グリーン化事業が始まった。緑をたくさん植えた住宅に補助金を出すのかと思ったら違っていた。高気密・高断熱仕様の住宅にして、エアコンで暖冷房する方が省エネになるので100万円も補助金を出すという事業だった。緑とはあまり関係なかった。 地域性 九州に籠りっきりの私であるが、久しぶりに関西に行ったら、九州で見かける店舗がずらりと関西にもあるのだ。店舗に地域性はなくなってしまった。車窓からみる住宅もまた同じ外観で地域の違いは感じられない。全国規模のハウスメーカーの住宅なら、全国同じでも仕方がないが、地域性をうたっている地方の住宅会社の建物の外観が、九州も関西も同じなのだ。外壁材やアルミサッシュを作っている会社は離散集合を繰り返し、巨大化し数社が独占しているので種類が少なく、同じ外装材、同じデザインのアルミサッシュになっているのだろう。地域の工務店が全国同じものを作り、同じ街並みを形成しているこのことをグローバル化というのだろうか。住宅の作りようは、気候風土の違いで地域性の象徴だったのに。しかし、そんな風景の中でも少し違う物があった。それは樹木だ。九州の樹木は照葉樹で、クスやカシが多く、夏も冬も濃い緑の葉っぱを見る。関西の木の葉っぱは薄く弱々しい。樹木が唯一地域性を演出してくれていたのだ。
宮脇昭氏の話。
10年前、世界で一番たくさん木を植えた男、宮脇昭氏のNHK講座があり、おもしろくて聞いていた。ちょうどその時、熊本のイオンに宮脇氏の指導で苗木を植えるイベントがあった。ものすごく簡単な植樹で枝の選定や追肥や防虫薬剤散布も全く要らないとのことだった。そのコツは、その地に潜在する樹種を混ぜて植えることだった。素人が植えるのだから半分は枯れると思っていたが、現在全ての木が青々と繁っている。簡単に植えて、手入れもしないのに育つのは不思議と思ったが、人間の力を借りないと育たないものは自然の樹木ではないという宮脇氏の発言に納得した。なるほど、肥料をやらねば育たない、除虫をしなければ生きられないことの方が非常識だろう。当時イオンの楽屋に行って、植えた樹種の1覧表を宮脇氏から表を頂いた。(表1) あまり見えない方がよい
生垣と塀
エアコンは家の室内を冷やすが、冷やした温度分だけ屋外機で外気温を温めている。屋外は熱くなるのでその外気を取り込めば更に強力なエアコンの設置が必要となる。外部のアスファルトやコンクリートの直射日光の照り返しの熱はすごい。その表面温度は50~60℃にもなっている。しかし草木は直射日光が当たるところでも33℃前後である。庭の草取りが大変だからとコンクリート打ちやアスファルトを要望する人が多い。しかしそれが地表温度を高くし、ヒートアイランドの最大の原因となる。車庫までもコンクリート打ちのするので、アメリカより日本はコンクリート使用量が多いことからもわかる。グリーン化事業により高気密・高断熱仕様にするより、緑をたくさん植たほうがグリーン化住宅ではないだろうか。低い苗木でも、3年もすれば立派な生垣ができる。(写真2,3)
虫対策と目隠し効果
タデ食う虫も好き好きというように、木の種類によって虫の種類も違う。蝶は柑橘類の葉が好きだが、蝶の種類により柑橘類の好みも違う。神様は、虫と葉っぱの関係をバランスよく行きわたるように調整しているように思える。
生垣を混植にしよう。そうすると、虫食いの被害は少ない。木を混植すれば種類により成長の度合いも違うので背丈はバラバラに育つ。きちんとした剪定は必要ないので雑木林のようになり剪定の心配も要らない。
樹木の葉は光合成が有効に働くために、前列の葉と後列の葉が重ならないように生えてくる。光は直進するので、目透かし状態の間を埋めるようにして葉っぱは出てくる。それで目が詰まり、生垣が目隠し状態になるのは植物の自然現象だ。光の直進方向は詰まっているが、葉の前後は開いている。風はその間を縫うように通過する。こんなに便利でお金がかからない装置はない。(写真4)
草に付いて
玉名にある10年ほど前に設計した「レストラン品川」の庭をみてほしい。(写真5)200坪以上の広さがあり草取りも大変だ。虫対策なんて取る暇はない。そこで芝刈り機で中央部の刈りやすい部分だけを2割程度を刈るのだ。なんとそれだけで全体を手入れしているように見える。草に水を撒く人はいない。草は適当に地下から水分を吸い上げて地表を冷やしてくれる自然の冷却装置(ラジエーター)である。300万円もかけて地下熱を利用したクールチューブなどを採用するより、草の力を借りた安上がりな装置が庭に生えている草を利用しよう。
枯葉対策
森の都熊本である。30年前、当時の細川知事は緑3倍運動を始めた。緑が多くなると枯葉も多くなるのは当たり前だ。自ずと行政にクレームが集まる。こんな時だけ、行政は住民の意見を良く聞き対応が早い。街路樹である銀杏の木は手足をそぎおとされた状態だ。(写真6)子どもたちは銀杏の木は枝がなく、幹がぼこぼこしている木として学ぶだろう。
常緑樹といえども葉は必ず落ちる。木の緑の良さを享受しようと思えば、同時に枯葉の処理も伴う。自然界では、枯葉は落ちて翌年の発芽の肥料になるのだ。枯葉を除くと肥料がなくなり、人の手で追肥が必要となる。落ち葉が落ちた姿が絵にならないだろうかと考えたのが日本の庭の石だと勝手に思った。写真7を見てほしい、枯葉の中に庭石や踏み石があれば、それだけで風情がある。枯葉も絵になるのだ。
建築ジャーナル 2016年1月号掲
・初詣と地鎮祭
日本人は無宗教と思っている人が多いが、決してそうではない。私たちは、キリスト教徒が教会に行くように、年に一度と数は少ないが、神社やお寺に行く。正月は3社参りとまとめてお参りするので、1年に3回だと、4ヶ月に1回ミサに行くクリスチャンと同じことになる。神社には八幡神社、稲荷神社、天満宮と種類があるがお構いなしだ。正月の3社参りにお寺もその一つに加える人もいる。年の瀬に、除夜の鐘を聞きに行き、年越し蕎麦を振る舞うお寺があるので、蕎麦を食べに行って、そのまま年を越し、神社に向かうのだ。欧米の宗教人から見たらなんと節操がないように見えるだろう。1日の内に、イスラムのモスクに行き、カトリックとプロテスタントの教会に礼拝にいくようなものだ。しかし、このごちゃまぜ信仰には利点がある。日本は神の国であり、やよろず(八百万)の神様がいて、1年は50万時間しかなく、800万神に対応できないのでまとめてお参りするのだ。アラーやキリスト様が一人二人増えたからとてあまり気にしない。よって宗教上の戦いはないのだ。800万神も居たら、神様の考え方が少し違うことぐらいは重要ではない。では、日本人の宗教度が浅いかといえばそうでもない。欧米では神様への願いは「私の息子だけを守ってください。他に人は何人死んでも構いません、」と唱える。しかし、日本では罰当たりやタタリが無い無病息災を願う。家を建てるとき7割の人が地鎮祭を行くのは、タタリの予防策だ。欧米がプラス志向なら日本はマイナス志向による行動だろう。
・棺桶
仏教には派閥がある。13宗派もある。昔は宗派間の争いはあったようだが最近は少ない。我が町川尻地域にも12のお寺がある。今年の2月に、お寺の息子たち4人が宗派を超え「お寺フェスタ」というイベントを計画している。彼らから木製の棺桶をつくってくれと要請があった。入桶体験を来場者にさせたいとのことだったので了承した。もちろん国産、手造りである。木製の場合、接合部は釘で留めるが、火葬場から出てきたとき遺骨とともに釘が残るのはあまり良くない。骨壺に釘が入っていてはさまにならないので、棺桶の接合部は、燃えて無くなる竹釘を使用することにした。棺桶の販売価格は興味があるところだ。予約制にして、本人からの予約であれば2割引きの6万円にした(写真1)。私たちの販路拡大につながるかもしれないと期待する。お寺の息子たち4人の努力で100人近くのひとが入棺体験をした。かなり好評だった(写真2 2月7日 )。火葬場の都合で棺桶には規制がある。横幅60㎝高さ55㎝長さ2mである。お相撲さんはこの寸法より大きい。そんな場合どうするのだろうかと要らぬ心配もしてみたくなる。
・木造のお墓
熊本港に陸揚げされる量で一番多いのが飼料で、その次が石だそうだ。日本の墓石のほとんどは中国からの輸入品だ。食べ物は国産にこだわり、住宅も国産木材にこだわって生きてきたのに、死後は中国の家に住むことはないだろう。死後も国産の住まいに住みたければ木造でお墓をつくるのが良い。石造だって長持ちするものではない。接着材で止めてあったり、コケが生えたりでメンテナンスは必要だ。メンテナンスは必要なのは、石造も木造も同じではないか。法隆寺は1300年も持ったのは修繕を繰り返しているからだ。木は水が入り乾かないから腐るのだ。水切りを良くしコンクリートと接する部分には銅板を敷けば耐久性はぐっと上がる。次に注意したのが、杉の赤味指定だ。赤味は非常に腐りにくい。扉は奮発して1枚板にした。屋根は急こう配のガルバニュム鋼板なので、雨漏れの心配はないだろう。(図1)鉄板の放射冷却による結露で野地板の腐れが少し心配するくらいだ。それでも40年は大丈夫とみている。40年後、古川家は滅亡しているかもしれないことの方が心配だ。耐久性を考え高床コンクリート基礎にした。上の木部が200㎏に対し基礎の重さが600㎏と重いのでひっくり返ることはまずない。屋根を大きく被せ、軒を低く抑えているので、外壁の木も濡れることがなく、40年間は大改修しなくてもよいとみている。 石造だらけの墓地の中に木造の墓がポツンと1つ棟ある風景はどんなものだろうか。今年の暮れに完成予定だ。
・ 仏壇
近年は家が狭くなり、床の間の中に仏壇を置いている家は多い。なんとなくミスマッチである。小さな仏壇なら、床の間の一部としてデザインしてみた。古材で枠をつくり、古建具の仏壇だ。古材を利用すると仏壇らしく見える。小さな位牌とおりんが入る程度の小ささなら床の間の中にあっても違和感はない。写真3、写真4 次に、床の間の横の押入れに仏壇を入れる例である。1間の押入れを半分潰して、半分に仏壇を入れるケースである。襖を閉じれば、全部が隠れてしまい中に仏壇があるようには見えない。奥行半間の場合は、微妙な寸法を追いかければ教机も入ってしまう。ただし、一つの空間の中に?????縛??布団と仏壇が同居していることになるので、布団が線香臭くなるので注意が必要だ。写真5
建築ジャーナル 2016年2月号掲
2020年に省エネ基準が全建築に適合義務化の方向に進んでいる。これに対し木造住宅の設計・施工・研究にかかわる各分野でさまざまな議論が始まっている。
それが日本全国くまなく全ての住宅に適用されると予想を超える大きな問題となる。耐久性を損なう心配はないのか、地域的多様性が失われる恐れはないのか、居住者の経済的負担はどうするのか。このままでは、真壁の土壁造りや土蔵造りなどの伝統木造も、高い外皮性能が求められるかもしれないと。そうしたら、日本の開放的な住まい方の文化が失われてしまう。このような課題にについて、広い立場から議論を深め、伝統的木造住宅と省エネルギーに関しての問題点を明らかにする主旨で、「京都の夏を旨とした住まいにならい、地域型住宅の省エネルギーを探る」というフォラムが、今年1月17日に京都で開催された。建築関係6団体の共同主催で11名の登壇者で議論がなされた。
その中で特に問題点を抽出した2例を紹介しよう。
「オフセトッ法「」キャップ法」
まず、東京建築士会会長の中村勉氏の話は次の通りだ。
国は「2050年までにCO2 80%削減」という目標を掲げた。伝統的建築はこれから築いていくべき低炭素社会の価値観に通ずるものがある。伝統的なものだから守らなければならないというのでなく、特徴は長寿命の考え方だ。建物は「変化しない」ことを前提にするのでなく、「維持管理や修繕がしやすく」つくることだ。伝統的建築は長い歴史のなかで完成されたシステムである。目的は省エネであり、建物が長寿命であることが究極の省エネだ。地域の技術や資源を大切に使い、地域の生活文化に合った暮らしで一次消費エネルギーを低く抑えるような住まいは「地域型住宅」として位置づけたい。外皮性能を適用除外にする例外3が考えられているが、今の基準が義務化されるとなると、困ったことになる。「森を守る」「職人の育成」「廃棄物が少ない」など、外皮性能を越える省エネにつながる環境的な価値がいろいろある。そういった利点で外皮性能が足りない分を補う「オフセット法」や、一次消費エネルギーをこれだけに抑えると約束し、実際の使用一次消費エネルギー量で評価をする「キャップ法」といった制度設計もあってもよいではないか、と語った。
夏と冬を住み分ける
次に木の建築フォラム理事長の安藤邦廣氏の話を紹介しよう。
東アジアの集落や民家の多様な居住様式の中に、省エネルギーの知恵を探る知恵はたくさんあるという話だ。「建築物省エネ法」は中部ヨーロッパや北欧の寒さ対策を基準にしたものをモデルにしている。北海道並みの基準を、温暖地を含めた日本全体を対象にするのはおかしい。閉鎖型の「冬の家」と開放型の「夏の家」を住み分ける知恵は各地にある。まず日本よりも寒い樺太のスメンクル族の例。土を掘り下げた縦穴を掘り下げ、穴の周囲にぐるりと石を積んだ煙道を設け、煮炊きする排熱をその煙道に通すこと
で石をあたためた輻射熱で暖をとる「冬の家」と、凍土が融ける短い夏の間に住む丸太小屋やテントの「夏の家」とを使い分けて生活している。
次に朝鮮の暮らし方は、冬は、オンドルで部分暖房。
夏は、風通しよく暮らす。日本より寒さが厳しい韓国では、「マル」と呼ばれる開放的で風通しのいい部屋や「テマル」という縁側を夏の居場所として、窓の小さい密閉した部屋に床暖房をしこんだ「オンドル房」を冬の居場所として、季節によって使い分ける。夏は開放的に広々と、風通しよく暮らし、冬は小さなスペースで暖かく部分暖房をしている。これは、今の私たちの暮らしに通じるものがある。
次に日本の例をあげる。アイヌのチセは笹葺きの分厚い壁に囲まれた閉鎖型の家の土間で囲炉裏を焚いて暖をとる。東北の民家では、座敷は高床にしたとしても、冬は、土間床に囲炉裏をつくり分厚い藁のムシロを敷いて居間にしていた。南方の九州宮崎では、縁側のある開放的な座敷棟と、かまどと囲炉裏を備えて壁で囲われた釜屋棟とを分棟した家がある。夏向きの家と冬向きの家を住み分けている。沖縄は、冬のことは考えないでよいから、開放的な家で、通風を図っていると。
最後の結論として
家まるごと外皮性能を重視した「寒冷地型閉鎖系モデル」と日本の長い歴史の中から生まれた「温暖地型解放系モデル」だ。冬も開放という意味ではない。そのことを「寒冷地型閉鎖系モデル」の人たちは間違えて批判する。「温暖地型解放系モデル」は外壁全体を断熱するのではない、住宅の一部を断熱して囲う。その囲われた部分だけを暖房するのだ。建具を開閉することで、冬は小さく暮らし、夏は広く暮らす住いとなる。長い軒や庇があり、夏は日射遮蔽するが、冬は日差しを取り入れる。
「夏と冬を住み分ける」知恵や「冬は小さく夏は広く暮ら す」知恵が部分的暖房となり、暖房区域が限定的になり実効性のある省エネルギーだ。と締めくくった。
今までは、「寒冷地型閉鎖系モデル」と「温暖地型解放系モデル」の住宅の勝負では、「温暖地型解放系モデル」は冬寒いと劣性の連続だった。ヒートショックで交通事故死の3倍の死者がいると怪しいデータに翻弄され、温暖な7地域にも軒のない窓の小さい「寒冷地型閉鎖系モデル」が増え続けている。図1は安藤先生から、承諾をいただいて挿絵の掲載をする。今まで、高断熱・高気密愛好家から冬対策が無いと批判されてきたが、この絵を利用すると「冬は小さく、夏は広く」の説明が付きやすい。グローバル化の時代に、イギリスやドイツにだけ目を向けるべきではない、気候が似ている東アジアから学ぶことの方が合理性があるように思えてならない。
図1 宮崎の旧黒木家: 温暖地宮崎でも分棟にして 夏と冬を住み分けている (提供:安藤邦廣氏)
左上:寒冷地型閉鎖系モデル、全室断熱気密、全室恒常暖冷房
右上:温暖地型開放系モデル、部分断熱、部分間欠暖冷房
建築ジャーナル 2016年3月号掲
ZEHをゼロ・エネルギー・ハウスと呼ぶ。高気密・高断熱仕様にして、高性能サッシュを付け、太陽光発電や蓄電池を装備し、高性能エアコンと高性能換気扇設備と制御機構などを組み合わせ、住宅の年間の1次エネルギー消費量が正味ゼロを目指す住宅のことである。
「エネルギーゼロは簡単なのだ」
熊本での一般家庭の年間エネルギー消費にかかる費用は暖房2万円、冷房1万円、給湯6万円、電気1万円、
家電6万円の合計16万円ぐらいである。家の性能はほどほどでも、太陽熱温水器と太陽光発電を屋根に乗せれば、エネルギー料金支払金ゼロは達成可能だ。メンテナンス費用を無視し、中国製の製品を購入すれば費用対効果があり、投資金は取り戻せる。年間エネルギー消費量が20万円を超える家でも大型の太陽光発電を乗せればゼロエネルギー住宅となる。しかし、これは「ZEH」ではない。
「ZEH」の定義
経済産業省資源エネルギー庁のZEHは高性能建築・設備機器をフル装備した住宅をいうのである。2020年までに、標準的な新築住宅に採用し、2030年には50 %の普及を目指している。設備機器をたくさん設置することを目的化しているような住宅である。「健康になるために健康食品を腹いっぱい食べましょう」と同じ思考だ。その「ZEH」採用者には多額の補助金をくれる。約130万円の補助金をくれるので、新築着工頭数を70万戸として、50 %の普及となれば700,000戸×1/2×1,300,000円=455,000,000,000円
となり、4千5百億円だ。北朝鮮の国家予算と同じ金額だ。北朝鮮をM&Aで買収すれば、核問題や拉致問題は簡単に解決する。「ZEH」への補助金より北朝鮮対策につぎ込んだほうが日本国民にとっては良策ではないだろうか。
「ZEH」の普及
過去の住宅産業のコピーを思い出してほしい。シックハウスが問題になれば、「健康住宅、が登場し、阪神大震災の後は「骨太住宅」、COP3のあとは「環境共生住宅」、福島事故のあとは、「エコハウス」が出現した。麻疹みたいなもので出てはすぐ消える。今回の「ZEH」は国主導で行われている。確かに国主導だった「住宅金融公庫仕様」は住宅の品質を上げるに効果はあったと思う。補助金ではなく、低金利政策だった。低金利は回り回り考えれば原資は日銀なので、国家予算が減ることはなかった。今回のZEH政策は補助金なので大判振る舞いの支出である。「ZEH」の普及の75 %はハウスメーカーが占めている。
住宅業界の強者たちだ。強者であれば自力で普及させればよいではないだろうか。国は膨大な補助金を住宅業界強者に提供することになる。強者を助け、弱者をいじめる制度で、税金の使い道では正道ではない。高性能住宅は高気密・高断熱・不燃化に重点を置いているために、高性能石油製品、不燃建材、サイディング、不燃クロスなどで構成されている。処分時どうするのだろうか。日本はゴミのことは全く考えない。江戸時代のごみ処理文化の名残りは、日本の政策には全くない。
電力自由化
電力小売り全面自由化が4月1日から始まる。今まで、九州では発電は九州電力、送電も九州電力で、九州電力が電力を独占していたが、発電所事業と送電事業が分離されることになる。九州電力以外で、電力をつくっている会社は、規模は小さいが数多くある。熊本では「チッソ」が大きな水力発電所を持っていることが知られている。直接、チッソが小売り販売店になれると思っているが、今のところ販売店として名前はあがっていない。(表1)。家庭は小売り先の会社と契約をする。電力はこれまでと同じく九州電力の送電線を通して届くし、小売り先の会社が倒産しても、九州電力が肩代わりするように取り決められているので、電気が止まることはないと力説する。小売り先の会社に契約変更する場合、電気メーターを切り替えるだけだ。
新規参入の電気小売り会社は全国で200社近くあり、熊本でも20社近くが新規参入している。その中に発電所をもっていそうな会社は見当らない。原発の電源が嫌で地熱発電や風力発電が好きだったらその会社を選べばよいと思っていた。もしチッソが小売り会社になれば、100%水力発電による電力ということになる。
熊本の20社のうち、みやまスマートエネルギーは新電力であるが、そのほかはほとんどが九州電力から電力を購入し再販売するみたいだ。机が一つあり、請求書を書いて利益を得る会社ではないだろうか。ベンチャーとかの言葉を聞くとよい会社のように思えるが、九州電力と消費者の間にペーパーカンパニーがもう1社入るだけだ。各社とも安くなるというキャンペーンを張っている。20社の中の一つの西部ガスは確かに九州電力が発電所で使う天然ガスの既得権を持っているので安くなる理由は分かるが、アンペアとボルトの違いさえ分からない旅行会社が4 %割引きできるのはなぜだろう。九州電力から電力を購入し、九州電力の送電線を使用し、使用量を払うのに、どうして安くなるのか仕組みが分からない。大量に購入して小売りする昔の問屋的仕組みだったら九州電力がその仕組みをやればよいことではないか。九州電力が独占して暴利を得ていたとは思えない。原発と縁を切りたい人が少々高くても仕方がないという考えで電力小売り自由化に賛成したのに、マネーゲームの1つのよう見えて仕方がない。なにか胡散臭い理由がありそうだ。
その中で異色なものがある。行政が電力小売りをおこなうのだ。地熱発電が盛んな熊本県小国町が電力小売りに算入する。7月に設立し、11月から販売を始める。町内3000世帯をまかなうという。現在の九州電力の電気代より安くなると試算している。発電場所が近くて、送電線の距離も短くなり、電力の地産地消である。非常によいことだ。
電気は便利だ。しかし発電に危険を伴うことを私たちは知った。原発の電力が安いというトリックは、処分費は計算できないから、含めないという手前勝手な原価計算法がばれてしまった。便利さと危険はセットだ。どこから電気が来ていて、危険度と自然破壊の程度を知るチャンスである。受付カウンターの割引率に目を奪われず、真のエネルギーの出所を考えよう。
表1 熊本の新規参入の電力小売り業者と九州電力との価格比較表
小売業者 | 割引率(600円/月) |
西部ガス | 5.8% |
HIS(HTBエナジー) | 4.3% |
ナンワエナジー | 4.2% |
イーレックス・スパーク・マーケティング | 3.4% |
ジュピターテレコム | 3.7% |
丸紅新電力 | 1.5% |
みやまスマートエネルギー | 0.5% |
KDDI | 0.03% |
建築ジャーナル 2016年4月号掲