あたしの家からわかる建築のまこと-新連載!!

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その8 その9 その10        

1.あたしの家から分かる建築のまこと  その1

建築には創意工夫が必要だ。失敗して改善を繰り返し、進歩していくものだ。その犠牲になる施主はたまったものではない。しかし失敗にびくともしない新鋭建築家の度胸には敬服する。私はその度胸を持ち合わせていないので、我が家で工夫の実験をすることにした。欠点が無ければ次回から設計に採用する。いくつかを紹介しよう。

地盤補強
6、7月号に基礎の記事を書いた。今月号はその実践編でもある。
地盤調査の結果をみてみると、2m以内に0.75kN自沈層が25㎝ある。2mから10mの間には1kN・0.75kN自沈層が3.2mある。国土交通省告示で「建物に有害な損傷、変形、沈下が生じないことを確認する必要がある」と注意を促しているので、地盤補強が必要と判断する調査会社は多い。正確に言えば、注意しているだけで、補強が必要とも言っていなし、不要とも言っていない。設計者判断というところだ。次に住宅保証機構の基準を見ると2mから10mの間に0.5kN自沈層が2m以上ある場合は地盤補強が必要となっている。国土交通省告示と住宅保証機構のマニュアルを合わせて判断すると、非常に迷ってしまう。地盤補強工事には最低でも80万円の費用がかかる。絶対沈下するとなれば80万円の費用をかけるが、沈下するかもしれないでは答えにならない。そこで沈下した場合の修復工事費を算出してみる。田の字間取りなので通し柱は8本、隅柱は4本である。半分だけ沈下したとすると6本をジャッキであげればよい。足固め部分を5㌧ジャッキ4台を使い少しずつあげ、沈下した部分にスペーサーを挟む工事を行う。浴室はタイルがあるので少し厄介である。タイルと木部は仕上げの切れ目であるので沈下した分のタイル工事が発生する。これなら修復費用は大体30万円と推測する。地盤補強は中止し、30万円はタンスにしまっておくことにした。

基礎の設計
建物の重さは1階と2階の積載荷重を含めて、55㌧だった。べた基礎を採用すると、地盤強度が2㌧ /㎡だろうと6㌧/㎡だろうと同じ仕様である。そして仕様規定でつくれば基礎の重さは建物より重く60トンとなり、合計の重さは115㌧となる。
地盤強度は6㌧/㎡もあったので独立基礎を採用した。独立基礎の場合は、柱にかかる重さに準じて基礎の大きさを変える。1.3×1.3mの基礎もあれば0.5×0.5mの基礎もある。配筋は13㍉のシングル配筋にした。(図1)極端に少ない鉄筋量である。べた基礎と布基礎が一般的であるが、沈下の可能性があるものの、独立基礎を選んだ。独立基礎を否定する専門家は多いが、沈下した場合の修復のしやすさを考えると断然独立基礎が良い。さらにべた基礎に比べると鉄筋は1/4、コンクリートは1/3の使用量で済む。

防湿コンクリート
シロアリ対策では床下コンクリートは有効だ。その厚みは10㎝は必要と言われている。せっかく独立基礎にしてコンクリート量を減らしたのに、コンクリートを厚くしたら建物の重量が増えるので厚みを5㎝とした。ここでかぶり厚の問題が発生する。通常、鉄筋のかぶり厚は6㌢を要求されるが竹にはない。竹は異形鉄筋みたいな節がある上、平べったいのでかぶりは取りやすい、そもそも竹には爆裂が起こらないのでさほど気にする必要はない。竹筋コンクリートは戦中は良く使われていた。旧熊本市役所も竹筋コンクリートで70年もった。又、熊本の遊宴鉄道宮原線の鉄道の橋も竹筋コンクリート造で、今も健全である。竹は鉄と比較して強度は落ちるが、ひび割れ防止の目的で使用するなら竹で良いと思う。(写真2)鉄筋コンクリートの耐久性はかぶり厚に比例するが、爆裂の心配のない竹筋コンクリートの耐久性は無限大と言えるかもしれない。竹は土壁に使う小舞竹と同じである。70㎡に250㍉ピッチで敷き込んで材料費は3万円である。みなさんも車庫の下の土間コンに竹を使ったらいかがだろうか。現在日本の山は竹に占領されている。昔は、竹で籠をつくり、海苔網の支えに使い、土壁の下地に使い,生えたて時はタケノコとして食していた。今は違う。プラスチックの籠を使い、ステンレスの海苔網棒にし、外壁はサイディングとなり、タケノコまで中国から輸入している。竹の恩を知らない日本人は今、竹から復讐を受けている。

柱の防雨対策
柱の下はホームセンターから430円で購入した300×300御影石を敷いているが、雨が当たれば水が溜まる。昔は自然石が丸みを帯びていて水を切ることができたが、柱を建てるとき光りつけという作業が必要である。光付けは手間がかかるので切石にしている。切石は120×120×25、150×150×25の2種類で共に280円。今思うと、300×300の御影石は使わず120×120の石単独でもよいではないか思う。(写真3,4)

玄関土間の差筋
土間玄関はどうしても立ち上がりが必要である。立ち上がり基礎部に足固め材を乗っけた。横ずれ防止のため鉄筋を6㎝出している。地震エネルギーを吸収するためにはアンカーボルトで固定しない方が良い。地震時は上部構造がローリングを起こし、抜けるかもしれないが、足固め材が絡み合っているのでどこかが支えるだろうという見解だ。基礎に固定していないので建物を70㌧のラフタークレーンで吊れば持ち上がる。(写真5,6)

ビール瓶断熱
暖房に使う消費エネルギーは九州では2.5万円である。一方、給湯の消費エネルギーは6万円である。国はヒステリックに暖房エネルギー削減を全国一律に言う。外皮性能を高めて暖房の消費エネルギーを下げるより、給湯の消費エネルギーの削減を考えた方が賢い。浴室から逃げる熱量は多いからと、2重床のユニットバスの選択もあるだろう。確かに熱は逃げにくいが、石油製品の耐久性は20~30年と短いので採用したくない。部品がなくなったら総替えとなり、結果的に、生産時のエネルギー消費の増大になるので採用はしない。コンクリート造りの浴室は熱は地球へ向かい逃げていく。それで浴室の床下に空き瓶をいれた。空き瓶を密閉すればそれなりに断熱性能はあるだろう。その効果のほどは分からない。昔は酒ビン、ビール瓶、牛乳ビン、醤油ビン、ヤクルトビンがたくさんあった。容器のリユースは最高のエコ生活だったが、現代の日本人は、わずかに便利な使い捨て容器を選んで、太陽光発電を屋根に乗せ、窓の小さい高気密高断熱仕様の家で、エアコン1台で生活するのがエコ生活らしい。(写真7)

写真1
写真3
写真5
写真2
写真4
写真6
写真7

建築ジャーナル 2013年9月号掲載

あたしの家から分かる建築のまこと  その

小舞組
土壁は木造の軸組に竹や木で縦・横に小舞を組み、土を6~7㎝塗り込んで造る。九州では小舞に竹を使うが、虫が入りやすいので、でんぷんが少ない旧暦の8月と竹を切る時期は限られている。土壁は地域によって微妙に施工方法に違いがある。しかし、建築基準法の中では、土壁の仕様規定は以下のように細かく定められている。「貫は厚さ1.5㎝以上で幅10㎝の木材を用いて91㎝以下の間隔で、柱との仕口にクサビを設けた貫を3本以上設け、幅2㎝以上の割竹又は小径1.2㎝以上の丸竹を用いた間渡し竹を柱及びはり、けた、土台その他の横架材に差し込み、かつ、当該貫にくぎで打ち付け、幅2㎝以上の割竹を4.5㎝以下の間隔とした小舞竹又はこれと同等以上の耐力を有する小舞竹を当該間渡し竹にシュロ縄、パーム縄、ワラ縄その他これに類するもので締め付け、荒壁土を両面から全面に塗った軸組」である。先に述べたように土壁は地域性が強いので、「これと同等以上」や「これに類するもの」といった表現にしてある。にもかかわらず、「同等以上の証明をせよ」と訳のわからない要求をする確認審査機関もあると聞く。4.5㎝以下の間隔は確かに狭すぎ、竹の背が2.5㎝だと隙間は2㎝となり縄がうまく編めない。間隔が狭すぎると土のヘソが反対側にはみ出ず裏返しの土との密着がうまくいかず強度は落ちるかもしれない。逆に、広すぎると土の量が増えて強度は上がるかもしれない。不確定要素がるなら「貫を4段にする」とか「貫の厚みを1.8㎝にする」といったように、臨機応変に対応すればよいものを「同等以上の証明をせよ」とは同じ実験をして証明しなければならず、実質困難なことである。(写真1)

中学校の総合学習で土壁ぬり
川尻中学校の総合学習の1講座で土壁塗り体験を行った。昔、土壁の下塗りは近所の人たちで行っていた。今みたいにパチンコやゴルフが無かったので、土壁塗りはひとつのレクリエーションであり、夜は建て主のお礼の酒盛りが行われていた。遊びと実益を兼ねて建築コストを下げる工夫だった。最近の主流である石膏ボードにクロス貼り施工が安いと思っている人が多いが、原発と同じく処分費用を生産時に加算すれば決して安くない。石油が無くなり、日本に処分場が無くなった頃、ようやく土壁が見直されるだろう。その時とは中学生たちが爺様になったころかもしれないが、それまで、建築技術者に土壁の施工技術を継承しておかねばばらない。少なくともみんなの記憶の片隅には残しておきたい。(写真2)上塗りを左官のプロが行えば下塗りは女性や子供でもできる。ちょっとした注意は、小舞竹の目から反対側にヘソが出るように押さえつけることが必要である。説明すれば中学生でも簡単にできる。(写真3)
佐賀の鹿島地方に独特の小舞竹の組み方がある。縦の小舞竹を貫を挟んで表と裏から4.5㎝づつ一つおきに組む方法である。縄の通りも良く、貫伏せも要らない。5分板貫の場合はうまく施工が可能である。片面からの小舞竹の間隔も9㎝となり、土と竹のからみもうまくいくだろう。(写真4)

収縮土壁の目地詰め
土が乾燥して収縮すると周囲に隙間ができる。隙間を埋めるためにも中塗りを行うが、表面仕上げが板壁等の場合は中塗りをせず荒壁のままが多い。今回は土壁と表面仕上げとの間に3㎝の厚みの断熱材を入れたいので、空間確保のため中塗りはしないことにした。(次号に説明)しかし、中塗りをしないと強度低下や隙間からのヒラタキクイムシの侵入があるおそれがある。そこで周囲の隙間だけを漆喰で埋める。漆喰は強度のある瀬戸漆喰を使うことにした。中塗りなしの瀬戸漆喰仕様がどれほどの強度があるかは今後明らかにしていきたい。(写真5)

貫クサビ
クサビは三角形のものが一般的である。地震で柱が左右に揺れるとクサビは緩む。(図1)柱とクサビの面積を多くすると緩みにくいので図のような形にする。(図2)(写真6)次に、クサビの木目は圧縮方向に縦向きがよいか横向きがよいかと興味が沸いた。実験値を見てほしい。圧縮の木目が縦方向のクサビが初期には強いが、圧縮が進むと横方向の方が強い。
その差はわずかである。結論としてあまり差がないので木目の縦、横に注力しなくてもよい。(図3)

床の鉋屑断熱材
最近は、丸太梁や太鼓梁は手間がかかるからと嫌い四角の梁しか使わない。その上、節も嫌うので樹木を木材として利用する率は50%程度である。残りはチップや燃料になり勿体ないことである。樹木の外側の皮目は一番強度がある。チップになる前の皮目材を床下地に使うことにした。杉皮の利用は秋田県に断熱材として加工しているフォレストボードがある。真似したいが加工が難しいので床下地の鉋屑暖熱材の受け材として使うことにした(写真7)。皮目には欠点もある。杉皮と木部の間に木虫がいるのだ。薬剤は使いたくないのでそのまま使うことにした。(写真8)1年で成虫になるが年は越せないだろう。カンナ屑を食すかもしれないが量が多いので被害があってもわずかとみている。鉋屑の断熱性能は以前も書いたが、熱伝導率が0.07Kcal/m・h・℃である。グラスウールが0.057Kcal/m・h・℃なのでグラスウールより質が落ちると思うと大きな間違いである。グラスウールはガラス繊維が平面的に絡み合っているものを膨張させているので、時間の経過で縮んでしまう。60%に縮み性能はガタ落ちになる。このことはリフォームの経験がある者は誰でも知っている事実だが、環境専門家はグラスウールの欠点を言わない。また吸湿性のない断熱材は内部結露を起こしやすい。国は改正省エネ法の施行に先がけ、高断熱・高気密を推進するため、吸湿性のない断熱材で内部結露が発生しないようにと20万人の技術者を対象に「住宅省エネルギー施工技術者講習会」を行う。断熱効果があればあるほど室内と室外の温度差が大きくなり、内部結露が発生しやすくなるため、室内側にビニールなどの防水シートで目張りする施工講習会だ。羊毛ウール、フォレストボード、セルロースファイバー等の吸湿性のあるものには防水シートは不要である。パーフェクトバリアは羊毛ウールと外観や感触が似ているので吸湿性があると間違いやすいので注意しなければならない。吸湿性のある鉋屑断熱材は何といっても材料がタダなのが良い。(つづく)

 

写真1:小舞竹

 

写真2:中学生による土壁塗り

 

写真3:小舞竹から土のタコが出るように抑える。

 

写真4:縦小舞竹を交互に組む。

 

写真5:瀬戸漆喰による隙間埋め

図1 くさび
図2 設置面積の多いクサビ

 

図3クサビの実験値

 

写真6:クサビ施工例

 

写真7:床最下部の皮付き杉板

 

写真8:鉋屑の敷き詰め

建築ジャーナル 2013年10月号掲載

あたしの家からわかる建築のマコト その3

木材の乾燥
木材の乾燥をうるさく言う時代になってきた。未乾燥材は悪者扱いにされ、生材は商品ではないようである。そもそも木の乾燥とはどの程度乾いていることを言うのだろうか。乾燥の定義は扱う立場によってかなり違う。山の人にとっての乾燥は、生木から半分くらいまで乾いている状態、つまり含水率90%ぐらいである。手刻みの大工はヒビが入るまえの40%ぐらいを乾燥材といい、設計士はJASの規定に基づいて25%を乾燥材という。また構造設計士は許容応力度計算に準じて20%を乾燥材という。立場によってばらばらなので、「その材は乾燥材ですか」という質問に対する答えもバラバラとなる。
未乾燥がなぜ悪い1。(強度が不足するから)
確かに計算上の強度は含水率20%以下にしなければならない。しかし、強度が必要な時期は台風が来た時か、地震が来た時であって材料納入時ではない。また、含水率40%だと強度は7割程度であるが、3割の余力があれば問題ないとなる。伝統構法の場合は全体のつり合いや仕口の加工で梁の大きさは決まるので、計算上の値より梁の断面は大きくなり、未乾燥による強度不足の問題はない。(図1)

未乾燥がなぜ悪い2。
(乾燥収縮するから)
教科書では乾燥収縮が接線方向に2%、直交方向に1%、繊維方向には0.1%起こるとある。とすれば、120㍉の柱では約2.4㍉、300㍉の梁は6㍉縮むので、木材の乾燥は大変だと思っている人が多い。はたしてそうだろうか。枠材や板材はそうだが、芯もちの構造材は違う。乾燥するとヒビがはいり全体の寸法に変化はないのである。含水率40%の時120×240だった木材は含水率16%に乾燥してもヒビが入り120×240の大きさに変化がないのである。木材の特性を知って使えば乾燥収縮など怖くない場合もある。伝統構法の重ね渡り顎工法は都合がよい。断面が収縮して上からの圧縮で階高は4~5㍉縮んでも全体への影響はない。(写真1 )(写真2)

クロジン(黒芯)
良い木と悪い木の区別はどうやって決めるのだろうか。神社仏閣の大工は赤味が多いのが良い木、数寄屋大工は柾目で目が詰まっているのが良い木、建具屋さんは反らないのが良い木で、施主は強度があるものを良い木という。杉の木にクロジンがある。含水率が高く、2~3年経っても乾燥しない。悪い木の代表でクロジンを挙げる。価格も2割ほど安い。乾燥しにくく運搬に重く大工からも嫌われる。挿し木ではなく種から育った実生の木に多く、南の地方に特に多い。宮崎県では昔、色が黒いのを逆手にとって「鉄杉」と命名して全国に販売したが売れ行きはいまいちだった。我が家のクロジンの見える部分に含水率表示をしているが、自然に乾燥し、構造計算上の強度がでる含水率20%になるのはいつだろうか。2年以上かかる場合もある。(写真3)

木材の基準
木材の品質が誰でもわかるようにとJAS基準がある。ヒビ、曲がり、含水率、腐れ、丸み、ヤング率を規定している。腐れは分かるが他は木の特性である。
木の特性は欠点ではない。木材のヒビを欠点といって裁判した人がいたが敗訴した。曲がりも木の特性だろう。海辺の松林に行ったら良くわかる。全部曲がっている。節の多さについても枝のない木はない。
本来JASは角材に加工したものについての基準であり、丸太や太鼓梁や自然乾燥材にはあてはまらない基準である。建築の仕様書にJAS材とかJAS相当とか、公共建築の場合もJAS材と指定するものだから困ってしまう。

自然乾燥のJAS材
JAS材は本来加工技術に対する基準なので加工品にしかない。キャベツやダイコンにJAS規格がない。魚の刺身にもJAS規格がない。世間があまりに木材のJAS材と言うので、自然乾燥材にもJASの基準が追加されようとしている。「含水率の基準は平均30%以下」が自然乾燥材に加わることになる。人工乾燥はあくまで25%以下である。確かに含水率30%は妥当であるが、収縮途中であるし、強度も十分でていないので、プレカット工法では25%以下でなければならない。これから、人工乾燥業者から「自然乾燥は30%でよいのに、人工乾燥はどうして25%なのか、エコヒイキだ」とクレームがつくかもしれない。
自然乾燥JAS材は伝統構法専用と思ったほうがよい。本来伝統構法ではJASとは無関係であったのだから。公共建築ではJAS指定が多く、これから自然乾燥のJAS材が加わるとなると、古建築の復元以外でも伝統構法の公共建築が出現するかもしれない。

天井の断熱材
天井の断熱材は床下と同じく鉋屑を利用した。床下は根太間に詰め込めばよいが、天井は不織布に詰めたものを天井施工時に敷き詰める。面戸板の小穴から侵入した小屋裏の空気は断熱材の上を通っていく。面戸板にはステンレス網をはって虫が入らないようにしている。断熱材の部屋側にはビニール等防水シートを張るようにとのお達しだが、結露の状況を調べるために、納戸の天井は隙間をあけている。透湿抵抗比が小さく、湿気は壁体内へ侵入しやすいが、仮に露点近くになっても鉋屑断熱材が吸湿してくれるだろう。結果は来年の夏に判明する。天井材はコストをさげるためにカンナ仕上げのない杉板を釘打ちとした。(図2)(写真4,5,6、7)

床板について
2階の床板は杉板30㍉、1階の床板は杉21㍉である。杉板比重は0.3~0.4と軽いので、空気を沢山含み、足裏の接触面から熱を奪うことが少なく温かい。スリッパはなぜはくのだろうか。理由は①床が汚れている場合、②床が冷たい場合、③人の足が汚れているか水虫の場合が考えられる。木材は人が歩けば油で艶がでる。人間ワックスと呼んでいる。スリッパを履けば、スリッパの表面が柔らかい杉床を削り毛羽立つことがあるので、スリッパなしがよい。スリッパが好きな人は来客時、水虫保有か否かを問うてスリッパを出すようにするとよいかもしれない。
  また、2階の床板は1階の天井板である。2階の僅かな音も1階に聞こえる。2階は普通、子供部屋か寝室である。自分の子供が騒いるのが聞こえることがいけないことだろうか。床の遮音性がよいことは、住宅の性能がよいことではない。(写真8)(つづく)

図1
 
写真1:乾燥してヒビがはいれば全体は収縮しない

 

写真2:わたり顎や重ね工法は材が収縮しても階高が縮むだけ。
写真3:クロジンは欠点だろうか
 
図2
 
写真4:吸気穴にはステンレス網
写真5:鉋屑断熱材
写真6:天井の断熱材
写真7:納戸の断熱材は杉板目透しで押さえている
写真8:2階の床板が1階の天井板
 

建築ジャーナル 2013年11月号掲載

あたしの家からわかる建築のマコト その4

構造
構造計算には①壁量計算、②許容応力度計算、③許容応力度等計算、④保有水平耐力計算、⑤限界耐力計算、⑥エネルギー法による計算、⑦時刻歴応答解析がある。
普通、住宅程度であれば①壁量計算が多く採用されている。①壁量計算はチェックリストみたいなもので構造計算の範疇には入らないだろう。以下に例を示す。一階が100㎡の総二階の建物を想定しよう。構造耐力として壁倍率という数値があり、筋違いには1.5、2、3,4倍率と4種類がある。まず、延べ面積に0.33を掛ける。100㎡の場合は33となり、この数値がボーダーラインだ。この家に壁倍率4の筋違い壁を9枚入れると4×9=36となり33より多いので安全となる。非常に簡単な計算である。次に、限りなく平屋に近い二階建てを想定しよう。一階が100㎡で、二階が1㎡の場合でも同じ計算なので同じ9枚となる。建物の重さは倍半分違うのに必要耐力壁数が同じとは、どこかに問題があるだろう。土壁は更に重いのに同じ扱いだ。(図1)また、9㎝角の柱も24㎝角の柱も同じ扱いになるので昔からの大工は壁量計算を否定する。土壁の場合や、軒が長い場合は、建物の重さを割り増して自己流で使うなら壁倍率計算も簡単にチェックできるのでよい。だが、伝統的構法の家の耐力要素は土壁・板壁・木づり漆喰・足固め・貫・差し鴨居である。土壁と板壁だけだったら①壁量計算や②許容応力度計算でよいが、木づり漆喰・足固め・貫・差し鴨居を構造耐力にすれば⑤限界耐力計算で計算しなければならない。これは、実験値による性能を証明すればよいので、仕様規定のほとんどが排除できる。しかし、建築確認申請に適合性判定まで追加になり申請料も8.6万円の追加となる。同じ建物なのに、計算の方法の違いで、アンカーボルト設置が不要になったり、全箇所にアンカーボルトを設置しなさいとなることに納得できない人も多いであろうが、限界耐力計算の場合はほとんど引き抜きが発生しないという結果になる。

安全限界
限界耐力計算は損傷限界と安全限界で検証する。まず、家の傾きをラジアンで示す。横架材間距離が3mだった場合、3㎝傾いていれば、30㍉/3000㍉=1/100ラジアンとなる。震度5ぐらいの地震力を加えると1/165という計算になった。1/120以下ならほとんど家に損傷が出ないというのが「損傷限界」である。次に震度6強の地震力を加えると1/26という計算結果だった。(表1)1/20以下なら、土壁に大きなひび割れが生じ、軸組にも木材のめり込みによる損傷は生じるが、倒壊は免れるというのが「安全限界」である。合板や筋交の場合は1/30が安全限界であるが、土壁・板壁・木づり漆喰・足固め・貫・差し鴨居の場合は1/20が安全限界としてもよいことになっている。(ただし書きはあるが)

基礎高300㍉以上という法律
建築基準法は非常に細かく、箸のあげ降ろしまで規定している。事件事故が起こるたびに条文が部分的に強化され、全体で見ると訳の分からん法になってしまっている。それを訳の分からん人がコンプライアンスと言いだすものだから困ってしまう。指導する方もされる方も基準法の真の意味は理解せず、言葉を守ることに精を出し、言葉を過度に守れば、手厚い仕様の良い家ができると思っている。ホールダウン金物がいい例である。引き抜きが発生しない場所に、いくら頑強なアンカーボルトやホールダウン金物を設置しても全く効果はない。また、「基礎の高さは地上部分で300mm以上にしなさい」と平成12年告示1347号で追加された。本当の意味は建物の軒が短くなったので、土台等の耐久性を守るために新設されたものだが、告示は基礎の強度の項目で規定しており、本来の目的の規定ではない。基礎の高さが地上部分300㍉確保できない場合は、本来軒を長くするとか、付庇をつけることが対策になるはずだが、強度で規定されているので、耐久性の性能をあげても告示を守ったことにはならない。変な話だが、構造規定なので、立ち上がり300㍉以下の断面の構造計算をすれば仕様規定は免れる。
このように建築基準法はクリアーしても、住宅の場合は瑕疵担保履行法がある。瑕疵担保履行法は建築基準法以上の要求はしないことになっているが、設計施工基準6条に「基礎の立ち上がり部分の高さは、地上部分で300㍉以上」とあるので判断が難しい。耐久性の規定か構造の規定かまたもや問題となる。瑕疵担保履行法の検査では軒を長くしているとか、庇を付けているとか、足固めの高さが地表より300㍉以上とか耐久性上の問題として扱う必要がある。(写真1)

床下換気
最近基礎断熱工法が流行っている。基礎部で断熱工事した方が温熱効果が高いという研究結果からだ。というのも地中の温度が夏、冬共に16℃と安定している。それで床下を室内空間とすれば、床下を外部に晒すより熱の逃げが少ないと新発見したように言う人がいるが、日本人が知らなかったわけではない。竪穴住居の基本原理は基礎断熱である。アイヌのチセもそうだ。あたかも発見したごとく基礎断熱を新工法として薦めるが、断熱専門家の方はシロアリを知らない。縦割り分業学習は怖い。断熱専門家はシロアリのことはどうでもよく、断熱効果が問題だ。シロアリ専門家は人の健康はどうでもよく、防蟻施工が問題だ。部分部分で専門家に相談するのは良くないことが多い。専門家は総合判断の目がないからだ。断熱・シロアリ対策・防湿のことを考えると基礎断熱はシロアリ多発地方には良くない。基礎断熱はシロアリにとって絶好の招致装置となる。床下の空気が動かない快適空間で、断熱材があれば蟻道をつくらなくてすむのだ。シロアリ対策は何と言っても風を動かすことだ。地中生物が一番嫌う。シロアリの多い地方の家づくりは昔から床下を高くした。シロアリの生態を熟知している岡崎技研の神谷さんの話を聞いても、断熱学者さんのサーモグラフィーを見せられて基礎断熱を採用してしまう風見鳥の設計者には閉口してしまう。
床下はオープンにしたい。最近の世の中は物騒で床下に火でも入れられたら、家丸ごと跡形もなく燃えてしまう。敵の多い我が身において放火の可能性は高い。ゆえに換気口の隙間を20mmとした。20mmの隙間では蚊は勿論のこと蛇も入ってくる。妻は蛇が入ってくるのはいやなのでもっと狭くしてくれと言ったが、狭くしたら中の蛇が出れないではないと説明したら妙に納得した。完全開放である床下は全面収納場所でもある。床下収納庫なる既製品があるが、費用も結構高い。蓋だけにして床下1面を収納にした方がよいと思う。
(床下換気の写真は次号にて)   (つづく)

図1:総二階建ても平屋に近い二階建ても同じ筋違量である。

表1
横線が変形角(ラジアン)縦線がせん断力である。
建物の復元力特性(地震に抵抗できる力]と震度5及び震度6強のスペクトルが交わった点を見ると震度5の時が1/165(18㍉の傾き)で、震度6強の時が1/26(115㍉の傾き)となる。

写真1
床高300㍉以上の規定は耐久性向上のためである。

建築ジャーナル 2013年12月号掲載

あたしの家からわかる建築のマコト その5

気密について
夏を旨とする伝統構法は適度な隙間をその利点としてきたが、最近、省エネ法により断熱・気密が叫ばれるようになって、欠点と言わんばかりになっている。土壁と柱の隙間から雪が降り込むとか、部屋の気温が氷点下に下がり茶碗に入れた水が凍るとか、伝統構法は「おしん」に出てくるような家で我慢して住まなければならないと、高断熱高気密愛好者にとって恰好のマイナスイメージキャンペーンとなっている。
昔の家は、畳の通気や藁屋根の通気も換気の一部であり、換気扇など廻さなくても清浄な空気が常に保たれていた。しかし、それらは今、漏気と称して嫌われている。換気と漏気は同じものであるのに、片方の漏気を嫌うのは計算できないからだ。本来、自然なものの動きは汚染水と同じくコントロールできない。コントロールできる空気は、気密性をあげ、決められた吸気口から吸気し、決められた排気口から排気する場合だけである。換気扇の場合は、理論と実際が一致する。我々は計算に合わせて生活しているのではない。

気密の定義
気密性を示す指標に隙間相当面積(C値)がある。10㎡の広さの部屋(約4.5帖程度)に隙間が10㎝2(1㎝×10㎝)ある場合、C値は10㎝2/10㎡=1㎝2/㎡と表現する。床面積が基本であるが天井が高い場合は体積も影響するので補正値がある。「気密」とはC値が5以下で、「高気密」とは2以下をいう。気密性が低い場合を低気密と表現したりするが、C値4~5をいうのか5~10を指しているのか定かではない。
シックハウス法は家の空気環境を良くするため、換気扇による換気に頼る法律だ。法の中でC値15以上の場合は隙間が十分にあるので24時間換気扇は不要としている。
気密住宅と言われるC値5程度の家で実際に換気がなされているかの実験があった。トイレに排気専用の24時間換気扇を設置し、隣接する居室の換気回数を調べるものだった。結果は居室の換気回数はゼロだった。C値5程度の家ではトイレ近くの壁などの隙間から吸気し、居間に設置した計画吸気口からは全く吸引されず、換気は行われていないことが明らかになった。効果の無い事が証明されたが、効果ゼロの悪法も法なりで守らねばならないもどかしさがある。

気密と換気回数
換気回数は1時間に空気が入れ替わる回数をいう。CO2濃度が1000ppmを超えると健康を害するので、0.5回/時以上の換気回数が必要である。計算は単純で、家の体積を24時間換気扇の能力で割り換気回数を算出するのである。換気回数は、隙間相当面積と家の内外の温度差や外部の風速に影響される。隙間相当面積から換気回数を算出したものを別表1に記す。
この表を基本に換気を考えてみる。外気温との差が少ない季節は窓を開ければよいので問題ない。室内と室外の温度差が10℃以上の場合は窓を閉めるので、C値8の家では換気回数0.48回/時となり、0.5回/時には達しないので換気扇が必要となる。換気扇なしできれいな空気を得るにはC値9以上必要となるが、隙間相当面積が大きすぎて暖房的に不利ではないかを検証してみる。C値15の家では1.0回/時となり、0.5回/時より0.5回/時分多いことになる。その分のエネルギーロスはいかほどだろうか。Q値は0.5増えることになる。事業主判断基準の計算式に当てはめてみよう。0.5回/時のQ値は0.5増えることになるので、Q値2.7をQ値3.2にした計算式に当てはめることができる。代入すると、年間暖房エネルギー消費量は2GJ増える。24時間換気扇の年間エネルギー消費量は4GJなので、気密化しないで24時間換気扇を付けないほうが実は4-2=2GJ分の省エネとなる。
隙間相当面積とはいわば漏気量のことである。漏気は建具や床、壁、天井の隙間から出入りする。温度差のある断熱材付近での漏気は結露を発生させやすい。土壁などの吸湿材であれば結露水を吸収するが、吸湿性のない断熱材は要注意だ。湿気が壁の中に侵入しないようにビニールシートを目張りしなければならない。腕のよい大工がきっちり作れば気密はできると言う人がいるが、果たしてそうだろうか。木材は伸び縮みする。そこで、きっちりした箱をつくり水を入れてみた。ご覧の通りダダ漏れである。(写真1)桶だって乾燥させれば漏る。伝統構法の家の気密施工の限度はC値10程度ではなかろうか。

気密の測定
気密測定は重装備な機器がないと計測できない。建物を密閉した状態にして強制的に送風機で空気を送り込み、どの程度空気が逃げるかを測定する。(隙間相当面積は、漏気量から隙間面積を推定していることから「相当」と表記する)。測定方法には決まりがあり、間仕切り壁はすべて開放し、窓の内側につける内障子をも開けて測定する。寒さ対策で内障子を付け、玄関からの冷気侵入防止に玄関と居間の間に建具を設けているのに、「開け放し」で測定するのでは意味がないではないか。これはフランスやドイツと基準を合わせるためだ。全館暖冷房が多いフランスやドイツの基準を、部分冷暖房の日本に当てはめるべきではない。玄関と居間の建具は閉め、障子も閉めて測定すべきだ。C値22の家の障子を閉め、普通の生活状態で計測すればC値15となった。

漏気
床板の隙間、柱と壁の間、梁と桁の間、天井板の隙間、建具と枠と隙間、一番多いのは引違戸の戸車部の隙間だろう。アルミサッシュの枠と建具の隙間が上と下で5mm空いているとしよう。100㎡の家で2 mサッシュが6 個あれば、合計で1200cm×0.5cm=6.0 ㎝2/㎡となる。これだけでC値6である。漏気を少なくするためには、引違い窓をやめ、窓の数をすくなくすればよい。玄関もドアーがよいことになる。過度な気密性能追求が引違窓文化の日本にとって恐ろしいことになりそうだ。C値10~15の家をスカスカのおかしい家と表現し追放する気運である。私の家はそのおかしい仕様である。

(キャプション)
内外の温度差が5℃の場合は窓を開けるので、漏気による換気量は無視(-)し、24時間換気扇も不要(×)とした。気密住宅には24時間換気扇は必要である。

隙間相当面積㎝2/㎡
粗度係数
外気温との差
外気の風速
換気回数
漏気による
換気量
24時間換気扇
5
0.4
15℃
2.7m/S
0.36
不足
7
0.4
15℃
2.7m/S
0.49
不足
7
0.4
10℃
2.7m/S
0.43
不足
7
0.4
5℃
2.7m/S
0.36
×
8
0.4
15℃
2.7m/S
0.55
充分
×
8
0.4
10℃
2.7m/S
0.48
不足
8
0.4
5℃
2.7m/S
0.41
×
9
0.4
15℃
2.7m/S
0.61
充分
×
9
0.4
10℃
2.7m/S
0.53
充分
×
9
0.4
5℃
2.7m/S
0.45
×
11
0.4
15℃
2.7m/S
0.72
充分
×
11
0.4
10℃
2.7m/S
0.63
充分
×
11
0.4
5℃
2.7m/S
0.54
×
13
0.4
15℃
2.7m/S
0.83
充分
×
13
0.4
10℃
2.7m/S
0.73
充分
×
13
0.4
5℃
2.7m/S
0.62
×
15
0.4
15℃
2.7m/S
0.94
充分
×
15
0.4
10℃
2.7m/S
0.83
充分
×
15
0.4
5℃
2.7m/S
0.7
×
17
0.4
15℃
2.7m/S
1.05
充分
×
17
0.4
10℃
2.7m/S
0.92
充分
×
17
0.4
5℃
2.7m/S
0.78
×
写真1

建築ジャーナル 2014年1月号掲載

あたしの家からわかる建築のマコト その6 薪ストーブ

床材

床暖房を採用している。無垢板は暖房時、乾燥し収縮して隙間ができるのは当たり前であるが、それ故に無垢板は床暖房に適さないと思っている人が意外と多い。床暖房専用無垢材の工業製品は存在する。幅75mmと細くチークなどで素足生活者には適さない硬木であったり、湿度で収縮しないようにウレタン塗装をしっかりしたものだ。木材というより、木目柄のプラスチックとそう変わらない感じである。木材は乾燥すれば収縮し、湿潤すれば膨らむ。135㍉幅の床材でその伸び縮みは3ミリだろう。冬の床暖房時の隙間は梅雨時には元に戻る。少しの隙間も我慢できないならば無垢材を使うことはできない。

床暖房
 床暖房は床下を暖めているようなものだと環境専門家にはすこぶる人気が悪い。しかし、頭寒足熱というように、頭のあたりは室温14℃でも、足元が25℃であればそう寒さを感じない。人の適温は18℃ぐらいと聞いたことがある。(元ネタ不明)。省エネ法では室温20℃を基準にしている。床暖房の熱源であれば、高さ1.2mの位置の室温を20℃にするには相当の暖房エネルギーが必要となるのは容易に想像できるが、実際にはそこまで暖かくする必要はない。2020年までには新築全棟義務化される省エネ法の1次エネルギー消費量の計算式に床暖房をいれると、わが家の場合で、3~4倍のエネルギーを使ったことにされてしまう。これは冤罪としか言いようがない。そもそも、人間の感覚や生理機能は複雑で室温だけでエネルギー効率を判断するのはあまりに一元的過ぎる。環境専門家の方も人の健康のことに興味を持ち、人の生理や感覚のことも勉強していただきたい。エアコン、床暖房、薪ストーブでは、各々放熱状態が全く違い、さらには人の感受性まで影響するのに、地上1.2mの高さでの空気温20℃を基準にしていいのか今一度考えてほしい。省エネ法の基準で有利な暖房機器は高性能ヒートポンプエアコンである。これは国が進める成長戦略、内需拡大の路線と一致する。部分暖房の家でエアコンを快適暖房だという人は少ないが、床暖房や薪ストーブが快適であるという人は多いのだ。

薪ストーブとペレットストーブ
薪ストーブにしようか、ペレットにしようかと迷ってしまう。それで薪とペレット兼用のストーブを採用した。ペレットストーブにはファンで強制排気をするタイプとペレットをただ燃やすだけのタイプがある。
ペレットの特徴は、

  1. 薪の場合は供給元を探すのが大変だが、ペレットはお金を出せば手に入る。お金を出せば配達してくれる。もっとお金を出せば宅配で玄関まで届けてくれる。
  2. 燃料の大きさや水分量が一定なので、ある程度使用すれば燃焼時間が習得できる。薪の場合は、樹種、大きさ、含水率で燃焼時間に5倍くらい差があり、燃焼温度にも気を配らねばならない。
  3. 強制ファンなので煙突が要らない。薪ストーブは本体価格が30万円でも煙突が30万円かかってしまう。煙突の先端は屋根より高くするので、掃除が大変である。又、壁から煙突を出すと曲がり部分が最低2か所はできるので詰まりが起きやすい。(いままで26件設置したが壁出し煙突の家は2例しかない。2施主とも大変ではないと言うのでわが家でも採用を試みる)煙突が要らない利点の反対にはファンの掃除が要る。煙突の掃除とはわけが違う。細かい部品もあるので、石油系の溶剤が必要となる。
  4. ペレットの供給が自動で行われるので手間がかからない。燃料が石油からペレットに変わっただけのファンヒーターと言う人もいる。ファンで排気もするが、熱風も出るので音がでる。うるさいと思う人もいる。

薪ストーブとペレットの兼用タイプについての考察。
燃料としてペレットが燃やせるというだけで、③、④の装置はない。供給も自動でなく、スコップみたいな器具でストーブの扉をあけて供給しなければならない。問題は薪ストーブの細かい装置がないのだ。薪ストーブは夜寝る前に薪を2~3本いれて吸気穴を絞れば、朝方までほのかに温かい。兼用だとその細やかな装置が無いため、吸気穴を絞っても2~3時間で薪が燃え尽き、消えてしまう。また灰が自動的に下に落ちるような装置があるにはあるが、うまく落ちない。さらに、薪ストーブの煙の中にもまだ燃焼物が残っているので、煙の有効利用で2次燃焼させるものがあり、完全燃焼に近いので煙も透明に近いが、兼用には2次燃焼装置がないのだ。薪・ペレット兼用をみると、ただペレットを入れる鉄のカゴがあるだけだった。
 わたしの結論は、2次燃焼が付いた薪ストーブを購入し、2重煙突をつけ、兼用ストーブのオプションカゴを28000円で購入し、ペレットを薪ストーブで燃やすこともできるという策が良いと思う。

燃料について
大体一束500円である。1日2束使うと1日1000円で、暖房日が90日あれば9万円となる。決して安くはない。建築廃材をもらえば只である。あくまで廃材であるので、自分で燃やせるように手間をかけなければ使い物にならない。
針葉樹と広葉樹では火持ちが違う。針葉樹はすぐ燃えてしまう。九州の山は8割が針葉樹で、建築廃材となれば針葉樹が主である。針葉樹は高温になりすぎると窯を痛めるので、注意が必要だ。

薪ストーブは煙突から煙が出る。ある意味で24時間換気扇なのだ。別に24時間換気扇を付けている家は換気扇を止めたほうが良い。されど、止めたら違反になるので推薦した私も補助罪(?)に問われるのかな。

新聞紙から薪を作る

薪ストーブ用の燃料の調達は大変だ。新聞紙で薪ストーブ用の燃料をつくる機械がある。
紙薪つくり器 紙与作 (TEL:0120-439-414) 
新聞紙が紙の薪になる。木の薪の補助材として幅広い用途で使用。
※約6,000円(税込・送料込)
[用意するもの] 
紙与作・新聞紙20枚・軍手・水(または湯)を入れたバケツ

1. 新聞紙を水に浸して細かくする
2.新聞紙を均等に敷き詰める
3.体重をかけて水分を出す
4. 本体から取り出す
5. 一週間から10日ほど乾燥させる
6.完成

1ヶの重さは500グラムである。杉柱10㎝分である。労力の割には効率が甚だ悪い。作製の労働は、アスレチックやジョギングなどと同じ運動と考えなければならない。アスレチックやジョギングなどは益を生まないが、運動の結果として新聞紙燃料が生まれると思わないとやりきれない。新聞紙の印刷塗装は特殊なので使えるそうだが、他の印刷物はわからない。電話帳も似たようなものだ。年末は電話帳交換で電話の台数分の廃棄物がでる。電話帳はそのまま燃やせないのだろうか。どなたかテストを。

建築ジャーナル 2014年2月号掲載

あたしの家から分かるまことの家づくり  その7

玄関部の持ち送り
北側の玄関前に車庫を配置したので、玄関までのアプローチが狭くなってしまった。道路からのアプローチに邪魔にならぬようポーチ柱を内側へ寄せる必要があった。持ち送り梁を付け、建物から0.25P(約25㎝)の位置に柱を設けた。持ち送り梁で屋根荷重は対処できても風の吹き上げには役に立たない。そこで、建物の本体から梁間方向の桁を伸ばして吹き上げ時の押さえにした。玄関柱は屋根荷重しか負担しないので石の上に乗っているだけである。(写真①)

郵便受け
郵便受けを門柱付近に付けると、雨の日に郵便物を取りにいくのは大きな家ほど厄介である。その点、小さな家は郵便受けまでの距離も近くてすむので多少は便利であるが、外壁の壁に郵便受けの口金をつければもっと便利である。(写真②)郵便物は玄関横の物入の中に落ちるようになっている。普通、口金を外から開けると家の中が覗けるが、物入れの中だと覗かれてもかまわない。とにかく郵便物や新聞が家の中にまで届くのはありがたい。(写真③)

玄関は最小限に
・玄関土間は幅3尺しかないので、人一人しか入れない。家の中に入って内玄関で二人並ぶような客はめったに来ない。家に上がる場合でも、一人ずつ上がればことは済む。玄関の幅は6尺も要らないが、玄関引き戸の引き代が必要なので6尺となった。外部の踏み石を内部まで続けたため、僅かに残る土間にタイルを貼るのは割に合わないので、黒那智石を敷き込むだけした。(写真④)
・玄関土間周囲には、玄関巾木も兼ねた構造材の足固めがある。足固めと土間レベルの隙間は10㍉程あけている。(写真⑤)これは、白蟻対策である。玄関からの白蟻侵入は多く、基礎立ち上がりにモルタルを塗ったりタイルを貼ったりすれば躯体との間にできる隙間が白蟻の侵入経路となってしまうので、構造材はそのまま見せる。仮に白蟻が侵入したとしても、土間と木部の10ミリの隙間に蟻道が露呈するので発見が容易となる。
・玄関の土間と上がり段は低いほうがよい。240㍉以下が望ましいが、足固めが土間に埋まらないためには330㍉になってしまう。式台を置くには狭すぎるので石を2段に敷いた。これで1段が165㍉となり上がりやすい。(写真⑤、⑦ )
・下駄箱のカウンターは古材。扉は杉柾目のハギ材とした。幅が狭い場合は框式より安くつく。建具幅が広いと反りやすくなる。ハギ材扉の価格は1枚6000円だが安いと思うか高いと思うか。(写真⑥)
・玄関照明はブラケットの1灯のみだ。玄関は狭く、本を読んだりしないのでこれくらいの明るさで充分である。玄関の玄には暗いという意味があり、暗いがよいと昔誰かが言っていた。(写真⑥)
・玄関引き戸は戸車があるためレールと下框の間が2~3分(4~6㎜)開いている。隙間風は防ぎようがない。玄関は温熱のバッファゾーンの役目をするので玄関自体を区画してしまえばよい。バッファゾーンとした場合は、玄関から直接トイレや浴室にいく通路式は好ましくない。(写真⑦)

すだれ式扉の物入
・物入や押入の建具の框にすだれを落とし込む簾框戸である。押入や物入は空気が動きにくいので湿気がこもりやすい。そうなると湿気を好むカビやダニが繁殖しやすい環境になる。すだれ式にすれば湿気がこもりにくい。ただし、部屋の湿度と同じになるゆえ、梅雨時は物入れだけを高湿度から守ることはできず、注意が必要である。内壁には杉の無垢板を張っているので、吸湿はしてくれる。(写真⑧)
・家庭内の物は布団以外に3尺もある品物は少ない。間口/奥行ともに3尺の物入は、奥にしまいこむと見えなくなり使いにくい。そこで、コの字型に棚板を配置した。奥まで物が見渡せるので腕を伸ばせば手は届く。収納量はかなりUPする。コの字棚板は左右の棚だけを固定し奥の棚はのせているだけである。(写真⑨)

北の座敷
・今時、来客のための座敷は要らない。客との応対は近くの喫茶店で済ませてしまう。親しい客は居間に通す。座敷は客の宿泊、予備室、仏間、季節の飾り間の用途なので、北に配置した。北へ向けて掃出し窓にして、縁側をつけ、北のバックヤードに続く。南の居間と連続しているので、風の抜け口としても大きな役目を果たす。(写真⑩)
・座敷は3畳分しかないが、3枚引戸を開け放てば廊下に敷いた1.5畳の畳とつながり、4.5畳に見えてしまう。(写真⑫、⑬)
・床の間の垂れ壁には妻の実家から譲り受けた欄間を再利用した。古材との調和は程よい。壁の土塗仕上げも土壁と同じ宇城市小川の土を使用している。土をふるいにかけると濃くみえるのはなぜだろうか。一部の壁を木ズリに土塗仕上げとしたら、下地の木ズリを拾ってしまった。土壁は貫下地を拾うこともあるので気にすることはない。(写真では見えない)
・床の間の一部に小さな仏壇を造った。扉は古建具である。幅1.5尺、奥行5寸しかないが、奥行1.5尺の床の間になんとか納まっている。(写真⑪)
・北の障子は断熱性能をあげるために紙を両面に貼る太鼓貼りにしている。木製ガラス戸と障子の組み合わせはU値4.3とペアガラスより性能は良い。太鼓貼り障子は更に良いと推測する。Low-Eガラスより性能は良いはずだ。(写真⑫)
・夏になり、北側の木製引込戸を開け放つと、座敷の間口9尺のうち6尺がオープンになる。北の隣家のモクセイの木が程よい借景となるうえ、北の緑は夏季の冷輻射効果を期待できる。北の庭づくりに我が家の女性陣(妻と娘)は勿体ないと理解してくれない。輻射熱の説明は難しい。冬の輻射はハロゲンヒーターで説明できるが、夏の冷輻射は説明困難だ。夏になって体感したら理解してくれるだろう。(写真⑬)

 
 

建築ジャーナル 2014年3月号掲載

あたしの家から分かるまことの家づくり  その8

階段
・階高は2400㍉と一般の家よりかなり低い。低いと階段の段数が少なくすみ、すぐ2階にあがれる。部屋の真ん中にあってもオープン階段にするとスペースも取らず圧迫感もない。又、風は縦横無尽に抜けるので、障害にならない。ただし、2階に上がる人を下から覗けることになってしまう。その手の趣味のある方には喜ばれるかも。(写真①)

洋室1
床下吸気口

・床下点検口を兼ねる吸気口である。床下は室内より2~3℃温度が低いので、夏は解放して利用する。床と同レベルに網戸付の格子枠をはめているので、蚊の侵入もないし、床下への落下の心配もない。空気は冷たい方から暖かい方に動くので、床下の空気が室内へと流れ込む。夏季は重宝されるが、冬は冷たい風が室内に入ると困るので断熱材付の蓋に変えるようにしている。(写真②)
・京町家では夏と冬で建具のしつらえを変えるが、建具を入れ替えるより簡単で場所も取らない。蓋の隙間から冷気が入る場合があるが、気にする人は蓋の上に座布団でも置いておけばよい。
・この家は防蟻用薬剤を施していない。白蟻対策の詳しい内容は過去の号を見てほしいが、床下の点検は必須である。白蟻が蟻道をつくる9月ごろには床下に潜り点検しなければならない。床下は狭いので移動が大変である。ホームセンターに売ってあるキャスター式のすのこ板は安くて便利である。価格は598円と甚だ安い。(写真③)

透き戸
・透き戸は、正式名称を目板格子戸という。目板の幅は12ミリ~24ミリ位で隙間を3~6ミリ位あけて裏桟に鉄の太鼓鋲を打ちつけた格子戸のことである。通気性があり収納部の建具には都合がよいが、個室の入り口にはその隙間があっては困るので、反対側から紙を貼っている。(写真④)

レトロなガラス戸
・東に面している古建具は大正~昭和初期のレトロなガラス戸である。その昔大きなガラスは高価だったため、小間割のデザインが生まれたのだろう。枠と枠の間に入るガラスの種類を変えられるし、割れても一コマだけ交換できるので安くつく。内側の障子もガラス戸にデザインを合わた。(写真⑤)
・外部の木製面格子は24ミリの小間返しで、窓を開け放しても外からは家の中がよく見えない24㍉は絶妙な寸法である。(写真⑥)

一引き木製建具
・南側の腰窓は木製建具にした。木製建具は開口幅を自由に設計できるが、費用が高くつく。幅が1400㍉程度の開口なら通常なら引違とするが、一引き建具にして費用を下げた。外部側に雨戸、網戸、ガラス戸、そして内部側に障子が一般的であるが、この開口部では外部側にガラス戸、内部側に襖、網戸、障子とした。外部側の建具は防寒や水切りの装置が必要だが、内部側とすれば不要となるのでその分コストがかからない。防犯上の観点からも泥棒の心理として外部のガラス戸越しに中の襖戸が見えれば、ガラス戸を破っても襖戸を破壊できるかどうかわからないので、この窓は狙わないだろう。願わくば隣家に行って欲しい。襖は断熱性があるので予期せぬ付加価値もある。(写真⑦、⑧)

居間
・敷地の西側に川があり、桜並木が続いている。春の桜を楽しむために南西に大きく窓を設けた。(写真⑨)
・むろん、西の開口部からは西陽も入る。西陽は室内ブラインド等では防ぎようがない。そこで、ガラリ網戸とした。(写真⑩、⑪)
・南の大開口部の網戸は格子網戸としている。格子網戸にすると、中からは外の様子がうかがえるのに外からは中が見えない。木製建具は気密性が低いので内側に障子をつけた。大きい窓をペアガラスにすれば重くて開けづらい。シングルガラスに内障子を付けた場合の断熱性能はペアガラスの性能よりいい。冬季、障子は閉めるが、外の様子も見たいという願望もあるので猫間障子とした。厚さ30㍉に引違障子が2枚組みこんであるのでかなりの細技である。出来上がってみると、4.5尺幅の障子に猫間を採用するのは少し無理がある。(写真⑫)
・階高は2400㍉と低い。よって天井も低い。天井が低いと目線は横に伸びる。その視線の先に大開口があり、外へと視線がぬけ、外部と内部が一体となる。別の言い方をすれば、目線が水平に伸びれば天井の低さは気にならないと言える。また高さが低いと地震対策にも有利となり、建築コストもわずかだが抑えられる。
・古建具(高さ1727㍉)を多用している。建具上部の垂れ壁も間延びせず、バランスがよい。昔のひとは良く考えている。住人の身長が高い場合は考えなければならない。(写真⑬)
・昔の腰付障子の腰板には杉の柾目板が多い。障子の骨が折れていて修理が高くつくからと捨ててしまうのはもったいない。腰板部分だけをストックしておき、厨房カウンター下の物入れ建具として利用した。腰板の高さは、八寸腰(24㌢)尺腰(30㌢)、尺二腰(36㌢)と決められているので、同じ障子でなくとも高さが揃う。(写真⑭、⑮)

居間
・家の梁間方向は7.5Pである。南から3Pと4.5Pの位置に受梁を入れた。4.5Pの受けには古材を使った。100年ぐらい経過した古材だ。表面から1㍉程度は傷んでいるが、まだ充分に使える材料である。松材なのでよじれていてヒビも多い。そのことは欠点ではなく特徴である。よじれや曲がりは扱いにくいので、工夫して扱った日本の大工の腕は上がっていったのだ。プレカットばかり扱っていると大工の腕は落ちる。ハンバーグばかり食べていると顎の力が落ちるのと同じである。(写真⑯)  横長の写真へ
・南西からの入る風が北東の座敷の方向に流れていく。3本溝の3枚戸の2枚分は開けられるので、風の流れはスムーズである。(写真⑰) 横長の写真へ
・居間の北に洗面脱衣所がある。浴室の湿気が洗面に流れ、その湿気を居間に呼び込むための建具がある。持て余す浴室の湿気を乾燥しすぎる居間へと流す。冬の乾燥期にこの小窓を開けると5%ぐらい加湿してくれる。(写真⑱)  欄間の拡大
・小窓の西側の壁は便所の目隠し壁である。インターホンやボイラーリモコンを付けているが壁の反対側につけるべきだった。
・家の中心に居間がある。この居間から洗面浴室へ、居間から便所へ、居間から座敷へ、
居間から玄関へ、居間から台所へ、居間から寝室へ、居間から2階へと続く間取りである。

 
 

建築ジャーナル 2014年4月号掲載

あたしの家から分かるまことの家づくり  その9

居間
・家の梁間方向は7.5Pである。南から3Pと4.5Pの位置に受梁を入れた。4.5Pの受けには100年ぐらい経過した古材を使った。表面から1㍉程度は傷んでいるが、まだ充分に使える材料である。松材はよじれていてヒビも多いが、そのことは欠点ではなく特徴である。よじれや曲がりは扱いにくいので、工夫して扱った日本の大工の腕は上がっていったのだ。プレカットばかり扱っていると大工の腕は落ちる。ハンバーグばかり食べていると顎の力が落ちるのと同じである。(写真①)  
・南西からの入る風が北東の座敷の方向に流れていく。3本溝の3枚戸の2枚分は開けられるので、風はスムーズに流れる。(写真②) 
・居間の北に洗面脱衣所がある。浴室の湿気が洗面に流れ、その湿気を居間に呼び込むための建具がある。持て余す浴室の湿気を乾燥しすぎる居間へと流す。冬の乾燥期にこの小窓を開けると居間の湿度は5%ぐらい上がる。そうすると体感温度も1度ぐらいあがるだろう。(写真③)  
・小窓の東側の壁は便所の目隠し壁である。インターホンやボイラーリモコンを付けているが壁の反対側につけるべきだった。
・家の中心に居間がある。この居間から洗面浴室へ、居間から便所へ、居間から座敷へ、
居間から玄関へ、居間から台所へ、居間から寝室へ、居間から2階へと続く間取りである。

洗面所
・高気密高断熱の優位性を訴えるために、最近特にヒートショックが話題に上がる。厚生省統計の家の中での事故死者は14000人と発表しているのに、高気密高断熱推進の方々はヒートショックの死亡者数を17000人と報じている。死亡者の頭の数ではなく、指の数でも数えたのだろう。確かに洗面所が寒いのはよくない。だからといって全館暖冷房を勧めるのはいただけない。それなら洗面所だけを局所暖房とすればよい。ハロゲンヒーターは遠赤外線の効果でスイッチを入れるとすぐ温かく感じる。洗面所全体を暖房せず、ハロゲンヒーター用のコンセントの電源に壁スイッチをかければよい。暖房時間が短いので暖房コストは安い。(写真④)
・洗面器に水を溜め、顔を洗う日本人は少ない。流水か別に洗面桶を用意する。すると底が丸い洗面器では洗面桶が置けない。そこで実験用の陶器を使うことにした。横幅が70㎝と大きいので横への水跳ねの心配もなく、木製のカウンターが使える。(写真⑤)
・洗面所は湿気が多いので収納棚には扉を付けたりせず、湿気をこもらせないようオープンにしている。収納扉を付けるより市販のカゴを置いておくほうが格段に安い。(写真⑥)

浴室
・掃除のしやすさ、水漏れの心配、保温性からユニットバスが主流となっている。リフォームのチラシの主流も定価150万円のユニットバスを80万円にしますというような内容である。石油製品で構成された商品なので20年も経過すればどこか悪くなる。毎年新製品が出るので、20年後の部品は1部品でも20種類となる。メーカーは保有期間の8年~10年程度しか在庫しないだろう。壁パネル1枚が破損してもユニットバス全体を替えることとなる。「修理します」の記事がない現在のチラシをみればわかるだろう。掃除のしやすさ、水漏れの心配、保温性よりも将来の修繕の可能性を選択し、現場造作の浴室にした。
最近の浴槽は人工大理石が多い。人工大理石はなんとなく聞こえがよいが、所詮プラスチックである。昔はポリバスと言っていたが最近はポリエステル系人工大理石と命名され、略して人工大理石と呼ぶ。私はホーロー浴槽を選んだ。ホーローは100キロ近い鉄の塊である。断熱がしっかりしていれば蓄熱効果も相まって保温性は抜群だろう。価格は人工大理石より4万円高いくらいだ(写真⑦)
・バスコートを眺める窓の大きさは高さ500㍉ぐらいがよいと思っている。700㍉以上あると外部の冷輻射を感じ寒い。(写真⑦)
・浴槽の外側に15mmの保温材がもともとあるが、更に15mm増量した。蓄熱の外側に断熱があれば、檜風呂とおなじお湯の柔らかさが感じ取れると思う。(写真⑧)
・床下のビール瓶を詰めた効果はあまりない。人に勧めるものではない。(写真⑨)
・壁板は杉の赤味材とした。檜板の半額である。合い欠きとし真鍮釘打ちなので板材の部分交換が簡単である。板材だと結露がないので、天井に勾配をつける必要はない。(写真⑩)
・建具とガラスの間は凹部に水が溜まりカビが生えやすい。建具の下框は浴槽側を切り落としている。ガラス受けがなく洗面所側からの強度が少ないのでガラスを強化ガラスにしている。(写真⑪)
バスコートの良さは日本人しか分からない。浴槽に浸るのは5分もないのに庭を造るとは。桜を眺める心境と同じである。1週間しか咲かないから愛でるのである。1月も咲き続けていれば桜の花の価値はないだろう。

便所
・近頃の便器には便利(?)な機能が付き過ぎである。蓋が自動で開閉したりするが、大きなお世話である。そんなに蓋を開けるのが面倒なら最初から蓋なしにすればよい。公衆トイレや医療用にはそもそも蓋は無い。洗面脱衣所の中にトイレがある場合は、人感センサーが付いていると、洗濯、脱衣、洗面時にもセンサーが働き、点いたり消えたりしている。省エネを声高に推奨している経産省なら、過剰設備の便器をまず取り締まってほしいものだ。一番安いウォシュレットにも人感センサーが付いているので、コンセントにスイッチをかけて使用時だけ電源が入るようにした。(写真⑫)
・紙巻器はステンレスかプラスチックしかない。市販品は3500円だ。大工に1日で10ヶを3万5千円でつくれるか聞いたら喜んで作るという。蓋の紙を切る部分が弱いので竹を象嵌(ぞうがん)してくれている。1ヶ3,500円の紙巻器の出来上がりである。(写真⑬)

 
 

建築ジャーナル 2014年5月号掲載

あたしの家から分かるまことの家づくり  その10

厨房
レンジフードの正面化粧パネルは結構高い。最近のレンジフードは掃除のしやすさをうたい文句にしているが、フード下からの掃除がしやすいだけである。排気ダクトの曲がりの部分の詰まりは依然と変わらないので、曲がり部の掃除は専門家に依頼しなければならない。メンテナンスの基本はまず「可視」が大事だ。そのために、曲がり部を露出させ見えるようにしておけば素人でも掃除はできる。どのような工夫かといえば、ただ正面化粧パネルを付けないだけのこと。曲がり部はトタンの銀色で見かけが悪いので、黒のスプレーで着色すると化粧パネルが無くても気にならない。(写真①)
ステンレスカウンターの長さが間取りの都合上3.4mとなった。既製品で3m以上あるシステムキッチンの価格は非常に高い。このカウンターはシンクが付いて10万円である。普通、3.4mの長さだと50万円は下らない。3.4mの長さの架台を大工がつくり、扉や引き出しは建具店がつくれば価格が極端に上がることはない。(写真②)
ガスレンジの選択は迷ってしまう。そこでガス会社の人に「あなたの家のガスレンジはどれですか」と聞いてみたら、「ハーマン製のダッチオーブン式」との答えだった。したがってその機種を選んだ。ガスレンジの下の収納は高さがとれないのでスチールラックを組み込んだ。便利かどうかは使ってみないとわからない。(写真③)

小屋裏
 1階の屋根に小屋裏収納をつくった。天井は低く小屋貫があり、収納量は多くはないが、建築費を考えれば費用対効果は高い。さらにコストを下げるために、板材は加工のない粗材のままにした。一般的に化粧の仕上げ材は1200円/㎡であるが、粗材だと600円/㎡と半値である。実加工がないので収縮したら3㍉の隙間ができるが、気になるほどのものではない。(写真④)
天井仕上げ材は10ミリの隙間をあけた。野地板が結露被害を受けている家が多いのでメカニズムを知りたく、各箇所に湿度計をいれて調査するためである。結果は1年後に報告したい。 (写真④)

バルコニー
昔の木造建築にはバルコニーはなかった。木造建築は微動するゆえ防水層が切れるので作らなかったのだ。鉄骨造の積水ハイムは40年前ごろから折板屋根の上にバルコニーを置き、屋上に庭をつくった。魅力的なバルコニーだった。木造建築業者も、積水ハイムに負けまいと収縮の少ないコンパネを採用し、防水シートを敷いてバルコニーを造った。そこに白いチェアーを置き、パラソルの下でビールを飲む姿に夢を抱いたが、予算の都合で90㎝幅となり、布団干し以外には使われないことになってしまった。使わないだけでなく、ゴミやほこり等で排水が詰まり、雨漏りの原因となった。内バルコニーが雨漏りに弱いのは、瑕疵担保保険会社が保障条件を10㎡以下としたことでも理解できるだろう。
 布団干し以外に利用しないなら、バルコニー式にするまでもなく、窓手摺の出幅を大きくすればよい。出幅は、50㎝は必要である。50㎝もあると腕木の強度が心配なので台輪を瓦の上に乗せることにした。和型瓦は山と谷があり山に乗せれば水切りは良い。念のため瓦と接する部分は杉の赤身材を使用している。(写真⑤)

太陽熱温水器
20年以上前、朝日ソーラーという会社は訪問販売で売り上げを伸ばした。それにより、九州の家の屋根にはたくさんの太陽熱温水器が付いた。しかし、19号・13号の巨大台風の到来で半分以上が屋根から落ちた。台風に弱く太陽熱温水器は6年ぐらいで原価償却するというが、屋根から落ちないことが条件だ。また屋根に乗せると家の外観も悪い。外観の悪さと取付方法の問題があるので、平地で場所が空いている北西の角に西向きにパネルを設置した。南向きではないので熱効率は悪いだろう。しかし、夏だけ使う場合、シャワーで済ませるぐらいなら湯量も少なくてよいし、湯温も40℃あれば充分である。南面に設置して50℃まで沸いたとしても、結局は水で薄めるので熱効率が高くても無駄になる。また、床面に置くとガラス面の掃除が簡単にできるというおまけつきだ。架台は耐久性上杉の赤味材でつくり、下の空間は薪置き場となる。(写真⑥)

配管
水道配管の耐久性は30年ぐらいだ。品確法では、新築時にさや管工法(さや管を入れてコンクリートに配管を直接埋設しない工法)を推奨している。管の外側にもうひと回り大きい管を付設するのでさや管費は通常の2倍となる。リフォーム時は間取りの変更が伴い、水回りの場所は変わることも多い。そのような場合、さや管工事は無駄になる。伝統構法の場合、床下に基礎の立ち上がり等の障害がないので、給水、給湯、排水管のやり替えは難しくない。床下から屋外給排水へのつなぎこみはデッキの下にしている。(写真⑦)。
配管が、壁の中にある箇所は杉板真鍮釘打ちにしている。釘を抜けば壁が開けれるので配管の交換はしやすい。品確法はさや管設置だけを規定し、施工が困難な立ち上がり配管の交換については問わないのはどこかおかしい。(写真⑧、⑨)

外壁
外部の仕上げで何が一番長持ちしているかという調査をしている人がいた。結論は板張りだった。単純に「木は長持ちする」ということではない。赤味を選定し、水切りを工夫し、腐れ部分の交換がやりやすいことが重要とのこと。外壁の仕上げ以上に軒を長くすることが一番よい方法だろう。外壁材料に頼ろうとすると結局高くつく。外壁材料に耐久性があっても目地が先に駄目になる。軒を長くし、外壁は交換しやすのがよい。外壁の板は縦張りが良いともいうが交換のことを考えれば縦の鎧張りがよい。さらに木裏を表にするとなおよい。(写真⑩)

勝手口戸
勝手口は、格子網戸とガラス戸にした。ガラス戸には障子を組み込んで、断熱効果と遮光を期待した。ほどほどの断熱性能なら、木製建具に内障子を付けた程度では結露しない。しかし、結露が発生してしまった。小細工をせず、障子は普通に離して設置すべきだった。作り変えるにはお金もかかるので、結露の仕組みをみる教材にでもしようと思う。(写真⑪)

デッキ
濡れ縁、サンデッキ、ベランダ、バルコニー、月見台、外縁と呼び名は様々である。木製の場合で、屋根がなく、雨がかかると寿命が短い。雨がかかる部分の耐久性は5~6年、軒内だが横雨がかかる部分は10~12年、完全に雨がかからない部分は20~30年と思っている。腐れやすい部分に防腐塗料を塗るという方法もあるが、腐れた部分だけ取り換える方が安いこともある。交換しやすいように簀子、蹴込み板等は日曜大工でも可能な単純な納まりである。簀子材は杉の全赤身としたいところだが予算の都合もあり辺材部を含んでいる。辺材がある場合は、赤味部が上になるように木裏を表使いにしている。木は木表側に反る。反ると水が溜まりやすい。腐りにくい木裏側とどちらが早く腐るかの実験だ。(写真⑫)

建築ジャーナル 2014年6月号掲載