冨士川氏は20年前に近代工法の家を新築した。軒が短く雨漏れが止まらず、補修を試みたが多大なリフォーム費用がかかるとわかった。同じお金をかけるのであれば、隣地の両親が住んでいた100年前の空屋を再生し、住むことを決断した。この空家の耐力要素である貫・足固め・差し鴨居・土壁等を補強し、限界耐力計算で解析してみた。柱や梁が細く、横架材間距離が長く耐震性の検証値は1.0に届かない。

 増築すれば建築確認が必要となり、再生工事そのものができなくなる。天井が高いので、ボックスフレームを家の中に挿入した。その下が安全地帯だ。階段は川尻六工匠保管のものを転用した。増築してあった縁側を昔の状態に戻し、在庫のガラス戸5枚を引き込みにした。ガラス戸は熱貫流抵抗が低いので、ガラス戸の内側に昔の障子戸を付けた。そうすると庭が幅広く見えるようになった。幼いとき、両親と山に取りに行った思い出深い松の木が見える。どうして日本人は松を愛でるのか。香川の栗林公園に一歩百景というのがある。1歩進む毎に景色が変わる。最近の日本のまちなみ風景は逆に百歩一景だ。行けども、行けども同じ風景。話は戻って松の話。松は左右対称ではない。XYZにねじれている。そうすると正面から見る姿と横からみる姿、斜めから見る姿が全部違うのである。冨士川邸の松を見て改めて発見した。最近の新鋭建築家が、カメラのアングルを決め写真映りを気にするのと訳が違う。

 
   
 
     
建築地:熊本市京町
延面積:87.91u(26.6坪)

2008年8月竣工

設計:古川保・松村志磨子
  施工:楠元建設  棟梁:塚田恭孝